【投稿】問われる野党共闘の内実 統一戦線論(57)

【投稿】問われる野党共闘の内実 —統一戦線論(57)—

<<「あの悪夢のような」>>
野党の質問と追及をせせら笑い、適当に口から出まかせでその場を取り繕う、安倍首相のウソとごまかし、暴言と妄言、その支離滅裂がいよいよ御しがたいものになってきたと言えよう。
新春早々、1/6のNHK日曜討論「あそこのサンゴは移している」という大ウソ発言以来、勤労統計の偽装が暴露され、厚労省や総務省が2018年の実質賃金はマイナスであることを認めているにもかかわらず、平然と「最高水準の賃上げが続いている」(2/10、自民党大会)とまたもやウソをつく。何の臆面もなく、「成長と分配の好循環によって、アベノミクスはいまなお進化をつづけています」 「この6年間、三本の矢を放ち、経済は10%以上成長しました」「戦後最大の国内総生産(GDP)600兆円に向けて、着実に歩みを進めてまいります」と言い放ったのである。
ところが、基幹統計である勤労統計の手抜きと賃金かさ上げを「首相案件」として当時の首相秘書官が厚労省に圧力をかけたことを追及されると、安倍首相は「統計なんかに関心を示すわけない。根本的に知らない」と開き直る。これでは自ら偽装統計を根拠に誇大宣伝してきた「戦後最長の景気回復」「最高水準の賃上げ」とは何だったのか、「統計なんかに関心を示すわけない」本人はもちろん、政権・与党幹部でさえ釈明しがたい、手の付けられない事態である。「賃金増」は虚構、家計消費も減、「戦後最長の景気回復」どころか「景気悪化」の深刻化、これでは、消費税増税の根拠は総崩れである。ここまでくると、次なる手として消費税増税再延期を掲げて衆参同日選挙を画策する手の内が見え隠れするのも当然と言えよう。
2018年の実質GDP成長率平均値は、かさ上げされた数値でも+1.3%で、景気が最低最悪と言われた民主党政権時代の+1.7%をも大幅に下回っているのである。もちろん、一人当たり実質賃金は約5%も減少している。それでも所得をめぐっては、毎月勤労統計でも、実質の値がマイナスであることを認めざるをえなかったにもかかわらず、「名目では良くなっている」と強弁する。
安倍首相は先の自民党大会で、前回の亥年選挙で参院選に敗北した経緯に触れ、「(その後)あの悪夢のような民主党政権が誕生した。あの時代に戻すわけにはいかない」と、強い口調で呼びかけた。安倍首相にとってはよほどの「悪夢」であったのであろう。しかしこの表現、暴言・妄言のたぐいである。「悪夢」の撤回を求められて、「言論の自由」などと見当違いの答弁しかできない。民主主義を深める「言論の自由」ではなく、民主主義を貶める暴言でしかない。底の浅さが自覚できないのである。そして答弁に詰まると、「総理大臣でございますので、森羅万象すべて担当しておりますので、日々さまざまな報告書がございまして、そのすべてを精読する時間はとてもないわけでございます。世界中で起こっている、電報などもあるわけです」(2/6、参院予算委)と、都合の悪いことはひたすら逃げる。森友問題で追及された時には、「森羅万象、私が説明できるわけではない!」とキレていたのが、手のひら返しである。
当然の結果として、首相が自慢するアベノミクスの実態は、その「悪夢」のような民主党政権時代をも下回っているのである。「悪夢」は安倍政権自らに命名されてしかるべきなのである。
そして首相の暴言・妄言は、さらに続く。2/12の衆院予算委では、総額6000億円超に及ぶ地上配備型ミサイル防衛システム「イージス・アショア」導入について、その必要性に疑問を投げかけられると、こう言ってのけた。「まさに陸上においての勤務となる。これは(洋上勤務となるイージス艦とは)大きな差なんですよ、全然ご存じないかも知れませんがね。(隊員が)自分の自宅から通えるわけですから。勤務状況としては違うんですよ。そういうことも考えていかなければいけない」。まるで「自宅通勤の戦争」礼賛発言である。この危なっかしい仰天答弁が安倍政権では堂々とまかり通っているのである。
