【投稿】世界の「日本化」懸念をめぐって  経済危機論(8)

<<アメリカのジャパナイゼーション>>
FRB(米中央銀行制度・連邦準備制度理事会)のメンバーは、連邦基金の金利をゼロ下限に戻すと、インフレ期待が低くなり、日本化(Japanification)の真のリスクになると懸念を表明し、超低金利によって、景気後退は金融政策を無効にする可能性があるとの認識を明らかにしたという(12/2、ZeroHedge)。現状のまま米国経済が不況に陥ると、「インフレは日本型デフレに近づく可能性が高いことは明らか」だとして、FRBは米国経済が日本化することを回避するために、インフレを一時的に目標範囲の2%を超える新しい「金融ツール」を試そうとしている、と報じ、ZeroHedgeのタイラー・ダーデン氏は、実はすでに「不況が始まろうとしているかどうかに関係なく、すでにアメリカのジャパナイゼーション(Japanization)・日本化が展開し始めている可能性がある」と指摘している。
ここで言われる「日本化」とは、低成長、インフレ不在、デフレ、超低金利、マイナス金利、出口なしの硬直化した金融・経済を総称するキーワードとなっている。
この「日本化」は、はまり込んだり、感染してしまってはならない「陥穽」、「日本病」、あるいは世界を徘徊する「妖怪」として警戒され、相当以前から懸念されてきたものであり、EUはすでに「日本化」に陥っているとも指摘されている。
とりわけこの「日本化」を強く警告してきたのは、「ヘリコプターマネー」を提起して、緊縮政策からの大胆な転換を訴えた元英金融サービス機構(FSA、日本の金融庁にあたる)長官・アデア・ターナー氏である。氏は、著書『債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか? 』(日経BP 2016/12/23)の中で、「本書の英語版を書き終えた2015年時点で、世界経済が過剰債務に起因する低インフレと低成長の罠にはまっていて、かつタブーとされた大胆な政策を実施しなければ脱却できないことは既にはっきりしていた。この1年でそうした現実はさらに明白になったが、どこよりも明白なのが日本である。」と指摘している。氏は、「金利がきわめて低い水準に達すると、さらに引き下げても個人消費や設備投資を刺激する効果は低い。そして、この一年の日本やユーロ圏のようにマイナス金利が導入されると、名目需要に対する効果はマイナスになるかもしれない。超低金利がもたらした結果として何より明白なのは、既存の資産保有者の資産が増加したことである。英国では、2008年以降、1人あたりの所得は2%しか増えていないが、既存資産の残高は30%増加している。景気の回復力は弱く、その果実は平等に分配されていない。政治的な反発から英国はEU(欧州連合)離脱を決め、米大統領戦で共和党のドナルド・トランプ候補が躍進しているが、それは驚くべきことではない。」と強調している。そして、「近い将来、日本政府が現在の政赤字を黒字に転換し、債務残高で持続可能水準にまで引き下げることができるという信頼に足るシナリオは存在しない。物価が2%の目標に達することも見込めない。」と断言している。これらの指摘は、世界に広がる「日本化」の実態と問題点を正確についていると言えよう。
アデア・ターナー氏の「ヘリコプターマネー」とは、「2013年に初めて主張した時、各国中央銀行の多くの仲間や友人は恐れおののき、タブー視されたが」、「問題が名目需要の不足なら、中央銀行と政府が連携すれば弾薬は尽きることがない。それが増大する財政赤字のマネタリファイナンスであり、ヘリコプターマネーと呼ばれる政策」であると主張する。単なるバラマキ政策ではない。デフレ脱却政策として財政支出を重視する現代貨幣理論(MMT Modern Monetary Theory)と相通ずるものと言えよう。
問題は、経済を疲弊させる緊縮政策を転換させる政策が、マネタリーファイナンスだけに集約され、投機経済を規制し、規制緩和と市場原理主義の新自由主義を転換し、いかなる名目需要にファイナンスさせるかというニューディール政策と結びついていなかったことにあると言えよう。

<<ゾンビ化/日本化>>
「世界全体が、日本化の核である金融、経済、社会、政治の現状に移行している」とする「世界の日本化」(The Japanification of the World)というレポート(企業のプロパガンダの解毒剤を掲げるSGTレポート April 5, 2019)のなかで、チャールズ・ヒュー・スミス(Charles Hugh Smith )氏は、この「日本化」を以下のように特徴づけている。

