【本の紹介】(その1)「橋下イズム」への巻き返しの書

【本の紹介】『我、知事に敗れたり 二〇〇九年九月 堺市長選』
      木原敬介著 2010年5月20日発行 論創社 1500円+税

今回話題の書について、二人の方から投稿をいただくことができました。 
関西の政治状況に関して重要な視点が提示されておりますので、共に掲載
させていただきます(見出しは編集部作成)。
「我、知事に敗れたり」

(その1)「橋下イズム」への巻き返しの書

 本書は、平成21年9月の堺市長選についての、選挙当事者による報告書であり、回顧録である。
 回顧録は、普通、功なり名遂げた人が、暇に任せて著すもので、崇めて遠ざけたくなるものだが、本書の赴きは類書とは大きく異なる。本書はタイトルが端的に示す如く敗北の書である。2009年9月27日の堺市長選挙で著者は、三期目を果たすべく戦ったが新人候補に敗北。それだけなら、一地方都市の首長選挙で、多選候補が、新人候補に敗れるというよくある選挙の成り行きであるが、この堺市長選は一種異様な様相を呈した。橋下大阪府知事が元部下の竹山修身氏を刺客候補として送り込み、知事自身、公務をよそに連日竹山候補の応援に街頭に繰り出したのである。堺市長選はまるで木原候補対橋下知事の選挙戦であるかのような様相を呈したのである。知事が基礎的自治体の首長選挙に直接介入するのは、前代未聞のことである。マスメディアはこの話題に飛びつき、派手に報道したが橋下知事が何を狙って堺市長選挙に介入したのかについては明らかにしなかった。しかし、その真相は、橋下知事のその後の言動を見ると明らかである。橋下知事の介入は、知事の地域政党「大阪維新の会」の結成による「大阪都構想」実現のための前哨戦であったのである。
 本書は、堺市長選の経緯を時系列で淡々と記し、三選で何を目指そうとしたのかを明らかにしている。二期八年で、堺市を一地方都市から関西を代表する政令市として都市格と自治の基盤を作り上げ、いよいよその上に「歴史と伝統ある国際都市」が開花するはずであった。木原第三期市政は頓挫してしまったのである。著者は「数多くの方々に支援され、数多くの方々によって、多くの実績や成果を残すことができた、その一点において、私は本当に幸せ者であった」(『あとがき』より)、と記しているが、内心は憤懣抑え難いであろうことは、紙背に想像するに余りある。氏の忸怩たる思いが昇華されるのは、将来、木原市政継承選挙が戦われるときであろう。
 先般の堺市長選挙は、一地方都市の首長選挙に留まらない、現代政治に潜む深刻な二つの問題を投げかけているように思われる。そのひとつは、地方行政における市民合意の形成の問題である。堺市の場合、LRT建設構想という、まちづくり構想にとって中核的な施策について、市民合意が形成されないまま、選挙の争点になり、それが木原陣営にボディーブローのような影響を与えたと思われることである。この施策に留まらず、8年間の木原市政のさまざまな実績にもかかわらず、それらが、必ずしも木原市政への市民の信頼に繋がっていなかったのではないか、と思われることである。もし、木原市政に対する市民の信頼が磐石であれば、選挙結果は違ったものになっていたのでは、と思われる。もう一つは、選挙戦術の問題である。橋下陣営は、竹山候補をひとつの商品として、市民感覚に会わせてイメージ化してマスコミに売り込むマーケティング戦術をとり、政策論議を一切避けたのである。これにたいして、木原陣営は、生真面目なまでに、オーソドックスに政策と実績を手作りのメディアで訴える戦術に徹したのである。これでは、まるで重火器の装備にたいして、短銃で戦うに等しく、当時の特殊な政治状況を考慮にいれても、戦う前から勝敗は明らかではなかろうか。しかも、橋下陣営の戦術は、2年前の大阪府知事選挙で明らかで、堺市長選挙でも同じ戦術を取ることは予め分かっていたはずである。橋下知事は、知事選で、「私は不特定多数にたいしては、政策を語らない、かれらの感情に訴えるだけだ」(徹底検証「橋下主義」読売新聞社)と語っている。また、精神医家の香山リカ氏は橋下知事のTVを利用した大衆迎合手法を次のように指摘している。「橋下さんは、・・・・市長達に自分が泣いたときに、テレビ的にどんな映像になるか、常に意識しているはずである。でもそのときの視聴者の反応は、絵として子犬がかわいいとか、泣いている女の子がかわいいとか、そんな感情と似た情緒的なものでしかない。そうゆうやり方で支持率を上げていくのは大衆迎合的で、危険な方向に流れていく恐れがある」(同上)このような政治手法をパフォーマンスだとして、切って捨ててしまうだけでは、対抗できないことは明らかである。このような大衆迎合主義(ポピュリズム)が嵐のように吹き荒れている現代日本政治状況のなかで、いかに戦うかが、堺市長選挙を通じて、典型的な形で提起されたと思える。先の堺市長選が、基礎的自治体の住民が政治に対する真の批判力を持ち、一人ひとりが自治の真の担い手として成長していくための試金石となること、このことが単なるきれいごとでなく、現実に木原市政の継承選挙戦が、将来戦われることを願わざるを得ない。
 本稿の執筆中に、橋下地方新党「大阪維新の会」の候補者が、福島区大阪市議会補選に民主党や自民党の候補者を抑えて圧勝した、と新聞は報じている。今後、大阪市長選や統一地方選挙でも、恐らく橋下ポピュリズムは猛威を振るだろうし、マスコミはそれを「改革者」として無批判に持ち上げるだろう。本書が、「橋下イズム」への巻き返しとして、一石を投じることになることを期待したい。(T)

 【出典】 アサート No.390 2010年5月29日

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