【投稿】支離滅裂、袋小路の安倍外交
―大災害をも利用し総裁三選―
やっぱり「西郷どん」
北海道地震の被害が拡大する9月7日、自民党総裁選が告示され安倍、石破の二人が立候補した。これに先立つ8月26日、安倍は鹿児島県垂水市で桜島を背に立候補を表明するという、同夜の大河ドラマ「西郷どん」で「薩長同盟」が描かれることを意識した、安っぽいパフォーマンスを行った。
同日の鹿屋市での講演でも「薩長で力をあわせ、新しい時代を切り開いていきたい」とアピールを行ったが、そもそも維新150年や「西郷どん」が盛り上がりに欠ける中、時代錯誤の訴えは空虚に響くだけである。
「薩長」ご当地はともかく、例えば「賊軍・朝敵」とされた会津では「戊辰150年」であり、若松の鶴ヶ城も「2018年は全館が幕末・戊辰戦争特集」として、白虎隊自刃の刀や降伏式に敷かれた「泣血氈」を展示するなど、明治維新を祝う雰囲気など皆無である。さらに薩摩藩や明治政府の侵略を受けた沖縄は言うまでもないだろう。
こうした地方や少数派の感情を逆なでするようなデリカシーの無さは、安倍の政治姿勢に一貫するものであるが、今般の台風21号、北海道地震での対応にもそれが如実に表れた。
9月4日、関西国際空港は高潮により水没、タンカーの衝突で連絡協も破損し機能を喪失したが、安倍は6日の非常災害対策本部会合で7日中の国内線再開を指示し、国際線の再開も急がせる考えを明らかにした。
これは関西一円で大規模停電が続き、市民生活へのダメージが拡大する中、政府のメンツを優先させる対応であるが、本来災害復旧の先頭に立つべき大阪府知事も、混乱のさなかに沖縄知事選の応援にでかけ、さらには万博誘致活動として渡欧するなど、住民軽視、職務放棄ともいえる動きをしている。
安倍、松井が関空会社の尻を叩いて国際線の再開を急がせたのは、物流、移動の確保より、訪欧パフォーマンスの演出(結局中部国際空港から出国したが)の為と言われても仕方がない。まさに二人の「盟友関係」を示すものと言えよう。
6日に発生した北海道地震では官邸が犠牲者数を次々と公表した。しかし「心肺停止者」を「死者」にカウントするという初歩的ミスのため、地元自治体や警察の公表数との齟齬が生じ、先走った政府は度々、訂正と謝罪をする羽目となった。
さらに安倍は、西日本水害でも問題点が指摘された「プッシュ型支援」を強行したため、被災地のコンビニやスーパーに現地のニーズにそぐわない、偏った商品が並ぶ結果となった。
こうした混乱の要因には、石破の「地方創生」や「防災省」構想を意識するあまり官邸主導を演出しようとした、いわば災害や地方の政治利用がある。こうした「被災者ファースト」の災害対応より、自らの政治的利害を優先させる人間に、国民の安全を語る資格のないことは明らかである。
形骸化した総裁選
しかし自民党総裁選は、告示以前に安倍圧勝=信任投票化が既成事実化した。北海道地震の影響で3日間自粛された論戦は9月10日の所信発表、共同記者会見で再開されたが、会見終了1時間後に安倍は機上の人となった。
8月28日、自民党の総裁選管理委員会はマスコミに対し、総裁選報道について「公平・公正」を求めるとの文書を配布し不当な圧力をかけた。しかし、実質10日間の選挙期間のうち4日間を、重要とは言えない外遊にあてるのは、自ら公平を放棄しているようなものである。
安倍がロシアに居る間、石破は積極的に地方遊説をしているわけであり、これを報じるなとでも言うような対応は、それこそ公正に反するものであろう。
安倍が論争を回避するのは、圧勝予測もさることながらその主張になんの正当性もないからである。
安倍は経済政策として9月10日には相も変わらず「三本の矢でデフレ脱却」としながら、帰国後の14日の討論会(日本記者クラブ主催)では、脱デフレの目途も示さずに「任期中に出口戦略を明らかにする」と日銀の政策修正を追認するだけの表明を行い、地方振興にしても「トリクルダウン」を唱え続けるなど具体性、実現性に欠けるものばかりである。
プーチンはウラジオのフォーラムで「いま思いついた」と煙に巻いたが、安倍は本当に思い付きでしゃべっているのではないか。また石破の指摘に対して「トリクルダウン」とは言っていないと否定しているが「景気回復は地方に波及してきている」とはそういうことであろう。これは「朝ごはん」論法同様の詭弁であり、「地方からの景気回復」という発想そのものがない「プッシュ型」の変形である。
また独占資本、高所得層からのトリクルダウンも破綻している。政府(厚労省)の所得統計が操作され、給与総額が2倍以上水増しされていることが判った。(西日本新聞9月12日朝刊)
