<<パウエル発言で金融・先物市場、大荒れ>>
8/26、金曜日、米連邦制度準備理事会・FRBのパウエル議長は、ワイオミング州ジャクソンホールで開催された金融資本エリートを集めたシンポジウムで演説し、米国の中央銀行はインフレとの戦いを続けるために、経済への「痛み」を与えざるを得ないと宣言するに至った。
パウエル議長は、「金利の上昇、成長の鈍化、労働市場の軟化はインフレ率を低下させる一方で、家計や企業にいくらかの苦痛をもたらすでしょう。これらは、インフレ抑制の不幸な代償です。しかし、物価の安定を回復できなければ、はるかに大きな苦痛を伴うことになります。」と断言したのである。
ゼロ金利と金融緩和政策であふれかえるイージーマネーで投機経済バブルを煽り続け、実体経済を掘り崩し、自分たちがインフレを作り出しながら、インフレなどは「一時的な現象に過ぎない」と言い続けてきたパウエル議長やイエレン財務長官。彼らは、昨年末来のインフレ高進をもはや否定できないとみるや、その責任も取らずに急遽、需要破壊路線としての引き締め・緊縮路線、つまりは不況促進と大量解雇を、「いくらかの代償」「いくらかの苦痛」などとする責任転嫁路線への転換を明確に打ち出したのである。
すでにレイオフ・人員削減の「津波」が始まっており、Best Buy、Ford Motor、HBO Max、Peloton、Shopify、Re/Max、Walmart、Wayfairなどが、すでにレイオフ、人員削減を発表しており、CNBCの報道によると、50%の企業が今後6~12ヶ月の間に全体の人員削減を見込んでいる。米労働省が9/2に発表した8月の雇用統計でも、実態を過小評価してはいるが、それでも失業率が3.7%に上昇している。
全米のフードバンクは物価高の影響を受け、生活費を稼ぐのに苦労する家庭が増える中、長い行列ができ、新しい顔ぶれが増えている。(8/30 CBS EveningNews)
パウエル氏の発言を受けて、週明けの8/29以来、いくらかの緩和路線路線への復帰を期待していたニューヨーク市場をはじめ、世界の金融・先物市場は期待を裏切られ、大荒れの事態に突入している。
米国株式市場は、それ以降4日間続落、月間では7年ぶりの大幅な下落に見舞われ、主要株価3指数いずれも8月としては2015年以来7年ぶりの大幅な下落率を記録した。S&P総合500種は8月半ばに付けた4カ月ぶりの高値から8%超下落。ダウ工業株30種は4.06%安、ナスダック総合は4.64%安と大荒れの展開となった。もちろん、欧州、東京市場も同様の事態である。
(上図、2つはEmini S&P Futures シカゴ・マーカンタイル取引所において電子的に取引される先物契約の一日の動き)
<<対ロシア制裁のブーメラン>>
そこへさらに、9/2、ロシアのガスプロムが「予期せぬ」漏洩によりノルドストリーム1を無期限で「完全に停止」したことを発表、米欧の株価は再び暴落の事態に見舞われたのである。S&P 500、Eurostoxx 50、日経の「モメンタム シグナル」がさらに悪化する可能性が指摘されている。
この同じ9/2 東京外国為替市場では円が対ドルで一時1ドル=140円半ばまで下落し、一時140円40銭と1998
年8月以来の安値を更新、ドル・円相場は146円台に乗せて日米協調介入が行われた1998年の水準に接近しつつある事態に突入している。今や円は、日銀・政府の無策により、資金を安い金利通貨で調達して、高い金利通貨で運用する円キャリートレード・マネーゲームの格好の対象となり、キャリートレード絡みの円売りが円安のけん引役にまでならんとしているのである。
ところで、本来、ガスプロムは3日間の定期検査終了後の9/4にもガス供給を再開する予定であったが、定期保守作業中に油漏れが発見され、欠陥が是正されるまで、ノルトストリームパイプラインへのガス輸送は完全に停止される、供給再開の時期は不明と発表したのであった。
EU諸国にとってこの「衝撃的な展開」は、この地域の冬場の貯蔵管理能力に関する市場の不確実性が再燃し、9/5以降、天然ガス価格の大幅な上昇に再び見舞われ、8月の高値を更新する可能性があると見られている。それはさらなるエネルギー価格の世界的な再上昇を招きかねないものである。Bloombergは、「欧州のエネルギー危機が劇的に悪化し、価格も緩和されつつあった矢先の出来事だ。もし停止が続けば、家庭や工場や経済が危険にさらされ、対ロシア戦争でウクライナを支援するヨーロッパの手腕が弱まってしまう」と報じている。
ここでも明らかなことは、米・欧・日の対ロシア制裁・緊張激化路線が完全にブーメランとして自らに跳ね返ってきていることである。不毛な戦争を対話と緊張緩和で一刻も早く平和的解決に導かない限り、さらなる苦境を自ら招き込むだけなのである。
そして根本的な問題は、インフレ対策としての金利引き上げは、景気を悪化させ、失業率を高め、賃金の伸びを鈍らせはするが、ガスや食料品の価格を押し上げている供給側の要因に影響を与えることはできないし、「価格を上げられるから上げている」巨大独占企業を規制・解体することはできないのである。さらに緊張激化路線で巨大な超過利潤を稼いでいる軍需・軍産複合体、軍需経済への依存などを断ち切ることはできないのである。しかし、こうしたことに根本的なメスを入れる反独占・反恐慌政策、つまりはニューディール政策が実行されない限りは、現在直面する経済危機の解決はあり得ない、と言えよう。
(生駒 敬)