<<「TACO」から「TATA」へ>>
トランプ大統領のでたらめな関税マシンが再び動き出した。
4月2日のトランプ氏自ら命名した「解放記念日」に発表した「相互関税」(対中国34%、対EU20%、対日本24%、…等々)は、4/9、午前零時に発効したはずであったが、トランプ氏自身が動揺を隠し切れず、国民に「冷静に」と呼びかけた後、その日の午後、突然、90日間の関税発動停止を発表したのであった。
その90日期限がこの7月9日であったが、一方的な関税戦争開始による威嚇と脅し、関税率上げ下げの応酬が繰り返されたが、貿易協定締結の合意に至ったのはベトナムとイギリスだけであった。成果はゼロに等しい。
この経過から、TACO=Trump Always Chickens Out「トランプはいつもビビってやめる」と揶揄され、トランプ氏はこのTACO表現に激怒したのであるが、再び、「相互関税」の発動期限を8月1日まで延期する大統領令に署名し、今度は、8月1日までに合意に至らなければ、4月2日の「解放記念日」の関税率が再び適用される、そればかりかさらなる関税率の上乗せ、対象の拡大にまで乗り出すことを明らかにしている。今度は、TATA=Tramp Always Tries Again「トランプは常に再挑戦する」、と言うわけである。
そして問題は、今回はブレーキがかかっていない、ことである。単なる再挑戦ではなく、「タコがタカになるリスク」、強硬な「タカ派」路線、極端な高関税の脅し、政治主義的・独裁主義的路線が前面に飛び出してきているのである。ブラジルへの「50%関税」がその典型である。
その主な動きを列挙すると、
* トランプ政権は新たな関税率の概要を示す書簡を20通以上、各国政府に送付した。(日本と韓国は8月1日から25%、カナダに35%の関税を課す)
* 日本宛ての警告書では、米国に輸入されるすべての日本製品に25%の関税が課され、「既存のすべてのセクター別関税とは別に適用されます」と強調、、日本の関税、非関税政策、そして貿易障壁が、持続的で持続不可能な貿易赤字の原因であると指摘し、両国の関係は長きにわたり非互恵的であったと主張し、日本が関税を引き上げた場合、米国は既存の25%の関税にその額を上乗せする、と警告。
* カザフスタン、マレーシア、チュニジアからの輸入品にも25%の関税を課し、南アフリカとボスニア・ヘルツェゴビナ(30%)、インドネシア(32%)、セルビアとバングラデシュ(35%)、タイとカンボジア(36%)、ベトナム、ラオス、ミャンマー(40%)からの輸入品には、より高い税率が適用される。
* 7/8、米国外で生産された医薬品は最大200%の関税、さらに自動車や鉄鋼・アルミニウムに続く分野別の追加関税の対象を広げ、「輸入銅に50%の追加関税」を表明、銅価格は史上最高値を更新。先物価格は17%急騰している。
* 脱ドル化の試みに対し、「BRICSの反米政策」に同調する国には10%の追加関税を課すと表明。
* 7/12、トランプ氏はTruth Socialを通じて2通の貿易警告書を発出し、8月1日からメキシコとEUからの輸入品すべてに30%の関税を課すと通告。ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長に宛てた2通目の書簡で、EUの関税と非関税障壁に起因する長年の貿易不均衡が是正されない限り、8月1日からすべてのEU製品に30%の関税を課すとブリュッセルに通告。
<<BRICSへの動揺と「怒り」>>
そして極めつけは、ブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・デ・シルバ大統領に宛てた手紙の中で、米国が南米ブラジルからのすべての輸入品に50%の関税を課すと発表し、「ブラジルによる自由選挙とアメリカ国民の基本的言論の自由に対する陰湿な攻撃」を理由として、ブラジルの元大統領でトランプ氏の盟友である「南米のトランプ」=ジャイル・ボルソナーロ氏の裁判を「魔女狩り」と呼び、直ちに終結させるべきだと述べ、米国に輸出されるブラジル製品すべてに50%の関税を課す」と主張したことであった。
しかも、トランプ氏は手紙の中で、米国はブラジルとの貿易赤字を抱えていると嘘をついているが、これはまったくのでたらめで、真実は、米国は長年にわたりブラジルとの貿易黒字を維持しており、2024年だけでも74億ドルに上っているのである。経済的な、貿易収支上の理由などまったくなしである。関税戦争によって損失を被るのは、むしろ米国側なのである。
ルラ大統領はトランプ氏のこの書簡に対し、声明の中で「いかなる一方的な関税引き上げも、ブラジルの経済相互主義法に従って対処される」と述べ、対抗関税の可能性に言及し、貿易にドルを使う義務はないことまで言明している。
トランプ氏は、明らかに7月6日にブラジルで開催されたBRICS首脳会議に動揺し、BRICS諸国が国際貿易の主要通貨として米ドルに取って代わろうとしていると非難し、BRICSへの「怒り」が、この突飛な「50%関税」の背景にあることを自己暴露しているのである。
今や、BRICS加盟国(B・ブラジル、R・ロシア、I・インド、C・中国、S・南アフリカ)とそのパートナー20カ国(BRICS+)は、世界のGDP(購買力平価)の44%、世界人口の56%を占めるに至っており、その組織力が減少するどころか、増大しており、公正な貿易ルールとWTO改革の推進で協力・前進している。
その現状を列挙すれば、
* BRICS諸国のGDP合計は購買力平価ベースで77兆ドル(2025年)で、G7の1.3倍に相当
* BRICS+は世界のGDP成長の40%以上を牽引
* BRICS+の平均成長率は4%(2025年)と予測されており、G7の1.7%の2倍以上
* エネルギー、金属、食料など、主要な世界市場を支配する11の加盟国と10のパートナー
* BRICS+諸国は、世界のガスの約32%、原油の43%を生産しており、エネルギー自立を達成
対して、米国主導のG7は、米国、英国、ドイツ、日本のGDPがいずれも引き続き減速し、停滞している。
7/11、米国経済分析局(BEA)発表の2025年第1四半期の米国GDPは、0.5%減少である。7/9発表の日本のGDPは年率0.2%の縮小であり、ドイツは2年連続で経済が縮小している。英国国家統計局(ONS)が発表した最新の月次成長率によると、5月の英国の国内総生産(GDP)は前月比0.1%減少し、4月の0.3%の縮小に続くものである。つまりは、トランプ政権の無謀な関税政策とともに、G7の中心たる米国、英国、ドイツ、日本のGDPがいずれも経済の弱さを示していることから、米主導の世界経済は引き続き減速し、停滞しているのが実態なのである。G7が、トランプ政権に追随している限り、その政治的経済的危機は強まりこそすれ、緩和される展望は開けないのである。
(生駒 敬)