【投稿】異常気象を地球温暖化のせいにするも何も決まらなかったCOP25
福井 杉本達也
1 COP25は何も決められずに終了
日経の12月17日社説は「温暖化対策の緊急性はわかっても実行に移すのがいかに難しいことか。マドリードで開いた気候変動に関する国際会議『COP25』は、気象災害の多発などを防ぐのに必要な温暖化ガスの削減と、現実の政策との聞きを見せつけた」と書いた。予定された会期を2日間延長して協議を続けたものの、「パリ協定」の詳細なルールづくりは2020年に持ち越した。対策に前向きなEUや島しょ国と石炭産業などを保護したい米国やオーストラリアや石炭火力発電に頼るインドなどの発展途上国との対立が最後まで折り合わなかったことによる。さらに国際会議直前の11月に米国は正式に「パリ協定」からの離脱を通告しており、中国に次ぎ世界第二・二酸化炭素排出量の15%を占める米国の離脱は協定を有名無実化する。こうした現実の議論に対し、日本では「グレタ現象」や日本の石炭火力依存を揶揄する小泉進次郎環境相の「化石賞」受賞などの素人受けする話題を追うのみであり、まともな議論は皆無である。
2 異常気象を温暖化のせいにしての脅し
産経新聞は「今年の日本は未曽有の台風被害に見舞われた。地球温暖化が原因とされる異常気象が深刻化しており、対策は待ったなしだ。…10月に日本を直撃した台風19号は、海水温が高い海域を移動しながら急速に勢力を拡大。日本近海の海水温も高かったため、勢力を維持したまま上陸し甚大な被害をもたらした。海水温の上昇は温暖化が原因と考えられており、専門家は『温室効果ガスの削減は一刻を争う』と警告する」と脅している(産経:2019.12.15)。また東京新聞も社説において「過去20年間に、異常気象によって世界で50万人 が命を落とし、経済的損失は400兆円近くに上る。去年1年、豪雨や熱波など気象災 害の被害を多く受けた国は、その日本だったのだが」と書く(2019.12.17)。
しかし、温暖化と異常気象を結び付ける根拠は全くない。そもそも台風19号の豪雨被害をまともに予測できたのであろうか。結果として被害が大きかったことを温暖化のせいにすることは気象庁や国交省を始め専門家の責任逃れ以外の何者でもない。特にひどいのが岩波書店発行の雑誌『世界』2019年12月号「気候クライシス」特集である。同誌において(財)気象業務センターの鬼頭昭雄:地球環境・気候研究室長は「最新の気候モデルによる予測結果では、日本の南海上からハワイ付近にかけて猛烈な台風の存在頻度が増加する可能性が高いことが示されている。猛烈な台風は日本の南方海上から日本付近に来る途上で衰えることが多いが、温暖化で海洋表層水温が高くなるため勢力を長く維持できるからだと考えられる。また台風が最盛期を迎える海域が全体に高緯度側にずれるとの予測がある。」とし、「熱波や大雨などの極端気象は増えており、今後の気温の上昇に応じて、熱波や大雨などの極端気象による災害のリスクはさらに増えることは確実である」と書くが、何の計算根拠も数値も示していない。ブラックボックスである。根拠のないものを信じろと強制することを「科学」とはいわない。そのような計算結果が出るのであれば大発見である。台風の正確な進路予想や地域ごとの風力・雨量計算ももっと正確に計算できてしかるべきである。少なくとも根拠があるならば引用文献などでも示すべきであろう。
3 EUの「グリーンディール」について
