【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き

【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き

                           福井 杉本達也

1 「高福祉高負担路線」の破綻

参院選挙中、芳野連合会長の出身単産であるJAMの安河内賢弘会長は、野党が物価高対策として消費税減税を競う現状に懸念を示し、「減税ポピュリズムに流されずに戦い、あるべき社会像を作ることが重要だ」、「安易に減税に走るのではなく、徴収した税金で今何をするのかを国民に示すことが政治家の役割だ」と強調していた(日経:2025.6.5)。いわゆる、高福祉のためには高負担が必要であるという政策である。そのためには、安定財源としての消費税が欠かせないという理屈であり、自公・財務省だけでなく、旧民主党リベラル派・連合の理屈でもあった。

2024年10月の衆院選後、権丈善一慶応大教授は、政府は何のためにあるかを問い、「慈悲深い専制君主モデル」としての「税や社会保険料という形でいったん預かり、今必要な人たちに集中的に所得を再分配することにより、社会の厚生を高める」モデルと、「国民から可能な限り搾り取ることを考る」、英国の哲学者ホッブスが説いた「リパイアサン・モデル」があるとし、社会保険は、「人間の近視眼的認知バイアスゆえに生まれる将来の貧困を防ぐための政策でもある。賃金システムは、子育て期に生じる支出の膨張(養育費や教育費など)や収入の途絶(離職など)にも対応できない欠陥も持っている。」としながらも、今の政府の「長い間の所業はそのイメージとは乖離していたし、世代間格差や年金破綻など、国民の間の分断や政府不信」につながる話ばかりであったと語っている(福井:2024.11.16)。

昨年の衆院選・今回7月の参院選では、この「高負担」に異議が出た。8月10日付けの日経新聞コラム「風見鶏」は「税金は自分たちのために使われていない。現役世代を中心にこんな怒りが渦巻いている。」と書いている(2025.10.8)。同コラムで、成蹊大学の伊藤昌亮教授は、財務省解体デモについて、「参加者は賃上げを期待しにくい自営業者や主婦、中小企業従業員ら様々だ。「彼らは労働者ではなく納税者とレて団結している。…労組に入る労働者が2割を切った今は敵意の対象が政府に向かう」と分析する(同上)。また、京大の諸富徹教授は、「組織や団体から距離を置く人が多くなった現在は、業界向けの政策では響かない。結果として『減税のように幅広い人に一挙に利益を与える政策が選ばれやすくなっている』と分析する(同上)。そもそも、インフレで実質賃金が毎月のように目減りし、明日の米櫃の中身を測らなければならない世代に、「将来」という言葉は響かない。

2 五公五民

宮本太郎氏は雑誌『世界』2025年1月号の「『103万円の壁』引き上げは若者を救うか」において、「この政策を押し上げた空気をみることが大事である」、「基層にある現実は、若者を含めて多くの国民が直面し呻吟している物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり…社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない。雇用について様々な慣行や規制が中高年だけを守っている、等々。空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている。

消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%と42年ぶりの水準となり、当然ながら、年収200万円未満の世帯は33.7%と、低所得世帯ほど影響は大きい。国民の生活水準が低下している。租税と社会保障費は1980年には所得の30.5%であった。それが、2025年には46.2%にもなった。財政赤字2.6%を入れた潜在国民負担は、48.8%となっている。

財務省は「減税すると財源が足りない」というが、取りやすいところから税金を搾り取り、半導体投資するラピダス(北海道)など大企業に4兆円の支援や補助金に巣食うホリエモンのロケット会社「インターステラテクノロジズ(IST)」などに30億円を投資するなど社会的寄生虫企業などの身内に偏った財政支出を行い、財源以上の放漫政策を行っている。これらの「財源」が議論されたことはない。

3 消費税

消費税は、国民の消費を抑圧して、GDPに対してマイナスの乗数効果をもつものである。本質は消費抑圧税である。インフレになればなるほど、政府の税収が増える。雇用者世帯平均所得金額は3700万世帯あるが、1997年の最高726万円から2018年には633万円とマイナス13%にもなっている。消費税は、消費懲罰税としての性格がある。消費せずに預金すれば当然ながら消費税はかからない(吉田繁治:『失われた1000兆円を奪還せよ』)

米国は日本の消費税を非関税障壁ととらえている。①米国製品を海外へと輸出すれば、それが輸入された国でその国の付加価値税(消費税)が課税される、②海外から米国へと輸出されてくる製品に対しては、原産地で課税免除されるために還付金が与えられる。付加価値税(消費税)を採用している国では輸出国は免税・ゼロ税率による関税非課税となり、その分国際的な価格競争力を増すことになる・一方米国では還付金なしで、海外の付加価値税が課税されるため競争力が低下する。日本国内では消費税増税はひたすら社会保障費捻出、あるいは財政再建のためと喧伝されるが、むしろ非関税障壁として認識されている(『アメリカは日本の消費税を許さない』:岩本沙弓)。