・ ジャパニフィケーションは、過去28年間に日本経済を特徴付けるようになった一連の経済的および財政的条件を指します:持続的な停滞とデフレ、低成長と低インフレの経済、非常に緩やかな金融政策、積極的に債務をマネタイズしている中央銀行、すなわち政府債務を買うために空から通貨を作成し、「どこにも橋を架けない」資金を供給する政府と、経済が完全な収縮に陥らないようにするためのその他の刺激策支出。ほぼゼロの成長とほぼゼロの金利によって現状を維持しています。
・ ゾンビ化/日本化のもう一つのダイナミクスは、過去の成功がパワーエリートを失敗したモデルに縛り付けていることです。過去の栄光が大きければ大きいほど、国民的アイデンティティと権力エリートに対する保持力が強くなります。金利の引き下げが長期的な成長のきっかけとなった場合、パワーエリートは金利をゼロに引き下げます。それでもダメな場合、彼らはゼロ以下の金利、すなわちマイナス金利に引き下げます。それが深刻になると、うそをつく必要があり、深刻な事態が常態化します。
・ これは社会的不況であり、いったん組み込まれると、元に戻すことは本質的に不可能です。若い人たちが子供をもう持たず、家や車などを買うのに十分なお金をもう稼ぐことができず、高齢者はあまりお金を使わないので、経済は停滞して衰退する運命にあります。
・ こうしたことにより、上位10%が経済全体を支えていますが、経済全体は脆弱化し、いずれ現状を維持している多くの腐った小道具の一つ一つが崩壊し、政治的反乱や社会的不況、または多くの敗者を犠牲にした極端な手段によって、脆弱性のいずれかから崩壊し、ゾンビ化/日本化は成功しません。

<<重篤化する「日本病」>>
そして、こうした「日本病」は、治癒されるどころか、重篤化しているとも言えよう。
昨年・2018年の日本の経済成長率は、実質GDPベースで0.81%、193カ国中171位という低さである。日本は、この20年間でGDPが20%も縮小し、世界最下位の成長率を記録しているのである。それにもかかわらず、安倍政権はこの10月に消費税増税を強行している。「日本病」をさらに悪化させ、経済の縮小、デフレ化に突き進む最悪の政策である。
しかしこの最悪の政策の下で、12/2に発表された今年7-9月期法人企業統計によれば、利益剰余金は、4.0%増の471兆円と過去最高を更新し、逆に従業員への賃金・賞与が減少し、給与は前年同期比でマイナス1.1%、賞与は同マイナス3.5%、計マイナス1.5%と落ち込んでいる。企業の内部留保は過去最大を記録しながら、賃金には一切分配されず、雇用の規制緩和・非正規化によって賃金引き下げさえ進行している。実体経済の成長を見放したあふれる投機資金は株価を吊り上げ、8月には2万円割れ寸前まで下落していた株価が、12/5の東京株式市場で、米中通商交渉の進展を期待して、日経平均2万3300円台に上昇している。危なっかしい「日本病」の典型的症状と言えよう。
このほど発表された経産省の、商業動態統計・10月速報分によると、消費税増税の結果、卸・小売りを合わせた商業販売額は、10月前年同期比9.1%減という予想を超す低下幅を記録している。この低下幅は前回の増税直後の2014年4月の4.3%減よりも大きかったのである。9月は増税前の駆け込み需要で4.6%増であったが、昨年12月~今年8月、9カ月連続の前年割れである。
10月、百貨店は17.3%減、家電専門店は14.2%減、新車販売は、10月24.9%減、11月12.7%減。鉱工業生産指数は10月前年同月比7.4%減、前月比4.2%減である。
こうした実体経済のさらなる冷え込みにもかかわらず、財政制度等審議会(会長・経団連前会長・榊原氏)答申は、この10月の消費税増税を「長い道のりの一里塚に過ぎない」と明記し、経済同友会代表幹事の桜田氏は「2024年には14%になっているのが望ましい」とし、17%まで引き上げることを提言している。こんな提言が堂々とまかり通っている事態こそが、「日本病」重篤化の証左と言えよう。
11/25、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事が来日し、麻生財務相に日本経済について分析した2019年の報告書を手渡し、その中で、高齢化に伴う費用を賄うためには消費税率を2030年までに15%に引き上げ、2050年までには20%まで段階的に引き上げるべきだと提言している。IMFも世界の「日本化」を推し進めているのである。
こんな事態を根本的に転換させるニューディール政策こそが要請されている。
(生駒 敬)

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