【投稿】ドル独歩高と金融危機の進行--経済危機論(95)

<<「CPI核爆弾・CPI Nuclear Bomb」>>
10/13、米連邦政府の労働統計局(BLS)が発表した9月の消費者物価指数(CPI)は、バイデン政権にとって痛撃であった。インフレ率は前年比8.2%上昇で、これは、米連邦準備制度理事会(FRB)が設定したインフレ目標値2%を19ヶ月連続で上回り、なおかつ目標値の4倍にもなる8%を7ヶ月連続で上回ったのである。しかもこれが、11月8日に迫る米中間選挙前の最後の、直近の物価上昇率となる。この事態を、ウォール街の反応として「”恐ろしい”… “残酷”… “民主党の災難”」、「今日のCPI核爆弾の衝撃」と報じている(”Horrible”… “Brutal”…”A Disaster For Democrats”: A Shocked Wall Street Reacts To Today’s CPI Nuclear Bomb)。

CPIの詳細を見ると、変動の大きい食料品とエネル

緑=前月比、青=前年比

ギーを除くコア指数は前年同月比6.6%上昇と、予想を上回る40年ぶりの伸びを記録。このコアCPIは28ヶ月連続の上昇である。エネルギーは低下したが、食料と住居は顕著に上昇

実質賃金は18ヶ月連続で低下

。食品インフレは依然として極めて高い水準。医療費も跳ね上がり、全国の家賃の中央値が 7.8%上昇し、パンデミック前の家賃よりも25%も高い状態で、物価上昇圧力が広範囲に及んでいることがあらためて示されたのである。
上昇率の高いものから見ていくと、横の図の通りである。42.9% 航空運賃 33.1% 都市ガス 30.5% 卵 18.2% ガソリン 17.2% 鶏肉 15.7% コーヒー 15.2% 牛乳 14.7% パン 10.1% 家具 9.2% 野菜 8.2% 全商品 8.2% フルーツ 8.1% ハム 7.6% 女性用アパレル 7.2% 中古車 6.7% 家賃 3.7% メンズアパレル (Bureau of Labor Statistics 労働統計局)
さらに、実質賃金においても、壊滅的な打撃となっている。BLSによると、9月の平均時給は32.40ドルで、これは前年比4.92%の増加である、しかし同期間の物価上昇率が8.2%であったことから、9月の賃金上昇率と物価上昇率の差は-3.3%、つまりは、9月は18カ月連続で実質賃金が減少しているのである。

このCPI指数の発表を受けて、バイデン大統領は声明で「価格は依然として高すぎる。今日の報告は、物価上昇との戦いにいくらかの進展があったことを示しているが、やるべきことはもっとある。世界中の国々とここで働く家族に影響を与えている世界的なインフレと戦うことが私の最優先事項である」と述べたのであるが、この「最優先事項」という言葉は、昨年末以来、毎回繰り返されてきたが、今や空文句と化してしまっている。
しかし、バイデン政権ならびにFRBは、過去2年間、物価上昇は「一過性」以上のものにはならないと繰り返し断言してきたのであった。その断言に基づく量的緩和、超低金利政策の下で、2020年2月から2022年4月の間だけでも実に5兆ドル近くもバブルマネー、イージー・マネーを市場に大量にばら撒き、バブル経済・投機経済を蔓延させた、そのツケがインフレの高進となって跳ね返ってきたのである。
昨年末来、インフレの高進に慌てた政権幹部とFRB当局は、すでに75ベーシスポイントの3回連続の利上げを含む、5回の連続利上げを承認し、FRBは 11月初旬の次回会合で4回連続で75 ベーシスポイントの利上げを実施せんとしている。パウエル議長は、中央銀行の物価引き下げ計画は、金利を上げ続けて失業を促進し、賃金を押し下げることによって、消費者の需要を抑えることであるとまで示唆している。
しかし、利上げとそれに伴うドル独歩高、量的引き締めが景気後退をより一層深刻なものにさせ、金融危機が広く深く進行し始める、しかもそれが全世界的に拡大し始める、新たな経済危機をもたらし、政策は空回りし、コントロールを失う段階を招来しつつあると言えよう。スイス金融資本のクレディ・グループの破綻寸前の事態、イギリスのポンド急落危機とトラス政権崩壊寸前の危機はそれらを端的に示している。

