青年の旗 1980年3月1日 第37号
【主張】 世界平和へ危険な挑戦–カーター・ドクトリン–
カーター米大統領は、一月二十一日、年頭にあたっての一般教書報告を議会へ送った。
教書は冒頭、「ソ連のアフガニスタン侵略は、全世界の平和、東西関係地域的安定、そして石油共有に対する脅威である」とし、「ソ連のアフガニスタン侵略」をアメリカの外交政策の第一の要因にしている。
しかし、ソ連軍の出動は、アフガニスタン救府との問に締結された善隣友好条約にもとづく国際法上も合法的なものであり、アメリカ自身が、ベトナムやチリなどで行った侵略とは根本的な相違がある。
我々が注視しなければならないのは次のことである。つまり、ソ連軍のアフガニスタンヘの出動がなかったら、アメリカ政府のこのような政策はなかったであろうかということである。断じて否であろう。そのことは、NATO諸国の実質軍事費の毎年三%増額の決定は、一九七八年五月のワシントンでのNATO理事会で採択され、その同じ理事会で米新型中距離核ミサイル兵器の一連の西欧諸国への配備もおおむね決定されていたという事実が証明している。
アフガニスタンに対する侵略行為を行なったと責めるべき者がいるとしたら、それは、アメリカ・中国の好戦勢力である。まさに、彼らの資金によってアフガニスタン領でテロをひき起こしている犯罪者集団が武装されている。
カーター・ドクトリンのウソの口実をもとにした結論は、「アメリカは世界最強国であることを維持するために、いかなる代価も支払わねばならない」である。力のドクトリンの「国防」の力点は、(1)核抑止力維持のためのソ連との核均衡の保証(2)欧州における戦争抑止のため、NATOとワルシャワ条約機構との軍事バランスを保つための軍事力増強(3)友好国や同盟国援助のための迅速展開能力の整備(4)世界最強の海軍力を維持するための海軍強化、の四点をあげている。
このような方針は、西欧、日本などの負担増をもってなし切られんとしているのである。
カーター・ドクトリンは、まさに、七八年国連軍縮特別総会開催、七九年SALTⅢ調印にみられる平和勢力の前進の中で、とりわけカーター白身、大統領選を前にしながら、あきらかに、国内の戦争利権屋、好戦勢力の支持をねらったものである。しかし、それ自身は、「SALTⅡを放棄しない」と矛盾した内容を入れぎるをえなくなっているのである。
この力のドクトリンを具体化すべく、続いて発表された予算教書においては、「バター(民生)より大砲(軍事)を優先する予算」の名にふさわしく、戦後最悪のインフレを抑制するために、全体予算が実質のび率ゼロに村し、軍事費だけは、五%以上の伸びを示し、歳出の四分の一を占めるに至っており、一般教書で言われていることの財政的裏付けをあらわしている。
さらに、全文三百ページにもわたるブラウン国防報告は、スイング戦略及び「緊急展開部隊」の大幅増強など八十年代の冷戦秩序の形成をねらい、米国防総省に至っては、「ペルシャ湾地域での核兵器の使用」を公然と口にしている。
このようなカーター戦略に対して追従するかのように、いっせいに「ソ連のアフガニスタン侵略」に「抗議」する大合唱がヨーロッパ、アジアからまきおこり、とりわけ、アジアにおいては、リムパック八〇を中心として環太平洋軍事同盟が、中国をも含めた形で、急速に形成される過程に突入している。
しかし、冷戦体制を強化しようとする米当局のもくろみも、築きあげられてきた平和共存秩序のもとでは無力であることが暴露された。米当局の提起した対ソ経済制裁は積極的に賛成する国もなく失敗におわった。
また、ヨーロッパにおける米中距離核ミサイル配備に対して、幾千幾万の人々がデモンストレーンョンに立ち上り、オランダ、ベルギー ノルウェー、デンマークなどNATO内の動謡が起っている。
“カーター・ドクトリン”にもとづく冷戦回帰策動の中で、リムパック八〇、日本政府の十三兆円「五次防」は、アジアの安全を脅かす最大の敵である。
日本政府は、今から二十六年前、罪もない多くの人々が水爆実験の犠牲となり、死者をも出したことを忘れたかのように二隻の軍艦と対潜しょう戒機P2J八機、七二〇名の海上自衛官を中部太平洋へ送り、悲劇の再生産の準備を行なおうとしているのである。
今日、″カーター・ドクトリン″に見られる様な冷戦回帰策動に村し、国際平和勢力と連帯し闘う事、同時に、日本の軍国主義強化、冷戦軍事ブロックの先兵としての役割の強化に対し闘う事は、いつになく重要である。