【投稿】「アメリカの驚くべき自傷行為」--経済危機論(159)

<<関税計画の「粗雑さ」>>
4/2、トランプ米大統領は、「今日は、非常に良いニュースがあります」と演説を始め、この日を「解放記念日」とする宣言。4/5から米国への180を超える国と地域からのすべての輸入品に10%の基本関税を課す大統領令に署名。さらに貿易赤字を抱える対象国と地域をターゲットにした、事前の対話や交渉もない、まったく一方的な、より高い税率の、4/9に発効する個別の「相互関税」リストを、仰々しく大掲示板で並べ立て、発表した。
 実はこの発表、トランプ氏自身、マイナス反応を怖れて、「その時点で市場が閉まっているため」、午後3時から午後4時に変更したのだと報じられている。トランプ氏は、「これから(税率の)取引をする」のだというが、「一切、変更する気もない」、「なるようになる」と投げ出してもいる。

その相互関税リストの粗雑さ、ずさんさは目を覆うばかりで、「予想よりもはるかにひどい」とまで報じられ、120億ドル近くの黒字があるイギリスに対しては10%だが、カンボジア、ラオス、ベトナム、南アフリカの小さなレソトなどの国にはなんと50%もの「グロテスクな」関税が課せられ、もっとあきれるのは、アザラシやペンギンなどが生息するだけのオーストラリア領のハード島とマクドナルド諸島や、北極に近い無人島のノルウェー領ヤンマイエン島に対しても、トランプ政権は10%の関税を課す、というでたらめさである。その根拠を追求されて、ホワイトハウスが示

したのは、ギリシャ文

字で装飾した数式で「ざっと計算」しただけで、実は、各国との貿易赤字を調べ、その国の輸出額で割り、ご「親切に」その数字を半分にしたに過ぎなかったのである。ポール・クルーグマン氏は、トランプ氏の関税計画のこの「粗雑さ」を「悪質な愚かさ」とこき下ろしている。まさに、焦りと、ゴーマンとにわか仕立ての産物であろう。

このリストの発表後、中国は直ちに、米国に34%の輸入関税で反撃 中国財務省は4/4、4月10日から米国からのすべての輸入品に34%の関税を課すと発表。トランプ大統領が「最悪の違反国」と呼んだ中国は、米国への輸出品に既存の20%の関税に加えて新たに34%の関税を課され、関税総額は少なくとも54%に達している。中国は同時に、関税に対抗して世界貿易機関(WTO)に訴訟を起こし、ワシントンに対し、関税を「直ちに」撤廃し、貿易相手国との「公正かつ平等な対話」を通じて紛争を解決するよう求めている。

<<「血が流れる」>>
このリスト発表後、数時間のうちに金融資産は急落し始め、米国の株式市場は4月3日から4日にかけて、6兆6000億ドルもの損失を出し、史上最大の2日間の暴落の事態へと突入したのであった。
4/4、ダウ工業株30種平均は 2,231.07ポイント(5.5%)下落して38,314.86となり、これは4/3の1,679ポイントの下落に続くもので、2日連続で1,500ポイント以上下落したのは史上初である。
S&P 500も5.97%急落して5,074.08となり、2020年3月以来の大幅な下落となり、直近の高値から17%以上下落している。ハイテク企業が多数参入するナスダック総合指数は5.8%下落して15,587.79となり、4/3の約6%の下落に続き、同指数は12月の記録から22%下落である。

主な下落には、マイクロン26.8%、マイクロチップテクノロジー25.6%、デル22.4%、マーベルテクノロジー20.3%、ARMホールディングス18.6%、ラムリサーチ18.6%、アナログデバイス18.3%、エヌビディアは14.0%、アップルは13.6%、メタ・プラットフォームズは12.5%、アマゾンは11.3%、テスラは9.2%、アルファベットは5.7%、マイクロソフトは5.0%下落。ブルームバーグのハイテク株・MAG7指数は今週10.1%下落し、1か月間の損失は15.8%に拡大している。まさに「流血の事態」である。

さらに深刻な金融・信用ストレスが浮上し、KBW銀行指数は今週13.8%下落し、ブローカー・ディーラー指数は12.1%下落。シティグループは17.4%、バンク・アメリカは16.6%下落。ゴールドマン・サックスのCDSは今週20ベーシスポイント上昇し(86ベーシスポイント)、2020年3月以来の週間最大上昇となった。これは世界の銀行株にとって大打撃であった。日本のTOPIX銀行株指数は20.2%下落し、欧州のSTOXX600銀行株指数は13.9%下落。イタリアの銀行株指数は15.9%下落している。
直近、日本の日経225指数は9.0%(年初来15.3%下落)の大暴落を記録、イタリアで10.5%、スウェーデンで10.1%、スイスで9.3%、フランスとドイツで8.1%、英国で7.0%下落している。アジアでは、ベトナムが8.1%、台湾とタイが4.3%、韓国が3.6%、インドが2.9%、中国(CSI 300)が1.8%下落。ラテンアメリカ市場では、アルゼンチンが12.6%、ペルーが6.5%、ブラジルが3.5%、チリが2.5%、メキシコが3.2%下落している。世界的危機の拡大である。

