<<「キューバを生かせ!」>>
7/23付けニューヨークタイムズ紙に、世界中の元国家元首、政治家、著名な知識人、科学者、聖職者、芸術家、音楽家や指導者、活動家や団体、個人、400人以上の人々が署名したバイデン米大統領への緊急の公開アピールが、一面全面広告として掲載された。
ここの「キューバを生かせ Let Cuba Live!」と題した公開レターは、ホワイトハウスに対し、パンデミックを制御し、キューバに住む人々の命を救うためのキューバの努力を妨害しているトランプ前大統領が課した243に上る一方的な追加制裁を直ちに解除することを求めている。署名者には、政治家、著名な知識人、科学者、聖職者、芸術家、音楽家、指導者、活動家など多様な人々、団体が名を連ね、俳優のジェーン・フォンダ、スーザン・サランドン、オリバー・ストーン、ダニー・グローバー、マーク・ラファロ、ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領(ブラジル)、ラファエ

ル・コレア元大統領(エクアドル)、ヤニス・ヴァロファキス、ミュージシャンのジャクソン・ブラウン、ブーツ・ライリー、知識人のロクサンヌ・ダンバー=オルティス、ジュディス・バトラー、コーネル・ウェストなどが署名している(署名者全員の名前は、「Let Cuba Live!」のサイトhttps://www.letcubalive.com/で公開されている)。
このバイデン大統領への緊急パブリック・アピールは、「食料や医薬品の輸入にはドルへのアクセスが必要であることを考えると、キューバによる送金やグローバル金融機関の利用を意図的に遮断することは、特にパンデミックの際には考えられるものではありません。直ちに大統領令に署名し、トランプ大統領の243の強制措置を無効にする 」ことを求めている。
この書簡は、The People’s Forum、CodePink、Answer Coalitionの共同イニシアチブの第一弾であり、その目的は、米国の不道徳で近視眼的な政策を変えようとすること、そしてキューバの人々に医薬品や医療用品を提供することを明らかにしている(CODEPINK For Immediate Release- July 22, 2021)。
<<「これは始まりにすぎない」>>
キューバをめぐる事態の急激な変化は、7月11日(日)、明らかにソーシャルメディア(「#SOSキューバ」)を介して事前に計画・調整された数十の反政府抗議活動が、キューバ全土で同時に行われたことであった。ハバナ郊外のサンアントニオや、コロナウイルス患者が急増しているマタンサスなどでは、抗議活動が暴力化し、窓ガラスが割られ、店が略奪され、車がひっくり返され、石が投げられ、人々が暴行を受ける事態にまで険悪化し、逮捕者も出る事態となった。しかしこの抗議行動は、週末に発生したときと同様、すでに沈静化しつつある。問題は、今回の抗議行動が全体として一つの大きな「反政府」デモであると一般化することはできないし、同時に、抗議行動の参加者を「CIAの協力者」や「反革命分子」というレッテルを貼ることもできない、という指摘の重要さである(People’sWorld 2021/7/16)。
キューバのミゲル・ディアス=カネル大統領は、キューバが抱える物質的な苦難に対する正当な不満があることを認め、なおかつキューバ革命の成果を防衛することの重要性を訴えている。この大統領の呼びかけに、大規模な革命防衛デモが行われ、アメリカが介入しようとたくらむ事態は今のところ避けられている。逆に、アメリカの草の根のキューバ支援は、バイデンの意向とは無関係にどんどん進んでおり、12トンの医療用品、600万本の注射器などが報じられている。
しかしバイデン政権は、このハッシュタグ#SOSキューバで、反対派の動員のみならず、軍事介入までを要求する事態を放置、助長し、7月11日の抗議活動における逮捕を非難する共同声明に署名するよう、米州機構(OAS)のメンバーに圧力をかけていることが暴露されている。7/21、キューバのブルーノ・ロドリゲス・パリヤ外相は、「米国国務省は、OAS諸国の政府に対して残忍な圧力をかけ、拘束されている人々を解放するよう求める声明への参加や同様の声明の発表を強要している」と抗議している。