そこへさらに、自衛官募集に自治体の協力が得られていないから、憲法9条に自衛隊の明記が必要だ、「自治体の6割以上が自衛隊の募集業務に協力していない」などと言い出した。9条改憲の根拠が突如変わってしまい、事実や実態を歪曲し、将来の徴兵制につながりかねない個人情報収集義務を地方自治体に強制する、「自衛隊募集に協力しない自治体があるから、憲法を変える」という論理展開である。底意を自ら露呈する底の浅さを、改めて示したとも言えよう。
もはや安倍首相には、政権担当能力も職務遂行能力も根底的に疑われる段階にきていると言えよう。

<<内閣の支持率は上昇?>>
ところがである。各メディアの世論調査は、安倍内閣の支持率は上昇しているという。1/27の日経新聞の世論調査では、安倍内閣の支持率が前回から6ポイント上昇して53%、不支持率が前回から7ポイント低下して37%と大幅に好転、同じく読売新聞の世論調査でも、内閣支持率は2ポイント上がって49%、不支持率は5ポイント下がって38%だという。2/15発表の時事通信の世論調査では内閣支持率は前月比1.1ポイント減の42.4%だったが、不支持率も微減。2/13のNHK世論調査では、安倍内閣 支持44%、 不支持37%、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、先月の調査より1ポイント上がって44%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は先月より2ポイント上がって37%であったという。政党支持率は、自民党37.1、立憲民主党5.7、国民民主党 0.6、公明党 3.3、共産党 3.1、日本維新の会1.2、自由党0.2、社民党 0.4、支持なし41.5、であった。ここ数年、世論調査で自民党の支持率が35%から40%で、他の少数諸野党に対して圧倒的に高く、野党はすべて合計しても10%程度という悲惨な状況である。
その象徴が、2019年最初の注目選挙であった山梨県知事選挙の結果であった。現職の旧民主系候補に対し自民系が一本化した推薦候補を擁立、1/27投開票の結果は、自・公推薦の長崎幸太郎(無所属・新)氏が19万8047票で、立憲民主党や国民民主党が推薦した後藤斎(無所属・現)を3万票差で破ったのである。「民主王国」とも呼ばれていた山梨県での野党側の完全な敗北である。自民党県連を二分するほどまでの保守分裂を克服したしたたかさや狡猾さが、バラバラで連携も結束も意気も上がらない野党側を上回ったのである。野党は結集よりも、分裂に向かっている実態が浮かび上がったのである。
しかもここでは前回に続き2度目の県知事選出馬の共産党山梨県委員長の花田仁氏が立候補、16,467票(得票率4.1%)で、前回2015年の 49000票(得票率17.5%)を大幅に下回る、共産党の2000年代の最低の得票数・率を更新するという最悪の事態である。共産党の小池晃書記局長は、「(今回の)選挙戦では、中央政府言いなりの(山梨)県政ではなく、暮らしを守り、地域経済を元気にする県政への転換を訴え、多くの県民の皆さんの共感が得られた。勝利には至らなかったが、掲げた公約の実現のため、県民の皆さんと力を合わせる」というコメントを発表したが、こんな得票でどこに「多くの県民の皆さんの共感が得られた」というのだろうか。このところしきりに「本気の共闘」で“安倍政治サヨナラ選挙”を呼号しているが、実態は相も変わらずのセクト主義と民族主義によって、野党共闘と統一戦線を空洞化させ、大いに安倍政権を喜ばせているのである。この敗北を真摯に反省できなければ、有権者からさらに突き放されるであろう。
2/14に、「立憲野党と市民連合の意見交換会」が開かれ、立憲民主党・福山哲郎幹事長、辻元清美国対委員長、国民民主党・平野博文幹事長、日本共産党・小池晃書記局長、穀田恵二国対委員長、社会保障を立て直す国民会議・玄葉光一郎幹事長、自由党・森裕子幹事長、日吉雄太国対委員長、社会民主党・吉川元幹事長が参加し、市民連合より各野党へ以下の通常国会における7項目の要望が渡された。
