【投稿】正念場の三位一体改革

【投稿】正念場の三位一体改革

 小泉構造改革の目玉の一つである、国庫補助負担金の改革、地方交付税の改革、税源移譲を含む税源配分の見直しの三位一体の改革は、今秋いよいよ正念場を迎えようとしている。
 2004年6月に閣議決定されたいわゆる「骨太の方針・第4弾」において、三位一体の改革の全体像を今秋に明らかにする、としていたからであるが、当初予定されていた11月中旬にはまとまらず、結論は12月にまで持ち越されそうな状況である。
 
<地方の提案>
 骨太の方針・第4弾では、2003年に打ち出された第3弾における4兆円程度の国庫補助負担金の廃止・縮減の方針を受けて、2004年度予算で「芽出し」された1兆円の残り、3兆円規模の税源移譲を2006年度までに目指すとしている。
 その前提として、自治体側に国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめるよう要請し、これを踏まえて検討するとしているのが、このたびの方針の大きな特徴である。
 それまでも、地方の側は改革に関する様々な提起を行っているが、あくまでも一方的な要望、要請にとどまっており、政府の方針として初めて、具体案の提示が求められたのである。
 これを受けて、地方6団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議長会)は、8月に「国庫補助負担金等に関する改革案~地方分権推進のための「三位一体の改革」~」をまとめ、148件、総額3.2兆円もの廃止-移譲対象補助金のリストを政府に提出するに至ったのである。
 さらに、この改革案の前提条件として、国と地方との協議機関の設置、税源移譲との一体的な実施、確実な税源移譲、地方交付税による確実な財政措置、施設整備事業に対する財政措置、負担転嫁の排除、新たな類似補助金の創設禁止、地方財政計画の作成に当たっての地方公共団体の意見の反映を掲げ、税源移譲対象の税目も含めた、包括的かつ具体的な三位一体改革の全体像を提示しているのである。
 この政府からの「要請」については、「補助金廃止だけが先行し、税源移譲は中途半端になるのではないか」といった、国の「美味しいところ取り」「梯子はずし」が危惧されていた。
 また、地方側にも、「都市と農村」をはじめとしたヨコの対立が内在している中で、一致して「各論」にまで踏み込むことができるのか、むしろ、対立を顕在化させ、国の思うツボになるのではないか、との懸念もあった。
 しかしながら、全国知事会主導で薦められたという点、その過程の中で、教育問題を中心とした政治家としての知事の理念の違いが顕わになった点など、いくつかの問題点を抱えながらも、地方の側として改革案を取りまとめ、ボールを国に投げ返すことができた点は評価しなければならない。

<省庁の「抵抗」>
 地方側の提案を受けた国の側では、予想どおり、各省庁からの一斉反発が起こった。
 提案を受けて設置された国と地方の協議会において、補助金を総合化した交付金という「化粧直し」が次々に提案されるばかりではなく、厚生労働省に至ってはゼロ回答、挙げ句の果てには「代替案」の名目で補助率の切り下げを言い出す始末である。
 これと平行して、各省庁は出先機関を通じて、現時点では未だ補助金に頼らざるを得ない個別自治体に対して、補助採択をちらつかせながら、「改革案に反対せよ」との圧力をかけているのである。
 さらに、財務省はこの機に乗じて、地方交付税会計の赤字があたかも地方の側が原因であるかのような攻撃キャンペーンを強め、地方交付税の抑制を図ろうとしている。
 骨太の方針・第4弾では、「地方の意見に十分耳を傾ける」としていながら、まるで地方の声を踏まえようとしない、各省庁のこの態度こそが混乱に拍車をかけているのである。全体像の取りまとめの遅れの原因は、国の側にあり、そして、その責任は、自ら指示したにも関わらず何らのリーダーシップを発揮しようとしない、小泉首相にあると言わざるを得ない。
 