7/15、バイデン大統領は、「キューバは不幸にも失敗した国家であり、市民を抑圧している。共産主義は失敗したシステム」、「破綻国家」とまで呼び、自らのキューバに対する封鎖・制裁政策の継続には一切触れもせず、責任など一切関知しない態度を鮮明にしている。しかし封鎖は、主権国家の自決権を謳い、強制的な政権交代を禁止した国連憲章に違反しており、一方的な強制制裁措置は、ジュネーブ条約やハーグ条約で禁止されている、集団的懲罰であり、全く違法なものである。バイデン政権自身は、アパルトヘイト国家であり軍事テロ国家であるイスラエル、執拗にイエメン無差別爆撃・軍事テロ攻撃を行っている、全く民主主義とは無縁な専制国家サウジアラビアと強力な同盟関係にあり、そのテロ攻撃を軍事援助と財政援助を通じて支援しているのである。失敗し、破綻しているのは、バイデン政権自身なのである。
バイデン政権は7/22、キューバの反政府デモ弾圧に関わったとして、国内法に基づき、新たにロペス・ミエラ国防相と内務省特殊部隊を制裁対象に指定と発表し、バイデン大統領は声明で「これは始まりにすぎない」とまで強調している。何の「始まり」なのか。軍事侵攻の可能性まで検討され出している危険な事態である。
6月の国連総会では、29年連続で米国の対キューバ禁輸措置を非難する決議が採択されたが、投票は184対2で、反対票を投じたのは、ついに米国とイスラエルだけという事態にまで追い込まれているのである。米国は キューバを「テロ支援国家」と呼びながら、残酷な封鎖に加えて、キューバに対するテロを奨励・助長し、今も継続しているのである。それらのテロ組織には、「キューバ・アメリカン・ナショナル・ファウンデーション」、「アルファ66」、「コマンドスF4」、「独立・民主キューバ」、「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」などがあり、豊富な資金と、CIAやFBIの支援を得て、米国内で堂々と活動して来たのであり、パンデミック危機の今こそ絶好の機会と蠢動している。オバマ政権は、キューバをテロ支援国家のリストから一旦は外したのであったが、トランプ前政権はキューバを再びリストに加え、243に上る一方的な追加制裁を新たに課し、バイデン政権はそれをいまだに引き継いでいるのである。「我々はキューバの人々と共にある」と言いながらこれである。偽善者=ジョー・バイデンと言えよう。
そして現実にキューバは、これらの制裁とパンデミックの複合的な影響で、GDPは2020年には11%も減少し、観光客は2019年に比べて75%、輸入品は30%減少しており、経済的苦境と日々闘っている、闘わざるを得ない状況なのである。
しかしそれにもかかわらず、キューバは国際主義的な連帯精神を実際に実行し、何千人ものキューバ人医療専門家がイタリアやブラジルをはじめ40カ国でコロナウイルスの患者を治療し、世界各地に派遣した医療関係者の旅団がノーベル平和賞にまでノミネートされ、さらに中南米で唯一、ファイザー社やモデルナ社に匹敵する有効性を持つ独自のワクチンの開発・製造に成功し、2,100,000人以上のキューバ人がワクチン接種を受けるところまで成果をもたらしている。無料の医療、数百万人が学位取得レベルまで無料で受けられる教育、総合的に非常に高い健康と教育の指標を達成しているという、まさに社会主義政策の成果が根付いているのである。
こうしたキューバの成果こそが、バイデン政権にとっては癪の種であり、共和党と共同歩調、超党派外交を取るバイデン政権にとって、パンデミックの危機を利用して、さらなる封鎖と制裁に輪をかけ、一挙に社会主義政権を押しつぶしてしまう危険な路線に足を踏み出した可能性が高い、とも言えよう。しかしそうした危険な路線は逆に自らの政権を凋落させる政治的・経済的危機をもたらすであろう。
(生駒 敬)