【投稿】香港の暴動の背景と日本のマスコミ・リベラルの歪な「中国感」

【投稿】香港の暴動の背景と日本のマスコミ・リベラルの歪な「中国感」
                             福井 杉本達也

1 香港暴動で大きく破壊された公共インフラや商業施設
長引く香港の暴動で訪問観光客数は前年比39%(8月)も減少した。老舗高級ホテル:ザ・ペニンシュラ香港の稼働率は35%にまで低下した。宝飾品の売上は41%減、デーパートの売上も26%減、親中的企業と見られたスターバックスの店舗なども破壊された(日経:2019.11.29)。暴徒に繰り返し襲撃され、破壊された結果、人々で賑わい商売の繁盛していた銅鑼湾、旺角、尖沙咀など商業エリアの場景は雲散霧消した(人民網2019.10.28)。大量輸送インフラへの打撃も深刻で、香港国際空港占領に始まり、地下鉄駅への放火・車両の脱線、香港海底トンネル(クロスハーバートンネル)も破壊され通行止めになり、信号機も約730基が破壊された。移動の約90パーセントが公共輸送機関に依存している都市での衝突は、750万人もの香港住民にとって、外出する際に、もはや安全なスペースがない状態となった。今年第3四半期の香港の域内総生産(GDP)は前年同期比マイナ ス2.9%となる見通しだ。香港の小売業、ホテル業、飲食業の合計失業率はすでに過去2年余りで最高の4.9%に上昇。このうち飲食業の失業率は過去6年間で最高の 6.0%に達している(「香港ポスト」2019.11.28)。

2 香港暴動の目的は第二の「天安門事件」を引き起こすことにあった
香港暴動の裏の意図は、当初から「第二天安門事件」を引き起こすことであった。香港警察の防御網を突破し、中国人民解放軍を出動させるよう挑発することが目的だった。暴動の参加者は、英米政府から資金を供給され、リーダーはCIA謀略資金の公然組織である全米民主主義基金(NED)のような組織と共謀するためワシントン出向いている。しかし、香港と中国本土を不安定にするため、外国に支援された公然の取り組みは最終的に失敗した(参照:Tony Cartalucci 「マスコミ載らない海外記事」2019.10.17)。人民解放軍は暴動鎮圧に出動しなかった。香港駐留の人民解放軍は非武装でボランティアとして暴動により破壊された道路などのインフラの掃除をしただけであった。香港の公共インフラをあまりにも破壊した結果、香港市民の支持を失い孤立して、暴動の武装中核部隊は香港理工大学に追い込まれ、ほどんどが逮捕されてしまった。
中国政府が人民解放軍を出動させなかった理由は1989年の「天安門事件」による米欧からの徹底的な制裁にあった。結果、中国の経済発展はしばらくの間大きく遅れることとなった。今回も「第二天安門事件」を引き起こし、それを理由として中国に経済制裁を科して中国の経済発展を封じ込めるつもりであった。しかし、中国は「天安門事件」に学んだ。二度と同じ過ちは繰り返さないと誓った。暴動の首謀者の目算が外れた要因はもう一点、香港は北京ではないということである。北京が分裂すれば政治指導部が分裂し国家が解体してしまう。しかし、香港がどうなろうと、今の中国の経済力からすれば大した打撃ではない。

3 香港の地位低下と経済格差の拡大の焦燥感を「社会主義」中国にぶつける
香港返還時には中国のGDPの18%を香港が占めたが、現在はわずか2%に過ぎない。中国全体にとっての香港の位置は劇的に低下したのである。香港は中国本土に大きく負けている。貧困率は高く、汚職と香港市民の生活を顧みない残忍な金融資本の下で苦しんでいる。香港は低い出生率のため急速に高齢化しており、少人数の若い世代に重い財政負担がかかっている。人々はいらだっており、彼らは自分たちの問題を、イギリス植民地政策の名残にではなく、「社会主義」中国のせいにしている。かつては香港大学と香港城市大学が中国最高だったが、北京大学や清華大学を含め多くの大陸最高学府が、今やずっと多くの最先端の創造的な思想家を産み出している。本土の中国の都市には、極端な貧困がないが、香港では、少なくとも20%が貧しく、多くが自身の都市に住む余裕がない。香港は地球上、最も高価な場所となっている。(参照:Andre Vltchek「マスコミ載らない海外記事」2019.10.3)。今自国を裏切り、アメリカやイギリスに「彼らを解放する」ようしきりに促している。香港は、漠然と定義された独自性のためだけに戦っている。彼らはロンドンに再度植民地化されるのを望んでいる。それが彼らの奇妙な「民主主義」についての考え方である。

