【投稿】出鼻を挫かれた安倍外交

【投稿】出鼻を挫かれた安倍外交

エスカレートする対中強硬策 
 民主党の自滅選挙により政権に返り咲いた自民党・安倍内閣は、第1次内閣にも勝るとも劣らぬ国家主義的姿勢をあらわにしている。
 内政に於ける「改憲」「国防軍創設」とその露払いともいえる「防衛大綱」「中期防」見直し、「集団的自衛権行使」はもとより、とりわけ外交における中国に対する強硬姿勢は常軌を逸するレベルのものである。さすがに選挙公約としていた「尖閣諸島への公務員常駐」は具体化していないものの、海上保安庁、自衛隊の増強は早速進められる。
 軍事費については、今年度補正予算で約二千二百億円、来年度予算では今年度当初予算案に一千億円が上積みされ、「人からコンクリートへ」のみならず「人から銃」への方向性があらわとなっている。
 さらに尖閣に接近を繰り返す中国海管機に対しては空自がスクランブルをかけ、これに対抗して中国が空軍機を発進させると、「今後は警告射撃実施を検討する」と対応をエスカレートさせようとしている。非軍事組織のプロペラ機に対しジェット戦闘機で警戒に当たるのは、明らかに過剰であろう。警戒が必要なら、探査は自衛隊が行うとしても、石垣島から海保機を飛ばすか、もしくは尖閣近海にヘリ搭載型巡視船を遊弋させればよいのである。
 さらに、沖縄本島の那覇基地からの迎撃では距離が遠いとして、下地島や石垣島など先島諸島へのF15戦闘機の配備が計画されており、偶発的衝突の危険性を一層高めるものとなっている。
 安倍政権は、民主党政権の「農家戸別補償」「高校無償化」などを「バラマキ」としてことごとく否定しているが、対中国強硬姿勢だけはしっかりと継承、さらに拡大させ、危機をばらまいているのである。
 滑稽なのは、小野寺防衛大臣が昨年末に「新防衛大綱」の見直しに関し「動的防衛力構想」に否定的な発言したものの、1月11日の記者会見で「(動的防衛力とは)防衛力の低下や人員・装備の減少をしのぐためのものだと思っていた」と述べ、前言を翻したことである。小野寺大臣は動的防衛力構想を「軍縮」と思い込み、軍事面における民主党政策否定のつもりで述べたのだろう。
 しかし、本誌397号で指摘した通り「動的防衛力構想」はそれまでの「基盤的防衛力」(軍事費の固定化策)を撤廃し、中国に対抗した軍拡に道を拓くものであり、自衛隊苦心の策なのである。そのうえ素案自体は麻生政権時代にできていたのである。
小野寺大臣は防衛官僚から指摘され慌てたのだろう。「親の心子知らず」であり、まさに「問責」ものである。(逆に言えば将来中国が軍縮に転じれば、それに合わせた軍事費削減を防ぐため「基盤的防衛力」が復活するかもしれない)
また安倍総理自身、選挙中に尖閣問題にかかわり「海保は人員不足なので巡視船に即応予備自衛官を乗せる」と発言したが、陸戦の訓練しか受けていない隊員を巡視船に乗せてどうするのか。安倍総理は海上自衛隊にも即応予備自衛官制度があると思い込んでいたのだろう。
 このように一知半解のまま対中包囲網を画策し、「価値観外交」などというスローガンを掲げ、鼻息だけは荒い安倍内閣の対外政策であるが、新年早々出鼻を挫かれる事態が続出している。

