【投稿】相次ぐ大型談合事件摘発の背景に何を見るか

【投稿】相次ぐ大型談合事件摘発の背景に何を見るか
                                福井 杉本達也

福島県、和歌山県、宮崎県、福井県などで大型談合事件の摘発が続いている。こうした談合事件の全国的な摘発は、たまたま各地の動きが重なったものなのか。あるいは談合という行為は全国的に蔓延しており事件は氷山の一角に過ぎないものなのか。それとも別の大きな政治的意図が隠されているのか。事件はまだ流動的だが、11月28日付の毎日新聞の斎藤良太記者ら4名連名の責任を持った署名記事はその意図の一端を以下のように書いている。「<談合事件>全国で摘発続く 検察、警察のねらいは…」と題し、「米国政府は、対日要求『年次改革要望書』に、毎年のように談合問題を掲載してきた…02年7月に竹島一彦委員長が就任して以降…大規模事件につながる摘発を続けてきた。さらに、改正独禁法が今年1月施行され、国税当局と同様の強制調査権限が新たに与えられた。また、従来は東京高検のみだった告発を全国各地の地検にできるようになり、検察当局と連携が強まった…橋梁談合の摘発は、今年8月に国際検察官協会(IAP)から特別功績表彰を受けた但木(ただき)敬一検事総長も9月、全国の高検検事長や地検検事正が集まる『検察長官会議』で、引き続き談合の徹底捜査を訓示した。」(毎日:2006.11.28)。記事は官僚2名を名指しすると伴に、米国の対日要求『年次改革要望書』を出して一連の事件の背景を説明しようと試みている。

1. 対日要求「年次改革要望書」には何が書かれているか
そもそも、「年次改革要望書」というマイナーな外交文書は日本のマスコミや学者の間ではこれまでほとんど表舞台で取り上げられたことはなかった。「郵政改革」などをめぐり、森田実氏や故吉川元忠氏・本山美彦氏・中尾茂夫氏など一部評論家・学者が問題視しているだけである。関岡英之氏は、「毎年秋に米国政府と日本政府が交換してきた公式文書…相手国の法律や制度の中で、自国にとって都合の悪い部分を変更するよう要求を突きつけるもので…過去十年、日本の国内問題として論じられ、実施されてきた『規制改革』や『構造改革』の少なからぬ部分が、実は事前に米国から与えられていた宿題だった…にもかかわらず、日本国民のほとんどがこの文書の存在や内容をきちんと知らされていない。日本政府は説明責任を果たさず、マスメディアも報道責任を果たしていない」(吉川元忠、関岡英之『国富消尽』P40)と明快な解説をしている。
『日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書』(2005 年12 月7 日 原文は英文 在日米国大使館のHPに日本語訳)は改正独禁法の運用と談合について次のように指摘している。「米合衆国は、2005 年の独禁法改正による日本の競争政策制度の重要な改善を歓迎し、これらの改正の有効的な履行を期待する。…さらに、最近の事件はその多くが政府職員により幇助された談合が日本の重大問題であり続けていることを証明しており」として、「独禁法違反者に対するより厳しい刑罰の奨励、刑法の施行を強化するための公取委の新たな調査権限の履行、談合の通報を企業に奨励するために、国土交通省内に行政措置減免制度を導入、談合の再発を防止するために…再犯者に対する指名停止期間の下限の引き上げ」、「談合行為によって受けた損害を…企業に対し損害賠償を請求する審決を履行する。」、「(一般)競争入札が用いられる事業数を最大限にし、日本または外国企業がそれらの本店または支店の所在地によって入札資格が奪われることのないよう保証する。」と。まさに、改正独禁法施行後の事細かな実施計画を手取り足取り日本政府に要求していたのである。さらに厚かましくも2006年12月5日付けの『年次改革要望書』では「独禁法違反事件を扱う検察官と裁判官を教育する計画を実行すること、不当カルテル活動に係わる個人に対して、5年の刑事罰を科すこと」、さらに今年度はわざわざ「地方自治体の契約に関して」も要求している(原文は現在英文のみ)。なお、12月6日付の日経を始めほとんどのマスコミは2006年版要望書の提出を無視している。