1 ねつ造された数字に基づく虚飾のアベノミクスを総括し、正直な政治・行政の回復とエビデンス(事実根拠)に基づく政策形成を図る
2 沖縄県民の意思を尊重し、沖縄県名護市辺野古における新基地建設の即時中止を決断するとともに、普天間基地撤去の道筋をつける
3 米国の言いなりに高価な装備品を購入し、次世代につけを回す防衛予算を徹底的に吟味し、国民生活を守る予算への転換を図る
4 消費税増税を延期し、消費増税対策に名を借りた不公正なばらまき予算を撤回する
5 入管法改正の再検討と外国人労働者導入の制度設計を精査するとともに、人権侵害の温床となっている外国人技能実習制度を廃止する
6 排外主義から国際協調主義への転換を図り、東アジアにおける平和の創出と非核化に向けて、日本が積極的に行動する
7 安倍首相が進める憲法破壊の動きに反対するとともに、安倍政治を終わらせ、個人の尊厳の擁護を基調とした政治を実現するという国民の願いを受け止めて、立憲野党が相互の信頼とリスペクトの上に、国会の内外で協力して戦う
この要望を受け、各党・会派と市民連合の各構成団体から意見交換が行われ、夏の参議院選挙に向けて野党と市民の共闘をさらに強めていくことが確認された、という。

<<国会パブリックビューイング>>
この意見交換会で、安保法制に反対する学者の会・広渡清吾氏は、「市民連合はもともと、2015年12月に当面参議院選挙で野党が共闘して、安倍政権にかわる政権を出すことを目標に結成されたものです。市民と野党が共闘するといったこのスタイルは、日本の戦後政治史の中でも非常にユニークなスタイルのように思います。これは、安倍政権が日本の歴史の中で、ある意味キーになるような政治を展開しているということに対するカウンターとしてあると思います。このユニークなスタイルをどうやって今から、日本の社会を開くために位置付け、そのためのエネルギーを集中させることが私たちにとっての大きな課題であり、今後とも新しく市民連合との意見交換会に参加していただいた野党の皆さんも含めて一緒に参議院選挙に向けて新しい力を社会の中に作り出していく方向で頑張っていきたいと思います。」と述べている。大いに期待されるところである。
この「ユニークなスタイル」とも関連して、国会での聞くに耐えないやり取りや安倍政権の実態が、「~国会を市民に『見せる』(可視化)から、市民が国会を『見る』(監視)に~」=国会パブリックビューイングという新しい活動(法政大学の上西充子教授・#国会パブリックビューイング 代表)で注目されている。国会での質疑応答、首相の暴言・妄言、そのやりとりのビデオを可視化するのである。多くの人々が行きかう街頭、公衆の場で、大きなモニター画面で見ながら、場面場面で解説が行われ、画面には適切なフリップも入れられていて、人だかりの中から怒りや驚き、歓声、笑いや拍手も起こる。NHKや民放のニュースや解説、報道番組で垂れ流される内容希薄な政権持ち上げ番組などとはなどとは比べものにならない懇切さと分かりやすさが人々を引き付けている。実態の暴露、可視化と監視が一体となった活動として、大きく広がることが期待される活動である。
こうした「ユニークなスタイル」を、新しい力をいかに社会の中に作り出していくか、表面的な「絵に描いたような野党共闘」や、あるいは口先だけの「本気の野党共闘」では、たとえ多くの選挙区で候補者一本化が実現したとしても、それは単なる各野党間の取引と棲み分けによる「名ばかり野党共闘」に堕してしまいかねない。人々の共感と期待を真に担える、そして誰もが参加できる、草の根の力に成長させる政策綱領と共闘、多様な統一戦線のあり方が問われていると言えよう。前号に紹介した薔薇マークキャンペーンも、そうした努力の現れと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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