【投稿】欧州、特にドイツのエネルギー危機と日本の「サハリン1・2」の対応

【投稿】欧州、特にドイツのエネルギー危機と日本の「サハリン1・2」の対応

                         福井 杉本達也

ウクライナ侵攻をめぐる対露制裁を背景に、欧州連合(EU)諸国は深刻なエネルギー危機に陥っている。EUは、2022年8月1日から2023年3月31日までガス需要を過去5年間の平均使用量と比べて15%削減することで合意した。ロシアへの経済制裁は、今日、ドイツへの経済制裁に変質した。ブリンケン米国務長官は、ドイツは低価格のロシアのパイプラインガスを高価な米国のLNGに置き換えるべきだと語る。アメリカは、ロシア・ガス価格の8倍とされる価格で、EUに米国のLNGを売る。米国のガスを輸入するためには、ドイツはLNGタンカーを接岸するための港湾能力を増強する必要があり、50億ドル以上の費用がかる。ガス価格の高騰はドイツの産業を競争力のないものにする。企業の倒産が拡大し、雇用が減少、ドイツは慢性的な不況と生活水準の低下につながる。殴州化学最大手のBASFのブルーダーミュラー会長は「我々は恒久的に競争力を損ない続けるかもしれない」と危機感を露わにした(日経:2022.10.30)。Sputnikは「ガス不足とエネルギーコストの上昇により、最もエネルギー集約的な産業の多くが競争力を失うことです。どのようなシナリオが展開されるかに応じて、そのような産業は2021年と比較して最大60%の生産を削減することを余儀なくされるでしょう。次に、シャットダウンは150万人以上に影響を与える可能性のある人員削減をもたらす」と報道している(Sputnik 2022.8.11)。

2 「ノルドストリーム」の爆破

9月26日、ロシアのビボルグからバルト海を南下してドイツのグライフスバルトへつながるガスパイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」でガス漏れが発生した。ロシアは、国際テロ行為であるとした。しかし、欧米メディアは予想通り、「ノルドストリーム」を爆破したのはロシアだとするプロパガンダを張った。日経のワシントン支局は「ロシアの攻撃による損傷だと断定されれば集団的自衛権に基づき、NATO加盟国が反撃するかどうかの議論が浮上しかねない。ロシア軍との直接対峠を避けたい米欧は慎重に判断する構えだ」(2022.10.4)と書いたが、全くばかげた報道である。自分で自分の足を撃つものはいない。「ノルドストリーム」を爆破することは、パイプラインを建設したロシアや燃料を消費する欧州ではなく、米国に利益をもたらす。ブリンケン国務長官は、この損害はアメリカにとって莫大な好機をもたらすと認め、自らが主導して爆破したことを自白した。そもそも、破壊工作が行われたのはデンマークとスウェーデンの管轄する海域である。パイプラインは数10メートルの海底に横たわっている。犯人は潜水艇など、攻撃するインフラに接近する手段を持っていなければならない。数百キロの爆発物をしかける場所まで運ぶ船舶類も必要である。常時海域を監視していたデンマークとスウェーデンが犯人を知らないはずはない。「ノルドストリーム」爆破による最大の犠牲者の1つはドイツのエネルギー会社「Uniper」であり、報告した損失額は、400億ユーロ(約5兆7,878億7,440万)にものぼるという。これにより、米国はロシアとドイツとの関係を壊し、潜在的なライバルであるドイツの製造業に致命的なダメージを与えられる。

3 米シェールガスは欧州に供給できない

アメリカは、ロシアとのガス戦争を開始した際、ヨーロッパがロシアを市場から追放した後、ヨーロッパにガスを提供すると宣言した・しかし、実際にはEUにガスを供給することはできない。米国のシェール投資家は、これまでの生産量が彼らが望むことができるすべてであることを認めている。フィナンシャルタイムズが報じたように、米国のシェールオイルとガスの生産者は、ヨーロッパがこの冬のエネルギー危機に対処するのを助けるために生産を増やすことができないだろうと警告している。

「米国テキサス州西部の天然ガス価格がゼロ近辺まで急落した。海外メディアによると一部ではマイナスで取引されたもようだ。シェールガスの生産が好調な一方、消費地へ送るためのパイプラインなど輸送インフラが不足しているため…マイナスでも売却した方が得策」と判断したとのことである…シェールガスの生産が活発化する一方、消費地にガスを輸送するインフラが不足している」と報道されている(日経:2022.10.27)。これでは何年かかっても欧州へガスは届かない。

