【投稿】原発再稼働から核武装へと突き進む日本
—-メルケル首相の訪日の意義—-
福井 杉本達也
1 なぜ高浜3・4号機の再稼働を急ぐのか
3月20日高浜町議会は高浜3.4号機の再稼働に同意するとした。統一地方選後の4月には野瀬高浜町長も再稼働に同意するものとみられ、焦点は福井県の同意に移る。県では2月17日に再稼働に向けた5条件というものを出している。そのうち①「中間貯蔵施設の県外設置に向けた積極的関与」、②「福島事故を教訓とした事故制圧体制の充実強化」の2点が注目される。①は、これまで使用済み核燃料を県外に搬出することが原発の建設・運転の条件となってきたこともあり、その延長線上にあるが、どこへ搬出するのか?受け入れる県があるとは思えない。福島第一3号機では燃料プールが水蒸気爆発を起し、4号機プールも危機的状況に陥ったが、使用済み核燃料をプールに保管し続けることは危険極まりない。住民の安全を取りあえず確保するためには、空気で冷却する乾式貯蔵方式がベターであるが、西川知事の頭には住民の安全を守ることはすっぽり抜け落ちている。①も②も駆け引きの道具で、知事は真剣に考えているとは思えない。
政府は「規制委が世界最高水準の新基準に適合すると認めた場合は再稼働を進める」としているのに対し、規制委の田中委員長は「新基準の適合性は見ているが安全だと申し上げない」としており、知事としては、いったい誰が再稼働に最終的責任を持つのかという不信がある。しかし、知事の論理には無理がある。福島事故で原発は人類が制御できない危険なものであることが明らかとなった。それを無理やり安全だと言えということであるから別の目的がある。というか、官僚機構が知事に言わせている。住民の生命や財産を犠牲にしても再稼働しなければ、日本に核管理能力がないとして、核開発をやめさせられる恐れがあるからである。
2 メルケル首相と安倍首相・日独の違いはどこに
ドイツ政府は3月7日、メルケル首相の日本訪問にあたってビデオメッセージを公式サイトに掲載した。その中で、首相は福島第一原発事故にふれ「この恐ろしい事故に私たちは同情しました。そして、ドイツはより早く原子力から撤退するという大きな決定をしました。私たちは再生可能エネルギーに、とても期待しています。私は日本も同じ道を取るべきだと思っています。…私は福島の事故を経験したドイツの首相として、できるだけ早く原子力から撤退するようにしています。」(訳:The Huffington Post)と述べている。共同記者会見で独メディアから日本はなぜ脱原発をしないのかと問われ、安倍首相は「日本での再生可能エネルギーの普及はまだわずかだ」(日経:3月10日)と都合の悪い質問にまともに答えようとはしなかった。事故当事者の日本で「脱原発」への舵が切れず、どうしてドイツでは「脱原発」へと進みえたのか。単なる政治指導者の資質だけの違いではあるまい。
3 核の「平和利用」と「宇宙開発」
1969年2月3~6日まで東京と箱根において日本の外務省と旧西ドイツの外務省高官との秘密協議が行われた。協議の中で「日本は核弾頭を製造するための基礎となる核物質の抽出を行うことができる。もしいつか日本が必要だと思う日が訪れたら、核兵器をつくることができるだろう」と発言し、ドイツに核兵器開発への参加を求めたが、ドイツ側はこれを一蹴した(NHKスクープドキュメント「『核』を求めた日本~被爆国の知られざる真実~」2010.10.3:NHK「平和アーカイブス」)。
ドイツは核による報復をしないことを決めたが、日本は核による報復を行うことを密かに決め、その核兵器開発のために旧科学技術庁(現文科省)が積極的に進めてきたものに、敦賀の高速増殖炉もんじゅがある。核燃料が運転すれば運転するほど増える(「増殖」)として「夢の原子炉」と呼ばれた。しかし、最近、政府は高速増殖炉の「増殖」という文字を外して「高速炉」と呼ぶこととした。「増殖」しないからである。だが、もんじゅの核燃料を囲むブランケットと呼ばれる場所で、純度98%の兵器級プルトニウムを年間62キロ生産できる能力を有している(5キロ程度で核兵器1発分)。「増殖炉」と呼んできたのは「平和利用」を標榜しつつ核兵器を開発する意図からである。
