【投稿】急がれる安倍政権包囲網構築

【投稿】急がれる安倍政権包囲網構築

<拡大する海外派兵>
 自民・公明両党は3月20日、「安全保障法制整備」について合意した。その内容は自衛隊の行動に関し、地域、活動内容の制限を撤廃し、国連決議はもとより国会の承認もなしに、官邸が恣意的に決定できるというものである。
 さらに防衛省設置法改悪により制服組の権限が大幅に拡大しようとしている。
これらは、「専守防衛」から積極的な海外展開=「積極的平和主義」へと舵を切る軍事政策の大転換であり、極めて危険なものである。
 これまで自衛隊については自衛隊法における「防衛出動」「治安出動」という冷戦時代の、ソ連軍の日本上陸と左翼勢力の武装蜂起という想定に基づいた対処のみが想定され、部隊の運用や人事については防衛省(庁)設置法に基づく文官統制が規定されていた。
 冷戦崩壊以降の様々な事態に対してはPKO協力法、各種特別措置法、周辺事態法と個別法の施行による対応で、不十分とはいえ一定の歯止めがなされてきた。自衛隊の活動は日本周辺の武力衝突に限っての米軍への補給、輸送などの後方支援、それ以外の地域では、戦闘終結後、「非戦闘地域」の支援、人道援助に事実上限られてきたのである。
 ところが今回の安全保障法制改悪では、これら各法制の制限は取り払らわれることになる。集団的自衛権の行使に関しては、官邸が「他国が攻撃され日本の存立が脅かされると判断」すれば参戦できる。
 政府はホルムズ海峡の機雷封鎖を例示しているが、「シーレーン防衛」を根拠にするなら、中国とフィリピンやベトナムが南シナ海で衝突し「バシー海峡に至る海域が危険になった」と判断すれば参戦可能だ。
 政府はすでに比、越両国との関係強化に動いているが、この間インドネシアや東チモールとの軍事面での協力も推進しようとしており、中国への牽制を強めている。
トーマス米第7艦隊司令官はこれを後押しするように、自衛隊が南シナ海まで哨戒区域を拡大するよう提言し、ASEAN諸国の合同海上部隊創設も提案している。安倍政権にとっては渡りに船だろう。
 今後中東に加えアフリカ各地域で不安定な状況が拡大すると考えられるが、紛争国での「武装解除の監視」「治安維持」などを任務とする、PKO協力法改悪で日本単独の武力行使も可能になる。
 すでに自衛隊はジプチに初の海外基地を持っており、護衛艦と哨戒機が海賊対策で展開している。しかしこの海域は「イスラム国」に対する空爆を行っている米、仏の原子力空母部隊の航行ルートでもある。
 さらに自衛隊はエボラ出血熱対策支援を理由に、リベリア沖に海自輸送艦と陸自ヘリ部隊を展開させようとしたが、流行が収束に向かうなかでの派遣は、さすがに不要不急として官邸が止めた。このように、「安全保障法制整備」を見据えて自衛隊の海外展開は準備されてきている。 

<再軍備とその背景>
 70年前、大日本帝国は敗北し陸海軍は解体されたが、わずか5年にして日本は再軍備を開始した。
 戦力の不保持を規定する憲法との矛盾を合理化するために「個別的自衛権」「専守防衛」という概念が保持されてきた。冷戦崩壊後もしばらくは、この法体系、運用構想は変化することはなかった。
 アメリカも1950年の警察予備隊創設に当たり、旧軍部への不信は強いものがあり、日本には最小限の役割しか想定していなかった。共産圏との武力衝突は朝鮮半島やベトナムなど局地的なものであり、当時の西ドイツや日本へのソ連軍(ワルシャワ条約機構軍)の直接侵攻は、想定はしていても実際に起こるとは考えられていなかった。
故にそれらを飛び越してのキューバ危機に際して、アメリカはパニックに陥りかけたのである。
 日本国内に於いて再軍備に際して反発を強め、警戒感を高めたのは、左翼陣営や平和勢力だけではない。政府機構である旧大蔵、外務、警察各省庁の官僚組織である。戦前、戦中時、これらの組織は軍部に振り回されたという被害者意識が強い。
旧大蔵省は日露戦争を財政面で支えたにもかかわらず、226事件で高橋是清が殺された。その後も野放図な軍拡を止めることができず、日米開戦後は、戦時国債の乱発や予算のみで決算は戦後という異常な財政運営を強いられた。
外務省は、中国に於いて軍部が勝手に戦争を始めてしまい存在意義を喪失した。外務省出身の松岡洋右は、生家に仇なすように国際連盟脱退、日独伊三国同盟締結と暴走を繰り返した。揚句に広田弘毅元外相が文官としてはただ一人、東京裁判で死刑となるという不名誉を味わった。
 内務省警察(特高)も共産党などへの弾圧では軍部以上であったが、ゴー・ストップ事件や226事件などでは煮え湯を飲まされたのである。
 軍部への警戒心は戦後も解けず、弾圧を受けた吉田茂を始めとする「旧リベラル派」の政治家は自衛隊創設に当たって、前述の防衛省設置法により、内局(背広組)に外務、警察官僚を送り込み制服組を統制させたのである。 
国内に於いて再軍備を主導した旧日本軍幹部も、軍艦、戦車、戦闘機など形ができれば所期の目的は達せられたのであり、不満はあっても文官統制については妥協したのであった。予算面でも自衛隊の定数や装備については、内局が編み出した「基盤的防衛力構想」という妙手で、永らくGNP1%以内に封じ込められてきたのである。
戦後の保守政治家は、国民の総意ともいうべき平和意識とそれを具現化した日本国憲法、そしてアメリカの意向も踏まえ、このような奇妙なバランスの上になかば軍事政策を放置する形で国政を運営してきたと言える。
 自民党的には「改憲」、社会党的には「非武装中立」自衛隊的には「国軍」という「理想」は保持しつつ、国際情勢や国民意識を勘案し、折り合いをつけてそれぞれの地位に安住してきたのが、これまでの日本の形であった。

