【投稿】対イラン・中東戦争拡大の危険--経済危機論(11)

<<トランプの冒険主義>>
2020年、新年早々、1/2、米・トランプ政権は、危険極まりない新たな戦争に乗り出した。イランの国民的英雄であるイスラム革命防衛隊精鋭部隊の司令官カセム・ソレイマニ将軍が、イラク軍兵士31人の葬儀に出席し、イラク首相の指揮下にある公式のイラク治安部隊の副司令官であるアブ・マフディ・アル・ムハンデスによってイラクのバグダッド国際空港で迎えられ、車に移動したその車列を突如上空から急襲し、ソレイマニ司令官やイラクの重要民兵組織のトップら5人とともに殺害したのである。日本の真珠湾攻撃のような、宣戦布告なき戦争突入開始爆撃である。
トランプ大統領は、米国時間で2日(木)夜、バグダッド時間では3日の朝、ドローンによる襲撃を承認したことを明らかにし、「昨夜、戦争を止めるために行動を起こした。」「私の指示で、米軍がテロリストの首謀者を抹殺する完璧な作戦を実施した」と述べ、同時に「私たちは平和を愛する国であり、私の政権は世界の国々の間で平和と調和を確立することに固くコミットしています」「戦争も体制転換も求めない」と言い訳がましい発言もしている。
米国防総省は、「大統領の指示で、米軍は、米国指定の外国テロ組織であるイラン革命防衛隊の長であるカセム・ソレイマニを殺害することにより、海外の米国人員を保護するための決定的な防衛行動をとった」と声明で述べている。しかし、ソレイマニが「アメリカの外交官と軍人に対する差し迫った攻撃」を企てたという証拠などはまったく示してはいない。米軍は、すでにこの地域に約60,000人の軍部隊を派遣しており、昨春以来、14,000人を増派、今回さらに約3,500人の増派を進行させている。
戦争を始めたばかりの大統領が、「我々は戦争を求めていない」などとよくも言えたものである。マイク・ポンペオ米国務長官は、「イラクだけでなく、イランの人々は、昨夜のアメリカの行動を彼らに自由を与え、感謝してくれるだろう」と発言し、トランプによって解任されたはずのジョン・ボルトン元国家安全保障特別顧問に至っては、「カッセム・ソレイマニの排除に関与したすべての人にお祝いの言葉を述べます。これがテヘランの政権交代の第一歩であることを願っています。」とまで述べている。傲慢な帝国主義的本性をむき出しにした発言と言えよう。
イランのラバンチ国連大使はただちにこれは「戦争行為である」と断定し、報復の「軍事行動」に出ると宣言、ロウハニ大統領は「米国は自分たちの大きな過ちを理解していないだろうが、今日以降、その結果に直面するだろう」と報復を明らかにしている。イランの最高指導者、アヤトラ・アリ・ハメネイ師は、ソレイマニの死に対する3日間の追悼を宣言し、「厳しい報復が犯罪者を待っている」と述べている。
イラクのアブデル・マハディ首相は、「イラクの指揮官の標的とされた暗殺は合意に違反している。それはイラクと地域で戦争を引き起こす可能性がある。それはイラクにおける米国のプレゼンスの条件の明らかな違反である。」と述べ、すべての米軍の撤退を求める議会緊急会議を呼びかけている。

