【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(8)

【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(8)

▼ 2月の都知事選の重要な教訓の一つは、自民・公明連合を喜ばせ、敵を利し、味方を分裂、分散させるような選挙戦は何としても避けなければならないということであろう。たとえ多くの困難が横たわっていたとしても、勝利しうる可能性が存在する限り、最大限の統一戦線形成への努力が放棄されては、有権者から見放されてしまうということでもある。
 11月の沖縄県知事選では、自公連合を打ち破る、勝利の可能性が大きく高まっているだけに、同じことが鋭く問われている。
 9/10、元自民党沖縄県連幹事長の翁長雄志・那覇市長は市議会9月定例会で、県知事選への出馬を表明し、「イデオロギーでなく、アイデンティティーに基づくオール沖縄で、責任ある行動が求められている。今後100年置かれる基地を造らせてはならない。これ以上の基地の押し付けは限界だ。辺野古への移設は事実上不可能だ」と語った。
 そして9/13、翁長氏は知事選への立候補を正式に表明し、県内5党・会派(社民党沖縄県連、共産党沖縄県委員会、沖縄社会大衆党、生活の党、県議会県民ネット会派)と「埋め立て承認撤回を求める県民の声を尊重し、辺野古新基地は造らせない」ことを盛り込んだ、知事選に臨む基本姿勢および組織協定に調印し、出馬表明記者会見をおこなった。
 その記者会見の中で翁長氏は「いまや米軍基地は沖縄経済発展の阻害要因。政府によって強行されている辺野古・新基地建設に断固反対します」とし、「仲井真知事が公約を破棄し、辺野古埋め立てを承認し、新基地建設を認めているわけだが、知事選ではまず仲井真知事の承認に対する県民の意思をはっきり示すことだ」という立場を鮮明にしている。このような立場を明確にしたことの意義は極めて大きいといえよう。
▼ ところが、この県内5党・会派に加わっていない民主党沖縄県連は、県連所属の那覇市議が翁長那覇市長への出馬要請に加わっていたが、県連が擁立の条件とする名護市辺野古の埋め立て承認の「撤回」を翁長氏側が受諾しなかったとして、支援できないと判断。9/16、県知事選に県連代表の喜納昌吉氏の擁立を決定。喜納氏は「辺野古移設はダメだという県民の声に応えられるのは、自分しかいない」と述べ、「埋め立て承認の撤回」を公約に掲げて闘うとし、県連は近く、民主党本部に喜納氏の推薦を要請するが、肝心の党本部は辺野古移設を容認しており、推薦が得られるかは不透明である。
 翁長氏は先の記者会見で、新基地建設を止める方法を問われて、「公約を守らなかった知事の埋め立て承認は県民の理解を得たものではない。まず知事選の争点として、仲井真知事の埋め立て承認について県民の意思をはっきりさせる中から、方法を具体的にやっていきたい」と述べるにとどまっていたのも事実である。
 翁長氏はかつて自民党県連幹事長を務め、15年前の県議時代、辺野古移設推進決議案を可決させた旗振り役であり、過去のインタビューでは「ぼくは非武装中立では、やっていけないと思っている。集団的自衛権だって認める」などと発言している。そうしたことから仲井真知事が公約を反故にしたように、翁長氏に不安を抱いている人がいるのも事実である。そして「一度は県知事が認めた埋め立てを、新知事が白紙に戻せるのか」という不安を煽り立てることが、埋め立て工事を強引に推し進め、基地建設を既成事実化したい政府・与党側の狙いでもある。
 しかし、かつてこのように発言し、行動していた翁長氏が、「今や沖縄の米軍基地は、沖縄経済発展の阻害要因となっております。その意味で辺野古新基地の建設には断固反対します」と発言し、行動するように変化せざるを得ない、それこそ沖縄の地殻変動が生じているのだといえよう。
▼ こうした情勢を受けたのであろう、翁長氏は9/16の那覇市市議会9月定例会で、仲井真知事が米軍普天間飛行場の辺野古移設に向けて埋め立てを承認したことの是非が知事選の争点になるとした上で、「私は承認しないと決意表明している。県民の判断が下された後に、承認の撤回、取り消しの選択を視野に入れて頑張りたい」とあらためて辺野古新基地建設に反対し、さらに承認の撤回や取り消しも検討する考えを示している。