12月11日、EUは「欧州グリーンディール」を公表した。EUが持つ排出量取引制度の海運業への拡大、EU域内に乗り入れる航空会社への規制強化、環境対策が十分でない国の製品に上乗せする「国境炭素税」の21年開始、リサイクルや化学物質の行動計画、EV用バッテリーや、エネルギー多消貨型の鉄鋼や化学、セメントといった業種での脱炭素化に向けた大規模な支援も計画、二酸化炭素の排出に価格を付けるカーボンプライシングも強化するという(日経:2019.12.14)。12、13日に開催されたEU首脳会議では温室効果ガス排出量を 2050年までに50%削減する目標を承認したが、石炭産出量世界7位でエネルギーの8割を依存するポーランドは参加を見送った。「パリ協定」は目標に法的拘束力を持たせないことから、米国や中国を含む全ての国の参加が可能となったが、野心的な環境目標を競う美人コンテスト的な現象を生む。コロラド大学のピルキー教授によると、ゼロエミッションを達成するためには、毎日約1.6百万トンの化石燃料消費節減が必要となる。これを達成するには、原発を2日で3基新設する、又は5MW級の風力を2050年まで毎日1500基増設することが必要になる(有馬純GEPR 2019.11.26:Roger Pielke:Forbes 2019.10.22)。現実的ではないばかげた計画ではあるが、じわじわと原発再稼働の圧力となる。
4 温暖化を隠れ蓑に原発再稼働を目論む
12月16日の読売新聞社説は「太陽光や風力などの再生可能エネルギーは天候に左右され、発電量が不安定という課題がある。島国の日本は、送電網が国を越えて広がる欧州のように、他国から電力の供給を受けられない。安全が確認された原発の再稼働を進めて、安定電源を確保する。効率の悪い旧式の石炭火力は廃止 を急ぐ。火力への依存度を着実に下げていくことが重要である。」と温暖化をだしにして強引に原発の再稼働を進めようとする動きがある。元々、温暖化対策に積極的なEU・なかでも原発大国フランスは原発を推進するために温暖化対策を持ち出した経緯がある。COP25開催中の12月4日には「欧州原子力学会が開いたイベントで、スペイン原子力産業フォーラムのイグナチオ・アラルーチェ会長は訴えた。『原子力は歴史的にも二酸化炭素(CO2)削減に貢献し、世界中でCO2と戦っている。称賛されてしかるべきだ』」(朝日:2019.12.8)と温暖化対策と原発稼働を無理やり結び付けた。2008年に出された米民主党の「グリーン・ニューディール」には「温暖化対策の一環として原子力発電所の建設を後押し」の提言も含まれている。しかし、二酸化炭素を削減するために10万年も管理せざるを得ない放射能を増やすというのは全く道理に合わない。
5 いたずらに危機意識を煽るな
鬼頭室長は、台風が「地球温暖化で日本南方域の海水温が上昇し続けている現在、衰えずに猛烈な勢力のままで来襲する」(鬼頭:同上)と根拠なしに危機感を煽っている。人間活動によって大気中の二酸化炭素が増えていること、二酸化炭素には温室効果があることは事実である。しかし、全地球的な観点からは、人間の出す二酸化炭素よりも海洋に含まれる炭素量が圧倒的に多く、さらに地球の中心部のマントルや核には膨大な炭素が含まれており、これらが火山活動によって大気中に放出されている。地球を数十億年というスケールで見ると大気中の二酸化炭素濃度は増減を繰り返しながら減少している。二酸化炭素が高い時代は温暖な気候となり、低い時代は寒冷な気候となる。現在の二酸化炭素濃度は寒冷期にあたっているため、異常に低いレベルにある(鎌田浩毅『地球とは何か』2018)。炭素は地球上で非常に長いサイクルで循環しており、こうしたことを考慮せず、単に大気中の二酸化炭素濃度のみで物事を語ると大きな過ちをおかすことになる。「科学者の声を聞き、科学に基づいて団結し行動してほしい」というが、科学に絶対はないし多数決もない。気候に関する科学的知見は未解明の部分が多く、きわめて限定的である。知識と現実の間には不確実性がいつでも残っている。「科学」をたてに、いたずらに危機意識を煽ることは止め、「俺たちに明日はない」のは原発だけにして欲しい。