【投稿】インド洋に轟沈した安倍政権

【投稿】インド洋に轟沈した安倍政権

<テロ対策支援の実態>
 安倍総理の突然の辞任表明で流動化する政局の中、テロ特措法問題は新たな局面を迎えようとしている。現行法の延長は絶望的であり、政府は新法による給油活動の延長を狙っている。これは、海上自衛隊の活動を給油に限定する一方、国会承認を必要としないという、民主主義を否定する内容となっている。
 現在の海上自衛隊の活動は給油と給水で、米・英やパキスタン海軍等「連合軍」の命綱となっており、日本が撤収すればインド洋上での対テロ戦線が崩壊する、国際公約が守れなくなると、政府・与党は盛んに喧伝している。
 しかし、この間「テロ対策支援」実態が明らかになってきており、虚構のうえに成り立った政府の主張が崩れ始めている。インド洋上での「対テロ活動」の実態は「アフガン復興支援」とは程遠いのが現実だ。「連合軍」はインド洋ではあるが、ペルシャ湾からソマリア沖に展開されており、事実上イラクシフトなっている。主要な任務はイラク情勢への対応であり、自衛隊が米軍に補給した燃料の約8割は、そのために使われたと、当事者の米第5艦隊が明らかにしている。
 また政府・外務省は「日本の高品質の燃料でなければパキスタン艦艇は動かない」などと荒唐無稽な説明をしていたが、11日の記者会見で吉川海上幕僚長は、あっさりとこれを否定した。
 さらに朝日新聞によると「防衛閣僚経験者の一人」が「イスラム国家のパキスタンが米国から給油をうけるとパキスタンの国内世論がもたない」と語ったと伝えているが、そもそもパキスタン世論はアメリカ主導の作戦にパキスタンが参加していること自体に批判的なのであって、本末転倒もはなはだしい。
 そもそもアルカイーダなどに対する臨検などは、補助的なものに過ぎないし、「テロ組織」は船舶を利用した人・物の移送などは、ほとんどしていないのである。産経新聞でさえ「日米軍事筋によると、海自のインド洋での活動開始から今年6月までの5年半に、(連合軍の臨検で)摘発されたのは8件で、大半は同海域でタンカーや商船を狙った海賊で・・・イスラム・テログループは含まれていない」と報じているほどだ。

<日本脱落も視野のアメリカ>
 こうした虚構のうえに成り立っているテロ特措法の役割は、安倍政権の対米貢献のシンボル以外のなにものでもない。
 米中東海軍副司令官のスイフト准将は、インタビューに対し「海上自衛隊による補給がなくなることの損失は大きいかもしれないが、何とか対応可能だ・・・本当の問題は日本が(有志連合に)関与しなくなることだ」(毎日新聞9月12日朝刊)と正直に答えている。
 この間アメリカは、6カ国協議での北朝鮮との妥協、下院本会議での「従軍慰安婦決議」採択など安倍政権の神経を逆撫でする行為を平気でしてきた。対米追随以外に外交上の代替戦略を持たない日本政府としては、何とかアメリカに恩を売る機会を手放したくないと必死なのである。
 しかし、参議院選挙の結果、アフガン派兵など新規の対米軍事貢献は不可能になった。これまで政府はテロ特措法、イラク復興支援法を制定し陸・海・空三軍の派遣を強行してきた。しかし昨年の陸自イラク撤退に続き、海自も撤退すれば、のこるはクウェートの空自のみとなる。これとて、参議院選挙前の強行採決での駆け込み延長であり、遅くとも参院与野党逆転下の2年後に失効となるのはほぼ確実となっている。
 この間ブッシュ政権は、給油活動延長への期待をアピールしているが、作戦上は大きな支障がないことが明らかとなっており、実際は日本脱落も視野に入れているのではないかと思われる。

<日本抜きでも活動は継続>
 海上自衛隊撤収後の代替としては、アメリカとの関係強化が進むインドが考えられる。インド海軍は、空母1を含む艦船141、兵員5万という当該海域の海軍としては、最大の戦力を保持しており、補給活動に欠かせない補給艦3、給油艦6、給水艦1も保持している。国内ではイスラム過激化のテロが相次いでおり、「対テロ」の大義名分もある。アフリカ東海岸を含むインド洋での活動を考えれば、遠く離れた日本よりまさに「自らの海」であるインド海軍のが、よほど適役なのは疑う余地がない。
 今年4月には初の日米印合同軍事訓練が、房総南方海域で、9月には日米印にオーストラリアを加えた演習がベンガル湾で展開されており、インドが洋上での対テロ活動に参加する条件は整いつつある。問題はインドと微妙な関係にあるパキスタンの動向である。パキスタン海軍は活動継続を表明しているが、先のモスク占領事件などで不安定化した政情は、今後ブット前首相の帰国でますます流動化するのは確実である。そのような時期、脆弱な海軍(艦船40、8万5千トン、インドは08年就役の空母1隻で4万5千トン)の派遣は大きな負担であり、対テロ戦線は陸上に限定してもらいたいのがムシャラフ政権の本音であり、日本の撤退を機に戦列のシャッフルもありうるだろう。

<アメリカに見捨てられた安倍>
 APECで空手形を切りまくった安倍は、「テロ特措法延長に職を賭する」と発言、自ら退路を断ったうえ帰国、所信表明演説の翌日唐突に辞任を表明した。テロ特措法の見通しが立たない上、日米首脳会談で「北朝鮮へのテロ支援国家指定解除」「米朝国交樹立」などが伝えられたのでは、という観測も流れている。
 自らの対外公約も国内公約も大きく崩壊し、耐えられなくなったというのである。いずれにしても、ブッシュ大統領が、内患外憂に苦悶する安倍に助け舟を出さなかったのは事実であり、そればかりか追い詰め、最後には突き放した感さえある。
 仕切りなおしとなったテロ対策支援問題であるが、福田新総裁は給油活動継続の意向を表明しており、民主党も反対の姿勢を崩していない。国民の判断を求めるため、早期の解散・総選挙で、対米貢献を是正しアジア重視の協調外交を推進する政権の確立が望まれる。
(大阪O)

 【出典】 アサート No.358 2007年9月22日

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