【投稿】原発の耐震設計を根底から“揺るがす”「変動地形学」
福井 杉本達也
1.“どんどん伸びる”?原発の想定する活断層
昨年7月16日に東京電力柏崎刈羽原発を襲った新潟中越沖地震以降、国も電力事業者も思考停止状態にある。柏崎刈羽原発の目の前、国も東電もこれまで活断層はないといってきた領域で想定を遙かに上回る地震が起こったためである。東電は、2003年に中越沖地震の震源断層と思われるF-B断層を約23kmと確認しながら、中越沖地震後5ヶ月近くも沈黙し、12月にようやく明らかにした。調査では、中越沖地震の震源断層の延長は2003年時点の調査で20km、2007年12月の発表で23km、2008年3月の発表では30kmに、さらに、4月28日の発表では34kmへとどんどん伸びてきている。東電調査を元に、さらに石橋克彦神戸大名誉教授は佐渡海盆東縁断層として50kmの延長があるとし、マグニチュード7.6~7.8程度の地震を引き起こす恐れがあるとしている(福井:2008.5.20)。
活断層の長さが伸びると何が困るかといえば、原発が想定する地震動が大きくなるからである。松田時彦氏が地震断層の長さと断層変位量の関係を式にしているが、地震の規模と震源断層の長さには相関がある。変動地形学の中田高広島工大教授らが2001年に過小評価を指摘した、島根原発の南を走る鹿島断層を、中国電力はこれまでの10kmから22kmに変更し、島根原発の安全基準を456ガルから600ガルに引き上げている(朝日:2008.3.20)。
一連の活断層延長の発表は、2008年3月31日の電気事業各社による原発の耐震安全性調査結果報告書(耐震バックチェック報告)の一斉提出による。調査は新耐震指針に照らした耐震安全性評価のためであるが、報告で調査方法について「敷地周辺、敷地近傍、敷地の地形、地質、地質構造について、設置許可申請以降の文献を調査するとともに、陸域については、変動地形学的知見を反映して地表地質調査、ボーリング調査、トレンチ調査等を実施しました。」(もんじゅ耐震安全性評価結果報告書概要等)とわざわざ「変動地形学」にふれている。これが、活断層の“大量発見”につながっている(そもそも“F-B”断層などというのは名前もなかったので新たにつけられたものである)。しかし、原子力保安院は電気事業者の報告だけでは信用できず、独自に、中越沖のほか、福井県沖、福島県沖の海域断層調査を始めた(福井:2008.3.20)。
2.もんじゅ・美浜原発炉心直下に活断層
福井県内の各原発の耐震安全性調査についても、中田高氏や渡辺満久東洋大教授に活断層と指摘された浦底断層が敷地内を走る日本原電敦賀原発は、断層をこれまでの3.6kmから10kmに変更し、浦底-池河内断層など3断層を一体評価するとともに、柳ヶ瀬山断層と連動すればマグニチュード6.9の地震を起こす可能性があるとした。原子力機構の高速増殖炉もんじゅでは新たに敷地内地表部で炉心の西530mを通り、炉心直下1kmに向け60度の角度で滑り込む白木―丹生断層(15km)が走り、これと平行した炉心の直下5kmを走る今回新たに発見されたとするC断層(18km)が関電美浜原発の直下4km地点にまで伸びており、南北の海域断層と連携してM6.9の地震を起こすとした。また、関電大飯原発・高浜原発付近の若狭湾では新たにFo―A断層(23km)、Fo―B断層(10km)などの海域断層3本、陸域では26kmの断層1本を新たに確認している(各事業者バックチェック報告、)。いずれもこれまで活断層ではないかと指摘されていたものだが、事業者側は「当時の知見ではわからなかった」「新たに調査した結果」と口をそろえていいわけしている(朝日:2008.4.1)。特にもんじゅでは地震動評価を炉心に最も近い白木―丹生断層ではなく、新たに発見されたC断層で行っており、地震動を耐震設計内に収まるように恣意的に選んでいる疑いが濃厚である。
3.活断層が直下にあることの重大性
