【投稿】参政党躍進の理由

【投稿】参政党躍進の理由

                         福井 杉本達也

1 貧困化にまともな対応策を出さない立憲民主党

昨年秋の衆院選と今回の参院選比例との得票比較で、立憲民主党は1146万票を739万票と▲417万票も減らしてしまった。一方、国民民主党は617万票→762万票(+145万)、参政党は187万票→742万票(+555万)、自民党は1458万票→1280万票(▲178万)、維新は510万票→437万票(▲73万)、公明党は596万票→521万票(▲75万)である。いかに立憲民主党が国民から愛想をつかされたかがわかる。

消費税で立憲民主党とは食料品にかかる軽減税率8%を1年間ゼロに下げるとし、延長しても最大2年までという公約であり、財務省に徹底的に配慮し、自分でも何を言っているのか訳のわからないしろものであった。

総務省が2⽉発表した「2024年の家計調査によると、2⼈以上の世帯が使ったお⾦のうち、⾷費を⽰すエンゲル係数は28.3%。28.8%を記録した1981年以降で最も⾼く、43年ぶりの⾼⽔準となった。上昇は2年連続。いわゆる先進国の中で断トツと⾔っていい。」(日刊ゲンダイ:2025.2.14)と報じられていた。大企業寄りの日経新聞のコラム『大機小機』でさえ、「国民の所得から税金や社会保険料がどれだけ支払われているかを示す『国民負担率』は、2025年度は前年度比0・4ポイント高い46・2%となる見通しだという。SNSでは『五公五民』の悲鳴が聞こえる」「国民が生活苦に直面している主因は、…生鮮食品価格のほか、コメ価格や電気代、ガソリン代の高騰だ。総合的な物価高対策が急務である。国会は国民の『インフレ実感』に焦点を当てた議論をする場であり、国民はそれを注視している。」(日経:2025.3.20)と書いていたが、立憲民主党はこうした声を黙殺した。吉田徹同志社大教授は、行き場を失った「特に現役世代の負担感が強い。親の介護、育児の出費、自分の給料が増えない不満が第三極への支持につながった。参政は現役世代の中でも政治に関心がなかった層を新規開拓」したと分析する(日経:2025.7.22)。

2 排外主義は参政党の専売特許ではない

吉田徹教授は「外国人がスケープゴートになった。『自分は真面白に働いているのに報われないのは理由があるはずだ』と考える人にわかりやすいターゲットができた」「外国人間題が票になることが皆にわかつてしまった。今後は争点として存在しなかったことにするのは難しい。これからの展開の分岐点となる選挙だった。」(日経同上)と結論付ける。

しかし、これには伏線がある。FNNは「国際的な安全保障環境の変化も、今回の選挙結果に⼤きな影響を与えた。近年、中国の海洋進出や台湾海峡を巡る緊張、北朝鮮の核ミサイル開発、ロシアと北朝鮮の軍事協⼒の強化など、⽇本を取り巻く地政学的リスクは増⼤している。これにより、⽇本国内では『⾃分の国は⾃分で守る』という意識が強まり、ナショナリズムが再燃している。」「新興保守勢⼒は、このナショナリズムの⾼揚を巧みに取り込んだ。」(FNN 2025.7.22)と書くが、これは米ネオコンと日本政府・自民党とマスコミが描く排外主義の典型である。1972年9月の日中共同声明の2項において、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。」、第3項において「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」としている。にもかかわらず、2024年9月25日海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が当時の岸田首相の直接の支持により台湾海峡を初通過した(福井:2024.9.27)。また、その後、護衛艦「たかなみ」が2015年6月12日に台湾海峡を通過している。日経新聞は「護衛艦の航行は中国軍機の異常接近に対抗するほか、台湾への軍事的圧力を強める中国へのけん制を狙った」と解説している(日経:2025.6.20)。これは“台湾独立”を支援する日中共同声明に違反するものであり、中国の内政に露骨に介入する行為である。日中関係がここまで悪化したのは、尖閣諸島をめぐって、それまでの「棚上げ論」を反故にした旧民主党時代の野田氏や岡田氏、また、当時国交大臣であった維新共同代表の前原氏の責任は重大である。こうした、政府、既存政党、マスコミの排外主義の積み重ねが、投票行動に結びついてしまったのである。

