【投稿】北海道胆振東部地震による「ブラックアウト」と泊原発外部電源喪失事故の恐怖

【投稿】北海道胆振東部地震による「ブラックアウト」と泊原発外部電源喪失事故の恐怖
福井 杉本達也
1 北海道全域が停電という「ブラックアウト」
9月6日、北海道胆振地方で大地震が発生し、震度7が観測された。各地で土砂崩れや家屋倒壊が起き、多数の死傷者が出た。札幌市でも液状化で埋立地の上に建設された多くの住宅が倒壊した。地震の影響で、北海道全域の295万戸が停電する異常事態(「ブラックアウト」)となった。停電は、電力の約半分を賄っていた苫東厚真火力が、地震で緊急停止したことが発端となった。他の火力も連鎖的に発電量と使用量のバランスを取る必要がある。バランスが崩れると電気の品質が保てなくなる。今回は、苫東厚真火力の停止で管内の発電量が急減し、需給バランスが大きく崩れた。そのままでは発電機や機器類に負荷がかかって故障するため、稼働中だった他の火力も自動的に停止した。「発電機を自転車のペダルと考えてみよう。どんなときも必ず1分間に50回転(50サイクル)させなければならない。坂道でこぐ力が減ってきたら、荷物を捨てていくしかない(札幌を全停電させるとか)。その荷物を捨てるのを惜しんだから、自転車がとまってしまった。」(小野俊一:2018.9.6)。

2 泊原発は外部電源喪失
泊原発は今回の地震で、9時間半にもわたり外部電源を失った。震源から100キロ以上も離れ、震度2であったにもかかわらず、非常用ディーゼル発電機を使わざるを得ないという危機的状況に陥ってしまったのである。安定した送電と外部電源という多重位防護の第1層が破綻したのであり、ことは重大である。幸い泊原発は長期間停止中であり、原子炉内に核燃料はなく、燃料貯蔵プールに1527体の核燃料を保管していたものの、十分に冷えていたので福島第一原発のようにはならなかった。福島第一原発1号機は、全電源喪失3時間半後には燃料は蒸発による水位低下で全露出して炉心溶融が始まったといわれる。「非常用ディーゼル発電機があるから、外部電源喪失しても良い」という考えは全くでたらめな議論である。全国の消防団の訓練に『消防操法大会』というのがある。エンジン付きの稼働式ポンプからホースを伸ばして消化するという訓練で、大会に出場する前に2か月間も毎日訓練して消化のタイムを競うが、本番で毎日使っていたエンジンがかからない。残念ながら「失格」である。非常用ディーゼル発電機をいくら毎日点検し、使用していても機械は必ず故障することがあるものである。今回は運が良かったのである。

3 ブラックアウトの原因不明と全く当事者能力のない北海道電力
9月12日の北海道新聞は「胆振東部地震の発生以降、停電状況や苫東厚真火力発電所(胆振管内厚真町)の復旧見通しなど電力に関わる重要情報は、当事者の北電ではなく、監督官庁の経済産業省や道の主導で発信されている。…当事者意識を欠いた北電の姿勢に不信感が募っている。…停電して以降、復旧情報などは国や道が先行し、北電はその内容を『後追い』。計画停電実施の有無も、本来は真っ先にアナウンスすべき北電ではなく、すべて世耕弘成経産相が東京で発表していった。」と北海道電力の当事者能力のなさを批判した。現状はまるで“国営”北海道電力である。
ブラックアウトの詳細について北海道新聞は、地震直後の「午前3時8分厚真町内にある道内最大の火力発電所、苫東厚真火力発電所(3基=3号機は廃止)の2号機と4号機(合計出力130万キロワット)では、高温の水蒸気を運ぶ細長いボイラー管が縦揺れに耐えきれず損傷。直後に停止し、北電は全道の電源の4割を一瞬にして失った。ブラックアウトを防ぐため、手動でなく自動的に二つの作業が進んだ。一つが「負荷遮断」。ブラックアウトで道内の電源がゼロになると、発電機を動かすのに必要な電気もなくなり、復旧に時間がかかる。停止した電源に見合うだけの需要を一時的に切り離し、停電から回復しやすくしようとした。一瞬にして、道北、函館などの地域の多くで停電。残されたのは札幌など道央が中心だった。午前3時11分二つ目の自動システム「北本連系線」がフル稼働。北海道と本州を結ぶ送電線で、どちらかの地域で需給バランスが崩れると、自動的に電気が送られる仕組みになっている。最大量である60万キロワットが本州から北海道に向けて送られ始めた。この時点で、道内の需給バランスは不安定ながらも、保つことができていた。」ところが、「午前3時25分苫東厚真火発で唯一運転を続けていた1号機(出力35万キロワット)のボイラー管損傷が深刻化。1号機停止で、道内の他の発電所が連鎖的に停止。道内で電源が失われたため、本州からの送電もできなくなった。」しかし、それでも北海道電力は泊原発への電力供給をしようと試みたようで、「午前3時28分北電の発表とは異なり、後志管内倶知安町と岩内町の病院ではこの時刻まで送電が続いた。送電線の先には、泊原子力発電所(同管内泊村)があり、常に冷却が必要な使用済み核燃料が大量に置かれている。北電は冷却を維持するため、あらゆる手段で、電力供給を維持しようとしたようだ。」(北海道新聞:2018.9.13)と書いている。どうも泊原発への電力供給と北海道の政治経済の中心である札幌を守ろうとしたことが逆にブラックアウトを招いたようである。