2. 竹島一彦公取委員長はわざわざ米国まで行って、独禁法の見直しを“宣誓”
竹島委員長は2003年9月、ワシントンで全米法曹協会会員に対し「競争分野で世界をリードしている米国から多くを学び,我が国において競争という考え方を広く国民に浸透させるべく,絶えず努力をしてまいりました…今回の独占禁止法の見直しは…我が国経済社会に与えるインパクトは大きいものがあります…私に与えられた5年の任期のうち,既に1年が経過したわけですが,残り4年のうち,最初の2年は独占禁止法の強化に全力で取り組み,残りの2年は改正後の独占禁止法が定着するようその執行を厳正に行うこととしたいと考えております。」(竹島公取委員長 全米法曹協会主催講演予定原稿:2003.9.17 公取委HPより)と“宣誓”した。2005年には独禁法改正の目標を達成したので、残る約束は適正な執行である。本年1月以降の各種談合事件の摘発はこの延長線上にある。「水門工事を巡る入札談合で3月末、関与企業の情報提供(企業の自首)が発端とみられる立ち入り検査を…4月末にはし尿・汚泥処理施設工事の談合容疑で強制調査権に基づく家宅捜索」に入り、いずれも三菱重工業や日立造船、住友重機械工業、三井造船、JFEエンジニアリングなどの名だたる企業が連座し、産業界を震撼(しんかん)させたのである(日経:5.1)。
一方、官製談合について竹島委員長は、「国・地方公共団体等の「官」の意識を改革しなければ根本的に解決できない問題もございます…入札制度ひとつとっても,競争原理が働きやすい一般競争入札制度を導入する、過度に競争性を低下させるような入札参加要件を設けない」(一橋大学COE/RESプログラム国際シンポジウム:2006.1.18)と発言し、米国の要望書に沿って9月には自治体等への強制捜査にも入ったのである。

3.競争法は本当に消費者の利益をもたらすか
竹島委員長は「競争法の厳正な執行による違反行為の排除が競争力のある事業者の育成を促し,活力ある経済を生み出すとともに,我が国の消費者への利益をもたらす」(前記:全米法曹協原稿)と盛んに強調するかははたしてそうであろうか。
国土交通省の発注工事で・鹿島などゼネコン大手四社の落札率は、昨年は平均97%程度だったが、1月の改正独禁法施行後の1~3月期は79%に急落した(日経:6.14)。福井県では土木工事のたたき合いで139社が最低制限価格(85%~66%)を下回り失格となっている(福井:11.3)。静岡県の高架橋設備入札では落札率が40%まで低下、北海道開発局発注の夕張シューバロダム堤体建設期工事は予定価格50億円に対し、落札した大成建設らJVの入札価格は23億円と落札率46・6%という数字が業界に衝撃を与えた。単純にゼネコンの儲けが減ったなどといえる段階ではない。「シューバロのような例では下請けも苦しい。断ればその後の仕事がなくなるし、やむなく請け負っても安値落札のしわ寄せを食う」(日経:6.21)。落札率の異常な低下は「常識外れのコストの外部化が図られ…環境負荷の対策を疎かにしたり…安価な不安定就労に依存したり、果ては法定負担費用を逃れたりなど、反社会的な行為を助長する結果に結びつくこと」すらある。「落札率を見るだけでは、妥当な金額で落札されたかどうかの判断はつかない」のである(「自治体における入札・契約制度の課題」宮崎伸光:『月刊自治研』2006.6)。建設業界には56万杜がひしめく。568万人が働き、就業者全体の9%を占める。あふれ出る雇用はどこで吸収するのか。
このような規制緩和が何をもたらすかはタクシー業界の現状を見れば明らかである。2002年1月の道路運送法の改正により、タクシー台数の規制がなくなった。車両数は04年度で21万9千台と、改正後に1万台以上増え、経営が厳しく、運転手の長時間労働が深刻になっている。公取は「談合」の取り締まりに熱心な割には「取引上の優越した地位を背景とした優越的地位の濫用といった不公正な取引方法」に対してはきわめて不熱心ではないのか。運輸業界では1990年に参入規制が緩和された結果、事業者数が1.5倍になったが、過当競争の中、荷主からの「優越的地位を濫用」した運賃切り下げの要求が日常的になっており、過労運転による交通事故は枚挙に暇がない。公取自身の調査でも、物流事業者が荷主から一方的な代金引き下げの要請について「よくあった(4.6%)」、「ときどきあった(26.1%)」と回答しており、約3分の1が一方的な引き下げの要請を受けていることとなる。要請があったと回答した物流事業者の対応として、「要請どおり承諾した(33.6%)」、「代金引き下げ自体は承諾したが、引き下げ幅は自社の意向も酌んでもらった(59.9%)」、と多くの物流事業者が荷主からの引き下げ要請に対して応じざるを得ない実態が浮き彫りとなった。さらに、荷主との協議について、「協議の機会を与えられなかった(32.6%)」、「協議したが、十分とはいえなかった(43.2%)」と回答している(公取調査 2006.3.15)。
また、11月のNHK「クローズアップ現代」では、トヨタ子会社やシャープをほぼ名指しして派遣労働者が「労災飛ばし」や「労災申請拒否」にあっていること、派遣経費を一方的に削られ労働保険等の支払いに困った派遣会社が倒産したことを報道している。桶のタガを外すような競争政策が労働市場に何をもたらしているかを十分吟味しなければならない。