4 暴動を支持する日本のマスコミ・リベラルや共産党
日本では「天安門事件」を契機に、「共産党独裁」・「人権無視」という中国の否定的なイメージを拡大再生産してきた。そのため日本では「中国の姿を正しく認識すること」ができなくなってしまった。世論は洗脳され、中国を直視できなくなった(参照:矢吹晋「周回り遅れの日本5G報道」2019.6.20)。天安門事件の頃、中国のGDPは日本の8分の1であった。それが2018年には日本の3倍である。貿易相手としては1990年当時はわずか3.5%に過ぎなかったがいまや23.9%(香港・マカオ含む)であり、対米貿易14.9%を大きく上回っている。「日本人の心理は微妙で、日本産業が中国との相互依存を深めていることを実感しながら中国の台頭に脅威を覚えており『複雑骨折』している」(寺島実郎「脳力のレッスンー平成の晩鐘が耳に残るうちにー体験的総括と冷静なる希望」雑誌『世界』2019.6)。日本のマスコミは米軍産複合体の広告媒体であるため、中国異質論を煽り極東における軍事的緊張を高めようとしているが、悲惨なのはそれに同調する日本のリベラルである。中には香港理工大学と全共闘運動の東大安田講堂を比較するSNSすら見受けられる。当時の学生運動には「ベトナム反戦」の大義があったが、香港にはそのような国際連帯のスローガンは見られない。ひたすら「反共」の自己に引きこもっている。これに輪をかけて、日本共産党は党綱領まで改正するという。志位委員長は中央委員会総会で①「核兵器問題での変質がいっそう深刻になっていること」、②「東シナ海と南シナ海 での覇権主義的行動も深刻化していること」、③「国際会議の民主的運営を踏みにじる横暴なふるまい」、④「人権問題が深刻化していること」の4点を上げ、④では香港での「武力による威嚇を行った中国政府の 対応に反対します。」、「ウイグルにおける 人権問題も重大な国際問題となっており、わが党は中国当局に対し人権抑圧の中止を強く求めるものです。」、「中国の行動は、どれも、社会主義の原則や理念と両立しえないものといわなければなりません」と述べたが、中国への内政干渉も甚だしい。あたかも日本共産党の党勢が衰退し、票が減っているのは、同じ「共産党」を名乗る中国共産党の覇権・人権無視にあると他人に責任を転嫁するものであり、自らだけが正しいとする日本共産党の一貫した「傲慢さ」と「無責任の体系」が如実に現れている。また、②の東シナ海で中国公船が「領海侵入、接続水域入域が激増・常態化」しているのとしたが、このような事態を招いた原因は日中国交正常化時の田中角栄・周恩来会談における尖閣問題の「棚上げ」合意をひっくり返した民主党政権時代の前原誠司・仙谷由人の冒険主義とその後の安倍政権にある(参照:浅井基文「日本共産党の綱領改定問題」2019.11.10)。
量子暗号という機密保護の技術がある。量子力学に基づく技術で暗号の「鍵」を光の粒子にのせて送る。これを第三者が盗もうとすると必ず痕跡が残る。中国は「量子コンピューターや暗号の分野で覇権を狙う。北京・上海間に世界最大規模の量子暗号ネットワークを築いたほか、人工衛星と地上の間で量子暗号を送信する実験に成功」し、世界の最先端を走っている(日経:2019.11.13)。11月28日、パナソニックが半導体事業から撤退すると発表したことに象徴的であるが、「日米半導体協定によって日本のIT業界が手足を縛られ、その後の経営者の無為無策によって今日の壊滅に」至った(矢吹晋:「周回り遅れの日本の5G報道」2019.6.20)。結果、日本経済の沈没が加速した。「5G」の問題では、もう「周回り遅れ」である。過去の「失敗の教訓を生かすどころか、反省さえせずに、過去の幻影に酔い、隣国における量子科技研究の動向に目を閉ざしている」(矢吹晋)。これが今日の歪な「中国感」の根拠である。

