<<バイデン「我々のラファ軍事作戦」>>
米バイデン政権は、イスラエル・ネタニヤフ政権にパレスチナ・ガザ地区南部ラファでの民間人殺害にゴーサインを出した。米・イスラエル両政権は、今や公然と、国際司法裁判所の大量虐殺阻止命令を無視し、全世界の世論、国際社会の湧き上がる非難の声に敵対する路線を選択したのである。
ラファの面積は 33.2平方㎞で、東京都で言えば杉並区や板橋区と同程度(いずれも人口57万人)であるが、紛争前には約 28 万人が住んでいたが、イスラエル軍の北部・中部の虐殺攻撃で避難を余儀なくされ、今や150万人以上に膨れ上がっている。 ガザの人口230万人の半分以上がラファに詰め込まれ、虐殺攻撃を目前にし、エジプトとの南部国境は完全閉鎖され、逃げ場も行き場もない缶詰め状態に追いやられている。
2/11、米・イスラエル両首脳の会談から数時間後、イスラエルはこのラファへの激しい空爆を行い、2/11-12、日曜夜から月曜朝にかけて、たちまち約100人を殺害、完全包囲され、出口のない避難民に対する全面的な軍事攻撃、虐殺作戦を開始したのである。バラバラになった子どもたちの遺体の映像が流され、ネタニヤフ首相は、「我々の目標は…完全勝利だ」と宣言している。
この「完全勝利」とは、ハマスの停戦提案(イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人捕虜と引き換えに人質全員の段階的な解放を行う)を、「妄想的な要求だ」として全面拒否し、できるだけ多くのパレスチナ人を殺害し、ガザ地区からパレスチナ人をすべて追い出す「民族浄化」
作戦を意味している。すでにこの作戦で、昨年の10/7以来、2/13までの死者は2万8473人に達している。
ホワイトハウス公表の、2/11の45分間のバイデン・ネタニヤフ通話文によると、バイデン氏は「ハマスを打倒し、イスラエルと国民の長期的な安全を確保するという共通の目標を再確認した」という。これによってバイデン政権は、膨大な資金提供と武器・弾薬の提供だけではなく、「共通の目標」として、ガザ住民の大量虐殺を政治的に正当化し、その実行を支持し、実際にはジェノサイド作戦の強行を指示しているのである。 つまりは、バイデンのゴーサインでイスラエルのラファ虐殺作戦が開始されたのである。
ホワイトハウス国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は2/12の記者会見で、米国はイスラエルが攻撃を強行した場合に軍事援助を打ち切ることは考えていない、と明言している。 記者からの「援助を差し止めると脅したのか」との質問に対し、カービー氏は「我々はイスラエルを支援し続けるつもりだ…そして、イスラエルがそのための手段と能力を確実に備えられるようにし続けるつもりだ」とまで断言している。
そして、バイデン大統領自身が、2/13、ヨルダンのアブドラ2世国王との会談後の演説中に、イスラエル軍によるラファへの侵攻を米国によるものだとする「我々のラファ軍事作戦」”our military operation in Rafah.” と公言したのである。この発言は、フランスのマクロン大統領をミッテラン元大統領(1996年に死去)と言い間違えたり、「ドイツのミッテラン」と発言したり、このところ記憶間違いや取り違え発言をたびたび繰り返してきたバイデン氏のよくある「失言」の一つだと米大手メディアは報じているが、実は「本音」を吐露したものでもあろう。
さらに、米議会・上院がイスラエルへの140億ドルを含む950億ドルの対外軍事援助法案を民主・共和両党の多数で可決し、下院では民主党内左派よりも、共和党内反対派で難航が指摘されているが、議会もパレスチナ人の大量殺害を支持し続けることに同意している事態である。
<<テント都市への「強制移住」>>
バイデン氏は、ネタニヤフ首相との電話会談の際、「信頼できる計画なしにラファ作戦を開始しないよう」警告したとされているが、その「信頼できる計画」なるものは、 ガザ市の南端から南はラファ北のアル・マワシ地区まで、ガザ全域に15カ所、2万5000張のテントを設置する、というもので、エジプト当局者の話として、医療施設を含むキャンプに米国とアラブのパートナーが資金提供することをイスラエルが期待していると述べている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、この「テント都市」は、イスラエルがエジプトに提示したもので、米国と中東の同盟国から資金提供され、 エジプトが運営する予定だという。つまりは、米国の直接の共謀、資金提供、参加によって、飢え、疲弊した100万人もの人々をこの「テント都市」に詰め込む「強制移住」なのである。この大量虐殺と民族浄化の「強制移住」作戦にエジプトを直接の当事者として参加させようというわけである。しかし、100万人以上もの人々をにわか作りの「テント都市」に詰め込むことそれ自体が不可能であり、なおかつ安全に避難できる可能性は無きに等しい。