4 カタールはドイツへのガス供給を断る

こうした中。EUは、悲惨なエネルギー供給状況を改善することを期待して、世界のLNG供給業者との協力を強化することを余儀なくされている。特に、カタールは現在、世界をリードするLNG市場であり、全出荷量の26.5%を占めている。ドイツは3月、カタールとLNGを供給する長期契約を締結したと発表した。 ハーベック経済相は、ロシア産ガスへの依存を減らすため、この取引はドイツの経済に「扉を開く」と述べていた。しかし、すでに5月には、ドイツとカタールの交渉は困難に直面した。LNGプラントは着工から生産開始まで4~5年かかり、すぐ増やせる供給量は隈られる。さらに、EUは、世界で施行されている経済法に違反して、輸入するロシアガスに上限価格の導入を検討すると発表した。これまでのところ、EU加盟国は、WTO規則に反するこの措置に同意することはなかった。プライスキャップに怒ったカタール政府は、欧州がガス価格の上限を導入するなら、カタールを始めとする中近東、北アフリカ生産国は欧州へのガス輸出を停止せざるをえないと表明した。ガス不足で汲々とするEUがガス価格に上限を設けるとは厚顔無恥にもほどがある。

5 日本の対応は「サハリン1」・「サハリン2」の維持

「台湾有事」などと言葉は勇ましいが、仮に日本がロシア・中国と戦争になった場合、アメリカは直接戦わない。戦争の結果は悲惨なボロ負けは間違いない。これを避けるには、米からなんと干渉されようが、一切手出しをせず、平和主義を貫くしかない。伊藤忠の岡藤会長は、欧州や米国とは違い、日本はエネルギー燃料の大半を海外に依存していることから、制裁があるとしてもロシアとの経済関係を放棄することは不可能だと述べた。会長は、「実際問題として、仮にロシアから輸入しない場合、あるいは仮に輸入量を減らせば、我々は生き残れない」とコメントした(Sputnik:2022.11.1)。

「日本は、ロシア経済がロシアの燃料輸入を必要としているという理由だけで、東京がロシアのサハリン1石油・ガスプロジェクトへの出資に固執すると発表した際、G7諸国を価格上限付きでロシア・ガスの世界価格の支配に参加させようとするワシントン主導の推進に打撃を与えた」(RT:2022.11.4)と報道されている。日本はロシア外交官を追放するなどという無謀な外交も多々あるが、エネルギーに関してはドイツのような自滅戦略はとらないようである。

6 ショルツ独首相の中国訪問

ドイツのような(日本も同様だが)資源を持たぬ国が軽挙妄動すると滅びる。電力を失う者もまた滅びる。ウクライナ戦争は兵器の優劣で極まるものではない。資源と電力が勝敗を分ける(DULLES N. MANPYO:2022.11.2)。このままではドイツはガスのない寒い冬に自滅する。ドイツは、その産業と生活水準を、アメリカ外交の命令とアメリカの石油・ガス部門の自己利益に従属させようとしていた。そこで、11月4日、ショルツ独首相は中国を訪問し、習近平主席と会談した。ショルツ首相訪中は独3大産業のトップなど独財界が後押し、12人の企業トップが同行した。代表者の中には、フォルクスワーゲン(自動車)、ドイツ銀行、BASF(化学)、BMW(自動車)、シーメンス(機械)のトップがいた。

しかし、政権内では、米国の代理人:ハベック経済・気候相が「中国への甘い姿勢は終わった」と中国批判を展開し、べーアボック外相はも大きな隣人が国際法に違反して小さな隣人を襲うことは受け入れられない。これは中国にも該当する」と首相の訪中を妨害した(日経:2022.11.3)。ショルツ首相は米国の圧力に対抗して、ドイツの主権を守ることができるのか。トルコのエルドアン大統領は「1ヶ月前にプーチン氏に対して全く異なる立場を取ったドイツのショルツ首相は、ロシアに対する態度を変え、共通の言語を見つける必要性を強調した」と述べた(Sputnik:2022.11.3)。ドイツは中ロとの「共通の言語」を見つけられるか。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 杉本執筆, 経済 パーマリンク

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