【投稿】原発輸出で国際緊張を煽る安倍政権

【投稿】原発輸出で国際緊張を煽る安倍政権
                           福井 杉本達也 

 「窓は 夜露にぬれて 都すでに遠のく 北へ帰る 旅人ひとり 涙流れてやまず」宇田博作詞・作曲の『北帰行』(旅順高等学校寮歌の原詞)の第1番である。その第5番は「さらば祖国わがふるさとよ あすは異郷の旅路」となっている。1961年に小林旭の歌で大ヒットした曲である。「北」とはどこか、当時は東北地方あるいは北海道だと考えたが、なぜ「さらば祖国」なのか理解できない一節であったが、1941年の旧満州国の旅順で作詞されたということで納得がいく。祖国を棄てる歌である(参照:赤坂憲雄『北のはやり歌』 2013.10.15)。いま、福島を中心とする東北地方の一部は福島第一原発事故により帰るべき祖国を永久に奪われてしまった。

1 なぜ原発輸出か
 1月7日、安倍首相はトルコのエルドアン首相と3回目もの異例の首脳会談を行った。もちろん日本の原発輸出のためであるが、特に「同国と結ぶ原子力協定には批判もある。日本から移転した核物質について『書面により合意する場合に限り、トルコの管轄内において濃縮し、または再処理することができる』と規定。日本とアラブ首長国連邦(UAE)との協定で『濃縮され、または再処理されない』と明確に禁止したのに比べ、優遇ぶりが目立つ」(日経:2014.1.8)のである。もちろんベトナムやヨルダンにも認めていない。トルコが他の原発輸出国と比べて特別なのは、同国がシリア・アサド政権転覆のための拠点だからである。エルドアン首相は1月7日に都内で行った講演でシリアを「国家によるテロが行われている」と激しく批判している。周知のようにトルコはシリア国内の反体制派を支援している。シリア内戦は米欧軍産複合体(指示)→サウジアラビア(バンダル王子)(日経:「サウジ 米牽せい シリア対応など不満」2013.10.23、ROCKWAY EXPRESS:「 シリア大使・サウジのバンダル王子がアルカイダの実際のリーダー」2013.10.21)(支援)→トルコ(武器)→アルカイダ系の反体制派VSアサド政権(ロシア・イラン支援)という構図であり、中東を不安定化することによって自らの権益の維持を図ろうとするものであり、トルコはその結節点に当たる重要な国である。中東ではイスラエルが核兵器を保有していることは公然の秘密である。南アジアではインドもパキスタンも核実験を何度も行い実戦配備もしており、それを横目に核兵器を開発したい国ばかりである。そこに米欧軍産複合体の意向を受けて核兵器の開発を餌とする原発輸出を行おうとしているのが安倍政権である。トルコに輸出する原発は三菱重工製で、三菱はフランスのアレバと組んでいる。フランスがシリア=アサド政権に攻撃的姿勢であることもその延長にある。したがって、シリア問題を平和理に解決しようとする現オバマ政権の政策ともズレが生じる。

2 日本を核再処理の拠点として核開発を図る米欧軍産複合体の思惑
 元通産官僚の古賀茂明氏は日本の原発輸出について「途上国の核のゴミを一手に集め、日本で再処理をして新たな核燃料として各国に戻す。日本の国民から見れば、とんでもない暴挙だが、安倍政権は、これを「世界貢献」であると考えている。核不拡散のために日本が貢献するしかないという理屈だ。これは昨年から経産省官僚と自民党議員らが描いてきた青写真に沿って進められている。」(古賀茂明 「原発を売り歩く『死の商人』」2013.6.1)と述べる。「原発を輸出して日本を世界の核のゴミの集積・再処理基地にする」という「国際貢献」を果たすために青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場も福井県敦賀市の高速増殖炉もんじゅも推進しなければならない。「これまでは原発に対する風当たりが強かったので、この構想が派手に表に出ることはなかった」(古賀:『エコノミスト』2013.7.2)が、福島原発事故において、「核兵器開発」も「原子力の平和利用」も同義語であることが明らかとなった今、「平和利用」のカモフラージュで核開発を行う意味は薄れた。日本の独自核武装派は事故後居直りを決め、米欧軍産複合体の後押しを得て堂々と主張し始めたといえる。

