【投稿】北陸電力志賀原発1号機臨界事故の恐怖

【投稿】北陸電力志賀原発1号機臨界事故の恐怖
                           福井 杉本達也

1.事故の概要
3月15日、北陸電力は志賀原発1号機(石川県志賀町・出力54万キロワット)で1999年6月に「臨界事故」が発生し、しかもその事実を8年間もひた隠しにしていたことを明らかにした。事故が起きた当時、1号機の原子炉は停止中であり、定期検査中であった。核反応を抑える制御棒89本のうち3本が炉心から抜け落ちて「臨界状態」となったものである。臨界状態になると緊急停止信号が出るが、検査の作業中であったため、停止装置は作動せず、運転員が手動で制御棒を元に戻した。その間約15分間が臨界状態であった。原子炉本体の原子炉圧力容器とその外側にある鋼鉄製の圧力容器の上蓋はいずれも開放状態であった。
発表によると、事故発生の原因は制御棒の駆動に水圧を利用しているが、事故時は制御棒試験のため、各制御装置にそれぞれ付いている弁を閉める操作を行っていた。作業員は閉める順序を誤り制御棒を下からの圧力で支える弁を先に閉め、制御棒を抜く方の弁が開いており、水圧がかかったために制御棒が抜け落ちたものである。

2.「臨界」とは
周知のように原発の燃料であるウラン235は核分裂を起こし、その際膨大なエネルギーを放出する。同時に、中性子が放出されるが、その中性子が別のU235に当たると、そのU235も核分裂を起こす。この核分裂反応のサイクルが絶え間なく連続する状態を「臨界」という。通常U235が核分裂する際には平均2.5個の中性子を放出する。しかし、わずか10万分の1秒に2.5倍となるねずみ算式の核分裂が1/10秒時間も継続すれば原子炉が暴走し、核爆発のように原子炉が吹っ飛び膨大な内部の放射能をあたりに撒き散らすことになる(実際は、核分裂しないウラン238や炉構造物に吸収されたりする中性子もあるので、2.5倍よりはかなり少なくなる。それでも、100万キロワットの原発の破壊力はビキニ水爆の1万分の1にもなる。:『原子炉の暴走』石川迪夫著(1996.4:日刊工業))。その典型事故が1986年に旧ソ連・ウクライナ共和国で起こったチェルノブイリ原発事故である。
しかし、原子炉が崩壊するようでは安心してタービンを回し発電することはできない。そこで、核分裂がねずみ算式には増えていかないように、しかし、核分裂反応の連続する状態が続くように制御しようというのが「制御棒」の役割である。単純化していえば、中性子の放出が1個(K=1)になるような状態を継続すればよい(逆にK<1、たとえばK=0.9では縮小していくので臨界は継続せず原子炉の火は消えてしまう)。残りの放出される中性子1.5個が制御棒などで吸収されてU235に当たらなければよいのである。

