【投稿】総選挙結果を考える意見交換会(2005-10-2)
「増税かくし」で大勝した小泉自民党
佐野)今日は、総選挙結果について、いろいろな角度から考えてみる、というのが趣旨ですので、忌憚のない議論ができればと考えています。まず、自己紹介と選挙への感想をお願いしたいと思います。
ある新聞によると、岡田代表と言うのは、ある種の優等生的で、政策をきっちりだして、まじめにやれば道は開けると取り組んだわけだけれど、小泉の劇場型選挙に敗れたというわけです。小泉についての感想としては、「分かりやすくても、中身がない」というのは、いかがなものかな、というところです。国民はいつ気づくのかな、というところでしょうか。4年間選挙がないと言われていますが、どれだけ挽回できるか。それほど悲観はしていません。今回の逆もありかな、と思うわけですね。
<自公統一戦線に野党の側は分裂>
生駒)前号のアサートで、民主党政権が誕生する、と期待をしていたわけです。いざ解散になって、どんどん事態が逆の方向にいくので呆れ果て、深刻に考えなおさないといけないと思ったわけです。今日はそういう意味で議論していきたいと思います。
大きな問題は、自公がきっちり統一戦線を組めているのに、野党があのありさまということで見放されたのか、という感想を持っています。
江川)今回の選挙結果以降の話ですが、郵政で選挙が戦われたわけですけれど、国の官僚の発言を聞いていますと、財務省あたりなんですが、交付税問題などの三位一体改革が今後一層出てくる。自治体では予算が組めないという状況も出てきていて、住民サービスをカットせざるをえないわけです。私は民主党政権が必要だと思いますし、地方分権の推進は小泉政権では難しいと感じています。
民主党は前回の選挙では、全面的に地方分権を掲げていたわけですね。中央から地方への権限・財源の移譲ということです。実はそのためにも地方での「足腰」を強める必要があります。敗北したとは言え、多数の国会議員を有する民主党ですが、まだまだ地方議員については少ない。特に市町村レベルでは、自民党が半数に対して、民主は1とか2という場合が多いわけです。新興住宅地を抱えている私の自治体すらです。また、仮に民主党政権になったとしても、自治体の側が、地方分権の用意ができていない実態もあるわけです。地方自治体レベルでも、分権を担う改革を進める必要があると思っています。
<自民党と民主党を含めた総保守の再編成では>
民守)今日の出席者の中では少数意見ではないかと思いますが、今回の選挙は、全体的には都市型保守とこれまでの旧来型の保守の総再編成-少々シビアに言えば、民主も自民も含めた保守側の総再編成という意味があったと思います。つまり、これまでは民主党の基盤が都市部であったわけですが、今回の選挙では自民党が都市型に変わっていく中で、民主党は都市部の支持を失ったわけです。しかし、議席結果では相当のひらきがありますが、比例の投票総数で言えば、その差は小さく、まさに小選挙区制のマジックによって議席に大差がついた。
2点目は、僕の一貫した主張ですが、「小選挙区制」についての問題-民主主義の基本的な制度である選挙制度としてどう評価するのかということです。単に小選挙区制は政権交代が起こりやすいと言う事だけで、評価するのは間違っていると考えています。「逆に民主党が政権を取ることも有り得るから良い」という意見もありますが、民主主義の基本的制度としての視点を見失っているのではと思うわけです。麻雀で言えば「ドラだ、横付けだ」などと、差がひらくようにするシステムであって、問題指摘せざるを得ない。
最後に、新保守・旧保守含めた総保守に対する労働者側という意味における「革新側」の統一ということも考えていかなければ、この総保守化の流れを止めることはできないのではないか、という危機感を持っています。
<増税かくしに徹した小泉自民党>
杉本)今回の選挙についての意見は、アサート9月号の私の文章のとおりで、読んでいただければ幸いです。私の思いとしては、基本的には「ゼニ」の問題ではなかったのか、ということですね。増税するのか、しないのか、という事です。郵政民営化するということが、増税しないということへの大衆受けのする回答ではなかったのではないか、ということです。そこには、両方の勘違いがある。言った方にも投票した方にも勘違いがある。それが、増税しない、という約束として分かり易かったわけです。増税しないという約束に支持が強かったということは、政府に対する極端な不信が存在していた、ということでもあるわけですね。
私はこれまで社会民主主義的な、あるいは欧州的な福祉国家が目標ではないかと思ってきたわけです、この結果をみるとたどり着くのは、まだしんどいな、という感じです。
何故かというと、これは2度目の立ちすくみなんです。一度目は消費税の時ですね。増税論に対する強い拒否がありました。ということで、今後はかなり難しいな、と思います。だから自民党も非常に難しい。単純に増税論という素直なマニフェストでは無理があると思います。だから、もう一度政府機構を見直すことにならざるをえない。道路特別会計などが見直しの対象として出てこざるを得ない。この方向へ一度行ってからしか、欧州的な社会民主主義的な方向に向かわないのではないか、という感想を持っています。
<メディアの怖さを感じます>
A)今回の選挙については、メディアの怖さということを感じます。森田実さんも言ってますが、アメリカから5000億ですか、メディア対策があったとかね。特にワイドショーですね、小泉が仕掛けた刺客云々の話題とか、選挙期間中そればかり。すごいコマーシャル効果があったと思います。見ていたのは、普段投票に行かないような人で、その人達が投票に行ったのではないか、そして自民党に投票した。自民党には強固な基盤は崩れていて、勝たせすぎたと思った人は、次の参議院選挙では、逆の行動に出る可能性も高いとは思います。
郵政民営化ということの支持は得た、しかし政権運営の白紙委任を受けたということではありません。勝手な方向には、強力な反対が起きると思います。
それから、民主党の前原新代表が、労組を切るみたいな発言をしているのが気になります。新代表の評価についても議論していただきたいと思います。
<客席から見ていた都市部の有権者>
大阪O)今回の選挙は、小泉が郵政民営化というシングルイシューに設定されてしまった事が、民主党敗北の最大の原因だと思いますね。結局郵政問題は、今回自民党に多くが投票したと言われる都市部の住民にとっては、民営化されようが、公社のままであろうが、余り関係がない問題なんですね。客席から見ていられる問題なんです。真剣に投票しなかったとは言いませんが、面白がって投票したかもしれませんね。そんな軽い課題でしかなかったのではないか。郵政ではなくて、先ほども触れられた増税問題と言うことであれば、「死んでもいいから増税をします」と言ったところで、票は集まりませんね。「死んでも徴兵制をする」なんて言ってもね。そんな軽いテーマでしかなかったのではないか。
昨年の参議院の時は、直前にジェンキンスさんに曽我ひとみさんを会わせて日本に連れてくるというパフォーマンスをやったり、北朝鮮の拉致問題も語られたわけですが、今回は一言も触れられませんでした。むしろ自民党ではなく、民主党の西村真吾や大阪14区で立候補した長尾たかしが、拉致問題の会のメンバーで自治労と日教組と解放同盟の推薦はいらん、と言って憚らないタカ派でびっくりしたわけです。民主党は、これまで次期衆議院選挙への公認条件を50%以上の惜敗率としていましたが、次はさらにハードルを高くするようで、長尾たかしは、次期選挙では公認されないと思いますが。
<マーケティングは、まず静岡で>
杉本)最初の刺客が片山さつきですね、静岡7区から立候補したわけですね。ポイントは、マーケティングはまず静岡で行うという鉄則にあります。静岡で成功するかどうか、静岡で新製品が売れるかどうか、そこから全国に出すかどうか決めるんですね。商売上の原則なんです。たぶん、そこで受け入れられたので、自民党は全国展開させたフシがあるんです。自民党のマーケティング戦略を感じますね。
大阪O)民主党の広報は、アメリカ企業に出したという話がありますね。「日本をあきらめない」というものでしたね。
生駒)とても、後ろ向きのスローガンですよ。
佐野)敵ながらあっぱれ、と私は感じましたよ。今地域ではコミュニティが失われていて、政治向きの話をする環境は少ない。核家族でテレビが情報源だから、マスコミを総動員して「郵政一色」「刺客戦争一色」にされたら、自民党以外目に入らない。国民へのメッセージをどう伝えるか、とても大切なことですよ。
杉本)わかりやすいというか単純明快というか、非常にわかりやすいスローガンで語りかけることは大切ですね。増税もしたいんだろうけれどね。ただ、選挙のやり方として、それがいいのかどうかね、今後も。
<増税で低迷した都議選の教訓>
生駒)小泉が何故勝ったのか、という点で、増税議論を避けたという点の指摘がありました。避けるために郵政民営化を出してきたということ。
小さな政府論を前面に出したやり方です。それに対して民主党は、消費税増税ありますとマニフェストに出した。劇場型とかの問題もありますが、この増税論議を自民党はうまく避けたと言う問題が確かにあると感じます。
大阪O)総選挙の直前に都議選がありましたね、その前に政府税調が増税を打ち出します。それが都議選結果に影響が出たということで、民主党が少し議席を伸ばした経過がありました。その結果、総選挙では増税の文字が消えたのではないか。
生駒)むしろ、「サラリーマン増税」に組しないというのが、自民党のマニフェストでしたね。税の問題に触れずに、郵政だけでやった意図は明らかですね。
<アメリカ支配を望む小泉、反対する右翼>
杉本)もうひとひねりしてね、何故郵政民営化なのか、という問題です。こちらだけじゃなくて、郵政民営化反対の「自民党候補」も刺客を送られたわけです。それは別に特定郵便局だけの話ではない。実態としてね。右翼的な人も反対したわけです。西部 邁とかもね。要するにアメリカの支配を嫌うという点からですね。だから本来的には、前川レポート以来そういう流れなんです。本来は小泉はそれが狙いなんだけれど、増税に触れずに郵政だけで臨んだ、アメリカの戦略もあったとは思いますね。金をどう流すか、ということなんですね。財政投融資で国債を買うのか、どうか。金利差が3~4%あれば、金はアメリカに流れますね。今日本の国債は1.3%ですか、だから金の流れは変わらない。郵政反対派は、こうしたアメリカの支配に反対したんじゃないかな。向こうの方がストーリーが上手かったということですか。そこにねじれがあった。小泉の思いとしてもねじれがあったのではないか。国民の投票行為としてもねじれがあったと思います。持っている人が郵便局に預けているわけで、これが年金資金ということでは話は別であったと思います。
佐野)選挙以前からですが、エコノミストや経済界からのメッセージは、小泉再選ならば、「改革」推進で株式相場を含めて経済は上昇、民主党政権ができれば、増税含む引き締めで経済停滞、というものでしたね。実際に解散して直後に株式相場は上昇しまして、投票日直前の金曜日にも、自公勝利と読んで選挙結果を待たずに株は急上昇しているんです。ネットトレードなんかでミニ投資家が増えているんですが、そうした層は自民勝利で株上昇、民主勝利で経済停滞、というメッセージには弱いと思います。これまでもこうした図式がまかり通っていますが、果たしてこれでいいのかと思います。
生駒)実際、13000円を回復していますね。これまでなかったことですね。
佐野)先週は、毎日株価が上昇して、売買高、売買株数ともに数年来の最高を更新しているんですね。外国人投資家からの資金流入なんですが。
杉本)日本の金が金利差からアメリカへ流れて、その金がまた日本に投資されるという構造です。とにかく、アメリカは日米に一定の金利差をつけて維持されなければならないわけですね。お約束としてずっとね。ゼロ金利政策が続いています。
佐野)上げられないし、上げれば国債の金利や、借金の金利が上がってしない、手が付けられない、という意味で、金融政策など何もないというのが日本の状況ですね。
杉本)金融政策というのは、国の基本的な政策なんだけれど、今の日本には金融政策など何もないんですね。
<財政議論をしっかりすべきだ>
江川)杉本文章の中で触れられた、関学の小西教授なんです。合併推進派のように言われていますが、現場主義の丁寧な方でして、財政投融資問題も発言されています。投資先のえーかげんさだとか、年金財源を社会保険庁が勝手に使っている問題とか、地方自治の現場から想像もできない使い方ですね。
入りの議論として民主党も預金限度額の引き下げとか言い出したんですが、むしろ出の方の問題こそまず議論すべきではなかったかと思います。郵政では議論にもならなかった、議論させてもらえなかったということが実際ですが、今後年金問題などでも、入りと出をわけてきっちり議論する必要がある。今回の郵政議論についても、総括しておく必要があると思います。
杉本)財政投融資なんていうのは、国民にはほとんど分からない分野ですね。玄人でも説明がしにくいのに。2001年には郵貯と財投との関係は切れましたが、まず財投に入って特殊法人の方へ流れていくわけで、その流れは普通の者にはわからないわけです。
今は政府系のHPに、かなり数字が出てきています。昔なら絶対出てこないものです。一番驚いたのは道路公団の民営化の時に、どこの道路はどれだけ赤字でというのがHPに出ていた。これまで絶対に出ない数字ですね。
佐野)次の課題という意味では、年金・医療、特に医療改革をしないといけないと思っています。仕事柄福祉医療に関係深いこともありますが、医療費がほんとに野放し状態です。高齢者医療もそうですが、医療効果の検証もされていないし、医師免許更新制もなく、情報公開も全く進んでいません。医療費負担がいろいろな分野で財政を圧迫している。高齢化が進むことだけに眼が行きがちですが、システムとしても問題山積みです。郵政族以上に日本医師会という圧力団体を料理できるのかどうか。
民守)当初、世論は「郵政民営化が国民にとってそれほど大事なことか?」との声も多くあったと思いますが、テレビで何度も「郵政民営化」と言われると、中身抜きに、「郵政改革」が正しく思えてくるのでしょう。一方、民主党のキャッチフレーズは非常に弱気を感じさせるもので、「政権奪取に本当は自信がないのか」と思えるものでしたね。キャッチは自民党のほうが上手かった。
増税問題で言えば、自民党は「政府税調どおりに実行するとは限らない」と軽くかわして、実質増税路線を「郵政民営化」の争点の後に隠してしまったという感じでしたね。
民主党も増税問題では明確に反対姿勢を示さなかったということでは、保守側に移ったということではないか。確かに民主党の支持勢力には連合もあるわけですが、大阪市職問題も労働者層と民主党との切り離しを狙ったものとも言え、「労働者の側にたった政権の樹立」という目標からすれば、もっと厳しい議論が必要ではないかと思います。
<今後強まる公務員批判>
江川)ムード作りという点では、小泉のテレビCMでは、郵政民営化というよりは公務員の既得権に的を絞った訴えでしたね。閉塞感のある社会の諸問題をすべて郵政民営化が、郵政公務員27万人の雇用問題が解決するかのごとく。公務員が労働者であるというより、あたかも特権階級のように描き出してましたね。個人的にも公務員であることを明らかにすることが、居酒屋なんかでも躊躇することがあるくらいですね。役所といわずに会社と言ったり、市長と言わずに社長と言ったりね(笑い)。分断されているわけですね。連帯から分断へという危険な方向ですね。我々の側の反省も必要かとは思いますが。
A)連合の中でも、公務員組合と距離を置こうとする動きもありますね。選挙闘争の中でも、そうした空気を感じました。あなたたちは、リストラもないし解雇もないし、などとね。完全に分断されていると感じます。
大阪O)サラリーマン増税という言葉がありますが、サラリーマンには公務員は含まれないと思っている人が多いっていいますね。公務員を組合を含む連合が、自民党・民主党と対峙してくれればいいのですが、そうなっていないんですね。
民守)サンデープロジェクトの中で、社民党の代表が公務員の問題について発言しようとしたんですね。そうすると田原が「社民党は既得権を守る守旧派なんだから」と発言を封じるんです。ひどい公務員バッシングですね。今後社会保障や年金問題が出てくるわけですが、自民党の政策の中に公務員バッシングを含んでの手法が仕組まれることは眼に見えていますね。
<広がる格差と強まる社会の閉塞感>
A)閉塞感が広がっていますね。階層分岐も固定化しつつありますしね。夢も希望のない、みたいなところが、公務員バッシングに向けられているという感想です。大阪のある自治体の市民アンケートの結果を見たんですね。箱物行政への批判は当然としても、公務員はヒマそうだとか、そんなのがどんどん出てくるわけです。本当に感覚的なものなんです。人が多いとかね、何の根拠もないと思うんですけれど。
そんな感覚が支配的なので、大阪市のカラ残業問題もスッと入ってしまう。夜になって遅くまで残業していて電気がついていても、残業していると思われていないんですね。
アメリカでは、何でも民営化されていて、コンビニでも保育所ができるみたいにね。低賃金の労働者・保育師しかいないので、質も悪い。一方で、金持ちには金に飽かした保育が保障されているみたいな。行くところまで行かないとわからないのかな、という気にもなります。
<公務の積極面を押し出すべきだ>
民守)小泉改革は「民間でできることは民間で」ということですね。「民間は効率的で公務員は非効率だ」と決め付けている。これに対しては、自治労も世間からの批判があっても、公の積極性を打ち出すべきだと思います。例えば今、国勢調査が行われていますが、公務員の回収と民間の人の回収とでは、守秘義務に関わる信頼が、やはり違うようです。
また、最近では様々な委託が進んでいますが、個人情報については不安が残ります。情報を漏らした方が金になるとなれば、その利益の方を優先することが有り得る。
さらに民間職業紹介事業にしても、求人企業側の立場に立った手法が目立って、民間が必ずしも良いとは思われません。特に職業安定行政は、かつての悪徳紹介業者(手配師)から求職者を守り、公正雇用に配慮する意味からも、公共において行われてきたわけです。
こうした公共による積極性の面を、もっと打ち出していく必要があると思います。
そもそも、最近の公務員バッシングは、小さな政府論と大きな関係があると思います。
A)本当に官でなければならないものを、提案していく必要がありますね。直営堅持というのは無理にしても離したものをどう監視していくか、という問題も出てきます。市民参加で行政評価システムを作っていくことが必要ですね。
大阪O)自民党はこれまで、NPOというのは民主党や社民党の流れのなかにあると考えてきたわけですが、今回の選挙の自民党候補者の中には、NPO関係者もいるわけです。
江川)確かにNPO取り込みを狙っていますね。NPOは経営的にも厳しいものがあり、そこで生き抜いてくる人たちの中には、結構鍛えられている人もいます。
A)障害者福祉や、町内会のイベントへの協力だとか、NPOが頑張っている例が出てきているしね。無視できない存在になりつつあることの反映とも言えます。今後は子育て、介護、環境、防災などの分野では、行政もNPOと積極的に協力していく必要があると思います。
<自民党は変わったのか>
民守)今日の討論として「自民党は変わったのか」という予定テーマがありますが、僕は小泉改革は自民党を変えたと考えます。20年程より前の選挙なら、最初は地方から開票が進んで自民党が優位、そして都市部の開票が進んでくると、だんだん革新も伸びて「まあまあ」という結果になっていたと思います。しかし今回は、むしろ都市部で自民党が議席を取っている。
それと自民党の変化とは異なった視点の話ですが、今回の選挙では郵政族も切り捨てられましたが、今後さらに族議員の既得権益のようなものを無くしていくとすれば、その先は何を目指しているのか-どのような社会が想像されるのかと言うことです。感覚的に思うことですが、「小さな政府-官から民への流れ」を加速させるということは、民間の自由競争に任せるという方向で、それは勝者と敗者の格差が開いていくことになると思います。
僕自身は、公共の優位性を明確に位置付けていくことが重要だとは思っていますが、仮にそうならずに民間競争原理に委ねていく社会を良しとするならば、せめて最近、企業のコンプライアンスとかCSRとか言われていますが、そこにはルールを適用していく-公共的秩序の規制をしていくことに力点を置くことが必要ではないかと考えています。ルールがないと非常に危ない社会になっていくということを指摘すべきだと思います。
<市場原理だけでは不正が起こるのは必至>
