【投稿】増税を巡る攻防へ
国・地方の債務残高は716億円。GDPの1.4倍に上ろうとしている。国家財政においても、2004年度(平成16年)予算においては、歳入において租税収入に匹敵する公債費収入約40兆円が組まれるなど、国・地方において、財政バランスが失われる事態となっている。
この事態の本質を捉え、どう脱却していくのか、政治の課題として、憲法問題と共に、今後焦点となる問題である。当然、政府は経済の回復基調から、各種増税による突破を想定している。すでに死に体となっている小泉政権は、小泉の任期中には「消費税による増税は行わない」と明言し、自らの政権維持のみに執着している姿を見せ、議論を回避しているかに見える。
しかし、税・社会保障を含む国民負担を巡っては、今後増税・増負担への攻防が確実である。景気浮揚という大義名分の下で、増税議論は控えられてきたが、今後国民負担をめぐる厳しい闘いが求められている。
今年の税制改正では、老年者控除の廃止、公的年金等控除の縮小、住宅ローン減税の段階的縮小、市町村民税均等割税額の一律化(3000円、都道府県民税均等割との合計で4000円)および夫と生計同一の妻に対する非課税措置の廃止、2006年度までに所得税から個人住民税への税源移譲の実施、2007年度を目途に消費税を含む税制改革の実施が盛り込まれた。
政府税調に続いて、今後与党税調に舞台を移していく現時点の焦点は、来年度の税制改正議論の中で、税収アップの具体的標的となっている定率減税の廃止問題である。
<所得税20%、住民税15%を減税>
定率減税は、1999年小渕政権が実施したもので、景気対策として所得税額の20%(最大25万円)、個人住民税額の15%(同4万円)の税額控除するもので、所得税で2兆5000億円、住民税で8000億円、合計3兆3000億円という減税が現在も実施されている。
すでに昨年の与党税調の中で、この定率減税については、2005-2006年度において縮減・廃止を検討すると明記され、同時に所得税から住民税への税源移譲を通じて、4兆円の地方への税源移譲を実現するというストーリーも描かれている。
そして、本年の政府税調において、来年から2年間をかけて、段階的に廃止するとの方向が示された。
<景気次第での変更もありうる>
一方、先週発表されたGDPの速報値が大きく低下し、景気減速が明らかとなり、日銀短観も景気の減速傾向を認めた事もあり、定率減税縮減廃止の時期を巡って、与党内においても議論になっている。景気の先行き不安を根拠に継続を求める声である。
公明党の坂口税調会長は、 「景気動向を見ながら、直前に縮小するかどうかを判断することもあり得る」と発言し、仮に廃止の場合は、その税源は、一般財源とすることなく、基礎年金の国庫負担分に充てるべきだと、その使途先についても注文をつけている。(11/5)一方、財政再建の覚悟があるなら、縮減・廃止を実施すべきと(毎日新聞主張11/14)という意見もある。
連合は、「不公平税制を放置し、抜本的な税制改革を明確にしないまま、個人や年金所得層に負担増を強いる」として、抜本的税制改正議論なしの縮減・廃止には断固反対している。
1999年以降、国内経済については、9.11テロ以後の景気落ち込みもある中で、超低金利政策と不良債権処理が継続され、企業においては人員削減・賃金引下げによる企業収益の確保は行われてきたが、昨年来の景気の上向き傾向の中にあっても、賃金への反映は基本的に行われてきておらず、むしろ賃金の横ばい・低下が進行しているのである。定率減税の目的が景気対策であったと言うならば、労働者国民の立場からは、賃金の引き上げに繋がっていない現実を踏まえれば、単純に定率減税の縮減廃止を認めるわけにはいかない。
<2007年度には消費税改革>
次に控えているのが、小泉の任期が切れる2007年度に開始される消費税の増税論議である。昨年の税制改正大綱では、「平成19年度を目途に、社会保障給付全般に要する費用の見通し等を踏まえつつ、あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合う観点から、消費税を含む抜本的税制改革を実現」と明確に明記され、消費税の増税議論が正面に出てくることになる。
年金や社会保障目的財源なら消費税率引き上げは止むを得ないと国民の意識は明らかに変化してきている。消費税への理解が進んだ結果であると同時に、税の使途について逆に厳しい視点を確立しつつある証左でもある。一時期、無駄な公共事業への批判を追い風に民主党が伸長したことに学んで政府自民党も一部修正せざるをえない状況に追い込まれた。政権交代が決してお題目ではなく、現実可能性が生まれつつある現在、消費税議論は厳しい展開が予想される。民主党にも同様の「政権担当能力」が求められるのである。
<続く国民負担の増加>
この数年、国民負担の増加が続いている。健康保険の本人負担が1割→2割→3割と引き上げ。今年の年金改正で、国民年金・厚生年金保険料率が引き上げられた(国民の強い批判もあった)、雇用保険についても、失業率の悪化による失業保障の増加によって財政が破綻し、保険料のアップが実施された。昨年からは年金課税強化の方向が打ち出され、年金収入への控除が縮小された。
現在、厚生労働省は介護保険の財政負担を、障害者福祉を取り込むことを前提に現在の2号被保険者(40歳以上)を、20歳からとする案を進めようとしている。
<不安材料ばかりの日本>
加えて、少子高齢化社会と言われて久しいが、2005年をピークに日本の労働人口が下降線を辿ること、団塊の世代の大量退職・年金受給者への参入時期とも重なって、これからの10年は、社会構造が大きく変化していくと言われている。当然、給与収入に対する所得税も減少、一方で高齢化に伴って年金・社会保障の基礎的支出が増加していく。膨大な国・地方の債務残高を抱えつつ、こうした社会構造の変化に対応した税制の改正が正面に出てくることになるのである。
<地方への税源移譲も絡んで>
所得税から地方税への税源移行による地方分権推進の課題も、定率減税廃止問題に絡むことになる。2006年度までに4兆円を所得税から地方税に移行させることが三位一体改革の中で決められている。定率減税廃止の場合の税源を、地方移譲へ振り替えるという案である。昨年の大綱では年金の国庫負担増の財源とするとされているが、財務省は一般財源化を主張する。
三位一体改革との関係は他稿に譲るが、ここで触れておきたいのは、大胆な地方分権こそ、財政再建と税制改革にとって絶対にプラスであるという点である。私は、安易な増税を認める立場にはないが、費用対効果を税制に求めるとすれば、自ら収めた税がどう使われているか、効率的に使われているか、より身近な単位で議論できるところ配分が決められるのが望ましい。中央省庁が既得権益のように財政を運営していては、これから訪れるであろう高負担の時代に必要な国民的合意を形成していく事は困難であるということだ。
補助金の削減にすら極端な抵抗を示している現在の中央省庁の対応を見るにつけ、どのような中身にせよ、国民的合意の形成は不可能と言わざるをえないのではないか。
<勤労者よ、声を上げよう>
労働組合は元気がないと言われる。しかし、定率減税問題をはじめ、各種控除の廃止を含めて、税負担をめぐる課題は、まさに国民的課題である。信用のできない国の増税は認められないことを行動で示す必要がある。(2004-11-14佐野秀夫)
【出典】 アサート No.324 2004年11月20日