【投稿】福島第一原発の溶融核燃糾(デプリ)取り出し失敗―『廃炉』は不可能・核の呪文から解放され正気に戻れ

【投稿】福島第一原発の溶融核燃糾(デプリ)取り出し失敗―『廃炉』は不可能・核の呪文から解放され正気に戻れ

                            福井 杉本達也

1 福島第一2号機のデブリ取り出しに失敗
福島第一原発は2011年3月に1号機から3号機まで3つの原子炉がメルトダウンし、核燃料は原子炉圧力容器を突き破り、格納容器の底の部分に溶け落ち固まった。これが「燃料デブリ」と呼ばれ、3つの原子炉を合わせると880トンあると推定される。東京電力は2号機で、当初の計画から3年遅れての「燃料デブリの試験的取り出し」作業を行うこととした。採取する量は3グラム以下、耳かき1杯程度で。2週間かけて取り出し作業を行う予定であった。8月22日、福島第一原発2号機で「溶融核燃糾(デプリ)の取り出しに向げた準備作業を開始したが、約1時間半で中断した。回収装置を押し込むパイプの取り付け順を間違え…廃炉の最難関とされ、2011年3月の事故後初めてのデプリ採取は、スタートラインの手前でつまずいた」(福井:2024.8.23)。
(図:まさのあつこ:2024.8.22)

(まさのあつこ 東電資料のまさのによる訂正版2024.8.23)

NHKの報道によると「取り出し装置は伸縮する細いパイプ状のもので、格納容器の中まで後ろから別のパイプで押し込む仕組みになっていますが、装置を格納容器内につながる配管の手前まで進めたところで、5本ある押し込みパイプの順番が誤っていることに作業員が気づき、午前9時前に作業を中断したということです。5本のパイプは、装置と直接つながる1本目だけ構造が異なっていますが、現場では本来1本目につなぐべきパイプが4本目につながれていたということです。これらのパイプの中には取り出し装置先端のデブリをつかむ器具からのびた遠隔操作などに使うケーブルが通っていて、現場ですぐに順番を変えて作業を継続することはできませんでした。パイプを並べてケーブルを通す作業は下請け企業の作業員が先月28日に行っていたということです。」(NHK:2024.8.22)。
東電はあくまで下請け企業のミスであると強調するが、60人が作業にあたり、直接現場には48人の作業員がいたが、東電職員は立ち会っていない。下請けの三菱重工が作業を主導していたが、押し込みパイプは長さ1.5m、直径16㎝、重さ95kgもあり、放射線の高い現場では作業は困難を極める。1班6人体制で、8班の交代制で作業を行うが、大量の被曝を避けるため1班当り、数十分程度の作業時間で行わなければならず、まともな作業ができるとは思えない。

2 デブリの取り出しは永久に不可能

小出裕章氏は「当初、国と東電は、デブリは圧力容器直下の『ペデスタル』と呼ばれるコンクリート製の台座に、饅頭(まんじゅう)のような塊になって堆積(たいせき)していると期待していました。そうすれば、格納容器と圧力容器のふたを開け、上方向からつかみ出すことができます。しかし、デブリはペデスタルの外部に流れ出て飛び散っていることが分かりました。デブリを上部から取り出すことができないことが分かったのです。そこで国と東電はロードマップを書き換え、格納容器の土手っぱらに穴を開け横方向に取り出すと言い出しました。しかしそんなことをすれば遮蔽(しゃへい)のための水も使えず、作業員の被曝(ひばく)が膨大になってしまいます。それどころか、穴を開けた方向にあるデブリは取り出せたとしても、格納容器の反対側にあるデブリはペデスタルの壁が邪魔になり、見ることも取り出すこともできません。つまり、デブリの取り出しは100年たっても不可能です。」(AERA:2024.3.7)と述べている。小出氏は続けて「人間に対して脅威となる放射性物質のセシウム137とストロンチウム90の半減期は、それぞれ30年と28年です。100年待てば放射能は10分の1に、200年待てば100分の1に減ってくれます。100年か200年か経てば、その間に、ロボット技術や放射線の遮蔽技術の開発も進むはずです。」それまではチェルノブイリ原発のように『石棺』化するしかないと述べている(小出:同上)。1979年のスリーマイル島2号機原発事故のように、圧力容器内に留まっていれば、放射線遮蔽物としての水を入れて、高い放射線を遮りながら上部から遠隔でデブリの回収も可能であるが、圧力容器を抜け落ちてしまっているのであるから、水を入れて上から作業することなどできない。

3 「廃炉」に固執する政府・電力
日テレは『“廃炉への道筋”について』、今回のデブリ取り出し作業の前に、デブリ取り出し工法チームのトップである更田豊志前原子力規制委員長にインタビューした。「Q 廃炉まで30~40年の目標について?」との問いに、更田氏は「難しいのは間違いない。30~40年というのは明確な根拠あって決められたものではない。いろんなことがわからない状況の中で必ずしも工学的な技術的な根拠があって決めた期間ではないのは事実」と答えている。「Qデブリを取り出さないという選択は?」という問いに対し、更田氏は「選択肢として完全に排除するわけではないが、まだまだ時期尚早だと思う。取り出さないという選択は次の世代、更に次の世代に対して、負担や判断、ツケを回すことになる。そういった判断を現世代がしていいかどうかは大変重要な問題で、安易に次の世代に負担を回すべきではない」と答えている。(日テレ:2024.8.22)。
要するに『廃炉』の「30~40年目標」には工学的な技術的根拠は一切ないということである。全くの政治判断である。政治判断とは、福島を切り捨て、福島以外の原発を再稼働して行くためである。科学的に考えるならば、放射線量が下がる200年先ということしかない。しかし、200年先では既存原発は再稼働できない。政府・電力の固執する『廃炉』というのは国民・福島県民をだます詐欺である。更田氏はインタビューに対して「根拠があって決めた期間ではない」と、苦し紛れにしゃべったのである。

4 『廃炉』なんてできない。国民をだますのはもうやめろ。正気に戻れ
更田氏は上記インタビューの最後で、「現世代の責任として取り出すだけ取り出そうとするのは、正しいことだと思う。現世代の責任として、できるだけのことをやろうとするのが大事だ」と述べているが、出来もしないことを「できるだけ」といい、「正しいことだ」といいくるめることは国民への詐欺である。現場作業員の全く無駄な放射線被ばく量だけがどんどん増える。戦前の特攻隊ではない。無駄な作業は早急にやめるべきである。
200年先には少しは何とかなるかも知れないというような“技術”など、「技術」と呼ぶには値しない。あまりにも危険な代物である。『廃炉』が不可能なために溜まり続ける「放射能汚染水」を「処理水」と言い換えたところで、世界が納得するものではない。制御不可能な自らの核“技術”の不始末を外交的に中国攻撃に使うなどというのはもってのほかである。この国家は狂っている。また、国民全体も騙されている。このままでは第二・第三の福島事故は避けられない。一刻も早く眼を覚まさねば、この国は終わりである。

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA