【投稿】英総選挙とユーロの危機--経済危機論(9)

<<保守党の変身>>
12/12投開票の英総選挙で、ボリス・ジョンソン党首の与党・保守党(Con)が1987年にマーガレット・サッチャー首相が376議席を獲得して以来、364議席(+66)、絶対過半数をを獲得して圧勝した。対する労働党(Lab)は、203議席(-42)で、ジェレミー・コービン党首の下で2017年前回総選挙での躍進(30議席増の261議席を獲得)を帳消しにしたばかりか、それ以上の歴史的敗北を喫し、コービン党首は辞任を表明した。第三党に浮上したスコットランド国民党(SNP)は48議席(+13)を獲得して、ブレグジット(欧州連合離脱)をめぐる問題の深刻さを浮き彫りにしている。この勢力変化そのものが、イギリスの、そして欧州連合・ユーロ危機そのものを象徴しているとも言えよう。
ジョンソン首相が、大勝を受けて「ブレグジットを終わらせる」と胸を張ったその日に、反ブレグジットの左派であるスコットランド国民党を率いるニコラ・スタージョンは、離脱が進められれば、欧州連合にとどまることを明確にし、独立の是非を問う新しい「独立国民投票」が行われることを明言したのである。イギリスという連合王国(United Kingdom)が、政治的には統一と団結(united)とは程遠い実態と矛盾が露呈されているのである。(下の図で、青が保守党、赤が労働党、黄がSNP 、労働党の牙城だったイングランド北部・中部の「赤い壁」と呼ばれてきた地域が保守党の青色に塗り替えられた)
この選挙で、保守党のジョンソン首相は、徹底して混迷する状況を打開するキーワードとして「ブレグジットを終わらせる(Get Brexit Done)」を前面に打ち出したが、重要なことは、同時に労働党の政策を横取りする策に出たことである。実行する気もなければ、政策的裏付けもないにもかかわらず、これまでの保守党の緊縮政策を真逆に転換させたかのような姿勢を打ち出したのである。
ジョンソン氏は、この9年間保守党が推し進めてきた緊縮財政路線をやめて、公共投資を増やすと述べ、さらにブレグジットに次いで最大の争点となっていた国民保健サービス(NHS)縮減から一転して、「病院40棟の新規建設」「看護師5万人増員」などを公約。しかしこの看護師「増員」の中には退職意向の現職1万8500人の慰留などが含まれていたことが判明、メディアから「看板に偽りあり」と批判されても、選挙戦の最中に繰り返し病院を訪問し、NHS重視をアピールするという徹底ぶりであった。NHSは原則無料の国営医療制度であり、これまで保守党の緊縮政策によって、医療スタッフ不足や過重負担、患者の待ち時間の長期化や手術の先送りなどが常態化していたものである。NHSをアメリカ資本に売り渡そうとする裏取引に関しても、「いかなる状況でも、NHSを貿易交渉の議題に乗せないと絶対に保障する」などと力説したのであった。

<<労働党の大敗>>
対する労働党は、この数十年で最も広範囲にわたる野心的な社会民主主義プログラムを打ち出し、保守党が廃止した看護学生への奨学金を復活させ、NHSの拡充、福祉国家の刷新、大規模なインフラ投資と主要な公益事業の再国有化、無料の高等教育、環境に優しい新しい取引による大規模な経済的後押し、ネット接続の無料化などを公約した。
しかし最大の争点であったブレグジットについては、ブレグジットの是非を問う国民投票のやり直しを公約に掲げ、「(離脱か残留か)方針を決められない」労働党の現状をさらけ出してしまったと言えよう。
しかもコービン党首は、選挙戦の最中にこの問題については「中立的」であるとまで言明したのであった。コービン氏にとっては、このブレグジット問題で「中立的な審判」として行動するという約束にしばられた党内での分岐・分裂を反映していたのであろう。しかしそれは致命的な弱点となり、大きな損害をもたらしたことは否定できない。離脱派の労働党支持者の目には、それが離脱阻止を狙った裏切り行為に映ったのも当然であろう。
ブレグジットをめぐる保守党や右翼民族主義諸党と闘うための戦略・戦術もなしに選挙に臨み、新自由主義とそのグローバリズムに対抗する政策を対置できなかったのである。
EUは、現実として自由競争原理主義の新自由主義的なルール(国境を越えた資本、商品、サービス、労働の自由な移動)と、その弱肉強食を規制する社会、労働、税、消費者、環境保護等の逆説的な、相反する組み合わせであり、それは不断のせめぎあいでもある。そこにグロ-バル資本が参入し、かき回し、加盟各国の経済主権、そしてEUそれ自体まで掘り崩されつつある。
ブレグジットは、そうした新自由主義の横行とグローバル経済の進行、経済危機の激化による広範囲かつ巨大な被害に対する拒否反応と言えよう。民族主義と排外主義がこの機に乗じて跋扈し、主導権を取ろうとしている。アメリカのトランプ、インドのモディ、ブラジルのボルソナロなどはその典型とも言えよう。
こうした経済危機の深化に対抗する、具体的かつ実行可能なニューディール政策こそが問われていると言えよう。
(生駒 敬)

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