【投稿】タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビューと「トランプ2.0」

【投稿】タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビューと「トランプ2.0」

                              福井 杉本達也

1 タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビュー

2月6日、米国保守系のFOXニュースの元司会者で有名ジャーナリストのタッカー・カールソン氏がモスクワでプーチン大統領にインタビューした。X(旧Twitter)上での公開は8日で、2時間以上にわたるインタビューは、公開から数時間でカールソン氏のXアカウントで4600万回以上再生され、YouTubeでは100万回弱の再生回数を記録した。https://twitter.com/i/status/1756099572383072333

元米海兵隊情報将校のスコット・リッターは、このインタビューの意義について、「タッカー・カールソンのブランドと執念がなければ実現しなかっただろう。」とし、「彼はロシアの専門家ではない。ロシアの歴史家でもない。ロシアの複雑な生活に精通している人物でもない。ウラジーミル・プーチンはロシアの大統領だ。彼はロシアの歴史を知っている。彼はロシアの魂を知っている。」「ロシア大統領がアメリカの聴衆に、ロシアの歴史のニュアンスを、ロシアの魂の複雑さを紹介したのだ。もしあなたがロシアの歴史を理解せず、ロシアの魂を理解しないなら、あなたは基本的に地図のない旅に出ることになる。それがこのインタビューの価値だと思う。」と述べている。「彼がしたことは、アメリカの聴衆が近づきやすい文脈でこれらの情報を提供したことだ。」「タッカー・カールソンは現代ロシアへの扉を開き、ウラジーミル・プーチンの人格への扉を開き、ロシアの歴史への扉を開き、ロシアの魂への扉を開いた。」そして、「ロシアについて学ぶために時間と努力を惜しまない個人、アメリカ市民にとって必要な積み木ができあがった。」「私たちが前進し始めるための強固な基盤を構築することができるだろう。」「そして、タッカー・カールソンが今日、ロシアのプーチン大統領とのインタビューをアメリカ国民、西側諸国、そして世界に向けて行ったことは、人類を救うことができる旅への最も重要な第一歩なのだ。」と結んだ(スコット・リッターX:2024.2.9)。確かにインタビューの最初の30分ほどはプーチンによるロシアの歴史の「講義」である。

 

2 インタビューのポイント

カールソンが、プーチンのインタビューから得た感触は、(1)モスクワは2022年に戦争を始めたのではなく、ウクライナが2014年に始めた戦争を止めようとしている。(2)ロシアがウクライナに対して核兵器を使用したり、紛争をエスカレートさせたりするのではないかという憶測は、「ロシアとの対立で、米国の納税者と欧州の納税者から追加の金を強要するための脅しである。(4)米国と違って、ロシアは中国の台頭を恐れていない。BRICSが「中国経済に完全に支配される」リスクがあるというカールソン氏の提案は「ブギーマンの話」(お化けの話)だと述べた。(5)アメリカがウクライナ紛争を止めたいのなら、キエフへの武器送付をやめるべきだ。(6)ロシアはソビエト連邦の崩壊を受け入れ、イデオロギーの違いがすべて解消されれば、西側諸国と協力できると期待していたが、西側諸国は拒絶し、「非常に傷ついた」(7)クリントン元米大統領に、ロシアがNATOに加盟できるかどうか尋ねたが、クリントン氏は、それは不可能だと答えたと述べた。しかし、もしアメリカの指導者がイエスと言ったら、モスクワと軍事同盟の間の和解の時代が到来していたかもしれないとプーチンは述べた。(8)バルト海経由でロシアとドイツをつなぐノルド・ストリーム・ガス・パイプラインを爆破したのは誰だと思うかとカールソンに尋ねられ、攻撃から利益を得るであろう人々、そして攻撃を実行する能力を持つ人々を探すべきだと述べた。(9)米ドルを政治闘争の道具として使うと決めたとたん、アメリカに打撃が与えられた。これは愚かなことだ。そして重大な過ちである。(10)カールソンのバイデン大統領についてはどう思うかの質問に、プーチン氏は「彼は国を運営していないと確信しています」と述べた。既にバイデン大統領の私邸で機密文書が見つかった問題で、ハー特別検察官は2月8目、パイデン氏が「記憶力が著しく限られている」として訴追を見送ったことを明らかにしている(日経:2024.2.10)。(11)一方、トランプ氏については、ロシアは米国の数世代前政治家から、数々の侮辱や中傷を受けてきた。トランプ氏はそれとは一線を画していると指摘した。