「損益計算曹には出てこないが、輸出企業に見られる『消費税還付金』が巨額なのも同社の特徴だ。実際に消費される場所が海外でも、輸出車を造る際は国内の部品、資材、設備のメーカーに日本の消費税を上乗せして代金を支払っている。その税金部分が戻ってくる。SBI証券の遠藤功治チーフエグゼクティプアナリストは『(還付が)トヨタで年間7千億円程度、ホンダで3千億円程度に上っている』と試算する。」。これは「トヨタの2025年3月期営業利益と比べて15%に相当する」巨額の還付金である(日経:2025.5.17)。こうした輸出企業の還付金は、他の輸出に依存しない企業から徴収した消費税から還付され、消費税収入の1/4を占める。

4 売国円安政策としてのアベノミクス

2013年4月からのアベノミクスで円を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている。低金利が「円安を逆に助長し、実質購買力を大きく損なっています」とし、「円高が進めば、輸入物価の下落を通じて、家計の実質購買力の改善につながった」これでは「個人消費が回復しないのは当たり前」だと「アベノミクス」の失政を一刀両断で切り捨てた。石破政権は夏の参院選対策としてガソリン価格や電気・ガス料金の補助を復活するというが(日経:2025.4.19)、円高政策をとっていれば、当然に輸入物価は下がっていたはずであり、安倍―菅―岸田政権下の大失政(というよりも売国政策)を尻拭いするものである。(『日本経済の死角』 河野龍太郎)。

黒田総裁は2013年4月から「異次元緩和」を始めたが、中身は金利ゼロと日銀の国債買いであり、言い換えれば円紙幣の増加発行500兆円であった。結果、円は2012年末の78円/1ドルから、2024年には148円にまで切り下がった。増発されたゼロ金利の円は、3%の金利差のつくドルに400兆円が流れこんだ。「日本はバカなことをしてきた。米国物価上昇との関係における円の価値の下落である。『日本は現金になった経済力を自国では使わないで米国に貸し付けた』。これが異次元緩和だった。」「円安は世界標準のドルにたいする国民の実質賃金と商品価格の切り下げである。」1ドル150円台の円安は輸入物価を上げて国内物価に遡及する。日本は1年に100兆円の必需の資源・エネルギー・食品を輸入する。賃金の上昇が十分ではない日本では、物価の上昇は商品の購買力である実質賃金を下げて、食品と必需生活財、電力、ガソリンなどを買う国民の生活を苦しくする。この売国政策を進めたのが財務官僚であり日銀である。結果、ガソリン補助金や電気・ガス補助金という本末転倒な何兆円もの補助金で財政をさらに肥大化して自らの権限を拡大している。

5 インフレ税(金融抑圧)

「インフレ税」という課税項目があるわけではないが、昨今のように円安が進めば。「インフレにより家計から政府への所得移転が進む」。「インフレで通貨価値が目減りすれば、これまで積み上げた政府債務の実質的な負担は減る。実質個人消費が低迷する一方、税収が改善することから『インフレ税』と呼ばれ」家計負担は一段と増す(日経:2024.7.1)。国家が国民が知らない間に国民の財産を没収していることになる。アベノミクスによる黒田日銀の国債の買い入れは、日銀紙幣の増発であり、実質的な円の切り下げであり、米国からのインフレの輸入となる。財務省が7月2日に発表した2024年度の一般会計決算発表でも「消費税は8%増の25兆212億円で、8年連続で過去最高を更新。国内消費が堅調だったほか、物価高の影響も受けた。」(日経:2025.7.3)と書かざるを得ない。

「昨今はインバウンド(訪日外国人)需要に奪われ、外食からホテル料金までが値上がりしてしまった。外資により不動産価格が上昇し、若い世代には手が届かなくなっている。しかるにこれらの問題はほとんどが円安に起因するものではないか。『弱い円』は今のコストプッシュ型インフレをもたらし、われわれの実質的な購買力を減少させている」、「ドル換算した日本人の平均所得は今や東南アジア諸国の高所得層に及ばない。この無力感こそが排外主義に力を与えている元凶であろう」(日経:『大機小機』「排外主義をもたらす円安の心理学」2025.8.8)と述べている。国民の生活をずたずたにした頑強の、アベノミクスの異次元緩和に対して、与野党ともに、まともな総括はなされていない。

「立民、政策実現へ自民接近」「政権延命に手を貸す」(日経:2025.8.5)等々、石破政権と立憲民主党の大連立が囁かれている。伊藤昌亮教授は、勃興する排外主義(「福祉排外主義」)について、「自分が払っている税金は自分の福祉のために、自分を守ってもらうために使ってほしいのに、なぜ外国人を守るために使うのか、そうした国のやり方は許せない、という考え方だが、その根底にあるのは、要は『国に自分を守ってもらいたい』という心情なのではないだろうか」と書くが(『世界』「取り残された人々の財政ポピュリズムー財務省解体デモの論理と心情)2025.7)、投資不足で賃上げもままならず青息吐息の「国内」ではなく「海外」に80兆円もの大枚を気前よく投資して、衰退する金融帝国・米国と心中しつつある日本の与野党には馬耳東風であろうか。「真に恐れるべきは外国人ではなく、われわれの通貨の価値が減じていること」である(日経:『大機小機』同上)というか、意図的に通貨の価値を減額させ、海外へと投資を誘導し、インフレを引き起こして実質賃金を減額させてきた売国政策にある。

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