<そもそもは税源移譲>
 そもそも、地方の側が求めていたのは、税源移譲なのである。
 最終支出ベースでは、国と地方の比率は概ね2:3であるのに対し、租税収入配分では、国と地方の比率概ね3:2であるという、最終支出と税源配分の大きな乖離が、地方自治体の自立的な財政運営にとって大きな問題となっている。
 機関委任事務の廃止などの成果を挙げた2000年の第1次分権改革、その残された課題として、政府の地方分権推進委員会も「次は税源移譲」であるとはっきりと指摘しているのである。
 あたかも、地方がその財政危機を理由として国に「カネをよこせ」と主張しているように喧伝されたり、また、国が自らの財政危機や地方の「過大な」支出を理由に税源移譲を渋っているのは、まったくの筋違いの話である。財政危機であろうとなかろうと、税源移譲が第2次分権改革の第一義的な課題なのである。
 その税源移譲の道筋をつけるために、国庫補助負担金の廃止・縮減や地方交付税の改革があるのであり、税源移譲の具体策がない中での補助金の先行廃止や補助率の切り下げ、交付税抑制ありきの議論は、本末転倒である。
 とりわけ、ここ最近、交付税抑制の理由として財務省が「交付税の基準以上のことを自治体が行っている」と主張していることについては、分権型社会の理念に則って地方が地域の実状に応じて独自施策を講じていること、地方財政の現実として交付税に算定されている事務事業の全てが行えているわけではないこと、そして何よりも、交付税は地方自身が自由に使える地方固有の財源であることへの、意図的かつ悪質な無理解があることを指摘しておきたい。
 ちなみに、骨太の方針・第3弾において「国の歳出の徹底的な見直しと歩調を合わせつつ、地方財政計画の歳出を徹底的に見直し、交付税総額を抑制」としておきながら、1999年度末から2004年度予算にかけての長期債務残高が、地方全体においては約174兆円から約204兆円と、約30兆円・17%の伸びであるのに対し、国においては約449兆円から約548兆円と、約99兆円・約22%の伸びに達していること、また、2004年度の地方財政計画が対前年度比1.8%の減であるのに対し、2004年度国家一般会計予算が対前年度比0.4%の増であることを付記しておく。
 
<自治体現場の混乱>
 この時期、地方自治体では2005年度予算の編成作業に突入しているのであるが、三位一体改革の全体像の遅れは、現場に大きな混乱をもたらしている。
 昨年度も交付税の突然の大幅抑制への対応に大わらわだったのだが、今年度においても、改革の全体像、とりわけ交付税の動向が不透明なことから、予算編成の前提となる財源計画が立てられず、「予算が組めない」状況に陥っている。
 現場では、首長選挙の前でもないのに「当初予算は骨格編成にしておいて、6月に交付税額が出てから補正予算を組もうか」などということが、まことしやかに語られているのである。
 本来、地方自治体のための三位一体改革であるはずなのに、現場にとっては逆に、改革努力に水を差すばかりでなく、編成事務も行えない、はた迷惑な存在となっているのである。
 
<やはり政権交代を>
 小泉構造改革の中でも、特殊法人改革や郵政民営化、年金改革に比べて、三位一体改革は地味な印象が免れない。ともすれば、国と地方のカネの分捕り合戦に見られたり、地方自治体が特殊法人などと同列に扱われているきらいがある。
 もちろん、遠くない過去において極めてずさんな財政支出を続けていた自治体や国とのパイプを強調してきた首長が少なくないし、この期に及んでも改革を遅々として進めていない自治体があるのも事実である。
 しかしながら、多くの自治体は血の滲むような行財政改革に取り組み、ときには合併という苦渋の決断に追い込まれているのである。
 これらの自治体は、公団や社会保険庁とは違い、住民自らが首長を直接選挙する地方政府であることを忘れてはならない。
 省庁の権益をタテにした地方へのコントロール、利益誘導を基盤とした自民党政権では、もはや地方分権の実現を期待することはできない。ましてや、その出自が大蔵族である小泉首相の「政治決断」は、期待どころか危険極まりないものであることは簡単に想像できる。
 やはり、地方の立場に立った政策を掲げる、中央政府の樹立が急がれるのである。
 この間の三位一体改革の議論において、民主党のメッセージは明確に伝わってこない。地方の側は、都道府県ごとに地方版の6団体を結成して、運動の基盤を固めようとしている。民主党においても、地方自治体、とりわけ改革派の首長と連携して、政権交代をも視野に入れた、現実的で迫力のある問題提起を行うことが求められているのである。
(大阪 江川 明) 

 【出典】 アサート No.324 2004年11月20日

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