【投稿】北朝鮮「崩壊」と東アジアの混沌

【投稿】北朝鮮「崩壊」と東アジアの混沌

<核実験は失敗か>
 10月9日、北朝鮮は核実験を行ったと発表した。当初は核爆発にしてはあまりに規模が小さく、放射能も観測されなかったため、大量の通常火薬を爆発させた「偽核実験」ではないか、との見方もあった。
 しかし、その後大気中で放射性物質が確認され、爆発規模の詳しい解析などから、核爆発は起こったが、失敗であったという見解がアメリカでは支配的になってきている。すなわち原爆は起爆したものの、核分裂は中心部のみで、残余のプルトニュームは反応を起こす前に吹き飛ばされてしまった、というのである。
 7月の「テポドン2号」も、発射直後に空中分解したことが明らかになっており、北朝鮮の核ミサイル開発は弾頭、運搬手段とも完成の域には達しておらず、戦力化にはほど遠いことが、はからずしも明らかになった。いわば北朝鮮の一連の実験はアメリカに対する「決意表明」の意味合いはあっても、恫喝にはなり得ないのは明白である。
 今回の核実験は、技術水準を露呈させたうえ、対米関係の進展をはかられなかったことのみならず、韓国の太陽政策を事実上破綻させ、中国やロシアにまで、匙を投げさせてしまったあげく、日本の軍拡にさらなる口実を与えるという、最悪の結果となった。
 さらに国際的な孤立も進んだ。国連安保理も、制裁決議を全会一致で採択した。特定品目の禁輸や在外金融資産の凍結と、そのための船舶検査など、その内容が完全に履行されれば、北朝鮮にとっては大打撃となり、金正日体制の存続にも大きな影響が出てくるのは避けられない。しかし、決議の確実な実行による早期の体制崩壊があるかと言えば、そうはならないと思われる。中国、韓国、ロシアは外交努力による解決で一致している。
 
<崩壊危惧する中、韓、露>
 それは直接国境を接する中国、韓国、ロシアそれぞれが、金正日体制の崩壊を想定しつつ、ポスト「金王朝」を巡っては激しく対立する可能性があり、当面は体制維持、できることなら穏健改革路線への転換と言う軟着陸を望んでいるからである。
 とりわけ中国、韓国の立場は微妙である。中国が一番危惧するのは、北朝鮮の急速な崩壊により中朝国境地帯のみならず、朝鮮族が多く住む中国東北部に混乱が拡大、長期化することだ。こうした事態は、2年後の北京オリンピックに深刻な影響を及ぼすだろう。
 中国は、北朝鮮が崩壊した場合、朝鮮族を主体とした人民解放軍の進駐までもを想定しているだろう。この間中国は中朝国境地帯の中国化、いわゆる「東北工程」を押し進めている。
 中国社会科学院は昨年9月、朝鮮系騎馬民族国家と理解されていた「高句麗」や、その遺臣が建てたと言われる「渤海」を独立国ではなく、唐など古代中国の地方政権であると規定。一部の中国歴史学者は「古代は(ソウルを流れる)漢江以北までが中国領土」とまで主張している。
 また最近では長白山(朝鮮では白頭山)を中国領として世界遺産に登録申請をするなど、して、韓国の反発を招いている。中国社会科学院の見解は政府の認識と軌を一つにするだけに、韓国では、これら「東北工程」は北朝鮮崩壊後、中国が影響力を拡大するための「地ならし」ではないかと言われている。
 しかし、それがオリンピック前では大変不都合なのであって、もしそんなことをすれば、モスクワオリンピックの二の舞になる可能性が高い。しかし手をこまねいていて先述のように、中国国内に混乱が波及すれば、同じようにオリンピックは危なくなるのである。
 もっとも北朝鮮崩壊に際し国連で然るべき決議がなされ、平和維持活動としての駐留ならば国際的な合意も得られようが、その場合の中心部隊はは韓国軍となり、アメリカ、ロシアもそれに加わるであろうから、中国の影響力行使は限定的にならざるを得ない。
 いずれにしても、中国としては北朝鮮の崩壊は当面望むところではないのである。またその事態が避けられないにしても、オリンピック以降、できれば2010年の上海万博以降に先延ばしすべく、それまでは北朝鮮を支えていくだろうし、金正日もオリンピックを人質に取っているつもりではないか。
 それは韓国も同じであり、南北統一の理念は掲げつつ、北朝鮮崩壊に際しての、国内の混乱、中国との軋轢、よしんば韓国主導で統合できたとしても、以降の莫大な経済的負担を考慮すれば、急速な崩壊は避けたいのが本音である。
 
<「制裁」突出する日本政府>
 しかしながら、北朝鮮の現体制が厄介なのはロシアも含めての共通認識であり、金正日の後継者体制が確立するまでに、アメリカも加わった形で何らかの協議がもたれる可能性もある。それは核問題のみならず、ポスト「金王朝」をどうするかというレベルのものになるだろう。
 仮にそれで朝鮮半島の安定が保障されたとしても、関係各国の利害を最優先させたスキームでは、肝心の北朝鮮国民の意思が反映されない。最も好ましいのは国民自身による北朝鮮民主化を通じた安定ではあるが、それは望むべくもないのが現実である。当面、窮乏化する国民への支援を継続するほかはないが、それさえも断ち切ろうとしているのが安倍政権である。
 日本政府は国連決議を超えて、全面禁輸など独自の経済制裁をさらに強化し、武力行使につながる船舶検査も強行する姿勢であるが、北朝鮮国民の生活に関しては一顧だにしていない。そればかりか早期の体制崩壊を願い、混乱を楽しむかのようである。国連決議でさえ「大量破壊兵器関係、贅沢品の禁輸」と中枢に対する制裁にとどめているのに、指導者と一般国民を分けて考えるのが大嫌いな安倍晋三ならではの対応である。
 先の中国、韓国歴訪で表面上は関係改善に動いたかに見える東アジア外交であるが、所詮は爪を隠しての訪問である。北朝鮮制裁で日本が突出することになれば、振り出し以前に戻ることになるだろう。(大阪O)

 【出典】 アサート No.347 2006年10月21日

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