外交・安全保障でも破綻しつつある「自由で開かれたインド・太平洋戦略」を主張、対北朝鮮政策では「連絡事務所の設置」を主張する石破に対し、14日の討論会では「金正恩と向き合う」と言いながら「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけと言ったことはない」と開き直った。
こうしたなか、安倍が極めて具体的に述べたのが改憲である。9条への自衛隊明記など4項目の改憲案を次期国会に提出するとして、並々ならぬ執着を改めて示し、何のための総裁三選なのかを臆することなく露わにしているのである。
プーチンの奇襲に動揺
安倍が総裁選を蔑ろにして臨んだ、ウラジオストックでの「東方経済フォーラム」や一連の首脳会談も散々なものとなった。9月10日、安倍は2時間半待たされて臨んだ日露首脳会談で、北方領土での共同経済活動の推進で合意した。
これは本来8月中に行われる予定だった現地調査の結果を踏まえ合意されるものであった。しかし調査は「天候のため」延期となり、結局未実施のまま首脳会談が持たれたため、事実上昨年9月の合意5項目を再確認するに終わっている。
さらに現地での活動を保証する「特別な制度」についても進展はなかった。当然、領土問題も進展はなく、またしても会うだけに終わった。憔悴する安倍にプーチンは容赦なく追い打ちをかけた。12日、習近平ら各国首脳が居並ぶフォーラムで突然、「年内にあらゆる前提条件抜きでの日露平和条約締結」を提案したのである。
衆人環視のもと平場での奇襲攻撃を受けた安倍は、何のリアクションも無しに笑っているだけであった。欧州の首脳なら「それは大統領からのクリスマスプレゼントを期待してよいのか」ぐらいの返しをしただろうが、安倍には無理だった。
プーチン発言については「領土問題交渉」の良くて「棚上げ」悪くて「打ち切り」以外の何ものでもないが、日本政府筋は「経済協力」を引き出すための方便、「プーチンは焦っている」との都合の良い解釈がなされている。北朝鮮と同じく「制裁に苦しむロシアは喉から手が出るほど日本の支援を欲しがっている」との思い込みがあるのである。
しかし、ウラジオで11日に開かれた中露首脳会談では、ロシアのガス田開発など大型プロジェクトで合意、両国の貿易額もこの上半期は前年比3割増という高い伸びを示しており、日本の存在感は低下している。
軍事面での中露連携も進んでいる。クリミア併合による制裁でロシアはドイツからディーゼルエンジンが購入できなくなり、これを搭載予定だった海軍新鋭艦艇の建造が一時ストップした。しかしロシアは中国から同エンジンのライセンス生産品を入手し建造を再開し、就役した艦は9月上旬に地中海で行われた大規模演習に参加している。
極東地域では、約30万人が動員される大規模軍事演習「ヴォストーク2018」が9月11日から開始された。この演習には初めて中国人民解放軍約3000名が参加しており、これまで「対日米」・「対中」だった同演習の想定が「対日米」に絞られたと考えられ、「親日国」のモンゴルも参加している。
「歴史上最良の時期」(習近平)にある中露首脳は、フォーラムのイベントでも二人で酒のつまみを作るなど親密さを示した。
安倍三選を超えて
こうしたなか12日に行われたに日中首脳会談で安倍は、約40分の会談で10月23日の訪中を取り付けたものの、来年の習訪日の確約は取れなかった。
中国が関係改善に意欲を見せているのは、背景に米中貿易紛争があり日本を味方につけたがっているとの、都合の良い解釈がまたしてもなされている。そうだとしたら日中関係の改善を進めることは、日米分断工作に嵌ると言うことになる。
安倍政権としては、アメリカと連携して中国を追い詰めるのが本来の姿であろう。しかし実際は、この間トランプが安倍を見限りそうな兆候が散見されており、8月15日の閣僚による靖国参拝を止めさせるなど、安倍が支持基盤の意向に背き、領土、歴史問題を棚上げしてすり寄っていっているのが実情であろう。
ところが今年の「防衛白書」では、先月号で指摘した「自民政調会提言」と同様に中国への危機感を露わにしており、安倍の言う「新しい段階の日中関係」の具体像は不透明なままである。
この様な対露、対中のみならず、対北朝鮮そして対米まで、支離滅裂で袋小路にはまり込んだ外交が、安倍が総裁選で主張する「戦後外交の総決算」の中身である。
総裁選は形式的な論戦が消化される一方で、マスコミだけでなく石破陣営への圧力も明らかになっている。さらに一部報道では下村博文、西村康稔、萩生田光一の「三悪人」の暗躍も暴露されており、安倍政権の陰湿さが凝縮された選挙戦の様相を呈している。
安倍三選の先には、経済の停滞、国民生活の窮乏、社会の分断、国際緊張の激化が待ち構えていることは明らかとなっている。
こうしたなか闘われている沖縄県知事選の意義は、ますます重要になってきており、玉城候補の勝利をなんとしても勝ちとらなければならないのである。(大阪O)
【出典】 アサート No.490 2018年9月