【投稿】G7への対案:ワクチンサミット--経済危機論(53)

<<「ワクチン・アパルトヘイトに終止符を」>>
 6月18~21日の4日間、プログレッシブ・インターナショナルが主催する「ワクチン・国際主義・サミット」がオンライン形式で開かれた。
 プログレッシブ・インターナショナル(PI)は、2020年9月に、元ギリシャ蔵相のヤニス・バルファキスを中心とする欧州民主化運動(DiEM)と米民主党上院議員サンダース氏を中心とするグループが世界政治の再構築を目指して結成した国際主義的連帯の組織である。

 開会にあたって、サミット共同コーディネーター・PIインドのバーシャ・ガンジコタ氏が、「全世界で投与されたワクチンの85%は、高・高中所得国で投与されていますが、一方、低所得国で投与されたワクチンは、わずか0.3%です。このままのペースでは、接種に57年間もかかることになり、パンデミックは南半球を襲い、全世界が非常に脆弱な状態に陥り、このウイルスがさらに殺人的な変異を遂げる危険性にまで至るワクチン・アパルトヘイトを緊急に克服する必要があります。国家、機関、企業、国民が一丸となって、ナショナリズムからインターナショナリズムへ、競争から協力へ、慈善から連帯へと移行する必要があります」と、述べている。

 このPIが組織する今回のサミット(Summit for Vaccine Internationalism)には、アルゼンチン、メキシコ、ボリビア、キューバ、ベネズエラの各国政府と、ケニアのキスム、インドのケララの各地域政府が参加し、20カ国の政治指導者、医療従事者、ワクチンメーカー、公衆衛生の専門家らとともに、ワクチン・アパルトヘイトに終止符を打ち、ワクチンの国際化を進めるための具体的な行動について話し合い、パンデミック危機を食い止め、医薬品の生産と流通を加速させるために必要な5つの主要分野でのコミットメントが確認され、発表された。発表に当たりPIは、「このサミットは単なる話し合いの場ではありません。先進国G7サミットが見つけられなかった、見つけようとしなかったパンデミックを終わらせるための真剣な計画である」と述べている。
 なお、企業では、ブラジルのワクチン接種を主導するブラジル国営メーカーのフィオクルス社、100カ国以上に進出し、年間売上高6億ドルを誇るインドのメーカーのヴィルヒョ・ラボラトリーズ社、自発的または強制的なライセンス契約を求めるカナダのバイオリース社、キューバの国営メーカーのバイオファルマキューバ社の4社のワクチンメーカーが参加した。
 バーシャ・ガンジコタ氏は、PIは「国際主義の原則に基づいて同盟を拡大したい」と考えており、中国の参加を歓迎すると述べている。

<<ワクチン国際主義・5つの協力と連帯>>
 以下は、サミットで確認された5つの主要分野のごく一部の紹介である。(詳細は、PIのホームページ参照
  1.  Covid-19ワクチンの技術に関するオープンコラボレーション
  * キューバとメキシコは、それぞれの国で開発された臨床試験中のワクチン(キューバ:ソベラナ2、アブダラ、マンビサ、メキシコ:パトリア)を新たなパートナーに提供し、ワクチンの臨床試験やライセンス供与をオープンに共同で行うことを提案しました。独占的なライセンスではなく、オープンなライセンスを提供することは非常に大きな意味を持ちます。
 2.Covid-19ワクチンの連帯価格
  * キューバは、オープンな協力関係だけでなく、手頃な価格での提供を約束し、キューバ保健省のレグラ・パルド副大臣はサミットで「キューバのワクチンは手頃な価格で、最も必要としている人々に恩恵をもたらすでしょう」と述べている。
 3. Covid-19ワクチンを承認するための規制能力の共有
  * スプートニクをはじめとするワクチンの承認プロセスを迅速化するために、アルゼンチンは、国営規制機関であるANMATの高度な規制能力を貸与し、新しいワクチンのデータを収集し、メキシコ、ボリビア、エクアドル、パラグアイなどの地域の国々と共有、この施設を必要とするすべての国に拡大することを約束した。
 4. ワクチンや医療機器の製造を強化するための製造能力の共同利用
  * アルゼンチン、メキシコ、ベネズエラなど、生産能力の高い国は、他国に輸出できるだけの量を生産するために、生産を強化することを約束。
  * メキシコは「BIRMEXのような国営の製薬会社を「復活」させる計画であり、BIRMEXにスプートニクVのワクチンを製造する権限を与え、独自のワクチン候補の製造においても主導的な役割を果たしたい」と述べた。
  * インド・ケララ州のピナレイ・ビジャヤン州首相は、先進ウイルス学研究所に研究ユニットを設置し、ケララ州医薬品製造会社のような公共部門の企業に “医薬品の生産と輸出 “を義務付けることで、ワクチン生産の拡大に尽力しています。
 5. 世界貿易機関(WTO)を通じた大手製薬会社の独占に対抗するための集団的不服従行為
  * ボリビアの対外貿易担当副大臣ベンジャミン・ブランコ氏は、強制実施権を発動し、グローバル・ノースの政府が大手製薬会社の要求に応じていることを暴露するために、参加国の政府に協力を呼びかけた。

