【投稿】参院選・安倍政権大勝と比例する弱点・アキレス腱
<<アベノミクスの恩恵>>
参院選の結果は、自民圧勝に終わり、憲法改悪への動き、緊張激化と軍事費拡大路線、庶民増税と大資本・富裕層減税、解雇規制緩和、非正規労働の拡大、派遣労働の期間制限撤廃、TPP参加による農業と国民皆保険制度の破壊、等々、安倍政権の緊張激化と市場原理主義と弱肉強食の新自由主義路線の動き、そして原発再稼働路線はこれまでにもまして加速されるであろう。日本社会の、小泉政権以来明確に推し進められてきた格差社会路線が、より一層激しい超格差社会へと変貌させる路線の足場が築かれたのである。
本来ならばこうした大衆窮乏化路線は支持されるはずもないものである。にもかかわらず支持を拡大させ、過半数議席獲得を許したものは、色々な理由が上げられようが、究極のところは、安倍政権の景気拡大政策であったといえよう。民主党政権への政権交代で、新自由主義からの脱却を期待していた庶民の願望は、民主党内松下政経塾派の新自由主義・対米追随路線が主導権をとることによって、緊縮財政路線と増税路線、規制緩和路線によってことごとく裏切られ、小泉政権時代よりも非正規労働が蔓延し、デフレ不況をより一層深刻化させたのである。
アベノミクスは、本質は同一、より悪質であったとしても、一見これとは異なる景気拡大路線を対置し、国土強靭化計画等、公共投資拡大路線を打ち出し、最賃や賃金の引き上げまで財界に要請するポーズまでとったのであるが、反自民勢力の側には、これに対置されるべき政策がまったく提起できなかったのである。一昨年3月11日の東北大震災と福島第一原発事故は、日本社会がこれまでとはまったく違った政策への転換、脱原発を基幹としたエネルギー政策と疲弊したインフラと防災、介護・医療をも含めた社会的公共資本を再構築する産業政策の根本的転換を促進する、そのようなニューディール政策の提起をこそ要請していた。しかし、新自由主義の足かせはむしろ野党内に根強くはびこり、何も打ち出せずに、ただ傍観して自民の独走を許してしまったことに根本的な敗因があると言えよう。庶民は、アベノミクスの恩恵は「自分には及んでいない」し、「期待してもいない」が「民主党政権よりはましなのかな」という程度のもので、間近に迫らんとするアベノミクスの化けの皮が剥がれる前の段階で、選択肢がそもそもなかったのである。そして安倍政権と自・公与党は、アベノミクスを前面に打ち出す一方で、憲法改正や原発再稼働、TPP、消費税増税、格差拡大問題など国論を二分し、自己に都合の悪い課題はすべて争点からぼかし、野党の批判をかわす戦略が功を奏したのである。
<<沖縄で与党敗北の意義>>
そうした選挙情勢の空虚さこそが、自民党の大勝を許し、民主党の大敗をもたらし、戦後3番目の低投票率をもたらし、沖縄以外の46選挙区すべてで前回よりも投票率を低下させたのである。
その沖縄選挙区(改選数1)では、地域政党・沖縄社会大衆党委員長で現職の糸数慶子氏が自民新顔を破り、3選を果たしたことの意義は極めて大きい。31ある全国の1人区で29議席を確保する圧倒的な強さをみせたその中で、沖縄で与党が敗北したのである。資金と運動量、組織力では自民、公明のほうがはるかに大きいと言われ、安倍首相はじめ多数の閣僚を沖縄入りさせるなど強力なテコ入れをしたにもかかわらず、沖縄社会大衆党、生活、共産、社民、みどりの風の「野党共闘」がこうした自民の追い風を跳ね返し、普天間基地の辺野古移設と改憲を掲げる自民党との対決姿勢を鮮明にして、統一した闘いを展開した結果、勝利したのである。反自民統一戦線が勝利し得ることを実際に証明してみせたのである。沖縄以外でこうした野党共闘が一件も成立しなかったことこそが問題であろう。