あわよくば、国連をも、この「避難計画」なるものに参加させようとしているが、グテーレス国連事務総長の報道官、ステファン・デュジャリック氏は「我々は人々の強制移住には加担しない」と明言している。
一方、エジプトは2/11、ラファ侵攻は1979年の和平条約を無効にする可能性がある、1979年以来両国間の平和を維持してきた条約の停止の引き金となる可能性があると警告している。この条約では、イスラエルかエジプトが国境沿いおよび国境近くのいくつかの境界地帯に配置できる軍隊の数に制限が設けられており、大
量のイスラエル軍と装甲車両の駐留は許可されていない。
ガザとエジプトの国境に沿って 9 マイルにわたって伸びる、いわゆるフィラデルフィ・ルートまたはフィラデルフィ回廊について、昨年12月下旬、ネタニヤフ首相は、ガザを効果的かつ恒久的に非武装化するには、フィラデルフィ・ルートを「我々の手に渡さなければならない」と述べている。
エジプトは、イスラエルによるガザ地区の民族浄化を促進していると見られることを望んでいない。ここ数日、エジプトは数十台のM60A3パットン主力戦車とYPR-765歩兵戦闘車をラファ国境検問所付近に再配備している。
実際は、このイスラエルと米国の間で練り上げられた「信頼できる計画」なるものが頓挫し、実行もされないうちに、ラファ虐殺作戦の強行によってさらなる戦火の拡大が進行しているわけである。
2/14、イスラエルは隣国レバノンに対してガザ戦争開始以来最長かつ最も激しい攻撃を開始し、南部の数カ所を爆撃、これに対し、レバノンのヒズボラが、イスラエル北部にこれまた「前例のない」反撃を開始 、イスラエル軍は声明で、「レバノンからネトゥア、マナラ地域、そしてイスラエル北部のイスラエル国防軍基地への多数の発射が確認された」と述べている。イスラエルメディアは今回の攻撃を「前例のない」もので、10月にレバノン国境で戦闘が勃発して以来最大かつ最も深刻なものだと報じている。
<<バイデン任期中に18%以上のインフレ>>
戦火の拡大は、当然のこととして経済危機をも激化させる。
まずは原油価格が、供給が混乱する可能性があるとの懸念から、最近の上昇幅を拡大、原油価格の上昇とガソリン卸売価格の高騰が現実のものとなってきている。WTI(原油先物)価格は、1バレル=77.80ドル付近で推移してきたものが、すでに上昇幅を拡大させている。
2/13に発表された米消費者物価指数(CPI)は、3.1%であったが、3%を下回ると予測・期待していた米政権にとっては、冷や水を浴びせられた結果である。
いわゆるコアインフレ(食品とエネルギー価格を除く)は、3.9%上昇し、前月比0.4%上昇は「昨春以来最大」であった。このコアCPIは、実際に加速しており、1月の3カ月年率は4%で、12月の3.3%から上昇している。食料とエネルギーサービスのコストが輸送サービスとともに前月比で跳ね上がり、自動車保険や医療などのサービスが高止まりしたままである。つまりは、「経済の主要分野で依然として堅調な物価上昇」を示しているという現実である。このインフレの再加速は、賃金の伸びが物価に比べて赤字に戻ったこと、実質賃金の低下が再び現実のものとなってきたことを意味している。
この2/13の予想より悪いインフレ指標の発表で、10年物米国債金利は4.27%(今年最高水準)に上昇する一方、S&Pとナスダック株価はともに1%以上下落している。
そしてバイデン大統領にとって決定的なのは、自身の任期が始まって以来、消費者物価の実際の指数は、過去最高を更新し、18%以上上昇している(トランプ大統領の任期全体の4年間と比べて8%上昇した)ことである。
直近のフィナンシャル・タイムズ紙とミシガン州立大学スティーブン・ロス経営大学院の世論調査によると、アメリカ人の3分の1はバイデンの経済政策がアメリカ経済に大きなダメージを与えたと信じており、回答者のほぼ半数(49%)が、バイデン大統領の任期中に自分たちの金銭状況が悪化したと答えており、財務状況が改善したと答えたアメリカ人はわずか17%であった。
バイデン政権が意図的に緊張を激化させ、戦火を拡大させていることが、人びとの生存そのもを追い詰め、生活を苦しめ、なおかつインフレを持続・拡大させているのである。
(生駒 敬)