<<「市民の命をもてあそんでいる」>>
問題は、こうしたバイデン政権ならびにFRBの経済政策に、パウエル議長を起用した共和党はもちろん、進歩派とみなされている民主党議員まで含めて、ほとんど一切批判がなされていない、事実上追随していることである。顕著な例外の一人として、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員がFRBの利上げ政策を「無謀で危険」と非難し、「パウエル議長は、FRBの急速な利上げは働く家族に『苦痛』をもたらすと述べ、食料やガスの価格を引き下げないことさえ認め」、その一方で、インフレの主要な要因を押し下げるために何もしていないことを自ら認めていること、こんなことが許されていることを、厳

民主党、パウエルの不況リスクOK

しく批判している。
ポリティコが今週初めに 報じたように、「議会の民主党員の間では、大衆の批判はほとんどなかった – 金利の急上昇が経済を不況に陥らせた場合、政治的代償を払う可能性が最も高いのは彼らであるにもかかわらず」、「複数の公聴会を含め、喜んで彼に忠告した人はほとんどいませんでした。」という実態である。

同様のことが、バイデン政権の対ロシア・対中国緊張激化政策についても指摘できる事態である。とりわけ、今や代理戦争と化したバイデン政権のウクライナへの膨大な軍事援助に、民主党の進歩派と称してきたグループがこぞって賛成票を投じていることである。
その先頭に立っている民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員は、10/13、ニューヨーク・ブロンクスで主催したタウンホールイベ

ントで、ウクライナをめぐる核保有国間のエスカレーションについて議論となり、何人もの抗議者が「もう限界だ」と言って、コルテス議員に「あなたはウクライナに武器や兵器を送ることに賛成したじゃないか」、「あなたは、アウトサイダー的な見解が、今では全く違うものになっている」、「ウクライナの代理戦争を煽って、ロシアとの核対決を招き、アメリカ市民の命をもてあそんでいる」と非難されたのである。群衆が彼女を詐欺師と呼び、壇上に無力なまま立っている屈辱的な場面の動画が公開される事態である。

アメリカのピースアクションやルーツアクションなどの反戦団体は、20州40都市以上で上院議員や下院議員の事務所にピケ隊を組織し、議員に対し、ウクライナでの停戦、米国が近年脱退した反核条約の復活、核惨事を防ぐためのその他の立法措置の推進を呼びかけている。
ルーツ・アクションの共同設立者であるノーマン・ソロモン氏は、「全米の多くの議会事務所でのピケットラインは、ますます多くの有権者が、選出された議員たちの臆病さにうんざりしていることを伝えている。彼らは、現在の核戦争の重大な危険の程度を認めず、ましてや、その危険を軽減するために発言し行動を起こすことを拒否しているのである。」
10/14に行われた「Defuse Nuclear War」のピケットラインでは、キャンペーン参加者が議員に対して、以下のような形でこれらの懸念を払拭するよう呼びかけている。
・核兵器について「先制不使用」政策を採用し、米国大統領が核攻撃を検討できる時期を限定し、核兵器が戦争ではなく抑止のためのものであることを示すこと。
・米国が2002年に脱退した対弾道ミサイル(ABM)条約と、2019年に脱退した中距離核戦力(INF)条約への再加入を推し進めること。
・大統領に “核兵器禁止条約の目標と条項を受け入れ、核軍縮を米国の国家安全保障政策の中心とすること “を求めるH.R.1185を可決すること;。
・国の裁量予算の半分を占める軍事費を、アメリカ人が「十分な医療、教育、住宅、その他の基本的ニーズ」を確保し、米国が遠大な気候変動対策に取り組むことに振り向けること、および
・核兵器の迅速な発射を可能にし、「誤警報に反応して発射される可能性を高める」「ヘアトリガー警報」を解除するようバイデン政権を後押しすること。

10/14金曜日のピケに加え、活動家は10/15日曜日に「行動の日」を組織し、支持者がデモを行い、チラシを配り、核の脅威の緩和を求める横断幕を掲げる「10月行動」を呼びかけている。

経済の危機と、平和の危機に対して、「進歩派」の立ち位置が問われているのである。
(生駒 敬)

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