【投稿】自公政権打倒への政権交代
<<政治の劣化・疲弊・腐敗現象>>
自公政権は、あろうことか二年も続けて現首相が突如政権を投げ出すと言う、統治能力はおろか、もはや自らの自己管理能力さえもたない、あきれ果てた無責任きわまる実態をさらけ出してしまった。これは二世議員の幼稚さ、世間知らずのお坊ちゃま気質といった程度の問題では片付けられない、政治の劣化・疲弊・腐敗現象そのものの現われと言えよう。
9/1に福田首相は政権を投げ出し、9/10に自民党の総裁選を告示、それから12日間もの空疎で無内容な5人の候補者の全国行脚を演出、マスコミ・テレビはこれを垂れ流し続けた。NHKなどは、自民党広報局に成り代わったかと思えるような特別番組編成まであえて行うに至った。しかし五人の候補者は、いずれも小泉内閣の閣僚であったことからして当然なのであろうが、「市場原理主義・小さな政府・規制緩和・公的福祉予算の削減」という路線ではほとんど変わらず、差がない。石原候補と小池候補は純粋小泉路線の継続を訴える、石破候補の独自性は、軍事オタク丸出しの自衛隊海外派兵路線だけ。与謝野候補は、財務省の代弁者として財政危機を煽り立て増税路線を説く。本命の麻生候補は景気回復が当面の最大の課題だと訴えてはいるが、小泉路線こそが現在の日本社会の劣化と格差の拡大、自由放任・無責任主義の蔓延をもたらしたことをまるで自覚していない。「パートや派遣社員が増えたので、正規社員との所得格差は拡大したけれど、失業者がその分だけ減っているとすれば、社会全体としての格差は縮小したという面もあるのではないだろうか。」などと著書・『とてつもない日本』(新潮新書)で述べるお気軽さである。さらに麻生氏そのものが差別発言を日常茶飯事とする常習者であり、格差拡大の一方の富める家系の代表として、選挙演説で「下々の皆さん」と平然と言ってのけた人物である。これほど低劣な候補者しかそろえられなかったところにこそ、現在の自民党の疲弊し、腐敗した真の姿があるともいえよう。
<<麻生太郎氏の差別発言>>
東京新聞2008年9月15日付け朝刊で、政治学者で北海道大学教授の山口二郎氏が、「総裁の資格」と題して、以下のように書いている。
「自民党総裁選挙が始まったが、麻生太郎氏が大きくリードしていると新聞は伝えている。私は麻生太郎という政治家を基本的に信用していない。理由は以下の通りである。
魚住昭氏が書いた『野中広務 差別と権力』(講談社刊)という本の中で、麻生氏が野中氏について、被差別部落出身者を総理にするわけにはいかないと自民党河野派の会合で発言したこと、その後、引退直前の最後の総務会で野中氏自身が麻生氏の面前でこのことを暴露し、厳しく糾弾した。ことが書かれている。先月末、野中氏がTBSの番組に出演し、麻生氏を批判したことには、こうした背景があると思われる。
発言が事実なら、麻生氏は総裁失格どころか、政治家失格、人間失格である。差別を是認する者は、公的世界から即刻退くべきである。事実無根ならば、麻生氏はきちんとそのことを訴えるべきである。決して曖昧にできる話ではない。
メディアにもひとこと言いたい。一国の最高指導者になろうとする政治家について、その言動をチェックし、適格性を吟味することは、メディアの使命である。
アメリカのメディアは大統領候補について、そうした厳しいチェックを行っている。これだけ重大なことが本に書かれていながら、なぜ日本のメディアは何も伝えないのか。」
この山口二郎氏の指摘は非常に重要なことである。これは決して曖昧にできる話ではないし、メディアも言動をチェックすればすぐ分かることであるにもかかわらず、なぜ日本のメディアは何も伝えないのか、重大な問題提起といえよう。
野中氏本人は、山口氏が指摘しているように、今年の8月24日放映のTBS番組『時事放談』で、「私は、私個人のことについてもですね、麻生総理総裁が出来たらね、自分の生命にかけて、国民に分かるようにしますよ」と発言している。麻生氏が野中氏に対して明確に釈明なり、謝罪できないのであれば、総理総裁どころか、議員としての資格さえないといえよう。
そんな麻生氏であるが、「政権禅譲密約」、出来レースの締めくくりとして、9/22の投票で麻生総裁を決定。9/24に首班指名と組閣、臨時国会冒頭の所信表明と選挙向けのばら撒き補正予算を提示。そして、麻生人気が衰えない内に、麻生氏の差別体質と放言癖の馬脚が現われ、賞味期限切れにならない内に、まだ支持率の回復とご祝儀相場が期待できる内に衆議院の解散・総選挙になだれ込む、これが腐りきった自公政権の意図するところであろう。実に一ヶ月近くの、解散・総選挙まで含めれば二ヶ月近くの政治的空白が浪費されようとしている。
<<ブッシュの右往左往>>