<<キューバの先進的役割>>
 キューバのコロナウイルスワクチン開発では、4種類のワクチンと1種類のブースターショットがさまざまな臨床試験段階にあり、そのうち、Abdalaはフェーズ3の臨床試験を終え、Soberana 02の臨床試験も6月中に終了する予定。いずれの試験にも、約45,000人のボランティアが参加。このワクチンは、今後数ヶ月のうちに完全な規制当局の承認を得る予定である。

キューバのコロナワクチン=共同研究と革命的連帯の行程(peoples dispatch June 17, 2021)

 キューバは、パンデミック発生から18ヶ月以内にこれらの成果を達成したのである。キューバは真の国際主義の精神に基づき、多くの発展途上国を含む他国とワクチン技術を共有してきており、この研究は、イタリア国立研究評議会(CNR)生体分子化学研究所のファブリツィオ・キョード教授など、他国の研究機関の科学者とも協力している公的機関によって行われている。ベネズエラとイランとも緊密に協力しており、ソベラナ02の第3相臨床試験が進行中である。アルゼンチンとキューバは6月初旬に趣意書に署名し、COVID-19に対して開発されたキューバ製ワクチンの製造で協力すること、この協力関係が「キューバ、アルゼンチン、およびラテンアメリカ・カリブ諸国の人々への予防接種」に関するものであることが明記されている。すでに「いくつかの国で利用可能な既存のワクチン生産能力」を利用することができ、費用対効果の高い大量スケールアップが可能なのである。

 さらにキューバのワクチンには、発展途上国にとって有用な科学的・実用的利点があり、2~8℃の温度範囲で保存することができる。もう一つの重要なポイントは、ソベラナ02が結合型ワクチンであり、WHOのCOVID-19 Vaccine Tracker and Landscapeに掲載されている102のワクチン候補の中で唯一のものであり、この技術は、子どもたちにとって安全であることが知られているものである。これを受けて、キューバでは6月14日より、3~11歳と12~18歳の2つの子どもを対象とした臨床試験を開始している。さらに特筆すべきなのは、Mambisaが経鼻ワクチンであり、当然、投与が容易であるため、注射器の不足など資源の乏しい環境でも有効なことである。(以上、「キューバのコロナワクチン=共同研究と革命的連帯の行程」より)
 先の米大統領選でバイデン氏は、キューバとの関係改善が地域全体との関係改善につながると表面上は主張し、「キューバの人々に害を与え、民主主義と人権の向上に何の役にも立たない、失敗したトランプの政策を速やかに覆す 」ことを約束していたのであるが、就任後のバイデン大統領は、他の外交政策と同様、トランプ路線と同じ道を歩み、先月、国務省はキューバを、イラン、北朝鮮、シリア、ベネズエラとともに、「米国の対テロ活動に十分に協力していない国」としてリストアップし、トランプ大統領の下で昨年行われた制裁措置を更新している。パンデミック下に禁輸措置を強化され、投資を抑制し、外貨の持ち込みを制限され、2020年のキューバ経済は11%も縮小を余儀なくされている。そんな中にあっても、キューバはこれだけのパンデミック危機に対する国際主義的連帯の精神を実際に誠実に実行しているのである。バイデン政権や日本を含む先進国G7グループが、ワクチンナショナリズムにとらわれ、後退し、完全に後れを取ってしまい、イニシアティブも発揮できなくなってしまったのである。
 今や、G7など先進国グループは、その国際的に果たすべき地位と役割が目に見えて低下しているにもかかわらず、根本的な政策転換ができない限り、それぞれの政治的経済的危機の深化は避けられないと言えよう。
(生駒 敬)
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