4. 検察による強引な“門戸開放”
1987年に関西国際空港プロジェクトへの米国の大手建設会社ベクテル社の参入を強引に認めさせて以来、米国が日本の公共事業の入札制度や独禁法行政に長年干渉してきた“成果”がようやくでようとしている。国交省は独禁法の施行と鉄製橋梁工事をはじめ相次ぐ談合摘発の圧力を受け、5月23日に「公共事業の入札・契約に関する適正化指針」を改正した。その中身は、○一般競争入札の拡大と○総合評価の拡充である。しかし、まだそのハードルは何本かある。国交省の「総合評価」は“くせ玉”でもある。国交省は土木技術官僚の牙城である。そこに一般競争入札を持ち込めば技術官僚はいらなくなる。また、地方自治体の入札制度は「公共事業も『地産地消で』」(福島県 日経:10.26)というように徹底的に地域分割的である。都道府県では、まず、事業者を規模ごとに特A・A・B・C・Dのランクに分け、入札金額の参入区分を決め、それを土木事務所の管轄区域ごとに振り分けている。X土木管下の事業者がY土木の指名入札に参加することさえもかなり困難である。それを外国企業にも“門戸開放”しようとするには、官憲をも使った強引さが必要なのである。市町村合併など国の政策に異論を唱えてきた佐藤栄佐久前福島県知事が10月に、改革派とされた木村和歌山県知事が11月15日に、12月8日には県職員上がりの安藤宮崎県知事が逮捕される中、全国知事会では、官製談合の再発防止策を話し合うプロジェクトチームを設けた。改革案の柱として(1)一般競争入札の拡大(2)入札前後の情報公開の徹底などについて検討を進めるとしている。

5. 入札改革はどうあるべきか
これまでの指名競争入札は業者の「指名」をどうするかで「官僚支配」と「不透明感」がつきまとっていた。土木所長のエネルギーの大半は肝心な技術評価ではなくこの「業者指名」に割かれている。一般競争入札にし、最低制限価格を無くせば基準は「価格」だけであるから単純明快ではある。しかし、「『発注者に最も有利』な契約希望金額を提示する受注希望者が、必ずしも真に適切な契約相手とは限らない」(宮崎伸光:上記)のである。
複雑で困難な道ではあるが、ここはあえて「総合評価」の方向をめざすべきであろう。既に大阪府では障害者雇用率の達成率を点数化し、「行政の福祉化」という政策意図にしたがった事業者選定=総合評価方式を庁舎清掃業務などに取り入れている。2005年の総合評価項目として「価格評価」50点・「技術的評価」14点・「福祉への配慮」30点・「環境への配慮」6点として評価している。(吉村臨兵:「公共サービス分野における労働環境の間接的規制」『社会政策研究』2006.4、大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(エル・チャレンジ)冨田一幸:「入札制度に挑んだ障害者雇用・行政の福祉化」『部落解放』2005.8)。 一般公共事業の場合には当然ながら本来の技術的評価の占める割合が大きくなる。しかし、これが最も困難な課題である。橋梁工事やトンネル工事・建築工事などは、この間、設計を丸投げしてきた自治体技術者より民間技術者の方が遥かにレベルは高い。低い方が高い方の技術評価はできない。そこで、例えば、2003年度から設けられた指定管理者制度は委託契約ではなく「指定処分」という位置づけであるが、価格によるのではなく、管理技術や職員の専門性などの総合評価が行われている。指定に当たり、自治体職員だけではなく外部の専門家などが加わった委員会も設けられた。また、メーカーと発注者の間に技術格差が有りすぎるプラント工事などの場合には、環境省が今年4月に示したごみ処理施設の「入札・契約の手引き」のように、コンサルタントを含む専門家集団の支援による技術評価などの手法を提案している。「金額の大きい工事は技術評価を中心として技術的評価点を高く、小さい工事は雇用・福祉への配慮点を高くした総合評価をすることは可能であろう。米国の圧力に屈して、いたずらに一般競争入札の上限金額枠を下げていく(2億円から7000万円といったように)のではなく、こうした地道な評価の積み重ねが「談合」対策として求められている。また、2005年の会社法(商法)の改正と独占禁止法の二大経済法の改正は最大の失政である。国内政策を無視して米国の顔色のみを窺うエージェント官僚の動きは厳しく批判されねばならない。

【出典】 アサート No.349 2006年12月16日

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