4 苫東厚真発電所は震度7で全損したか
北海道電力によると、地震動で4号機はタービンが発火したとのことであるが、振動でタービンの軸受が破損したのか、発電機に封入されている水素に引火したのか、タービンが破損していれば11月までの修復は不可能であろう。また、2号機、1号機は石炭の火力を熱交換して蒸気を発生させる水を通す配管が破損している。配管などは地震動に弱く、他にも破損個所は多々あるのではないか。また、ボイラーの耐熱壁に損傷はないのか。
1週間以上もたった現在でも事故の詳細な状況は発表されていない。原発とは異なり、放射線の脅威はないので人はボイラーにもタービン建屋にも近づけるはずであるが。いずれにしても、震度7に耐えうるような発電所は存在しない。当然原発も含めてである。

5 泊原発を動かせというホリエモン・読売・産経
ホリエモンこと堀江貴文氏は「これはひどい。。そして停電がやばい。泊原発再稼働させんと。。。」「原発再稼働してなかったのは痛い」などとツイートしている。また、読売新聞社説は「問題は、道内の電力を苫東厚真火力に頼り過ぎていたことだ。東日本大震災後に停止された泊原子力発電所の3基が稼働すれば、供給力は200万キロ・ワットを超える。原発が稼働していないことで、電力の安定供給が疎(おろそ)かになっている現状を直視すべきだ。」(2108.9.7)と書き、産経も同様の主張をしている。日商の三村明夫会頭も泊原発再稼働の発言を行っている。
しかし、これは倒錯した主張である。原子力発電所は負荷追従運転ができない。100%の定格出力運転のみである。 結果、電力需要の少ない夜間に発電容量の大きな発電所が急に脱落すると出力調整余力がなく連鎖的に送電網が破綻してしまうという弱点がある。今回仮に泊発電所が動いていた場合、定格出力運転中の原子炉は苫小牧での送電網破綻の影響で緊急停止することになり、その上ブラックアウトの為に外部電源を喪失。もしも非常用ディーゼル発電機の起動に失敗すれば最終的に原子炉が爆発する可能性がある(牧野寛「ハーバード・ビジネス・オンライン」2018.9.10)。外部電源を喪失しないようにするには、原発から一定の離れた場所に、原発専用の火力発電所を複数設置し、商用電力から切り離しておく必要がある。これはパラドックスである。

6 直下型地震はどこで起こってもおかしくない
日本列島はプレート同士のぶつかり合う場所で、絶えず地下に力が加わっているが、この力が断層をずらす内陸型地震であり、マグニチュード6.7程度の地震はいつ、どこででも起こりうる。通常の地震は深さ5キロ~15キロで起こるが、今回の震源は深さ37キロもあり、「石刈低地東縁断層帯」という活断層ではなく、これまで地下で見つかっていない新たな断層が動いたと見られる(日経:2018.9.7)。6月18日に起こった大阪北部地震も「有馬―高槻断層帯」や「生駒断層帯」などがあるが、どの断層帯が動いたとは特定できていない。日本には地表に表れない断層は多数ある。
雑誌『世界』2018年10月号において島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理は、3.11では津波被害などで2万人弱の人が死亡又は行方不明となった。また福島第一原発事故によって、15万人もの人が避難せざるを得なかった。島崎氏は甚大な被害が発生した背景には中央防災会議が作為的に「備えていなかったから」だと指摘し、「中央防災会議などの関係機関が、地震や津波の予測という、本来は科学的検討によって議論されるべきテーマを、別の何らかの理由によって歪めた点に求められるべき」(つまり、原発の稼働を優先し、対策を怠った)とし、「電力会社をはじめ、あの規模の津波の発生は『想定外』であったとする議論があります。しかし、実際には、『想定外』ではなく、『想定しないようにした』のであり、不作為ではなく作為によって、想定しないことを選択したのです」と述べている。約260人が死亡した2016年4月の熊本地震でも揺れの予測に過小評価が見られたという。西日本は垂直に立つ断層が多く、面積が小さいことから、面積で地震の大きさを推定する予測式「入倉・三宅式」が採用されて揺れが小さく見積もられた。関西電力は大飯原発の再稼働審査にあたり、島崎氏らの忠告を全く意に介さず、「入倉・三宅式」を採用したという。わが国では大災害が起きると政府も関係者も「想定外」を繰り返すが、その実、情報を隠蔽し、「想定内」を「想定外」とする無責任がはびこっている。「中央防災会議が人を殺したのだということを、たくさんの人に知ってもらいたい」と締めくくっている。
今回程度の地震は、日本全国どこで起こってもおかしくはない。しかも、地表に活断層が見えなくても地下深くに活断層がある。泊原発直下・地下深くに活断層があっても不思議ではない。事実、原子力規制委からも原発のある半島の海底に「活断層の存在を否定できない」と指摘されている。そのような場所で地震が起こったどうするのか。泊原発に一極集中し、新規の設備投資を怠ってきた北海道電力は今回のブラックアウトで、全く主体性のない、危機管理能力のない企業であることを露呈した。そのような企業に泊原発を再稼働させてはならない。

【出典】 アサート No.490 2018年9月

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