4/3、フィナンシャル・タイムズ編集委員会は、「アメリカの驚くべき自傷行為」と題して、「ドナルド・トランプが2025年4月2日に米国の貿易相手国に広範囲な「相互」関税を課すと決定したことが、もし実行されれば、米国経済史上最大の自滅行為の一つとして記憶されるだろう。それは世界中の家庭、企業、金融市場に計り知れない損害を与え、

米国が恩恵を受け、その創出に貢献した世界経済秩序をひっくり返すことになる。」と論断し、「最悪のシナリオよりも悪い」 「解放記念日」は、悪名高い日として記憶される日となるであろう、と結論付けている。

同じく4/3、ウォール街の大手JPモルガンは顧客向けメモで、「流血の惨事になる」“There will be blood”という見出しをつけて、今年の世界的景気後退の可能性を40%から60%に引き上げ、「これらの政策が継続されれば、米国、そしておそらく世界経済は今年景気後退に陥る可能性が高い。今年の景気後退リスクは60%に上昇した」と警告している。

<<数百万人の「Hands Off!」抗議運動>>
4/5、こうした事態の中で、米欧を中心に数百万人規模の「Hands Off!」抗議運動が展開されている。
 この土曜日、トランプ大統領とその腹心のイーロン・マスクによる独裁主義と右翼寡頭政治、経済破壊プログラムに対する巨大な抗議運動が展開されている。全米各地で「Hands Off!手を引け」デモが行われ、数百万人が参加したと報じられている。
「米国には大統領がいるが、王はいない」と、この行動に関与した団体の一つである進歩主義擁護団体ピープルズ・アクションは、数百の都市や地域で抗議活動が始まった土曜日の朝、支持者に送った電子メールで述べた。「ドナルド・トランプは、あらゆる点で、自分を王にしようとしてきた。彼は裁判所、議会、そして米国民に対して説明責任を負わなくなった」

「Hands Off!」抗議運動の主催者・“Hands Off” protests 2025-4-5 は、この抗議運動を以下のように紹介している。https://handsoff2025.com/
「これは私たちがノーと言う瞬間です。労働者が生き残るのに苦労しながら、これ以上略奪、盗み、盗むことはなく、政府を襲撃する億万長者はもういません。4月5日はその行動日です。全国で、何千、何万人もの人々がこの億万長者の権力に立ち向かって行進し、結集し、混乱させ、要求します。州の首都、連邦の建物、議会の事務所、市内中心部に現れます。」
「彼らは私たちの国を解体し、政府を略奪している。そして私たちはただ傍観しているだけだと思っている。」「これは、現代史で最も勇敢なパワーグラブを止めるための全国的な動員です。トランプ、マスク、および彼らの億万長者の仲間は、政府、経済、そして私たちの基本的権利に対する全面的な攻撃を調整しています。彼らは、私たちの税金、公共サービス、そして私たちの民主主義を超富裕層に引き渡しています。私たちが今戦わなければ、保存するものは何もありません。」

 

「すべての手の背後にある核となる原則! それは、非暴力的な行動へのコミットメントです。私たちは、すべての参加者が、私たちの価値観に反対する人々との潜在的な対立を除外し、これらのイベントに合法的に行動することを求めていることを期待しています。法的に許可されたものを含むあらゆる種類の武器をイベントに持ち込むべきではありません。」

この日の抗議デモの主要な組織団体の1つであるインディビジブルは、数百万人が1,300を超える個別の集会に参加し、「トランプの独裁的な権力掌握の終結」を要求し、それを幇助するすべての人々を非難したと述べている。「数十万人の参加を予想していましたが、ほぼすべてのイベントで、予想を上回る参加者が集まりました」と、「300を超える「Hands Off!」デモは、労働組合、進歩的な擁護団体、民主主義支持の監視団体の大規模な連合によって組織され、土曜日にヨーロッパで最初に始まり、続いて米国東海岸のコミュニティで始まり、場所に応じてさまざまな時間に一日中続いた。ロンドンで、パリで、フランクフルトで、ブリュッセルで、…

反撃が組織され、開始された。全世界に、さらに拡大されることが要請されている。
(生駒 敬)

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