<<抗議、迎合、歴代大統領、しかし政策なし>>
8/19~22、シカゴで開催された米民主党全国大会で、辞退を余儀なくされたジョー・バイデン氏に代わって、カマラ・ハリス副大統領が大統領候補指名受諾演説を行った。ハリス氏は、自身を「現実的で実務的で常識があり」、米国を「新たな前進の道に」導くことができる候補だと強調した。
しかし、ハリス氏は同時に、基調講演で、米軍の最高司令官として果たす役割について言及し、「私は最高司令官として約束する。米国は常に世界で最強かつ最も高い殺傷能力の軍隊を持つだろう」と断言し、ウクライナとNATOを「強力に」支援すると約束し、「大統領として、ウクライナとNATO同盟国とともに強く立ち向かいます」と誓い、イスラエルの自衛権を常に支持するとし、これに必要な全ての手段を提供することを明言した。
つまりは、ハリス氏の「現実的で実務的な常識」とは、バイデン路線の核心=対ロシア・対中国緊張激化、イスラエルのパレスチナ・ガザ虐殺政策への加担、戦争挑発政策そのものの継続なのである。そこには、緊張緩和と平和政策への関与など、文字通り、一言もなしである。バイデン氏への迎合あれど、「新たな前進」の政策など、なしである。
唯一の例外は、ハリス氏は、ガザでの苦しみの「悲痛な」規模を認め、バイデン政権は「この戦争を終わらせるために取り組んでいる」と、見せかけ、口先だけの停戦へのアプローチを称賛したが、イスラエル政権への膨大な武器・弾薬の提供には完全に沈黙してしまったのである。オカシオ・コルテス氏は「カマラ氏は休戦のために精力的に働いている」と迎合したが、ハリス氏自身が、大統領候補指名を受け入れて以降だけでも、政権はイスラエルへの200億ドルの武器売却を無条件で承認しているのである。
何万人もの反戦・反虐殺加担の抗議デモ参加者に対して、何千人もの武装警官に守られて、周囲には高さ8フィートのフェンスとコンクリートの障壁でさらに防備を固め、完全に外界から遮断された大会会場。そこでは、歴代大統領や、夫人が次から次へと登壇、そこにバイデンの「口先停戦」支持・迎合の「左派」バーニー・サンダース上院議員やオカシオ・コルテス下院議員も加わったが、肝心のパレスチナ系アメリカ人の代表者・代議員の声は一人もなし。それどころか、登壇を拒否されたのである。ミシガン州などの重要な激戦州で、親パレスチナの50万~100万票以上の代償を払う可能性があるにもかかわらず、拒否したのである。
著名な映画監督マイケル・ムーア氏は、「ただ一つ欠けていることがあります。それは、アメリカ人である私たちが、4万人以上のパレスチナ人(その半数以上が子供と高齢者)を殺すための爆弾の費用を支払い、提供していることについて一言も触れられていないことです。そして、この悲劇に対する党の耳をつんざくような沈黙は悲しいほどにがっかりさせられます。」と怒りを込めて述べている。
さらに、ハリス氏を支持する主要労働組合である全米自動車労働組合は、民主党全国大会の最終日に、米国が支援するイスラエルのガザ地区攻撃について、「ガザでの戦争を終わらせたいのであれば、目を背けたり、民主党内のパレスチナ系アメリカ人の声を無視したりしてはならない」と述べ、「もし我々が平和を望み、真の民主主義を望み、そしてこの選挙に勝ちたいのであれば、民主党は今夜、民主党全国大会の舞台からパレスチナ系アメリカ人の演説者を招かなければならない」との声明を出している。
だが、大会会場内の親パレスチナグループが「イスラエルへの武器
供給を止めろ」と書かれた白い横断幕を静かに広げるや、すぐに民主党全国委員会の職員に取り押さえられ、「私たちはジョーを愛している」という旗で妨害され、横断幕が引き剥がされ、「彼らは『We Love Joe』のプラカードで私たちの頭を殴りました」と、ハリス氏を支持しているハリス派の代議員が語っている。まさにトランプ陣営と同じファシスト的行動がまかり通っていたのである。
