【投稿】崩壊するアメリカのイラク占領

【投稿】崩壊するアメリカのイラク占領

<「大御所政治」でイラク政策見直し>
 アメリカ中間選挙でブッシュ・共和党は大敗北を喫した。その敗因は泥沼化したイラク戦争に対する国民の痛烈な批判であった。選挙直後、ブッシュはトカゲの尻尾切りとして、ラムズフェルド国防長官を更迭、後任にイラク政策の見直しを唱えるゲーツ元CIA長官を据えた。ゲーツは就任前の12月5日、上院軍事委員会公聴会で「アメリカはイラクで勝利を収めていない」と、現状を憂慮、国防長官としての最優先事項として、イラク問題に取り組むことを強調した。 
 一方詰め腹を切らされたラムズフェルドは辞任表明後、「中間選挙投票日の直前にイラク政策の変更をブッシュに提言していた」とマスコミにリークするなど追求逃れに躍起になっていたが、12月8日には国防総省で「駐留米軍は最大限の努力をしているが、軍事的な勝利は不可能だ。イラク人の手で勝利を勝ち取るべきだ」とのべ、自らの責任を放棄し開き直っている。
こうしたなか、ベーカー元国務長官、ハミルトン元民主党下院議員が共同代表を務める、米連邦議会の超党派諮問機関「イラク研究グループ」(ISG)は12月6日、米軍戦闘部隊の全面撤退を含む報告書をブッシュに提出した。
 イラク政策の転換を担うこととなったゲーツもべーカーも「パパブッシュ」政権に参画した重鎮である。今回の人事も政策提言も、泥沼に落ち込んだ息子の窮地を救うために、父親が根回しをおこなったと見られている。徳川家康よろしく大御所として乗りだしてきたわけである。もはやブッシュ大統領は当事者能力を失いつつあると言っても良いだろう。
 
<「フセインのほうがまし」>
 イラクでは11月下旬以降、シーア派とスンニ派間での大規模テロや襲撃、暗殺が相次ぎ、民間人の犠牲は拡大する一方である。11月27日には米NBCテレビはアメリカ主要メディアとしては初めて「イラクは内戦状態」と報道した。
追い打ちをかけるようにアナン国連事務総長やパウエル前国務長官も「イラクは事実上内戦状態」と発言、アナンに至っては「普通のイラク人の生活はフセイン政権時代の方が良かった」と述べるなど、絶望感が急速に拡大している。
このような見方に対してイラク・マリキ政権は、内戦状態を否定しつつも「イラクの軍、警察が武装勢力を制圧できないのは、十分な装備が無いからだ。アメリカ軍は内部抗争への横流しを懸念して重火器を渡さなかった」(イラク国民議会アティーヤ副議長)と嘆くしかないのが実情である。
 しかしアメリカ軍も打つ手が無い状態どころか、11月末には開戦以来の駐留期間が太平洋戦争を超え、戦死者も三千人に達しようとしている。捕虜や市民に対する虐殺やレイプなどの残虐行為も次々明らかになるなど、駐留軍の士気低下は深刻である。
アメリカ国内世論も中間選挙以降も厳しさを増している。先日おこなわれたAP通信の世論調査では、ブッシュのイラク政策の不支持率は70%を超え、半年以内の全駐留米軍撤退を支持は60%に上った。イラクで「明確な勝利が得られる」と考える人は9%にしか過ぎず、反対に「何らかの妥協が必要」と思う人は87%達した。国民も完全にブッシュを見放している事が改めて明らかとなり、状況はますますベトナム戦争に近づいていると言えるだろう。

<アメリカ軍撤退へ道筋>
 このような内外情勢を踏まえ、提出された報告書は「イラクの現状は深刻で悪化している」と楽観論を全面的に否定したうえ、イラク政府がイラク人主体の治安強化策を進めない時は、アメリカは政治、軍事さらには経済支援を削減すべきとしている。
 またISGは、米軍の主要任務はイラク政府軍など治安機構の練度向上であるべき、と提言。そのための支援要員を現在の5倍の2万人に増強すべきと主張、イラク軍が強化されれば、アメリカ軍の全戦闘部隊2008年3月末までに撤退させることが可能との見通しを示した。
さらにISGは中東政策全般にわたっても言及。アメリカ政府に対し、イランとシリアとの直接対話を行い、アラブ諸国とイスラエルの和平実現に向けての努力を促している。
 この報告について当初ブッシュは「評価はするがすべてを受け入れるわけにはいかない」などと、難色を示していた。しかし、国際社会がISG報告について肯定的に評価し、否定的なのはイスラエルぐらいとまったく旗色が悪くなるなか、12月7日ブレア英首相との会談後にひらかれた共同記者会見で受け入れを表明せざるを得なくなった。
 ブッシュは「報告は非常に納得できる内容だ。わたしは常に、駐留米軍を可能な限り早く撤退させたいと表明してきた」と発言、イラン、シリアとの直接対話についても、条件を付けつつ、イラク情勢をめぐる地域支援グループに両国を含めることに柔軟な姿勢を示した。先にさらに12月9日には、全米向けラジオ演説で報告について「すべての提言を真剣に検討したい」とのべるまでに至った。ブッシュは国民に対して、豪華なクリスマスプレゼントを届ける必要に迫られている。
 
<動揺隠せぬ安倍政権>
ブッシュの方向転換に安部政権は動揺している。塩崎官房長官はISG報告について「米国が実際にどのような政策として取り上げるのか見たい」と様子見の姿勢をうかがわせつつ「今後はあらゆる可能性を想定しながら、独自のステップを踏めるよう検討する」と方針転換を画策していることを隠さなかった。航空自衛隊の派遣期間は延長されたが、陸自と違い拠点はクウェートであり、撤収は容易だ。
 その当事者の久間防衛庁長官は12月7日の参院外交防衛委員会でイラク戦争を「政府として支持すると公式に言っていない」と発言、安倍らを慌てさせた。翌日の記者会見で久間は「当時の閣議決定があった」と発言を訂正したものの「決定には今も疑問を持っている」とものべた。初の防衛大臣に就任予定の閣僚が、こうした見解を堂々と披瀝する事自体、政府内の動揺を端的に表している。政府・与党はブッシュの「盟友」小泉が予定通り退任したことに安堵しているだろう。(大阪O)

 【出典】 アサート No.349 2006年12月16日

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