【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価

【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価

福井 杉本達也

1 米ロ首脳会談の評価について

米ロ首脳会談の評価について、一水会の木村三浩代表は8月16日付けの『Sputnik日本』において「「プーチン大統領、ラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官が会談に臨み、忌憚のない意見交換ができたということはよかった。いろいろ意見を交換し合い、生産的にどうやって解決していくかということを率先したというところに、今回の米露首脳会談の意義がある。それを米国で実行したトランプ大統領の手腕を高く評価するべきだと思っている」と語っている(Sputnik日本:2025.8.16)。

これに対し米CSISに近い日経新聞のコメンテーター・秋山浩之氏は「トランプ氏は米同盟国を遠ざけ、独りで中口と交渉しようとしている。プチーン氏と習氏は密に連携しており、トランプ氏は手玉にとられる恐れが大きい。…ウクライナの停戦交渉をめぐっては、1938年のミュンヘン会議の教訓がよく引き合いに出される。ヒトラーの要求に屈し、チェンパレン英首相らは同会議で、チェコスロパキアの一部割譲を認めてしまった…ヤルタとミュンヘンという2つの亡霊を、世界は封じ込めなければならない」(日経:2025.8.17)と述べ、あくまでもウクライナ戦争の継続を主張している。

 

2 極めて危険な局面にあった米ロ

ドミトリー・ノビコフ高等経済学院准教授は「戦術的に、ロシアは再び交渉のペースを掌握することに成功した。クレムリンは、脅迫や圧力戦術で表れたトランプの不満の高まりを緩和した。このエスカレーションが続いていれば、ウクライナ交渉だけでなく、二国間関係正常化のプロセス全体が脱線する危険があった。…戦略的には、両者が利益を得たと言える。なぜなら、核保有大国間の意味のあるコミュニケーションが存在すること自体が、本質的にポジティブな結果だからである。ワシントンからの信号を見る限り、トランプ政権もその見方を共有しているようだ。…トランプはモスクワとの関係リセットに真剣だ。彼はロシアとの交渉を、欧州での戦略的目標を達成するためのより安価で効率的な手段と見なしている。そのため、即時のメディア的な成果や派手な突破口が得られなくても、真剣な対話にオープンな姿勢を示している。」(「電撃戦も敗北もない」会談後のロシア論評者の反応:RT:2025.8.18 池田こみち訳)と述べている。

周知のように、米ロ首脳会談の直前まで、「トランプ米大統領はロシアが停戦に応じない場合に追加制裁を科すと警告」する一方、ロシアのメドべージェフ安全保障会議副議長(前副大統領)は米国について『ロシアに対して最後通牒(つうちょう)を突きつけるゲームをしている』」と応じた(日経:2025.8.2)。さらにエスカレートしトランプ氏は「適切な海域」に原子力潜水艦2隻を配備するよう命じたと明らかにした(福井:2025.8.3)。加えるに「7月、英国に米国の核弾頭が17年ぶりに配備されたと報じられた。」(日経:2025.8.7)。

ティモフィー・ボルダチェフは「現在の世界では、人類文明を滅ぼす能力を持つ大規模な核兵器を保有する国家は、ロシアとアメリカ合衆国の2つだけなのだ。…この事実だけで、ロシアとアメリカの指導者には、特に現在、世界の端に立つ唯一の無敵の勢力として、互いに直接対話することほど重要な任務はない…ロシア(旧ソ連)とアメリカ合衆国は、過去3年間、両国は何度も破滅への道の一歩手前に立たされた。これが、アラスカが重要である理由だ。たとえ突破口が開かなくてもである。このような首脳会談は核時代の産物である。単なる重要な国家間の二国間会談として扱うことはできない。直接交渉が行われるという事実自体が、私たちが破滅にどれだけ近づいているかを測る尺度なのだ。(「プーチンとトランプ直接会談の理由―今回の会談は破滅を防ぐかもしれない」RT:2025.8.15 池田こみち訳)と述べている。我々は核戦争に対し、あまりにも鈍感である。

 

3 ウクライナ応援団の犯罪的役割

これまで、テレビ・新聞などに度々出演してきた、小泉悠東京大学准教授・東野篤子筑波大学教授ら「ウクライナ応援団」は、ウクライナ人は最後の一人になるまで戦い続けるので、「この戦争は終わらない」と主張し、ウクライナへの支援を、さらに強化すべきだとしてきた。米ロ会談についても、東野氏は「トランプ氏は負けなかった」というのはなんとも解釈に困る表現です。トランプ氏からすれば得たものがなく、和平に向けた決定打を放ったという感触が得られない会談でした。一方プーチン氏からすれば、…「ロシアにとっては大成功」という評価が可能なのではないでしょうか。プーチン大統領が今回の会談で失ったものはほとんどなかったと思われます。」とコメントした(Yahoo:2025.8.16)が、約7割のウクライナ国民が即時停戦を望んでいるという。さらには、全面核戦争への危険性も非常に高まっていた。「ウクライナは勝たなければいけない」主義の破綻は、最初から明らかであった。今さら全ての責任をトランプ大統領に押し付けても、全面核戦争までも煽ったその犯罪的役割を払拭できるものではない。小泉・東野氏を始め、全てのウクライナ応援団は速やかにマスコミの画面から消え、完全に破綻した軍事学や国際関係論などを教える大学の職なども辞すべきである。

 

4 日本の針路

木村代表は「米露関係は修復に向けて進んでいくものと思う、我が日本も世界の本当の意味での『平和』ということに関して、欧州がどういうような姿勢を持つか見定めていかなければならない。根本的な平和というものを構築するためには、何をすべきかということも日本も考えていかなければならない。少なくとも米露関係は修復に向かい、そして我が国の中でもきちんとそれを分かっている人たちが、それに賛成していくと思う」と述べている(Sputnik日本・同上)。

また、鈴木宗男自民党参議院議員はブログで「『次回の首脳会談はモスクワですね』という問いかけにプーチン大統領は『そうなるかも知れませんね』と答えている。首都でやることの重みを、ウクライナ戦争を終えらせる決意を示していると私は受け止めた。今回の会談を受け、日本は米ロ同様対ロ制裁を早急に解除すべきである。なぜならばプーチン大統領が訪米したということは少なくともプーチン大統領への制裁は解除されたと受け止めるべきである。 これからの世界はウクライナが中立化し、米ロ関係が改善する中で動いて行く。この流れの中で日本は日米連携し、日ロ関係を正常化していくことが喫緊の課題であることを石破総理以下、司々の人は頭に入れて戴きたい。」(鈴木宗男ブログ:2025.8.16)と書いている。日本は早急に制裁を解除し、真っ先にロシアからの原油・LNG・石炭の輸入を増やし、アークティック2やサハリン2の開発を推し進め、シベリア航空路を再開すべきである。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 平和, 政治, 杉本執筆 パーマリンク