【投稿】大飯原発1、2号機廃炉へ―原発はいずれ「ゼロ」へと向かわざるを得ない

【投稿】大飯原発1、2号機廃炉へ―原発はいずれ「ゼロ」へと向かわざるを得ない
福井 杉本達也

1 謀略の衆院選をなんとか生き残った反原発議員集団
今回の衆院選は自民党の圧勝というよりも、日経新聞社説(2017.10.23)で指摘されるまでもなく前原誠司民進党代表が小池百合子希望の党代表の謀略に乗り、選挙直前に野党第1党である民進党を崩壊させ、選択肢をなくしてしまったことにあり、混乱の罪は重い。自民党補完勢力を目指した希望の党の自滅、あるいは民進党を解体させるために小池が画策したというのが正解である。これは前原単独の動きではない。少なくとも連合幹部が関わっている(孫崎亨10.24)。惨敗した希望の党における東京小選挙区での唯一の当選者は、先行して民進党を離党した21区の長島昭久である。長島は与党・野党時代を問わずジャパン・ハンドラーといわれる米軍産複合体のシンクタンク:米戦略問題研究所(CSIS)のリチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイ、マイケル・グリーンらと度々日経CSISシンポジウムなどで同席している(日経:2013.10.30等々)。軍産複合体は東アジアに緊張をもたらすことこそ儲け口と考えており、謀略の後ろ盾になった可能性が高い。
共産党は、前原の排除の論理によって野党共闘からはじき出されたが、立憲民主党の候補者がいる選挙区から一斉に同党の候補者を降ろしたことが立憲民主党の躍進を導いた。率直に評価したい。野党4勝2敗の新潟県選挙区に代表されるように、野党共闘がうまく回転すれば与野党逆転は十分可能なのである。残念な候補者としては、新潟5区で反原発の県民世論を裏切り自民党から立候補した泉田前新潟県知事をいま一歩まで追い詰めた大平悦子(無所属)、大飯原発再稼働などに批判的立場をとる滋賀1区の嘉田由紀子前滋賀県知事(無所属)などがあげられる。しかし、鹿児島1区では立憲の川内博史が返り咲いている。愛知3区の近藤昭一(立憲)、神奈川12区の阿部知子(立憲)、長野1区の篠原孝(無所属)等々、厳しい戦いであったが反原発の中核は一応残ったといえる。

2 ついに始まった原発の淘汰―関電の大飯1,2号機の廃炉
選挙期間中ではあったが、日経は10月17日付朝刊一面トップで、関電が大飯原発1、2号機(福井県)を廃炉にする方針を固めたと報じた。1、2号機は、出力がいずれも117.5万キロワットで、運転開始から2019年で40年を迎える。原子力規制委は原発の運転期間を一応40年と定め、その後は申請によって、20年間の延長が認められる。このため関西電力は、来年中に運転期間の延長を申請できるよう準備を進めてきたが、安全対策に巨額の費用がかかるなどとして、廃炉を検討していることがわかった。1、2号機は、ほかの原発と異なって構造が特殊なため、安全対策工事が複雑で費用が巨額にのぼる。廃炉は出力が100万キロワット級の原発では初めてとなる。1、2号機は、加圧水型と呼ばれるタイプの原子炉で、原子力事故への対応として、アイスコンデンサー方式という他の原子炉にはない方式を採用する、世界的にも10基程度しかない特殊な構造をしている。大飯3号機4号機の格納容器は、4気圧の設計耐圧があるが、1、2号機の格納容器の体積は半分余りと小さく、0.84気圧しか設計耐圧がない。事故が起きれば簡単に壊れてしまう格納容器を使っている。もし、格納容器が壊れれば、放射能の防壁が一切なくなってしまうため、格納容器内の圧力を高めないよう、格納容器を冷やす対策をより厳しく行う必要がある。そこで、格納容器の周りに設けられた1,944本のバスケットに、ブロック状の氷を1,250トン入れ、事故時に発生する蒸気を急速に冷却し圧力をさげる方式としている。米ウエスティングハウスが作ったが、この設計はまずいということで、すぐに姿を消してしまった。
格納容器というのは大変巨大な建屋であり、格納容器の壁を厚くするなどの補強しようと思うと膨大な金がかかる。朝日によると4,000億円以上の費用が必要だといわれる(朝日:2017,10,18)。関西では家庭向けの電力自由化後、新電力との競争が激しく、顧客の1割・108万件が奪われたといわれ、無理に安全対策工事を行い再稼働しても、とても採算が合わないというのが関電の本音である。選挙期間中は自民党に不利な情報は流さないのがマスコミの鉄則であるが、日経に観測記事を載せ反応を見て、翌18日、各紙も追随した。それだけ関電も切羽詰まっているということであろう。

