【コラム】ひとりごと —現在の労働実情雑感— 

【コラム】ひとりごと —現在の労働実情雑感— 

<更なる労働法制改悪の動き>
■今、安倍政権と財界(産業競争力会議等)の中で、解雇規制緩和の議論がなされている。その中でも特に「解雇無効の判決が出ても、使用者が労働者に補償金を支払えば雇用契約を終了できる」(事後型)が検討されているが、これでは、せっかく勇気と労力、資力を使って「解雇撤回・職場復帰」を勝ち取っても、金銭で解雇されることになり、「解雇濫用の法理」が空洞化し、「無効」の判断が、吹っ飛んでしまうことになる。こんな事が許されるなら、「有罪」を金銭支払いで「無罪」を得るようなもので、裁判自体の意味がなくなってしまう。
■また、最近は鳴りを潜めているが、ホワイトカラーエグゼンプション(要は残業代のタダ働き合法化法案)も、まだ議論が消え去った訳ではない。

<荒廃している労働実態>
■そもそも労働者派遣法が、「原則自由化」で改悪されたこともあって、現状においても非正規雇用が蔓延し、ハローワークの求人票を見ても非正規雇用が圧倒的に多い状況にある。もはや世の中は、終身雇用・年功序列賃金体系は崩壊したと言っても過言ではない。
■加えて現状の労働法制自体、ほとんど守られていないという状況なのではないか。例えば、有給休暇一つとっても「パートだから有給休暇がない(パート、アルバイトでも一定の基準により有給休暇が保障されている)」とか、会社全体でも「当社にはローカルルールがある」と言って、有給休暇を認めず、はばからない会社が常識的にある。また社会保険(健康保険・年金)や雇用保険でも強制適用であるにも関らず、加入していない事業所も山ほどある。現在、健康保険や年金の財源問題が議論されているが、先ずは「こうした、とっぱぐれから何とかしろ」と言いたいぐらいである。
■更に解雇でも、少し仕事の進め方で異論を唱えただけで、「明日から来なくてもよい」と言い放ったり、賃金未払いでも、残業代を支払わない使用者や退職を申し出ると、最後の給与を「辞めた者に給与を支払うのは、もったいない」と思ってか支払わない使用者も、よく聞く相談事例である。
■また最近では、職場のハラスメント(パワハラ・セクハラ)も労働相談件数では急増しているが、その中でも「これはひどい!」という事例を紹介しよう。
 パワハラでは、某会社の副社長が、部下に対して、靴を入れたビニール袋を振り回し、「調教したろか!」と威嚇し、挙句の果ては、暴行にまで及んだものである。他にも自己退職に追い込むために、日常的に過度な無視や暴言を繰り返す相談も多い。
またセクハラでは会社の会長が、女性社員に対し、いきなり突然にキスし胸を触るなどの行為に及んだものもある。
■実際上、セクハラはともかく、パワハラや職場の人間関係のトラブルは多くなってきているが、この背景には上記の非正規雇用の蔓延化にもあると思われる。一つの職場に正規社員、期間雇用、派遣社員が混在し、労働者間での利害関係の対立や一体感の欠如等があると思われる。

<荒廃した労働実態を改善するのは、やはり労働組合だがー>
■このように非正規雇用の増加と労働者間の分断化が進む中で、本来、対抗軸であるべき労働組合の組織化が極めて難しくなってきている。現に今でも正規雇用・企業内労働組合が圧倒的に多いが、それでも組織率が2割を下回っている現状である。かろうじて派遣・パート等であっても、一人でも加入できる合同労組もあるが、まだまだ広範で一般的ではなく、十分な受け皿にはなっていない。
■そこで、非正規雇用の蔓延化と孤立化が深まる中で、労働者の意識もいかにあるべきかが小生の言いたいことである。
■先ずは日本の労働法制は、労働者派遣法のように問題の多い法律もあるが、総じてまだ労働者保護性の強い法制度になっている。しかし、それがほとんど守られていないところに問題がある。ある人に言わせれば道路交通法と労働法制度ほど、守られていないものはないと言うほどである。
 労働法制度の中には、労働者の権利規定が多々、存在するが、ただ労働者権利規定=労働者の権利が実質的にも保障されていることには、ならないのである。前述の有給休暇一つとっても、労基法に「有給休暇の付与」が規定されているが、では有給休暇の取得を申し出ても、「有給休暇は認めない」と一言言われたときに、「それは労基法違反ですよ」と先ずは、自分で言う勇気が必要だと言う事だろう。即ち労働者の権利は、実質的には労働法制度によって守られるのではなく、権利行使をする労働者の勇気と自覚でもって、初めて守られるということだろう。
■そこで「それができるなら、苦労はいらないよ。それこそ解雇覚悟で言わなければならないよ」という反論が聞こえてきそうだ。確かに一人の力は弱く、結局のところ、労働組合が対抗軸になるのであろうが、そのためには従来型の正社員中心の企業別労働組合では対応不能で、やはり地域合同労組が受け皿にならざるを得ない。そのためには、かつての総評・地区労運動からの流れにある、比較的に老舗の合同労組や、比較的近年に結成された合同労組などが、今でもユニオンネットワーク等の連携関係があるものの、かつての確執や政党系列の枠組みを乗り越え、より大同団結して、大きな受け皿=一つの勢力となって形成していくことが求められる。言い換えれば非正規雇用労働者から見れば「保険代わりに合同労組には加入しておこう」という社会的認知度を高めることが重要だと考える。
■色々と思うがままに書いたが、現実の労働実態が、労働法制度違反が常態化し、今後、アベノミクスの経済・労働政策が進行する中で、更に凄まじく荒廃していくのではないかと言う危機感だけでも享受していただければ幸いである。(民) 

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

カテゴリー: 労働, 雑感 パーマリンク