 ところで、9/7投開票の沖縄統一地方選では、全当選者のうち208人(54%)が名護市辺野古への移設に反対し、県外・国外移設や無条件閉鎖を求めている。辺野古移設賛成は46人(12%)にとどまり、仲井真知事の県政運営に対し、「評価しない」は160人(42%)で「評価する」の143人(37%)を上回る結果であった。
 焦点の名護市議選(定数27)では、辺野古移設に反対する稲嶺進市長を支える候補14人が当選し、1人は落選したが議会の過半数を守り、市政には是々非々だが移設に反対する公明の2人を加えると、反対派は16人に増えている。移設反対派19人の得票率の合計は58・1%に対し、容認派の得票率(41・9%)を16・2ポイントも上回る結果であった。これは1月の名護市長選での稲嶺氏の得票率よりも、市議選で移設反対を求める有権者の割合は2ポイント以上増えており、反対の声は衰えるどころか強まっていることを示している。
 一方、宜野湾市(定数26)では、定数が減る中、保守系与党候補が改選前と同じ15議席を確保、那覇市に次ぐ大票田の沖縄市(定数30)でも、4月に市政を奪還した桑江朝千夫市長を支える与党が改選前と同じ過半数を維持、石垣市(定数22)でも、3月に再選された中山義隆市長を支持する与党が1議席増やして14議席の多数を確保している。「基地ノー」の大きなうねりが顕在化する一方で、基地問題を不問に付し、争点を経済問題にすり替える保守の基盤が依然として根強いことも同時に明らかにしている。
▼ 8/27付琉球新報社説は、「辺野古中止8割 だめなものはだめだ」と題して、「辺野古移設強行に反対する民意は固かった。むしろ強固になっている。政府が米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた海底掘削調査を開始したことを受けた県内電話世論調査で「移設作業は中止すべきだ」との回答が80・2%に上った。「そのまま進めるべきだ」は4分の1以下の19・8%にとどまる。普天間問題の解決策について、県外・国外移設や無条件閉鎖・撤去を求める意見の合計は79・7%に達した。4月の調査より6・1ポイント増えている 辺野古反対は圧倒的に世論が支持している。8割の反対を無視した辺野古移設は不可能だ。それでも強行するなら、この国は独裁国家でしかない。」と、安倍政権の独裁国家としての本質を鋭く突いている。
 さらに9/18付琉球新報社説は、「官房長官来県 沖縄の現実を直視すべきだ」と題して「菅氏が今回会談した地元関係者は知事と佐喜真淳宜野湾市長だけだ。移設に反対する地元の名護市長とはなぜ会わないのか。これでは「県民の思いに寄り添い」という表明は空々しく聞こえるだけだ。菅氏は先日、移設問題に関して「最大の関心は県が埋め立てを承認するかどうかだった。もう過去の問題だ。(知事選の)争点にはならない」と言い、県民のひんしゅくを買った。世論調査では約8割が移設作業の中止を求めている。県民の率直な意見には耳を傾けず、これで「沖縄の状況を視察してきた」と説明されてはたまらない。民意を無視して作業が強行される状況を、多くの県民が苦々しく見ている。20日には辺野古で大規模な集会も再度予定されている。辺野古は過去ではなく、現在進行形の問題であるという現実を直視すべきだ。」と、手厳しく批判している。
 その9/20、辺野古現地の浜で開かれた「止めよう新基地建設!9・20県民大行動」には前回8/23の米軍キャンプ・シュワブのゲート前での最初の集会を上回る5500人の人々が参加し、新基地建設反対の意志と行動の広がりをあらためて示している。そしてこの9・20県民大行動には翁長那覇市長も登壇し、辺野古新基地建設を止めるために、県知事選挙にかならず勝利しよう、という決意表明が行われている。
 この県民行動に連帯して、8/20同日「沖縄-東京-大阪-京都をむすんで辺野古新基地建設反対の全国同時アクション」が行われ、大阪においても集会とデモが展開された。写真はその時のデモである(筆者撮影)。
 いよいよ県知事選が近づき、統一戦線とその帰趨が問われようとしている。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.442 2014年9月27日

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