この間9/9には、くすぶり続けていた米住宅金融2社(政府系住宅金融の連邦住宅抵当公庫・ファニーメイと、連邦住宅貸付抵当公社・フレディマック)の破綻回避と救済に向けた2000億ドル(約21兆6000億円)もの公的資金注入が明らかにされ、バブル破綻の巨大な悪影響がますます懸念されることが明らかになった。住宅ローン債権を元にした両社関連の証券は各国の金融機関や中央銀行などが約1兆6000億ドル(約170兆円)も保有しており、日本の金融機関の購入額も約14兆円に上っており、政府・日銀でも8兆円分保有している。両社の破綻は直接的な、日本も含めた世界的な金融危機の連鎖を引き起こし、ドル暴落の引き金にもなりかねない事態であった。
同じ9/9に、米大手証券リーマン・ブラザーズ株は45%も急落、9/11には同社の株は3ドル台に暴落、9/15にはついに破産申請に追い込まれ、清算手続きに入った。負債は六十兆円に上り、アメリカ史上最大の企業倒産である。そして同じ9/15にはリーマン同様にサブプライム問題関連の損失拡大に苦しむ米証券大手メリルリンチが米銀大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)に買収、合併されることが明らになった。同日、これによってバンカメ株は上がるどころか、逆に21%も値下がりしている。たった一日で米四大投資銀行の内、二つが消えてしまったのである。さらに同じ9/15、世界最大の保険会社AIG株が61%も下落、翌9/16には、ついにAIGの破綻が明らかとなり、リーマンを見放した米連邦準備制度理事会(FRB)は、AIGについては総額850億ドル(約8兆8千億円)の公的資金を緊急融資し、同社の株式の8割を購入する権利を取得し、事実上の国有化に踏み切らざるを得なくなった。アメリカ発のマネーゲーム野放しの自由競争原理主義が招いた金融恐慌という事態に全世界は直面しているのだと言えよう。
9/17のニューヨーク株式市場は、前日比449.36ドル安の1万0609.66ドルと急落、全世界の株式市場は全面株安とドル売りが席巻する事態となった。
9/19、ブッシュ大統領は声明を読み上げ、「米国経済は前例のない困難に直面しており、我々は前例のない手段で対応する」と強調、まさに「前門の金融危機、後門のドル暴落」という事態に、ブッシュ政権にとっては場当たり的対応、右往左往の連続であった。問題はこれで終わらず、これからさらに厳しい事態が、金融恐慌から本格的な経済恐慌へと深化していく危険性が高まっている。米大統領選で巻き返しに成功したと言われていたマケイン陣営は、こうした事態の進展に一気に苦戦に追い込まれている。
<<政策転換の基軸>>
ところがこの間の日本は、福田政権であれば当然なのでもあろうが、政権投げ出しに引き続く政治的空白の連続によって、こうした世界恐慌の様相を帯びる事態をただ手をこまねき、傍観し、何ら有効な政策的決定も打ち出しえない、世界の投機マネーのなすがままに放置されている状態が継続している。
今、日本政府がなすべきは、これまでの小泉路線、「市場原理主義・規制緩和・小さな政府・社会福祉削減」路線を排し、投機マネーへの課税強化と市場の民主的規制に踏み出すことである。そして、庶民減税と累進課税の強化、不正規雇用の全面的規制と最低賃金の大幅引き上げ、福祉重視と社会資本の充実、環境保護と農業保護、危険な原発廃止と自然エネルギー重視の政策へと政策軸を大きく転換することこそが必要であろう。もちろんそれらの前提条件として、アメリカの戦争政策追随を拒否し、軍事予算増大、自衛隊の海外派兵、ミサイル防衛網の構築など有害無益な垂れ流し政策をストップさせることが必要である。
一部富裕層のみが豊かになり、社会の貧困化がよりいっそう進展し、格差がよりいっそう拡大する自由競争原理主義が、政治的にも経済的にも明確に破綻した今日、圧倒的多数を占める庶民の経済的社会的地位の向上をもってこそ、社会の底力が強化され、景気回復の最大の原動力となることを肝に銘ずべきであろう。その意味でこそ「国民生活が第一」(民主党の選挙スローガン)でなければならないし、自公政権に対置すべき政策を具体的に明示すべきであろう。
政権交代は、このような政策転換に一歩でも二歩でも近づき、その成果が有権者に還元されるものでなければならない。ましてや、政権交代がそのような政策転換をうやむやにさせてしまう「大連立」などの踏み台にされるようなことがあってはならない。
解散・総選挙の日程がいよいよ固まり、自公政権を妥当する最大のチャンスが到来している今日、野党の対置すべき政策、結束こそが試されている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.370 2008年9月27日