3.原子炉の暴走
今回の事故隠しの重大性はこれまでの事故隠しとは根本的に異なる。今日の日本の軽水炉ではありえないといわれた原子炉の暴走が起こってしまったからである。通常、原子炉では+型の制御棒の周囲に燃料棒の集合体が4本配置されており、この1本の制御棒を抜いても「臨界」にならないようにK<1以下のぎりぎりの値であるK=0.99になるように設計されている。そうしなければ、1本抜いただけでいきなり暴走するからである。原発の運転ではけっして制御棒を1本抜いた燃料集合体の場所と次の燃料棒を抜く箇所が連続しないように1本置きに千鳥格子状に燃料棒を抜いていく(ワン・ロッド・クリティカルの禁止=1本の制御棒(control rod)を抜いただけで臨界状態(critical state)に至らないように設計すること)。連続して抜くとK>1となってしまうからである(ではK=0.99の制御棒をいくら千鳥格子状に抜いても臨界に達しないのではないかとの疑問が湧くが、何本かの引き抜き箇所から漏れ込んでくる中性子があるので丁度K=1という「臨界状態」に達する)。
北電の抜けた3本の制御棒のうち、2本は隣同士で抜けている。ワン・ロッド・クリティカルの禁止が破られたのである。残り1本はこの2本とは千鳥格子状の箇所で抜け落ちている(2007.3.16:福井)。故意であろうか、経済産業省の北電志賀1号機の事故報告第6報(3.30)には抜けた制御棒の位置を示す平面図はない。
日本原子力技術協会理事長の石川迪夫氏は上記『原子炉の暴走』「原発の安全解析」の項で制御棒1本の落下事故を以下のように解説している。「制御棒の落下という想定は、制御棒の駆動機構を考えれば非現実的である。制御棒には駆動用の連結棒が下方から差し込まれていて、それが圧力容器の下に取り付けられた駆動機構に直結している。したがって連結棒が消えて無くなってしまわない限り、落下することはあり得ない。仮に、外れた連結棒が横にずれたとしても、狭い炉心では制御棒がずれ落ちる隙間はない。したがって制御棒の落下という想定は現実的に起こりえないのであり、その想定自体が不適格と主張する人もいる。だがこの想定は安全評価用の想定として原子力開発の当初より採用されている。SL-1の事故を起こした原因が駆動機構による引き抜きより早かったという事例を重んじ、多少無理なところはあっても認めている」(P147)と。 しかし、原発の専門家と自負する学者達が『想定外』としていた事故が現実に起きていたのである。ことは極めて重大である。沸騰水型原発(BWR)の安全の根幹にかかわる事故である。
4.沸騰水型原子炉の「臨界管理」の崩壊
原子力を扱う場合の基礎の基礎は「臨界管理」である。臨界状態にならないように核分裂性物質を取り扱わねばならない。U235の場合の最少臨界質量は溶液では0.82kg・金属では22.8kgである。プルトニウム239の場合は溶液で0.51kg・金属で5.6kgである。これ以上の質量を同一の箇所に置いて作業してはいけないのである。
臨界を防止するために、濃度の如何にかかわらず臨界には至らない形状とする「形状管理」、濃度を制限する「濃度管理」、質量を制限する「質量管理」などが行われている。しかし、小分けしていては作業効率が悪いといって、無視して大型の容器に移し替えて起こしたのが東海村JCOの臨界事故である。通常の原発の場合には上記で説明した「ワン・ロッド・クリティカルの禁止」というものがこれにあたる。制御棒1本が抜けてもK=0.99では臨界にはならないということは「質量管理」であり「形状管理」である。今回2本以上の制御棒が同時に抜けたということは、この「臨界管理」ができなかったことを意味する。

5. 沸騰水型原子炉は運転をやめるしかない
BWRではなぜ重力に逆らって圧力容器の下から制御棒を差し込む設計をしているのか。「BWRにおける制御棒の利き方が炉心の上部ではあまり効果的ではないためである。…BWRの炉心の上部にはボイドがいっぱい溜る。ボイドのいっぱいある領域では中性子の減速が悪いから、核分裂反応は不活発となり制御棒の利き鈍くなる」(上記:石川:P140)からである。今回の事故で「臨界管理」が破られたという事実は、こうした重力に逆らって制御棒を差し込むBWRの設計思想に根本的な欠陥があることを明らかにした。「臨界管理」の思想とは、たとえどのような想定外の機械的故障や人間の操作ミスが重なっても臨界を起こさないということである。それができない原子炉は使用してはならない。今回の北電及び東電の一連の臨界事故に際し、北電はメーカである日立の担当者に対し“口止め”を要求し、東電は日立に“偽装工作”を要求した(2007.4.7:福井)という。原子力関係者の腐敗堕落もきわまった。そのような者に原子力の安全管理をまかせてはならない。

【出典】 アサート No.353 2007年4月14日

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