 

3 米国政治への影響

米国家安全保障会議のカービー調整官は米国民の間でウクライナに対する支持が損なわれる懸念はないと述べ、カールソンのインタビューを見る人は、プーチン大統領の話を聞いているということを忘れず、同大統領の言うことを「うのみにすべきではない」と警告した(Forbes JAPAN:2024.2.10)と報道されたが、正直、焦りがあることは免れない。

このことについて、CIAの元分析官、ラリー・ジョンソン氏がスプートニクに語ったことによると、米メディアに対する国民の信頼は低くなる一方で、「嘘つきでプロパガンダ機関」だと考えられている。カールソン氏が行ったインタビューはウクライナ支援をさらに弱める可能性がある。「プーチン氏は効果的に発言したと思う。米国はすでに33兆ドルの債務を抱えているのになぜ支援する必要があるのかと」。プーチン氏はロシア人とウクライナ人の文化的、宗教的、民族的な強い結びつきをよりよく説明するために、ロシアの歴史を意図的に簡潔に語ったと指摘した。「プーチン氏はウクライナ紛争が1世紀前ましてや半世紀前に起源を発しているのではないことをすぐにわからせた。これは約1000年に及ぶ歴史であり、この歴史が存在しないようなふりをしてはならない」。しかし、米国は歴史が浅いため、平均的な米国人がこれを理解するのは難しいと指摘した(Sputnik日本:2024.2.9)。

 

4 SNSの役割について

ロシアではこれまで他のSNSを含めXもブロックされていたので、現地ではVPN経由、つまり他の国のIPアドレスを購入してこのプラットフォームを利用していた。しかし、ロシア議会は、プーチン大統領のタッカー・カールソン氏とのインタビュー公開後、中立性を理由に2月10日、Xメディアの禁止を解除した。

グーグルやメ夕、オープンAIなどの米巨大IT独占企業は「生成AI(人工知能)がつくった画像を判別できるようにする仕組みを相次ぎ導入する。SNS上に氾濫する悪質な偽画像や偽動画の排除につなげる。…米大統領選挙を前に各社は共同歩調を取り対応を急ぐ。…『選挙や民主的なプロセスを偽メディアからの介入を受けずに進める』」(日経:2024.2.10)というのが建前であるが、事実上の露骨な巨大IT独占企業による検閲である。マスク氏のXが今回、こうした米エリート支配層のテクノロジー検閲を破ったことは意義がある。既にカールソン氏のインタビューは1億5千万回以上再生されているという。「カールソンのプーチン・インタビューの最大の成果は、間違いなく、欧米が描く白黒の世界情勢に、切望されていた灰白質を加えたことだ。欧米の支配層にとっての問題は、グレーゾーンは、コントロールが難し」い(RT:2024.2.9)。これをXはそのまま米国市民に提供している。ドミトリー・ペスコフ:ロシア大統領報道官は「最初の 24 時間で、[タッカー カールソン] のインタビューは X プラットフォームだけで 1 億 5,000 万回以上視聴されました。これはサポートがあるという意味ではまったくありません。そして、私たちの視点が支持されることも期待できません。私たちにとって最も重要なことは、大統領の意見を聞いてもらうことです。もし彼の声が聞こえれば、より多くの人が彼の言うことが正しいのか間違っているのか考えるようになるということだ。少なくとも彼らは考えるだろう。アングロサクソン人があらゆる最大の放送局と主要新聞を何らかの形で支配しているため、ロシアがプロパガンダの面で米国に対抗することは困難である。このような背景から、重要なことは人々に私たちの世界観を知ってもらう機会を提供することです。この点において、これは非常に良い機会です。」(X:2024.2.11)と述べた。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, ソ連崩壊, 平和, 杉本執筆 パーマリンク

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  1. 斬魔狂 のコメント:

    非常に参考になりました。

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