<<期待されていなかった打開策>>
6/16、スイス・ジュネーブで行われたバイデン米大統領とプーチン露大統領との首脳会談は、ロシアのラブロフ外務大臣と米国のブリンケン国務長官、および通訳のみが出席する中、約90分間、休憩を挟み、その後の拡大したセッションを含めて全体では約3時間の短い会談であった。
それでも両大統領は、今回の首脳会談に関する共同声明の中で、「米露は、緊張状態にあっても、戦略領域における予測可能性を確保し、武力紛争のリスクと核戦争の脅威を低減するという共通の目標に向けて前進できることを示した」と述べ、さらに「今回の新START条約の延長は、核軍備管理に対する我々のコミットメントを象徴するものである。今日、私たちは、核戦争は勝つことができず、決して戦ってはならないという原則を再確認しました。これらの目標に沿って、米国とロシアは近い将来、二国間の戦略的安定性に関する統合的な対話に着手します。この対話を通じて、将来の軍備管理とリスク軽減のための基礎を築くことを目指しています。」と述べている。
会談の詳細は明らかにされていないが、両者は、核合意、ウクライナでの紛争、北極圏の競争、サイバーセキュリティ、人権、経済関係など、さまざまなトピックを扱ったという。それぞれの諸問題に関して、「戦略的安定性」を回復するためにさらに高レベルの議論が行われることも明らかにした。結果として、3月に断絶された大使関係が回復すること、新戦略兵器削減条約は2024年まで延長される予定であること、軍備管理とランサムウェア攻撃に対処するための二国間作業部会が設けられることが明らかにされた。
首脳会談の2日前、6/14、プーチン氏は公開された米NBCのインタビューで、米国のインフラへのロシアからのサイバー攻撃が激化しているという告発を「茶番劇」と断じ、「証拠はどこにあるのでしょうか? 我々は、選挙妨害やサイバー攻撃など、あらゆる種類のことで非難されてきたが、一度も、何も、何らかの証拠や証明を提供されていません。」、ごく最近もモスクワが高度な衛星照準技術をイランに移転する準備をしているという主張についても、「もう一度言うが、これは私の知らない、ただの偽情報である。この情報をあなたから聞いたのは初めてだ。私たちにはこのような意図はありません。それに、イランがこの種の技術に対応できるかどうかもわかりません」、次に、食肉加工工場に対するサイバー攻撃、次はイースターエッグが攻撃されたとでも言うのでしょう。まるで茶番劇のように、終わりのない茶番劇が続いています。」とこれらの告発を明確に拒否している。さらにNATOについては、「私は何度も『これは冷戦の遺物だ』と言ってきました。冷戦時代に生まれたものです。なぜ今も存在し続けているのか、私にはよくわかりません」と述べ、インタビューの中で、米露関係がここ数年で「最低の状態」にあることを認めていたのであった。NBCは、6月16日の首脳会談では、「双方ともにどのようなレベルの打開策も期待していないようである」と結論付けていたのであった。
<<米メディアの失望>>
一方、バイデン米大統領は、同じ6/14、ブリュッセルで開催されたNATO首脳会議の最後に行われた記者会見で、「これだけは言っておこう。プーチン大統領が望めば、我々が協力できる分野があることを明らかにするつもりだ。 もし、プーチン大統領が協力しないことを選択し、サイバーセキュリティやその他の活動に関して過去に行ったような行動をとるならば、我々はそれに対応する。」と述べ、プーチンを「立派な敵」であり、「価値ある敵」だと断じていた。だからこそ、軍産複合体・軍需資本の利益を代表して、バイデン氏は就任以来、ロシアに様々な制裁を加え、ロシアの外交官を追放し、ウクライナに軍事物資を送り、黒海に軍艦を航行させ、NATOの行動のほとんどは、「ロシアの侵略」に対する報復として組み立てられてきたのであった。NATO首脳会議の後、バイデン氏は、ロシアからの疑惑の活動が続けば対応すると脅し、大西洋同盟を守ることや民主主義の価値観のために立ち上がることを怠らないと」と述べていたのであった。
しかし会談の結果は大いに異なったものとなった。
バイデン氏は、プーチン大統領は「とても建設的だった」と述べ、「指導者同士が直接対話することに代わるものはありません。2つの強力で誇り高い国の関係を管理するユニークな責任がある」と付け加え、プーチン氏は、「バイデン大統領は「積極的かつ繊細で経験豊かなパートナー」であり、「敵意は全くなかった。我々は原則的な立場は異なるが、双方が互いを理解する意欲を示したと思う。とても建設的な会談だった」と述べている。本来そうであるし、もっと以前からそうあるべきであったのである。
しかし、収まらないのはトランプ前大統領であった。6/16夜にFOXのショーン・ハニティに「我々は何も得られなかった。我々はロシアに非常に大きな舞台を与えたが、何も得られなかった」と会談をこき下ろし、とりわけ、ロシアが建設中の天然ガスをEUに輸送するノルドストリーム(Nord Stream )2・天然ガスパイプラインプロジェクトへの制裁をやめさせたバイデン氏を攻撃、バイデンのエネルギー政策が「ロシアをとても豊かにする」と怒りを露わにしている。バイデン氏は、ノルドストリーム2制裁は「ヨーロッパとの関係において逆効果である 」として放棄したのであった。
もう一つ収まらないのは、バイデン氏がプーチン氏を睨みつけて「勝利」するとまで報じて、それを期待していた米主要メディアであった。バイデン氏は「気が散るから」という理由でプーチン氏との共同記者会見を嫌がり、単独記者会見を選択したのであるが、プーチン氏やロシアに対して予想以上に友好的で融和的なバイデン氏の姿勢に、記者たちの質問が殺到、振り切って壇上から立ち去ろうとする際に、CNNの女性記者にキレてしまって、「一体…君は一日何をしているんだ? それがわからないのなら、君は仕事が間違っている」と怒鳴り散らし、ジュネーブ出発直前に侮辱的発言を謝罪している。
トランプ氏の失望、米主要メディアの失望は、まさに現在直面している米欧日主要資本主義諸国が直面している政治的経済的危機の直接的反映とも言えよう。バイデン氏は、こうした危機を醸成してきた新自由主義からの転換点に位置しているからこそ、その矛盾に満ちた政治的経済的政策が問われており、その中途半端な姿勢が問われているのだと言えよう。
(生駒 敬)
もう一つ収まらないのは、バイデン氏がプーチン氏を睨みつけて「勝利」するとまで報じて、それを期待していた米主要メディアであった。バイデン氏は「気が散るから」という理由でプーチン氏との共同記者会見を嫌がり、単独記者会見を選択したのであるが、プーチン氏やロシアに対して予想以上に友好的で融和的なバイデン氏の姿勢に、記者たちの質問が殺到、振り切って壇上から立ち去ろうとする際に、CNNの女性記者にキレてしまって、「一体…君は一日何をしているんだ? それがわからないのなら、君は仕事が間違っている」と怒鳴り散らし、ジュネーブ出発直前に侮辱的発言を謝罪している。
トランプ氏の失望、米主要メディアの失望は、まさに現在直面している米欧日主要資本主義諸国が直面している政治的経済的危機の直接的反映とも言えよう。バイデン氏は、こうした危機を醸成してきた新自由主義からの転換点に位置しているからこそ、その矛盾に満ちた政治的経済的政策が問われており、その中途半端な姿勢が問われているのだと言えよう。
(生駒 敬)