【投稿】有事法制の虚構性

【投稿】有事法制の虚構性

 有事3法案は、与党と民主党の合意が成立したことにより、5月15日の衆議院本会議で可決、参議院に送付された。これにより6月中に成立する公算となった。
有事法制は、冷戦時代の遺物であり、本来必要性のないものであるが、小泉政権は北朝鮮に対する国民の危機感を煽り、それを最大限利用する形で、野党をも巻き込み、成立に持ち込んだ。
 民主党は、基本的人権の保障についての具体的規定を、法案に追加させたことなどを評価し賛成に廻ったが、砂上楼閣に添え木をしたところで役には立たないと、言わざるを得ない。
 有事3法案が描く「戦争」が、いかに現実の情勢と乖離しているか。武力攻撃事態法案では、①「武力攻撃が発生した事態」②「武力攻撃が発生する明白な危機が切迫しているとみとめられるに至った事態」を武力攻撃事態、③「事態が切迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」を武力攻撃予測事態と規定している。
 この婉曲表現は何を想定しているかと言えば、①は「敵国」が日本を空爆し、上陸してきた、②は「敵国」が、日本に向けて基地等に兵力を動員した、③は、敵国が兵力の招集を開始した、という事態である。 ここでいう「敵国」とは、長らく旧ソ連が考えられてきたが、さすがに現在では、そうした想定は、非現実的であるとして、この「敵国」を北朝鮮へとなし崩し的にシフトしようとしている。
しかし、冷戦下の対ソ戦略を基本に作られた構想を、全く条件の違う北朝鮮に適用しようとしても、無理が生じ、ますます非現実的な想定になってしまうのである。
たとえば次のような想定だ。「A国が、日本を射程に収める弾道ミサイル基地の周辺に部隊を集結し、不穏な動きを見せている」「A国が弾道ミサイルに燃料を注入し、『日本を火の海にする』と攻撃の意図を明らかにした」これはこの間、終始有事法制成立を主張してきた読売新聞の描く「武力攻撃予測事態」および「武力攻撃事態」である。
 有事法制推進派は何としても、北朝鮮に日本を攻撃させたいわけだ。しかし、これは北朝鮮に取って、あまりに無理な注文と言わざるを得ない。北朝鮮には日本への着上陸能力はない。それを鑑みて推進派はミサイル攻撃なら可能だろうと考えたのである。
しかし、そうなると着上陸阻止を主眼とする自衛隊の作戦、装備や、そのための陣地構築を可能にする改正自衛隊法は宙に浮いてしまう。そこで推進派は「陣地構築には原発など重要施設周辺へのパトリオットミサイルの配備も含まれる」と言うが、パトリオットは昔のナイキミサイルとは違い機動性(移動性)をもつ兵器である。特段陣地構築などしなくても、たとえば原発の駐車場にでも配置可能なのだ。
だが、北朝鮮が最も避けたい事態を考えれば、推進派の苦労も水に泡である。それは言うまでもなくアメリカとの戦争である。
 金正日体制を護持したい北朝鮮は、「核兵器保有」宣言など強気の瀬戸際外交を展開している。 
 しかし、北朝鮮はそうした姿勢とは裏腹にイラク戦争で見せつけられた、米軍の圧倒的軍事力を前に内心では震え上がっているのである。その対米戦争という地獄に、自ら足を踏み入れる対日攻撃など、行えるわけはないのである。
そもそも北朝鮮に旧ソ連の代役は、その軍備、経済状況からして不可能なのだ。
さらに、日本が本気でそのようなシナリオを考えているとすれば、アメリカの朝鮮半島政策との整合性もはかれないだろうし、韓国との連携にも齟齬を来すだろう。
 先の、米朝中3カ国協議、米韓首脳会談を経て、北朝鮮の選択肢はますます限られてきており、たとえ経済制裁が発動されても、軍事的暴発の可能性を過大視する事は適切ではない。
このように「北朝鮮の脅威」もここしばらくでピークを過ぎるだろう。そうなれば、またしても日本政府は「敵国」を喪失するわけであり、その時今度は何をもって有事法制の「存在意義」を示すのであろうか。(大阪 O)

 【出典】 アサート No.306 2003年5月24日

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