【投稿】米学生ローン免除をめぐる攻防--経済危機論(90)

<<「平手打ちだ、無謀で違法だ」>>
8/24、バイデン米大統領は、学生ローンを抱えて苦しむ数百万人の借り手に対し1人当たり1万ドル(約136万円)の返済を免除する「学生債務救済計画」(Student Debt Relief Plan)を明らかにした。返済免除の対象は、年収12万5000ドル(夫婦の場合、25万ドル)以下で、ペル・グラント(Pell Grant)と呼ばれる低所得者向け学生ローンは2万ドルを返済免除、とするもので、この部分的な債務免除措置は、過去2年半の学生の債務免除期間が終了したときに有効となることから、2023年1月1日が、債務の取り消しと債務免除の終了、および毎月の学生ローンの支払いの再開となる。この学生ローン返済免除措置は最大で4300万人に恩恵をもたらし、約2000万人は債務が全額免除にな

ホワイトハウスのTwitter

るという。
バイデン大統領は、2020年11月の大統領選で、学生ローン債務の帳消し(最高5万ドル)、年収125,000ドル未満の家庭の学生に対して公立大学の授業料を無料にすることを公約に掲げ、最終的に若い有権者の支持を獲得することができたのであったが、政権就任後は事実上放置していたのである。コミュニティ・カレッジを無料にする試みは、与党・民主党右派からの反対で葬り去られていた。しかし、この秋の中間選挙(上院の三分の一、下院の全議席改選)を前に、支持率低下を挽回する切り札として着手した、着手せざるを得なかったのであろう。
この学生ローン返済免除に対

借金を返すってどういうこと?(PPPでローン免除の共和党議員たち)

して、共和党は直ちに反撃を開始、米上院共和党トップのマコネル院内総務は、学生ローン返済免除は「犠牲を払って大学資金を貯めた全ての家庭、負債を返済した全ての卒業生、そして負債を背負わないために特定のキャリアパスを選んだり、軍隊に志願したりした全ての米国人に対する平手打ちだ」、「学生ローン社会主義」だと、同じく共和党のエリス・ステファニック下院議員は「無謀で違法だ」と非難している。
こうした非難に対してホワイトハウスは、直ちに反撃し、8/25のツイッターのスレッドで、学生ローン免除に不満を持つ共和党議員全員を、企業を支援するために2020年に創設されたパンデミック・エイドであるペイチェック・プロテクション・プログラム(PPP)を通じて免除された彼らの何十万、何百万ドルにも及ぶローンの額まで明示してリストアップしている。

<<「森林火災にバケツ一杯の氷水」>>
しかし問題は、この「学生債務救済計画」は一歩前進ではあるが、いくつかの深刻な問題が浮上していることである。まず、債務者4500万人のうちの2500万にしかすぎないということ。置き去りにされた2000万人が持続不可能な債務の山の下に放置され、債務が今後も膨らみ続けることである。
 さらに、平均的な学生の負債は 37,000 ドルで、授業料は年5~10% 昇し、金利は間もな現在の5%をはるかに超えるため、1 万ドルの債務免除では追い付かないのである。たとえば、カリフォルニア州立大学の平均費用は、年間 1万5000ドルから 1万7000 ドルを超え、さらに上昇している。1万ドルの元本の減額は、授業料、手数料、宿泊費などの増加による自己負担額の増加と、それに加えて現在の金利の急速な上昇によってほぼ確実に相殺されることが明らかなのである。かつてバイデンが検討していたとされる5万ドルの学生ローン債務帳消し政策こそが現実的であり、必要だったのである。
さらに大学が授業料と手数料を引き上げることができる上限が設定されていない限り、何百万人もの学生債務の元本は今後も増加し続けることである。その上に、インフレ調整がなく、金利に上限がないため、残存債務の未払いまたは部分的な利息の支払いは、未払いの元本のレベルを上昇させ続けることである。結果として、負債総額は年々増加し続け、今回の10,000ドルの免除は、わずか3~ 5年で元の状態に戻る可能性が現実的なのである。「たった 1 万ドルの借金を帳消しにするだけでは、森林火災にバケツ一杯の氷水を注ぐようなものだ」という批判が正当なのである。
要するに在学時も卒業後も学生を食い物にする金融資本主義の支配体制の危機的経済政策がそのまま保持されているのである。

 学生ローンの完全廃止とすべての人のための公立大学の無償化のために闘ってきたDebt CollectiveのAstra Taylorさんは「バイデン氏が昨日提案したこの提案は、彼の選挙公約の限界を完全には満たしていません。とはいえ、これはこの運動への足がかりです。それはマイルストーンです。忘れてはならないのは、大企業や億万長者が、平均して約 90,000 ドル相当のPPPローンを免除されていたとき、これがどこにあったのかということです。銀行が救済されたとき、彼らはどこにいましたか?政府が何十億ドルもの不良債権を買っていたとき、彼らはどこにいたのだろうか? だから、それは非常にシニカルです。私たちは戦略を立て、債務者間の連帯を生み出し、分裂して征服されるのを許しません. そして、私たちはそれを続けていきます。彼らは支払いの一時停止、支払いモラトリアムを1月1日まで延長したため、実際に債務ストライキが開始されています。」(8/24 DemocravyNow)と述べている。

バイデン政権が、この6か月間でウクライナの軍事および経済援助に矢継ぎ早につぎ込んだ640億ドルの援助だけでも、学生ローン免除の提案額の2倍以上である。学生ローン免除はまだ大統領令段階であり、議会にかけられるのはこれからであり、攻防はさらに激化すると言えよう。
(生駒 敬)

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