5 一国二制度とは何か?香港の真の支配者は誰か?
暴動で公的インフラの多くが破壊され、香港の見本市ビジネスの先行きを懸念する声もあがっていたが、「見本市ビジネスは予想以上に健闘」しており、「イベン卜開催が集中する10 ~11月で予約が取り消されたのは、映画関連イベン卜など3件のみ。今のところ2020 年末まで予約はほぼ埋まっている」としている(日経:2019.12.1)。もう1つ暴動の被害を全く受けていないのが香港の金融資本である。経済=通貨を支配するものが真の支配者である。
香港の通貨「香港ドル」は香港上海銀行(The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited:イギリスの金融グループHSBCホールディングスの中核子会社)など3行が発行する。米ドル・ペッグ制を取り、米ドルとリンクして通貨の価値を安定させている。中国の人民元は香港ドルと安定的につながり、香港ドルが米ドルと固定レートでつながることのよって、中国は香港を経由して海外資本を導入し、製造した商品を海外に輸出してきた。その香港の裏の顔がタックス・ヘイブンである。日経によると2009年~18年までの10年間に中国から130兆円の資本逃避があったとされる(2019.6.23)。それはHSBCなどの多国籍金融機関を通じて、グローバル金融の「匿名」の闇に消えている。2015年にはHSBCのスイス子会社での富裕層顧客の巨額脱税幇助が発覚するなど、HSBCはタックス・ヘイブンやマネーロンダリングの中核的存在である。香港の政治経済を単なる「逃亡犯条例」や「普通選挙」などの「政治的自由」からだけから見ると本質を誤る。アヘン戦争(1839年~1842年)で香港を強奪して以来、強盗として振舞ってきた米英の多国籍金融資本と中国とのせめぎ合いの場こそが「一国二制度」である。

6 アリババの香港上場
中国電子商取引(EC)最大手のアリババ集団が11月26日、香港証券取引所に上場した。資金調達額は1兆円を超え、世界最大の規模である。日経新聞・11月28日の社説では「香港は大規模デモがおさまらず、国際金融センターとしての地位が揺らぎかねない状況にある。アリババの上場には、香港市場が機能していることを内外に示す意味合い」があるとし、中国政権としても「企業の資金調達で米国に依存する状況を抜け出したいのが本音だろう。米中の覇権争いが資本市場にも及んできたといえる。米国だけに上場している中国企業はほかにも多く、香港傾斜の流れが強まる」と分析する。
中国は2019年2月「粤港澳大湾区」(広東・香港・マカオビッグベイ)構想を正式始動させた。188億ドル以上を投資した港珠澳大橋(香港-珠海-マカオ橋)はその象徴である。また、昨年9月には、広深港(広州・深セン・香港)高速鉄道」も全線開通した。中国の大規模な統合開発計画にとっては、香港は重要な結節点としての信用に値しないというのが中国の確信である。香港を粤港澳大湾区一部として、大陸と統合するべく、深圳を香港を上回る金融センターにしようと計画している。これに焦っているのが香港の金融資本+英米の強盗金融資本である。今回の暴動や区議選挙における民主派の勝利の背景にはこうした焦燥感がある。アリババの香港上場はこうした金融資本への一定の妥協である。しかし、同時に暴動に寛容であるとして香港を牛耳る巨大財閥であるCKハチソンホールディングス(長江和記実業)の創業者:李嘉誠を名指しで批判しており(日経:2019.11.28)、アヘン戦争以来、やっと独立を取り戻した建国70年の人民共和国の売国行動は許さないというのが中国の強固な姿勢であろう。

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