【投稿】錬金術の「大阪都構想」
—大阪維新の会のマニフェストを問う—
元田 隆文
<「大阪都構想」一本槍>
1月24日に、地域政党「大阪維新の会」は、4月の統一地方選挙に向けたマニフェスト「よみがえる大阪」を発表した。
その特徴は、今や大阪の街全体が貧困化しているとの危機感を煽りたて、政策の方向性を「成長戦略の実現」のみにおき、そのため手段、仕組みが「大阪都構想(ONE大阪)
であるとする。この構想を実現が、「大阪の景気と雇用を回復し、市民を貧困から解放」し、「強さ、豊さと優しさのエンジン」となるとする。しかし、その他の府民生活、市民生活の抱える問題への政策には一切触れていない。極端なまでの原理的新自由主義的な政策論であり、橋下府政のもとで進行する、教育、文化、セーフティネットの切り捨てなどによる荒廃の問題は一切頬かむりされているのである。
<「大阪都構想」の中味は何か>
「大阪都構想」は、ほぼ次のように要約できる。
「成長戦略を実現し、大阪の景気と雇用を回復する仕組みであって、街を豊かにし、市民を貧困から解放することができる。都に広域行政を一元化し二重行政を排除することで都市基盤、産業基盤の整備がすすめられる。知事と市長という2人の広域指揮官の存在が、大阪という都市の方向が定まらないものとしており、二重行政、投資の分散が生じ、都市インフラが貧困なものになっている。指揮官を一人とすれば、私鉄相互乗り入れ、高速道路、高速アクセス鉄道、北ヤード、阪神港などの整備・一元管理が実現でき、国際都市への飛躍・国際競争力向上が図られる。」
「大阪府と政令市域を統合し、大阪都と特別区(自治区)に再編し、特別区には、中核市並みの権限と財源をもたせ、区長と議員を選挙で選ぶ。区は、数百億円の予算の使い道は決められ、区民生活にかかることは殆ど区で決める住民自治が確立される。大阪市役所から権限と財源を区に取り戻すことができ、地域が自立し、住民に優しい街にすることができる。なお、他の市町村も中核市並みとする。」「都(広域体)の役割により、企業は儲け、給料が上がり、国民所得と税収が上がる。この税収で、基礎自治体では、図書館、ゴミ、給食費など、優しい地域社会を議論できる。なお、国保、介護保険、生活保護などは広域が担う。」
<すぐ分かる矛盾のかたまり>
まさに、「大阪都構想」はバラ色の未来をつくる打出の小槌である。しかし、ここまで並べ立てると、個別の知識はなくとも、おかしいと思わざるをえないもので、矛盾とウソがすぐばれる底の浅いものでしかない。あえて、幾つかを挙げておく。
★「大阪衰退の原因は大阪市の存在」
地域経済の衰退は日本全体の課題である。特に地方制度の関係では東京一極集中の政治経済体制が問題である。府・市問題ではない。
★「広域行政一元化で大阪の成長が可能」
維新の会のいう広域行政は大阪府域内の大型開発行政投資のみであり、これは過去失敗を繰り返し府・市財政を困難にしてきた既に時代遅れとなったものである。また、現在の広域行政の課題は府県域を超えた課題である。さらに、仮に経済活性化したとしても直ちに住民に還元されるものではない。
★「二重行政の弊害」
二重行政解消のもとに橋下府政が狙うのは、大学などの文化、セーフティネットの削減であり、また、仮に解消が必要だとしても、大阪市解体とは関係なく実現できるものである。
★「大阪の都市インフラは貧弱。大阪では都市の方向が決まっていなかった」
淀川左岸線やなにわ筋線の遅延だけで日本第2の大阪の都市インフラが貧弱というのは全くの言葉の詐欺である。また、仲が悪かったとはいえ、地域開発の方向性としてはこれまで府・市は大枠で一致して推進していたのである。
★「行政機能の「広域」と「基礎」の単純な分離。大都市の役割・機能の否定」
そもそも都制で両機能を分離できるとするところに言葉の誤魔化しがある。政治経済の集中地域において、大都市が広域行政機能を担うというのは世界的なものである。東京都制は、戦時遂行のための東京市自治の否定という生い立ち由来する多くの問題を抱える制度であって、他に例を見ないもので、いまなお特別区では自治権拡充運動が続いている欠陥制度である。「大阪都」は如何に言おうと、こうした欠陥から逃げられない。まして、中核市並みの特別区とはどのようなものであろうか。その事務と財源、権限の具体案が示されなければ論評のしようもない。
★「国民保険、介護保険、生活保護はすべて都で」
国全体の制度を無視して大阪都だけで制度がつくれるわけはない。また、事業の主体と財政負担主体の分離は問題が多い。
<大阪市の解体は市民自治の解体>
「大阪都構想」とは、大阪の抱える問題を無理やり大阪市の責任になすりつけ、「都制」が解決するという錬金術のような実現性のない矛盾の塊であり、「一人の司令塔」という分権自治民主主義の否定を狙う以外の何者でもない。大阪市政への不満と大阪市解体とは別問題である。
【出典】 アサート No.399 2011年2月26日