活断層が原発の近くを通ることと直下にあることとは根本的に話が異なる。ところが、原発の耐震指針改定に加わっている大竹政和東北大名誉教授は「重要なのはどれくらいの規模の揺れが起きるかであって、直下に活断層があることがすぐに問題になるわけではない。新手法で調査した結果、新たな活断層がでてきたことは、むしろ評価できる。」(朝日:2008.4.1)との無責任きわまりないコメントを出している。これまで原発は活断層のあるところには造らないといってきたのではないのか。原発が活断層の直上にあるということは、地震規模の揺れによる破壊ではなく、「地盤変位」=断層がずれて切断されるので、いかに耐震設計を強固にしても無意味である。兵庫県南部地震による野島断層の横ずれで、コンクリート塀が折れ曲がり1.4m横ずれした民家が資料館に保存されているが、直上まで断層変位が達すればいかなる構造物も崩壊をまぬかれない。強固な建物ばかりではなく巨大な岩盤自体が崩落した四川大地震の北川県などの例をみても明らかである。
4.変動地形学による活断層評価
渡辺満久教授は、いつも「変動地形学」を説明するに当たって、変動地形学は東洋大学では理系に分類されるのではなく文系の社会学部に分類されているといくことから始める。地形学は、地形を取り扱う自然地理学の一分野であり、「大地を切り裂く活断層。その活断層のずれが長期間のうちに何回となく繰り返されると、やがて岡や山脈が造り上げられていく。そのさまは大自然の造形美であり、地形学者はそれに魅了されてきた。」(『活断層大地震に備える』鈴木康弘)のである。渡辺氏自身は原発には賛成であり、電力の供給には必要だとの立場をとっている。当初は原発は安全な地層の上に建てられていると思い込んでいたという。ところが、自身で島根原発や敦賀原発、六ヶ所村などの活断層を調査する中で国や電力事業者による原発周辺の活断層調査がいかに杜撰なものであるかを発見してしまったのである。
これまでの原発の活断層調査が誤っていたのは直線的な崖に注目してリニアメントを決定し、活断層かそうでないかを決めていた。しかし、実際の活断層はそこにはない。ないところでいくらトレンチ調査(地面を掘り下げて調査用の溝の中で地層を観察する)をしても活断層が見つかるはずがないという。川が極端に曲がっている、谷底平野が折れ曲がっているという地形に注目し、そのような場所を連ねて活断層と判読している。その結果、島根原発の鹿島断層や敦賀原発の浦底断層の正確な位置を特定できたのである。また、日本原電は浦底断層ではボーリング調査も行ったが、調査データを自己の都合のよいように恣意的に解釈し、5万年間堆積土が動いていないという結論を出している(断層の上に積もった地層が5万年以上も動いていないからもう活断層ではないという解釈)。しかし、ボーリングで分かることは、ボーリング地点の情報だけであり、ボーリングとボーリングの間の地層は推定しかないのである。活断層は地下調査や地下探査で必ずしも「見える」とは限らない。調査のために「掘ることのできる範囲」も限られており、断層通過地点だけ見ていても見逃すことがあり、その周辺を含めた「広域的な変位・変形」も検討対象とすべきあるとし、谷底や段丘の変形、海成段丘面の局所的な変形など幅10m~数十kmにわたる緩やかな撓み(六ヶ所村のケース)なども検討すべきだとしている。
電力事業者や国では、これまで、断層面が「見えた」かどうかが重視され、見えない場合には「活断層はない」と判断されてきたが、地層が「狭い範囲に急激に撓みこんでいる」などの「地下深部に断層運動を想定しなければ物理的に説明し得ない現象」を見逃さないことである(雑誌『科学』2008.1 鈴木康弘・中田高・渡辺満久:「原発耐震安全審査における活断層評価の根本問題」、渡辺満久:「活断層見逃しの現場を見る」資料 2008.6.10 原子力資料情報室)。炉心直下に活断層の見つかったもんじゅなどは「当時の審査としては妥当」などという寝言を言っている暇はない。活断層が動き、MOX燃料を炉心に抱え・放射能を浴びた液体ナトリウム配管が複雑に絡み合う構造物を切り裂くこととなったらどうするのか。国・原子力機構は、来年2月の運転再開に向けて、規準地震動Ss―DHを評価結果に収まるような姑息な画策をするのではなく、過去の活断層評価の誤りを真摯に反省し、真剣に廃炉に向けた準備を進めるべきである。福井県も「エネルギー拠点化計画」などという戯れ言を何年も言い続けているのではなく、住民の安全のために廃炉を国に真剣に求めるべきである。
【出典】 アサート No.370 2008年9月27日