相次ぐ国際的批判
 1月4日、安倍総理の特使として額賀元財務大臣が訪韓し、朴槿恵次期大統領と会談した。これはそもそも中国への対抗上「竹島問題」や「従軍慰安婦問題」を棚上げしたまま、不承不承で関係改善を図ろうとの魂胆が見え透いた特使派遣であった。
 しかし、その前日、靖国神社に放火し、その後韓国の日本大使館に火炎瓶を投げ込んで拘束されていた中国人が、韓国高裁に「政治犯」と認定され帰国した。翌日の会談でこの問題はスルーされ、朴次期大統領からは外交儀礼以上の言説は引き出せず、額賀特使は帰国した。安倍政権の面目丸つぶれである。
 当初、特使派遣は昨年末が予定されていたが、韓国の都合で年明けとなった。韓国政府が中国の要請に屈し、日程を操作したような解釈が流布されているが、韓国の司法を蔑んでいるのではないか。安倍政権は中国の圧力より韓国の国民感情を直視すべきであり、1891年の大津事件判決と同じく評価すべきであろう。
 中国、韓国からの安倍内閣への厳しい評価は織り込み済みであろうが、年明けから相次いでいる同盟国、友好国からの批判は想定外だっただろう。
3日付の「ニューヨーク・タイムズ」紙は社説で、安倍総理を「右翼民族主義者」と看破し、日本軍による従軍慰安婦強制連行を認めた1993年の「河野談話」見直しを示唆する安倍総理の発言を「重大な過ち」とし一連の動きを「恥ずべき愚かなこと」と切り捨てた。
自民党は「ワシントン・ポスト」紙が「ハトヤマはルーピー」とこき下ろした時、鬼の首を取ったように大喜びしていたが、今度は自らの身に降りかかってきたのである。
追い打ちをかけるように、イギリスの「エコノミスト」誌は1月5日の誌面で、安倍政権を「第1級の国家主義者が組閣した」「ぞっとするほど右寄りの内閣」であり東アジアに「悪い兆し」と酷評。
 大臣は押しなべて反動的であり、なかでも下村文科相は「東京裁判の取り消しを求めている」と警戒感を露わにしている。
 そして「国家主義の抑制は安倍内閣では不可能」と結論付けている。
 これらマスコミの批評は「朝日や毎日など日本の左翼マスコミの論調を鵜呑みにしている」と八つ当たりすることも可能だろう。しかし各国の政権、議会からの批判は相当こたえるだろう。
 オーストラリアのカー外相は、1月13日、訪豪中の岸田外務大臣との会談で「中国を封じ込める考えはない、中国は重要なパートナーだ」と釘をさし、さらに会談後の共同記者会見で「『河野談話』の見直しは望ましくない』、と強烈なストレートを見舞った。
狼狽した岸田外相は「村山談話は引き継ぐ」「安倍総理は同問題で歴代の総理と思いは変わらない」とかわすのが精いっぱいで、対中包囲網構築を目論んだ訪問は完全に裏目に出てしまった。

オバマ政権からも厳しい視線
 そして最大の同盟国、アメリカも例外ではない。安倍総理は選挙前から、総理就任後の最初の訪問国をアメリカと勝手に決め込み、TPP加盟問題や普天間移設など喫緊の課題は脇に置き、集団的自衛権行使を手土産に、日米同盟再構築を謳いあげんと思い描いていた。
ところが、アメリカから「オバマ大統領は就任前でいろいろ忙しい」と、当初目論んでいた1月中の訪米を体よく断られ、2月中旬以降にずれ込むこととなってしまった。それどころか首脳会談の日程調整のため訪米した外務省高官に対し、国務省は中国機に対する警告射撃を行わないよう求めていたことが明らかとなった。
 さらに1月16日、訪日したキャンベル国務次官補とリパート国防次官補は岸田、小野寺両大臣に同様の認識を示し、17日には朝日新聞が「米政府高官」が「河野談話」見直しに懸念を示したと報じた。
 また同日(米時間16日)ニューヨーク州議会、上下両院に従軍慰安婦に対する日本政府の謝罪と補償を求める決議案が提出された。
 このように安倍総理が訪米し、オバマ大統領と日米同盟を高らかに再確認するような環境は存在していないことが明らかになった。安倍政権は集団的自衛権行使を示せば、その他は不問にしてアメリカが喜ぶものと勘違いをしているのではないか。
そもそもアメリカが求めていた集団的自衛権行使とは、中東地域におけるアメリカの戦争への日本の参戦なのである。しかしアメリカ自体の国防戦略が見直され、イラク戦争が終結、アフガニスタンからの米軍完全撤退前倒しも計画されている現在、そうした事態は起こらないだろう。
 日本政府が集団的自衛権行使の具体例として想定している「アメリカを狙う北朝鮮弾道ミサイルを日本上空で迎撃」(ワシントンを狙うならミサイルは北極に向けて発射される)「遠距離の公海上でアメリカ艦船が攻撃された場合反撃する」(グァム沖に中国海軍が現れた時は海上自衛隊が全滅している)などはおとぎ話に過ぎない。
 むしろアメリカは日本と中国の戦争に巻き込まれることを危惧しており、再三確認される「尖閣は日米安保の適用対象」というのも現実的には、日米安保第5条では「日本国の施政の下にある領域における、(日米)いずれか一方に対する武力攻撃」(ソ連軍の本土侵攻を想定)と規定されており、日中衝突の可能性としては最も高い接続水域や防空識別圏での衝突で発動されるかは曖昧である。(魚釣島上陸などは可能性としては最も低い)
いずれにせよこれは、リップサービスであり日中双方に自制を求めるのがアメリカの本心である。
 アメリカの対日不信の根本は、マスコミが主張するように安倍内閣が「東京裁判」~「A級戦犯処断」など「戦後秩序」を否定する性向を持っていることである。この点ではイギリス、オーストラリアなどの「戦勝国」も同様であり、その意味で中国、韓国も、そしてロシアもその「価値観」を共有する一員なのである。 
 つまり「価値観外交」を唱える安倍政権はすでに、あらたな「ABCD包囲網」ともいうべき国連常任理事国+αの「別の価値観連合」に包囲されているのである。安倍総理は「2度と同じ失敗はしない」と大見得を切っているが「KY」は治っておらず、新たな失敗をすることになるだろう。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.422 2013年1月26日

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