<歴史認識の再確認を>
 しかし、冷戦崩壊、中国の台頭、北朝鮮の暴走、さらには湾岸戦争、イラク戦争からイスラム原理主義の拡散という国際情勢の変化、国内的にはバブル経済の崩壊以降の低成長、自民党一党支配の終焉と左翼勢力の衰退、というこの20年間の変動は、それを大きく揺るがしている。
 こうした混迷に対しては、その都度「細川連立政権」「自社さ政権」「民主党政権」という解が出されたが、状況に対応しきれず無残な結果に終わった。その間隙を突くかのように登場し、日本の形を軍事政策を端緒として、根底から覆そうとしているのが安倍政権である。
 安倍は第1次政権時から「戦後レジームからの脱却」というフレーズを唱えているが、それはアメリカと保守勢力の承認によって成り立ったシステムであることを理解しているのか。
 国家主義者、排外主義者は日本が軍拡に踏み出せないのは左翼や中国、韓国が反対するからだと主張しているが、安倍も「戦後レジーム」は左翼が作り上げた桎梏だと吹聴している。
 これまでの保守政治家も自らの「反軍思想」と「アメリカや官僚の反対があるから」とは口が裂けても言えないので、もっぱら野党や周辺国の意向を利用してきた。
しかし野党や周辺国の意向、さらには憲法さえも気にかけない=勝手に解釈を変える安倍政権の誕生で、実は軍拡を抑えてきた実体はアメリカや官僚であることが、はからずしも明らかとなってしまった。
 そこで安倍は消費税に対する国民の反発を利用し、財務省を押さえ込んだ。消費増税が先送りされたにもかかわらず、来年度予算で軍事費は過去最高となった。財務省の敗北は明らかであろう。さらに自衛隊の運用から文官の関与を排除し、外務、警察をも屈服させようとしている。
 元制服の中谷防衛大臣は「文民統制が戦前の反省にもとづき導入されたかは私の生まれる前のことなので知らない」と詭弁を呈しているが、防衛大では文民統制について教えていないと言っているのと同じである。
 アメリカに対しては、その足元を見て集団的自衛権解禁、後方支援の拡大さらには辺野古新基地強行で恩を売り、根強い対日批判をかわそうとしている。
 アメリカの軍部は自らの権益確保のため、日本の対中強硬路線を利用しているが、オバマ政権は疑念を払拭していない。そうしたなか安倍は「戦後70年総理談話」において「過去の侵略への反省」を消し去ろうとしている。
 安倍は中国、韓国しか念頭にないのかもしれないが、「日本の過去の侵略」はアメリカも共有する価値観である。安倍はG.Wの訪米中、上下両院での議会演説を希望しているが、中韓両国のみならずアメリカの退役軍人や遺族も厳しい視線を向けている。
 国家主義者はアメリカのシャーマン国務次官が(中国、韓国を念頭に)「過去にこだわりすぎるな」という趣旨の発言をした、あるいは「メルケル首相は慰安婦問題に言及していない」として、鬼の首をとったように喜んでいるが大変な思い違いであろう。「共通の価値観」から離脱しているのは安倍政権である。
 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関し、日本政府は当初無視を決め込んでいた。しかしこの間、英、仏、独、伊さらには豪などが堰を切ったように参画を表明。慌てた政府は麻生財務相が「協議の可能性」を示唆するなど動揺が広がっている。
 3月21日の日中韓外相会談で岸田外務大臣は、中国の王外相、韓国の尹外相から歴史認識について追及され「安倍総理は歴代内閣の立場を引き継いでいる」と述べ「歴史を直視」することが3者で確認された。
 このように外濠は埋められつつある。今後、国内においても統一自治体選挙と連動しつつ、8月に向け安倍政権を包囲し追い詰める取り組みが重要になってきている。(大阪O)

 【出典】 アサート No.448 2015年3月28日

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