杉本)小泉さんが競争社会を目指していることは間違いがない。しかし、民間型の競争社会でうまくいくかどうか、それは又別問題だと思います。アメリカでも日本でも会計監査法人自身が不正をするということで、不信をかったわけですね。カネボウ粉飾で話題となった中央青山の理事長・奥山章雄はアメリカの会計基準を持ち込んだ人物ですね。自由主義的な資本主義社会で不正が起こらないはずがない。逆に言うとね。格差社会というのは、そういう社会になることは間違いがないと思います。金があるものが力を持つ社会なんですから。不正も出てくる。そんな社会をめざすわけにはいきません。
アメリカだってエンロン問題が起こる前に、会計基準を見直している。それでも不正が起こる。
<「官から民へ」は、規制がより必要になる>
民守)ルールという問題を何故出したかというと、労働の問題がある。今や正社員の採用は非常に少なくなって、非正規雇用が蔓延してきている。「労働者は渡り歩くものだ」という感覚になっている。ルールが必要だと言う意味は、例え労働者が企業を渡り歩いたとしても、労働に関る社会的保障やルールが守られないといけないということなのです。それが競争社会における労働者側のセイフティネットと言うことだと思っていますが。
A)自治体が委託する場合でも、委託先の雇用条件を縛るとかね。役所がどんどん不安定雇用を作り出すということは避ける必要があります。入札の場合も、雇用条件などを規制するという取り組みが始まっています。
佐野)「官から民へ」ということでの枠組みのひとつとして、介護保険事業や障害者福祉の支援費事業があると思います。在宅サービスの供給先は民間ということです。介護保険事業は5年になります。事業者の認可や保険料の徴収や運営は行政が行いますが、サービス提供は民間ですね。
事業者認可を行う大阪府が何をしているかというと、不正の摘発ですね。サービス提供をせずに費用を請求しているとか、基準を満たしていないとかね。
民の不正を官が監視しているという構造なんです。サービス需要が上昇してますし、供給を官が行うことは不可能だと思います。そういう意味では、官から民へということが流れが広がっているのが、社会福祉の分野ではないかと思います。
ただ、事業当初の歌い文句は、措置の時代よりも利用者の選択権が重視されているということだった。いい事業者はより選択され、悪い事業者は淘汰されていくというわけですね。ただ、現在は需要の伸びの方が強いので、現在も新事業者の参入が続いていて、淘汰されずに、まだ生きている。不正もまだまだ隠れていると考えていいと思っています。
厚生労働省は単価の見直しなどで見直しを図ろうとしていますが、それは小手先の、その場凌ぎであって、さらなる論議が必要ではないか、と思います。
民守)介護事業者の件ですが、大阪府の場合、月に新規事業者が100件を越えているという状況が続いていると聞いています。まだまだ増えています。
そして小さな政府論との関係で言えば、実際にすべての不正行為、事業者をチェックできているかと言えば、できていない。人が足りない。小さな政府こそ、チェック・監視体制には人が要るということだと思うのですが-。
杉本)例えば特別養護老人ホームがありますね。そこには、医者や看護師などなどの配置について必置規制があるわけです。ところが他の病院などと兼任している場合が結構多いわけです。厳しく規制すると潰れてしまう。確実に潰れると思います。ここをしっかりと規制する必要があります。バイトの医者を規制したので医者不足なんですね。大学が研修医を引き上げたりしてね。
障害者雇用は3%でしたか、これを本気で守らせるかどうか。行政の入札でも、人件費単価は積算されているけれど、結局ピンハネされている。これらを規制することができるかどうか、官の仕事もはっきりする。大きな政府か小さな政府か、新たな基準を設定できるかもしれません。
<前原新代表の評価は?>
佐野)民主党の前原新代表の評価についてはどうですか。
A)京都はそこそこ当選させていますね。前原さんとか山井さんとかね。
B)今回落選した候補者たちのなかでは、新代表にどう評価されるか、戦々恐々としている人が多いと聞いています。惜敗率の関係もありますしね。