3 日本リベラルの惨憺たる人権状況

アジア記者クラブは「順風で4議席減らした共産党、ラサール石井が出なければ政党要件を失っていた可能性の強い社民党、目標の7議席に遠く及ばなかったれいわ新選組の獲得議席数は合計7議席。敗因を総括できるのか。近隣諸国と対立する右翼と改憲派、ネオリベが日本を崖っぷちに追いやるのは必至。」(2025.7.21)と書いた。れいわは、2022年12月の参院における「新疆ウイグル等における深刻な⼈権状況に対する決議」において、決議に反対した声明において、「新疆ウイグル、チベット、⾹港などでの⼈権侵害は断固として許さない。その考え⽅については、今回の決議の内容に共鳴する部分はある。それ以上に、れいわ新選組は、新疆ウイグルの深刻な⼈権侵害に対して、ウルムチの⽕災をきっかけに中国国内外で広がる抗議運動と⾃由を求める⼈びとの切実な闘いに連帯し、⽇本政府に対して、新疆ウイグル等の深刻な⼈権侵害を直ちに停⽌させるよう中国へ求めるとともに、迫害を受けた⼈々を保護し難⺠を受け⼊れるよう要請する。」などと書き、他国の人権に露骨に干渉しているのでは排外主義を防げるはずもない。

ロシアを訪問して維新を事実上除名された鈴木宗男氏だが、今回は自民党から立候補し、辛くも当選した。2024年のロシア訪問から帰国後「日ロ関係は戦後最悪と言われ、誰かが首の皮をつながないといけない」(2024.8.4)の述べているが、一方的に排外主義に加担しているようでは、日本のリベラルに救いはない。石破首相は訳のわからないアラスカLNGなどに80兆円もの投資すると約束したそうだが、ロシア・北極圏の「アークティック2」や「サハリン2」の方が1/3とものすごく安い。いたずらに排外主義を煽るのでななく、善隣外交こそが日本の生き残りの基本である。

4 スピリチュアルから排外主義へと軸足を移す

参政党が初の国政選挙に挑んだのは新型コロナ禍だった2022年の参院選だった。新型コロナウイルスワクチン接種推奨の是正を訴えてきたが、今回、政策の軸足を「外国勢力の脅威」に移した(福井:2025.7.24)。作家の古谷経衡氏は、「6月の都議選だ。れいわの牙城とされた「練馬」「世田谷」で同党候補が落選し、参政の候補が勝った。あるれいわ関係者は、「支持層がかぶる参政党に取られた」と嘆く。消費税廃止、積極財政を柱とするれいわの経済政策は、後発の参政党が模倣した。しかし国家観や人権問題で進歩的なれいわと、真逆を行く参政の支持者が重複するとはどのような意味か。実際には、れいわ支持層には反ワクチンや陰謀論的世界観を好む支持層が少なくない。この意味においてれいわと参政は近似的だ。」と分析する(日刊ゲンダイ:2025.7.24)。反ワクチン派や有機農業者に参政党支持に回った者は多かった。

5 新参にしては参政党の極めてオーソドックスな選挙方式

参政党は8万人以上の組織をを持つといわれ、選挙の1年以上前から街頭や駅前などの定点に立ち旗振りやチラシ配布を行っていた。また、ポスターもオーソドックスに1枚1枚、掲示場所を頼みに歩いている。「資金の調達構造も草の根型を示す。24年公表の政治資金報告書によると、収入は約12億円。党員が払う会費が約4億4千万円、個人献金が約1億3干万円と、両方の収入で計45%超を占める。他にも全国で開かれるタウンミーティング…4億2千万円ある。」一方、「国民民主党は約14億円の収入額中、党費は約3千万円、個人献金は約600万円と計3%未満に過ぎない。多くの収入を政党交付金に依存する」(福井:2025.7.23)。

党費が数千万円では党員数も推して知るべしであるが、立憲民主党も国民民主党も結成以来年数が経つが、ろくろく地方組織を作ろうとはしてこなかった。ポスター張りなども労組の動員に頼らざるを得ない。一方、参政党は今回はポスター張りを40代の男女が熱心に行っていた。参政党はわずか3年で8万人規模の組織力があるということは、かつての統一教会や幸福の党のような宗教団体が組織的に関与していると考えられる。

長州新聞は「⽐例区のみならず全選挙区に候補者を擁⽴すること⾃体、新興政党としては膨⼤な供託⾦を⽤意しなくてはならずハードルは極めて⾼いことに加えて、ポスター貼りの⼈員確保、全選挙区で選挙実務を担う⼈材確保など巨額の資⾦や組織⼒を擁することが不可⽋になるが、これらをそつなくクリアして選挙戦を展開した。…SNS戦略だけでなく公選法に則った選挙⼿続きの実務など、選挙をそつなく回していくプロ集団(経験者)の⼒が加わっていることや、組織⼒を有する集団の存在を浮き彫りにし、⾦銭的なバックボーンなしにはあり得ない選挙のこなし⽅を⾒せた。…選挙期間中はみずからの政党発信だけでなく、周囲の影響⼒ある媒体も巻き込んで過剰プロモーションともいえる⼒が働いた」(長州新聞:2025.7.21)と分析している。政権から外された自民党旧安倍派や宗教団体、ネオコン、マスコミなどの大合作が疑われる。国益を「第一」とするトランプや欧州の右翼と参政党を同一視する見方もあるが、「売国」と「既成右翼」・「既得権益」の大合作とでは根本が異なる。

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