<<「次の目的地は油田だよね」>>
トランプ大統領は、今回の無謀な決定をフロリダの私邸のマーアラーゴでゴルフをしている間に下したようだと報道されているが、この時、共和党のリンジー・グラハム上院議員が一緒にプレイしており、今回の軍事行動について説明された議会の唯一のメンバーであると言われている。グラハム議員は1/3のインタビュー番組(FOX)で「フロリダにいたとき、潜在的な作戦について簡単に説明を受けました」と語り、トランプ氏に対して「もし私が大統領だったら、イラクやシリアではなく、イランのテーブルターゲットを置くだろう」と述べて、トランプ氏から「次の目的地は彼らの油田だよね」と尋ねられ、イランの石油精製所を標的にすること、「イラン経済を粉砕」することを話し合ったという。露骨な戦争行為の吐露である。日本を含め、大手メディアは一切このことを報じていない。しかもトランプ氏は、この戦争行為を一切議会に諮っていないのである。
これは明らかな憲法違反行為である。米国憲法第1条第8項は、大統領ではなく議会のみが戦争を宣言する権限を持っていると明確にしている。これだけでもトランプ氏は弾劾に値し、即刻罷免されるべきなのである。民主党のペロシ院内総務は「政権は、議会の協議なしに、今夜のイラク攻撃を行った」、「この深刻な状況と、追加の軍隊の地域への大幅なエスカレーションを含む、政府が検討中の次のステップについて、議会全体に直ちに説明しなければならない。」と声明で述べている。議会は、イランとの戦争を明示的に禁止する法律を可決しなければないのである。
いずれにしても世界は、危険極まりない未知の戦争領域に突入したことは間違いない、と言えよう。すでに、ニューヨークとロサンゼルス両市は、ソレイマニ氏の殺害に対応する可能性のある攻撃に備えることを明らかにしており、ニューヨークのビル・デ・ブラシオ市長は「私たちの都市と私たちの国を心配しています。議会の承認なしに、米国政府は今夜イランとの戦争を事実上宣言した。アメリカ国民は投票時間にも関わらず発言権を持っていませんでした。これはすぐには終わりません。」と述べ、非常事態に備え、ニューヨーク市警察(NYPD)が「即時の措置を講じる…報復の試みから主要なニューヨーク市の場所を守る」とツイートしている。

<<“橋渡し役”はどうした?!>>
当然、次の標的となる油田地帯、ホルムズ海峡(Strait of Hormuz)をめぐる緊張が一挙に高まっている。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾およびアラビア海を結ぶ狭い水路であり、最も狭い地点では、幅はわずか21マイルである。喫水の深い大型タンカーは海峡の中央部しか航行できず、輸送レーンの幅もわずか2マイルしかない。ペルシャ湾の港から原油を運ぶ石油タンカーは、2018年に1日あたり約2100万バレルであり、これは世界の海上石油取引の約3分の1に相当し、世界の石油液体消費量の約21%に相当する巨大な石油交易の海峡である。日本に輸入される原油の8割以上はホルムズ海峡を通過している。水路閉鎖の事態になれば、世界経済は大打撃を受けるであろうことは間違いない。
 すでに今回の米軍の爆撃報道で、原油先物価格が約3ドル急伸している。ホルムズ海峡をめぐる戦争は、世界戦争に転化する危険性が極めて高いのである。(上図は、米・イラン緊張激化の焦点・ホルムズ海峡を報じるサイト)
逆に言えば、トランプ氏を取り込む好戦勢力、ネオコン、石油資本、軍産複合体、マネーゲームに賭ける金融資本が、出口のない経済危機から脱出するため、移り気で安定性に欠けるトランプ氏をたきつけているとも言えよう。
フランスやドイツ政府は、ただちに「すべての当事者に対して自制を求める」声明を発表しているが、ただちに影響を受ける日本政府は鳴かず飛ばずである。アメリカとイランの“橋渡し役”を任じ、世界にアピールしてきたはずの安倍首相は、アメリカの奇襲攻撃に一切反応せず、何事もなかったように平然とゴルフに興じているのである。1/4、ゴルフ場で記者団に中東情勢について問われると、「今月、諸般の情勢が許せば中東を訪問する準備を進めたいと思っている」と述べただけで、アメリカやイランに対して自制を呼びかけることもなし、2月上旬に派遣予定の海上自衛隊艦船の「調査・研究」派遣についてさえも言及さえしない、いや言及できないありさまである。うろたえているのであろう。
危険極まりない事態、戦争行為のエスカレートを即刻食い止める行動、アメリカへの追随・加担を許さない行動こそが要請されている。
(生駒 敬)

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