佐野)ちょっと心配ということころですかね。憲法改正発言、労組との関係についての発言とね。
杉本)松下政経塾出身ですね。小泉と同じで小さな政府論者ですね。
生駒)民主党の中の「小泉」みたいな気がしますね。
杉本)さきほど言ったように、もう一ひねり必要なわけで、前原でそれができるか、どうかではないですか。一気に福祉国家には行かないわけでね。
A)菅では、新鮮さがないという意味ではしょうがない選択だったでしょうね。(笑)
生駒)同じ京都ですが、山井さんは違いますね。社会保障拡大論です、菅と前原が決戦になった時、山井は迷ったと、そして最後は同じ政経塾出身、同期ということで前原に投票したと、しかし前原があまり右により過ぎないようにブレーキをかけるのも、私の役割だと、メールマガジンには書いています。
前原も時間とともに発言をセーブしているようだけれど。
A)選挙時のマニュフェストは、現在も有効な民主党の約束なんだから、前原も守らないといけない。
民守)民主党も自民党も新保守的な傾向の人も多い中で、民主党と自民党が連携する可能性も否定できない。その場合、公明党はどう動くかという点も心配ですね。
また小さい勢力ではありますが、社共がどうなるのか、連携も含めた共同の可能性があるのかどうかも関心があります。
生駒)横路派的なものはどうなんですか。あまり見えてきませんが。本来は、彼らと社民と共産、そして中間派などが共同戦線が張れれば、いいと思うけれど、そうはならない。多数派に付いて発言権だけ確保しておこう、前原執行部に協力していくという姿勢ですかね。
<民主党は衆参でねじれる恐れがある>
大阪O)民主党が若干右傾化していくのは、止むをえないところがありますね。当選した衆議院議員を見てみてもね。参議院の方は選挙制度の違いもあって、労組出身や喜納昌吉とかのグループがありますから、衆議院と参議院でねじれてくる可能性は大きいと思います。
江川)代表選も僅差は僅差ですね。朝日が書いていましたが、演説草稿になかった、自分が奨学金で大学を出た話をアドリブで入れたという話ですね。それで何票か動いたかどうか。まだそうした話を受け入れる基盤が民主にはあると思いますね。
生駒)大橋巨泉が週刊現代に書いていましたが、僕がいたら菅にいれている、そうすれば同数になるとね。僕が辞めたおかげで比例で議員になったツルネン・マルティが、前は菅に入れたが今回は前原だった、たったそんなもんだとね。
江川)劇場型という点で言えば、マスコミは前原を好意的に写していると感じますね。
大阪O)マスコミは、二大政党を煽ってきた経過があってね、このまま民主党がフェイドアウトしてもらうのは困るわけですね。
民守)小泉が国会で、前原を持ち上げたりしているのを見ると、保守の再編を感じてしまいますね。
大阪O)小泉は、私の後継は前原だと言い出しそうな感じですね。
<社会民主主義的政策で対抗すべき>
佐野)杉本さんが書いたように、対抗軸は当然福祉国家であり、社会民主主義的政策をだしていかないと、民主党は埋没していくわけです。参議院は2年後に選挙ですが最大4年間総選挙がないという中で、焦ることはないと思いますが。
杉本)たぶん4年も持たない政権だと思いますね。増税論議がくすぶりだしたら、1年もたないと思いますね。
佐野)小泉は1年で退任するというのだからね。自民党のマニュフェストには「サラリーマン増税はしない」と書いてあるわけです。ところが、選挙の2日後に谷垣大臣は、定率減税全廃を言っています。それを前原が代表質問で追求したけれど。私も4年も続くことは有り得ないと思います。
杉本)300議席も取ってしまったので、増税を口に出せないという面がある。次に増税を口にする時は、解散しかないわけです。
江川)中曽根の時、300議席というのがありましたが、4年持たなかったですね。85年ですか。
民守)売り上げ税問題だったね。
<社共は善戦したか>
佐野)民守さんの「社共善戦」ということなんですが・・・
民守)敢えてわかりやすい構図で言えば、競争社会の中で敗者-犠牲になった方の支持を得たということかと思いますが-。ただ社民党も共産党も活動家は、けっこう高齢でして、そこが心配ですね。
江川)地方分権の立場で言えば、地方議会はまだまだ共産党は健在なんですね。まじめな議員も結構いるにはいます。若い人もね。