共産党は沖縄では「野党共闘」を拒否できなかったのである。独自候補を立てていれば、今回の共産党の躍進も期待できなかったであろう。共産党はこの際その教訓をこそしっかりと汲み取るべきであろう。「自共対決」こそが参院選の最大の論点であるかのように主張し、我が党以外、「いま日本に政党と呼べる政党は一つしか存在しない」と声高に主張し、市民団体や個人が野党共闘を呼びかけ仲介しても、「存在しない」他の政党との共闘は一切拒否する共産党である。その共産党が、東京、大阪、京都の選挙区で議席を獲得した意義は大きいといえるが、獲得した議席は、「目標5議席」としていた比例区を合わせて8議席である。非改選を含めて自民115に対して共産11である。議席数では第5位政党である。目標が5議席で、これのどこが「自共対決」であろうか。たとえ11であろうが、自民と正面から対決できる政党の存在意義は大きいと言えるが、それは他の多くの諸派や無所属を含めた多数派を結集して初めて力を発揮できるものであり、野党共闘や統一戦線の要として信頼されてこそ力になるものであり、改憲阻止は野党共闘や広範で強大な統一戦線の形成なしには達成されえないものである。少々の躍進に浮かれ、自己を唯我独尊的、セクト的に囲い込み、過去や細部の違いにこだわる不寛容な今の共産党の姿勢からは、客観的には自民党の対抗的補完物にしかなりえないものである。
参院選直前の都議会選挙で共産党の議席が倍増したことについて、共産党の佐々木憲昭衆院議員が<都議選の得票数は61万6721票、前回は70万7602票。得票率は今回は13.61%、前回は12.56%でした。有権者比では今回5.9%、前回6.8%です。議席は倍増でしたが、現実は甘くはありません。>とツイートした冷静で客観的な自己分析できる力こそが問われていると言えよう。
<<改憲発議3分の2達せず>>
それと同時に注目すべきは、東京選挙区で反原発を訴え、当選を果たした無所属の山本太郎氏が、立候補の過程でその直前まで比例区・選挙区を含め何度も野党統一戦線や統一候補の可能性を探り、結局「今は一人の党」で立候補したのであるが、全国から多くの若者やボランティアが結集し、短期間に一つの大きな渦を作り得たという現実である。そうした様々な力をいかに作り上げ、結集し、巨大な力に盛り立てていくか、そうした努力こそが問われているといえよう。
憲法改悪問題にしても、いかに自民党が大勝したとはいえ、なおそれでも憲法改正に積極的な自民、みんな、維新など各党の議席は非改選と合わせて、自民115、みんな18、維新9、計142であり、改憲の発議に必要な参院3分の2(162議席)には達していないのである。衆議院では、自民、維新、みんな3党で、すでに3分の2にあたる320議席以上を確保しているが、安倍政権が「友党」と頼む日本維新の会が橋下代表の慰安婦発言等により明確な低落傾向を示したことにより、達成できなかったのである。
安倍晋三首相は20日夜、東京・秋葉原で行った参院選の最終演説で、これまでほとんど言及していなかった憲法改正への意欲をわざわざ表明し、「誇りある国をつくるためにも憲法を変えていこう。皆さん、私たちはやります」と異例な訴えをしていたのであるが、議席確定後は「経済政策を進め、改憲は落ち着いて議論」と主張せざるを得なくなった。とはいえ、民主党から改憲派が合流する可能性が存在しており、公明党を「加憲」で切り崩す可能性もある。
その意味で情勢は常に流動的であるが、自民一強体制が築かれたからこそ、自民自身の内部矛盾も激化せざるを得ない。安倍政権は、憲法改正や原発再稼働、TPP、消費税増税、格差拡大問題、歴史認識や慰安婦問題など、いくつもの問題で弱点、アキレス腱を抱えているのである。その意味では砂上の楼閣である。これを突き崩し、切り込む闘い如何で情勢は大きく転換しうるし、転換を成し遂げうる政策と一人一人の個人が自由に参加することのできる幅広い力の結集こそが問われている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.428 2013年7月27日