3 再稼働は何のため
 東京電力は福島第一原発事故の検証もせず、収束も不可能であり、汚染水の処理もままならないにも関わらず再建計画を提出し、政府もこれを認定した。再建計画では新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働が前提となっている。新潟県の泉田知事は計画を説明し再稼働への同意を得ようとする東電の廣瀬社長との会談で「今回の計画は、株主責任、貸し手責任を棚上げにした、モラルハザードの計画をお作りになったとしか見えないですよね。結果として、モラルハザードの中でですね、免責をされれば、事故が起きても責任を取らなくてもいいということを意味しますんで、それは危険性が高まるということなんだと思います。安全文化という観点でもですね、今回の計画というのは、極めて資本主義社会から見てもおかしな計画になっている」(新潟県HP: 2014.1.16)と批判している。さらに続けて「銀行と株主を免責した計画、これ、どうお感じになっていますか。」「再稼働圧力が金融機関から来るわけですよ。これ、免責したということになると、安全と全く二律背反しませんか」(同上)とたたみかけた。
 確かに事実上倒産し国有化されている東電の柏崎刈羽原発の再稼働に対し債券を確保したい金融機関の思惑があることは事実であろう。しかし、それは枝葉末節に過ぎない。むしろ圧力の主導権は金融機関ではなく国が握っている。金融機関11社は東電向け融資で足並みをそろえ5000億円の融資を12月26日実施したが(日経:2013.12.18)、それは政府主導による「金融機関にも改革への協力を要請する」(朝日:12.19)強い圧力があったからである。国は東電株の50.1%を握っており、東電が“民間企業”であるというのは国が用意したフィクションにすぎない。廣瀬社長は“猿回しの猿”であり、国民には電力料金の値上げの脅し、金融機関には融資の強要をし、福島の住民への賠償を渋り、放射能を垂れ流し続けている“猿”を操るのは政府である。

4 核兵器の原料プルトニウムをため込む日本
 「日本は、原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、それを燃料として再利用する核燃料サイクル計画を維持している。だが、六ケ所村の再処理工場の運転開始は遅れ、プルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料を消費する原発も福島原発事故後は停止中で、サイクル実現のメドは立たない。日本が国内外に保有するプルトニウムはすでに約44トンにのぼり、今後、再処理工場が稼働すれば年間8トンのペースで増え続ける計算になる。核不拡散の観点から懸念の声も上がっている。」(シンポジウム「核燃料サイクルを考える~日本の選択はどうあるべきか」(朝日新聞社、プリンストン大学主催 2013.12.5)朝日デジタル版:12.29)と非難されている。同シンポジウムにおいて、スティーブ・フェッター メリーランド大学副学長(オバマ政権の2009~12年ホワイトハウス科学技術政策局次長(国家安全保障担当))は「日本は使用済み核燃料の再処理によって、核兵器にも使えるプルトニウムを大量に蓄えている。国内に10トン近くあり、核兵器に転用すれば1,500発分になる。海外にあるのは約35トン、5千発分にもなる。青森県六ケ所村の再処理工場が動けばさらに増える。将来の利用計画がないまま増え続ける。日本が核不拡散の強化を考えるなら、少なくとも、プルトニウム保有量を今より増やさないことが必要だ。私はそう思わないが、『日本は核武装のためにプルトニウムをためている』と疑っている周辺国もある。」(同上:12.21)と述べているが、疑っているのは米国自身でもある。
 原発を再稼働しなければ、再処理する必要も燃料を増殖する必要もないため、核燃料再処理工場ももんじゅも不要と見なされ、長年にわたり積み上げてきた独自核武装のための核燃料サイクル路線は破綻してしまう。同シンポジウムで再稼働を急ぐ理由について、佐藤行雄元国連大使は「疑われているならはっきりと説明する必要がある。停止している原発の再稼働の計画を立て、必要なプルトニウムの量を推定し、『これ以上は保有しない』と決めるべきだ。」(同上:12.21)と述べている。同シンポジウムにおいて海外のシンポジストからの提言という形で「分離済みプルトニウムの保有量を最小限にすること。すくなくとも、日本は、分離済みプルトニウムの保有量が最小限の実施可能な作業在庫(約1年分の消費量)に減るとともに、六ケ所再処理工場で分離されるプルトニウムを直ちに消費する態勢が整うまで同工場を運転すべきではない。」(同上:12.29)とクギを刺されている。
 日本の核武装勢力は国内外の圧倒的な脱原発の声にもかかわらず、一旦“勝ち取った”独自核武装という選択肢を放棄するつもりはない。原発輸出によって、日本を核燃料再処理の世界の拠点とするならば、日本は福島を始めとする「北」だけではなく今度は日本全土を失うこととなるだろう。その時には「涙流れてやまず」「さらば祖国わがふるさとよ」と叫んでも遅すぎる。

 【出典】 アサート No.434 2014年1月25日

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