3 国際基準「5層の深層防護」のうち4層まで―「避難計画」を審査せず柏崎刈羽原発再稼働を認める規制委新体制
衆院選の公示日、安倍晋三首相は選挙民の厳しい視線から目をそらすように福島市から10キロあまり離れた農村部で演説し、「福島の復興」を強調したが、原発事故には全く触れなかった。あたかも原発事故などなかったかのように振る舞った。「原発事故は起きたが、克服・復興可能という〝新たな安全神話〟が生まれつつある」(清水奈名子宇都宮大准教授:2017.10.15)。しかし、放射能によって人の命も、福島の豊かだった大地も、三陸の海も、膨大な処理費用も次から次へ飲み込むブラックホールがそこにはある。
更田新原子力規制委員長は10月4日、衆議院解散のどさくさに紛れて、新潟県柏崎刈羽原発6,7号機について、重大事故対策が新規制基準に適合しているとして、再稼働を認める審査案を了承した。朝日社説はこれに対して「福島第一原発で未曽有の事故を起こし、今も後始末に追われる東京電力に対し、原発を動かすことを認めてよいのか。」、「規制委の審査基準について、政権は『世界でもっとも厳しい』と強調するが、規制委自身は『最低限の要求でしかない』と繰り返す。」(2017.10.5)と書いた。続けて「事故時の避難計画は規制委の審査対象になっておらず、政府としての対応が求められる。」と曖昧に指摘している。しかし、これは日本の原子力規制法体系全体にとってその根幹にかかわる重大な指摘である。重大事故時(原発の敷地外に放射能を放出するような事故時)、住民を放射能から避難させなければならない。国際原子力機関(IAEA)のガイドラインなど国際標準では、その際の避難計画に実効性があるか、実現可能性があるかを厳密な基準を基に審査する仕組みを持っている。「避難計画実効性審査」の仕組みが原子力規制行政の最終・最後の「防護措置」という位置づけで、規制基準の中に組み込まれている。ところが日本の規制では、「避難計画審査」の仕組みをもたない。日本では原発苛酷事故からの避難計画は規制委を含めどの行政機関もその実効性を審査していない、審査基準そのものが存在しないのである。規制委が定めた「原子力災害対策指針」では「PAZ(予防的防護措置を準備する区域:5キロ圏)においては、全面緊急事態に至った時点で、原則としてすべての住民等に対して避難を即時に実施しなければならない。UPZ(緊急時防護措置を準備する区域:30キロ圏)においては、原子力施設の状況に応じて、段階的に避難を行うことも必要である。」として、緊急時=重大事故時、30キロ圏までの自治体住民に避難、避難計画策定を法令で義務づけている。ところが、避難、避難計画の実効性については、関知するところではないとしている。
「IAEA基準の動向-多重防護(5層)の考え方」(http://www.nsr.go.jp/data/000047558)では5層のうち1~3層までがプラント内で対処可能事象、4層は「重大事故(シビアアクシデント)発生-事故の進展防止・事故の拡大影響緩和」であり、格納容器爆発破裂を避けるためのベントなどの手段を想定していが、一応、原発敷地内(サイト内)で収まるものを想定している。5層において、サイト外での対応となるが、「防護措置」は、住民が放射能から逃れる、すなわち『避難』しかない。国際標準の考え方では、これら基準に合致合格して運転許可となる。米国では、審査の基準は厳密で、まず最悪のケースを想定して、夏の場合、冬の場合、天気の良し悪し、原発からの距離別など、対象とした住民が実際避難できるかどうか時系列でシミュレーションしている。もちろんこれに合格しなければ稼働などあり得ない。ところが、日本では、最大4層までの深層防護しかなく、国際基準に合致していない世界最低の安全基準で柏崎刈羽原発の再稼働「合格」を出しているのである(参照:哲野イサク:「伊方原発・広島裁判メールマガジン第23号」2017.10.15)。

4 国の損害賠償を認めた福島地裁判決
衆院選公示当日の10月10日、福島地裁(金沢秀樹裁判長)は、東電福島第一原発事故当時、福島県や隣県に住んでいた3,800人が国と東電に総額160億円の損害賠償などを求めた訴訟で、国と東電に対し、賠償を命じる判決を言い渡した。判決は、政府機関が2002年にまとめた長期評価によって国が巨大津波の可能性を予見できたと判断。「非常用電源の高所配置などの対策を東電に命じれば事故は防げた」と述べた。国は「津波は予見できず、東電に津波対策を命じる権限もなかった」と主張したが、判決は規制権限を行使しなかった国の対応を「著しく合理性を欠く」と結論づけた(日経:2017.10.11)。
予見可能性を判断する上で焦点になっているのは、2002年に国の地震調査研究推進本部が地震学者の見解をまとめて公表した「長期評価」である。2002年長期評価には「福島県沖を含む太平洋側の日本海溝沿いで、マグニ一チュード8級の津波地震が20年以内に20%程度の確率で発生する」との内容があった。判決は、国の予見可能性について「長期評価の公表から数カ月後にはあった」「直ちにシミュレーションをしていればあった」との判断を示した(日経:2017.10.11)。
日経は10月16日の衆院選向け社説で「エネルギーは社会を支え、供給が途絶えれば影響は大きい。聞こえのよいスローガンを唱えるだけでは困る。現実を直視してエネルギー利用の未来を展望し、責任ある政策を示してほしい。」とし、続けて「実現への技術的な裏つけや、国民負担がどの程度膨らむかなどが、はっきりしない。」と「原発ゼロ」を掲げる政党の公約を批判した。しかし、技術的裏づけのないのは、再稼働しようとする原発であり、国民負担になるのは、いくら掛かるともわからない対処費用であり、膨大な事故処理費用であり、賠償費用であり、そして小児甲状腺がんをはじめとする人の命である。福島の放射能のブラックホールは今も開いている。現実を直視すべきである。

【出典】 アサート No.479 2017年10月

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