もう一つ、旧科学技術庁が進めてきたものに宇宙開発がある。日本はHⅡA、HⅡBというロケットを開発し、15t~20tの打ち上げ能力がある。ロシアのプロトンが23t 、米国のデルタⅣが28,79tの能力であるから、核兵器を搭載できる大陸間弾道ミサイルとして遜色のないものである。北朝鮮のテポドン発射を非難するが、自らのやましさの裏返しである。
また、3月12日三菱重工は電力をマイクロ波に変換して無線で送る実験に成功したと発表した。「宇宙太陽光発電」(宇宙空間のパネルで発電した電気を地上に無線で送る)の第一歩との触れ込みである。マイクロ波として最も身近なものは電子レンジであるが、第二次世界大戦中、静岡県島田市に海軍島田実験所が開設され、マイクロ波で米軍のB29爆撃機を撃墜する「殺人光線」を研究していた。後にノーベル物理学賞を受賞した理研の朝永振一郎氏も参加していた。近々理研理事長に就任する前京大総長の松本紘氏は『宇宙太陽光発電所』(2011)という著書もある宇宙空間におけるマイクロ波送電技術の専門家である。仮に実用化できるとすればミサイル迎撃態勢が整う。日本は核弾頭・運搬手段・迎撃態勢というフルセットを持つことになる。日本人は「平和利用」、「宇宙開発」という言葉にあまりにも無批判である。
4 核武装へ突き進む日本とドイツの違い
村山連立政権において社民党は党内議論をいっさい行うことなく米国の「核の傘」に入ることを認め、その後何の反省もなされていない。共産党はかつて社会主義国の核を擁護し、中国の核実験に配慮するため部分的核実験禁止条約に反対し、今なお原発は「未完成の技術」(不破哲三『赤旗』2011.5.10:完成形があるという思考)との思想にしがみついている。また、「脱原発」の集会においても、日本の核武装については真剣な議論を避ける傾向がある。政府与党や民主党・維新ばかりでなく、共産党や社民党内にも核エネルギーを捨てきれない勢力が存在している。
ドイツ(旧西ドイツは)1960年代末には既に、核による報復戦略をあきらめ、核による脅しではなく、対話による生き残り戦略=ブラント首相による東方外交を取り始めた。ポーランドとの国境であるオーデル・ナイセ線を確定し将来の紛争の芽を摘むとともに、旧ソ連からパイプラインでガスを輸入し、お互いの信頼を醸成していく政策であり、これにより、ドイツは事実上米国の「核の傘」から離脱した。現在、米が攪乱するウクライナを巡りぎくしゃくした関係にあるものの、45年に亘る信頼関係の延長線にメルケル首相の「脱原発」政策がある。
日本の場合は、米国の「核の傘」すっぽり入るとともに、公に核兵器開発を宣言し(「我が国の安全保障に資することを目的として」との条文を加えた原子力基本法の改正・及びJAXA法の改正(「平和の目的」の削除)2012.6.20)、核の脅しを背景として近隣諸国と外交しようというのであるから、「戦後談話」をいくら出そうとも信頼を得ることは難しい。このままでは、ある日突然、北朝鮮やイランどころではなく、日本こそが核で世界を支配しようとする危険国家であるとして「テロ国家」に指定されることになろう。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に英仏独伊等が雪崩を打って参加表明をし、日本の国際的孤立が明らかとなったが、同様の孤立は「核の傘」においても突然起こりうる。
横須賀基地や嘉手納基地をすぐに廃止するというのは困難であるが、サハリンや朝鮮半島からガス・石油のパイプラインを引き、または送電線を引いて近隣諸国との信頼を醸成しながら、「核の傘」からの離脱を図るとともに、直ちに「脱原発」を宣言し核開発を放棄することは可能である。与野党ともが核の幻想から目覚め、長期的な信頼醸成の政策を組み立てること。これがメルケル首相の助言の中身である。
【出典】 アサート No.448 2015年3月28日