125の反イスラエル・親パレスチナ団体が「民主党全国大会2024」集会“March on the DNC 2024” を組織し、「ジェノサイド・ジョー」がもはや候補者ではないとしても民主党を甘く見るつもりはない、「我々の標的は民主党であり、党の指導部であり、『キラー・カマラ』‘Killer Kamala’もその一人だ」と指摘する事態である。
<<ウソ、でたらめの雇用統計>>
ハリス氏は、国内政策について、「私は労働者、労働者、中小企業の経営者、起業家、アメリカ企業を結集して雇用を創出し、経済を成長させ、医療、住宅、食料品などの日常的な必需品のコストを下げる」「中小企業の経営者、起業家、創業者に資本へのアクセスを提供し、社会保障とメディケアを保護する」「1億人以上のアメリカ人に利益をもたらす」中流階級の減税を可決し、国境警備法案を可決し、中絶へのアクセスを保護すると述べている。
これらの提案は、新政権を特徴づける象徴的提案には程遠い。「トランプが社会保障とメディケアを削減しようとした時に戻るつもりはない」として、反トランプ政策としては重要ではあるが、ハリス氏は指名演説で、「我々は後戻りはしない」と言うとおり、現状維持政策でしかない。育児控除は新生児のみ、住宅控除も初めて住宅を購入する人のみ、食品価格つり上げに関する詳細がなく、不明瞭、医薬品価格は10品目のみで2026年まで、等々、すべてが漠然としている。ハリス氏は、現職副大統領として過去3年半の間、バイデン政権で一体何をしていたのか、具体的政策を持ち合わせていないのはなぜなのかと問われても、ただ現状追随していただけではないか、怠慢以外の何ものでもないであろう。
決定的なのは、大会開催期間中の8/21、ハリス氏が「雇用創出」を語っている最中に、バイデン政権下の米労働統計局(BLS)が、過去15年間で最大の下方修正を行い、米国経済は当初報告よりも81万8000人少なかった、「BLS は 2023 年 12 月までに 80 万人の雇用者数を過大評価していた (データ シリーズを 2024 年まで延長するとさらに増える)」と結論付け、米国経済は過大評価されていた、と明らかにしたことである。これは、バイデン政権が実際には存在しなかった雇用が創出されたと主張した100万近くの雇用である。BLSは雇用の定義を歪曲し、データを操作し、意欲を失った労働者を除外し、過去の報告書を改訂して、政権の政策に合う物語を作り出してきたのである。隠し切れなくなった結果が、これである。改定前の当初の雇用統計では、3月までの1年間で合計約290万人、月平均24万2000人の雇用増加が示されていたのだ。
この下方修正は、「ホワイト ハウスがバイデノミクスのメリットの直接的な証拠として何度も主張する 2023 年の雇用者数の平均月間増加数 23 万人という驚異的な数字が、ウソ、でたらめであり、2023年、毎月平均21万8千人の雇用が追加されるのではなく、むしろ15万人、31%の減少となっていたこと、を明らかにしたのである。この衝撃的なニュースは、米国経済は、すでに深刻な不況局面に入っていたことを明らかにしているが、バイデン・ハリス陣営は一言も触れられず、逃げ回ったのである。
11月の米国大統領選挙は、「よりましな悪」の投票を迫っている、とも言えよう。危険なのは、民主・共和両党が、それぞれの相違点をあぶりだす一方で、両党とも合意する危険な腐敗した政策、独占資本と金融寡頭制を支え、世界経済を破壊する戦争政策で一致することである。平和と経済が、今ほど密接に絡み合っているときはないのである。
(生駒 敬)