【投稿】高知県知事選をめぐって 統一戦線論(66)

<<内閣支持率急落のさなか>>
11/7告示・11/24投開票の高知県知事選挙は、安倍政権が、”権力必腐”を地で行くような、長期政権の驕りと緩みが噴出し、首相主催の「桜を見る会」の露骨な私物化、公職選挙法違反の事実が次々と明らかにされ、窮地に追い込まれ、逃げ切りに躍起となっているさなかに行われた。直前の各メディア世論調査でも、内閣支持率は前回10月調査から5~7%急落し、「桜を見る会」についての安倍首相の説明に「納得できない」と答えた人が69%にのぼり、「納得できる」はわずか18%であった(11/22-24日経調査)。それだけに、与野党一騎打ちとなったこの知事選で、野党統一候補がこの好機を生かし、どれだけ肉薄し、凌駕し、ひっくり返すか大いに注目もされ、期待もされたが、結果は以下の通りであった。
浜田省司、無所属・自民公明推薦、新。17万3758票。当選。
松本顕治、無所属・野党統一候補、新。11万1397票。
62,361票の大差で、自公候補に勝利をもたらした。投票率は47.67%と前回より1.75%上昇したが、これまでで2番目に低い投票率であった。
この結果を受けて、11/24、自民・下村選挙対策委員長は、「桜を見る会」の影響は小さかったとして胸をなで下ろし、「自民党と公明党が力を合わせて応援し、それなりの差が出てよかった。国政の影響が、マイナスに働くのではないかと危機感を相当持っていたが、払拭できたのではないか」、「いつあるか分からないが、衆議院選挙にも影響する大変重要な知事選挙だと捉えていた。今後の国政にも大きなプラスになると思う」と述べている。公明党の佐藤選挙対策委員長は、「今回の勝利は、自民・公明両党の協力体制が機能した結果だ」と述べている。
安倍政権退陣を要求する声は、まだまだ収まってはおらず、「胸をなで下ろす」のは、早計とは言えようが、政権与党陣営にひとまずの安堵感を与えたことは事実であろう。

<<7月参院選より後退>>
対する野党統一候補の松本顕治氏は、共産党高知県常任委員であるが、松本陣営の選対本部長は、無所属の広田一衆院議員(民主党政権時代の防衛政務官)、副本部長を立憲民主党県連代表の武内則男衆院議員が務め、国民民主、共産、社民、新社会、県議会会派「県民の会」、連合、高知県版の市民連合・高知憲法アクションが結集し、高知県内5つのブロックで野党共同の選挙態勢がつくられるなど、これまでにない野党共闘体制がくまれたのは事実と言えよう。
10/26、高知市内で一堂に会し、「必勝をめざす協定書」に調印。協定書には武内、広田の両氏、国民民主党県連の長尾和明幹事長、日本共産党県委員会の春名直章委員長、社民党県連の久保耕次郎代表、新社会党県本部の濱田太蔵委員長が署名している。
広田氏は会見で、この選対体制に触れ、「共闘の体制は進化していると確信している」と強調。岩手、埼玉の両県知事選で野党統一候補が勝利したことを挙げ、「この流れをしっかりと引き継いで、そして自由民権発祥の地の高知県から野党共闘を進化させる、地方から国を変える、そう国民、県民に示していくたたかいにしなければならない」と力説、松本予定候補について「今回の知事選の重要性を考えた場合、松本さんが最もふさわしく、勝てる候補だと判断し、(立候補を)要請させていただいた」と指摘。「松本けんじ知事の誕生のために一生懸命、頑張りたい」と述べている。これまでにない幅広い顔ぶれで、「すべての民主勢力がそろった史上初めての会議」(春名直章共産党高知県委員長)になりました、と報じている(10/27付・しんぶん赤旗)。
しかし問題は選挙結果である。「すべての民主勢力がそろった」「野党共闘が進化した」にしては得票が伸びていないどころか、後退さえしているのである。
松本氏は今年7月の参院選徳島・高知選挙区で野党統一候補として出馬し、自公候補253,883票(得票率50.3%)に対し、201,820票(同40.0%)を獲得したが落選している。しかしその際、松本氏は徳島では自公候補に3万超の差をつけられたが、高知では1万9000票差であった。その差が、この知事選では肉薄するどころか、逆に6万2000票以上の大差に広がってしまったのである。それがなぜなのかこそが問われなければならないであろう。

<<うつろな「大健闘」「大善戦」>>
11/26、この選挙結果について、立憲民主党の福山哲郎幹事長は、共産との共闘を高く評価しつつも、県知事選の野党候補の共産党籍に関して「あった方がよかったか、なかった方がよかったかと言われれば、なかった方がよかった。しかし、本人、党の強い思い。いっても仕方がない。信頼関係の一定の醸成ができた」と語っている。これに対し、共産党の穀田恵二国対委員長は「(党籍は)さしたる影響にはなっていない。そういうことを言っている人がいるかもしれないが、それは議論済みのことだ」(27日、記者会見)と切って捨て、同じく共産党の小池晃書記局長は「市民と野党の共闘の発展にとって大きな財産になった」とする一方、候補者の党籍問題については「一大決心で共産党員として生きる決断をしたわけであり、そんなに軽いモノではない」と述べている。
問題は、果たしてそんなところにあるのであろうか。そんなことは単なるそれぞれの内輪の事情であろう。第一、「すべての民主勢力がそろった史上初めての会議」と言いながら、なぜ「れいわ新選組」の山本太郎代表をも含めた共闘体制が築かれなかったのか。
そこには、明らかに消費税廃止、ないしは消費税5%減税などをめぐる政策の不在、政党間取引や候補者調整を優先させてきた駆け引き、有権者不在の野党共闘のあり方が問われているのである。
共産党の志位委員長は、「『オール野党』でたたかう体制がつくられ、野党各党の党首をはじめ全国から国会議員が応援にかけつけ、心一つにたたかったことは、次につながる大きな財産となったと確信している。市民と野党の共闘の発展のために、全力をあげて奮闘する決意だ」とする談話を発表している。
「野党共闘が大きく前進」「次につながる大きな財産」「大健闘」「大善戦」と言いながら、事実上大きく後退した結果については何も語れない、反省の弁すら、ましてや教訓など一言も述べられない。こうした姿勢は、4月の大阪12区補選に無所属で立候補した共産党の宮本岳志氏が歴代最低得票しか獲得できなかった大敗北の際の弁明と全く同じである。
有権者は、こうした野党共闘の実態に「ノー!」を突き付けたものとして、一から出直し、本来あるべき共闘、統一戦線のあり方をこそ早急に再構築すべきであろう。
(生駒 敬)

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