A)公明は、今回議席も票も減らしましたね。親は必死の公明党でも子供は違うみたいなこともあるみたいですよ。
生駒)公明は自民党候補の当選には貢献したけれど、見返りは余りなかったわけだね。
A)大阪の公明党は、小選挙区で3名当選させましたね。小選挙区の票は伸ばしているけれど、比例票は減らしているわけです。かなり危機感を持っているようですよ。
<野党連合はなぜできないのか>
生駒)選挙制度の問題で、民守君の提起があるわけですが、要するに以前の中選挙区制度は、実質的な比例的要素があり、それぞれが言いたいことを言って棲み分け、政治状況が変わらない、小選挙区にした方が対立構造が明確になって政権交代もありうると提起されてきたわけです。私は、それは今でもある程度有効だと考えているわけです。と言うのも、いろいろあっても保守の側は統一戦線組んでいるのに、野党はバラバラで社民党まで民主批判するなど統一戦線が組めない。日本でもオリーブの樹の連合のようなものができて然るべきなのにできない。そうかと言って、これ以上小選挙区を増やせば大変なことになる。今残っている比例区は中々いいものだと思うけれど。よりまし政府論に批判もあるけれど、どちらかの選択が必要と言う時に、バラバラでいいのか、結局は自民党支配を許してきたのではないかと思いますね。
民守)当時そういう議論があったことは事実ですね。ただ僕はその時から批判的でした。「政権交代の可能性があるから小選挙区制を」という意見ですが、「国民の声を議会にどのように反映させていくのか」という点から言えば、ある程度の社会的各層の代表が議席を取れることが必要なのではないでしょうか。現状の問題認識として「自民対反自民」と言われるけれど、その実態は、保守基盤の総入れ替えが起こっているわけで、その中で「自民党政権をとにかく終わらせる」ということだけでは不十分ではないかと思うわけです。
<利益誘導型政治の終焉か>
生駒)自民党の抵抗派と言われてる議員が追いやられたと言うことの客観的背景として、これまでの自民党政権の下では利益配分ができた、予算的余地もあった。ところがこの長期不況化、現在のグローバル経済体制の中で余裕がなくなってきた。小泉政権としても分配できる財政的余地がなくなった、地方と農村型配分構造から、都市型、格差拡大型分配構造へと、弱肉強食型へとということが言える。利権型族議員を切らざるを得ないという背景があるのではないか。そういう意味での保守再編はあり得るでしょうね。
民守)前回参議院選挙結果の総括議論の際に、「自民対民主の対立区で、共産党が全て候補者を立てるというのは問題だ」という意見があったが、それは筋違いだと思いますね。民主党にも相当、保守的な主張する候補者もいるわけだから。
生駒)しかし今回情けないのは、300選挙区あって、選挙協力があったのは、たったの23区ですよ。もっと広がる余地があったはずですよ。それで逆転も可能だったはずです。
大阪O)共産党も立候補区を減らすといいながら、最後はほとんど前回と変わらない候補者数でしたね。
民守)共産党も自民党支持者から票を取るより、社民党支持者からの方が取りやすいと、今回の選挙でも社民批判が赤旗でも目立っていたことは事実ですね。
佐野)ただ「もしも」はないわけだが、どこかの選挙区でね、ひどい自民党の候補に対して、落選させるために、他党の候補者を選択的に支持するという判断はあってもいいと思う。その行動はね、選挙民からは支持されると思いますよ。共産党への印象も格段に違ってきますよ。
今回の選挙でね、小泉のメッセージに国民は信頼を持ったわけです。信じてしまったわけです。「郵政民営化で死んでもいい」とかね。心にひびくメッセージというのは大事なわけですね。
江川)政党論と運動論は分けて考えるべきではないか。小泉も小選挙区導入の時は反対していた。その小泉がこの制度を上手く利用したというのは皮肉ですね。小選挙区制は細川内閣が作ったんですよ。
民守)それが情けない。
杉本)まあ、小選挙区とか首長選挙とか、一つしかない議席を争う選挙は疲れるね。最後の最後まで気が抜けないわけ。 (文責:佐野秀夫)
【出典】 アサート No.335 2005年10月22日