【投稿】緊急経済対策と地方自治体
—「地域振興券」「地域戦略プラン」のドタバタ劇—
政府は、昨年11月16日の経済対策閣僚会議において、「緊急経済対策」を取りまとめた。金融システムの安定化対策、景気回復策を中心に鳴り物入りで打ち出されたものであるが、当初からその効果に疑問の声があり、4ヶ月経った今では、すっかり色あせたものとなっている。一方、従来の経済対策と違って今回特徴的なのは、地方自治体とりわけ市町村と密接なかかわりを持ったものとなっていることである。今までも景気対策にからめて、公共事業の積極的な推進に地方自治体を誘導したものはあったが、今回はそれ以上に地方自治体を巻き込み、国・地方の総力を挙げて景気回復を図ろうという姿勢を見せようとしている。その内容たるや、地方自治体にとっては甚だ迷惑なおそまつなものなのだが、地方分権関連法案がいよいよ国会で審議され、「地方分権が具体化の段階に入った」と言われている昨今、看過できない多くの問題を含んでいる。今月と来月の2回に分けて、緊急経済対策の一環である「地域振興券」と「地域戦略プラン」のドタバタ劇をレポートする。
ドタバタその1「地域振興券」
<地方分権の試金石!?>
参議院で過半数を大きく割っている自民党が、公明党の取り込みを目的に参議院選公約の「商品券構想」を譲歩して受け入れたものであることは周知のことである。「7,000億円の国会対策費」「天下の愚策」などと揶揄されながらも、緊急経済対策の目玉として一人あたり2万円の地域振興券交付事業は実現してしまったのである。
その実施主体は市町村となった。経費は事務費も含めて、すべて国が補助するのであるが、法律の根拠がまったくない、いわゆる予算補助である。法的には市町村の固有事務、最近の言い方で言えば自治事務だという。「地域振興が目的だから」(自治省)であるが、市町村の側に事業を実施するかどうかの主体的な判断の余地はまったくないに等しい。市町村にとっては法的には拒否できるのであるが、外堀を埋められ半ば強制的に実施せざるを得ない状況に追い込まれているのである。年度末までの交付という短期間で施策を実施させるために、市町村を最も「押さえている」自治省が所管したことからも、その意図が伺えるだろう。しかも、事細かに交付事務の詳細が決定され、地域振興券のデザイン以外は市町村の独自判断はほとんどできない状況になっている。
自治省首脳は「地方分権の試金石だ」などと言っているそうだが、国の態度や現場の現実を見るならば、地方分権にはほど遠い実態なのである。
<景気対策?福祉対策?>
その事業の内容であるが、公明党の当初の一律交付構想が政治的妥協の中で大きく変容し、15歳以下の児童を持つ世帯主と一定条件の年金・手当受給者、非課税の65歳以上などに交付対象が限定されることになった。景気対策なのか、福祉対策なのか、よく分からない施策となったのであるが、これが住民や市町村の混乱に拍車をかけることになった。
まず、市町村のどの部署でこの事業を担当するのか。福祉部門なのか、商業部門なのか、いずれにせよ、短期間で実施しなければならない状況の中で、縦割りの振り合いをやっている場合ではなく、臨時機構や推進本部などによって、横断的に対応し、職員の動員も含めて総力で実施している市町村が多いようである。皮肉なことに、自治省の「指導」に従って、積極的に人員削減・行革を進めてきた自治体ほど、降って湧いたこの仕事への対応が苦しくなっているのである
住民にとっては、マスコミ報道などにより65歳以上ということが先行し、実際は老齢福祉年金や障害基礎年金などの受給者など一部の人々が対象なのにもかかわらず、多くの高齢者は自分が対象となると期待してしまい、市町村に多くの抗議が殺到した。一方で、在日外国人高齢者など制度的無年金者が切り捨てられることとなり、在日コリアン団体などからの批判の対象となっている。
15歳以下というのも評判が悪い。子育て・教育的にはむしろ16歳以上の方が教育費など負担が大きいのではないかとの反発が強い。税制的に言えばこの層は扶養控除額で考慮されているのであるが、商品券の現物の前には納得が得られない。
<またもバラマキ>
地域振興券の取り扱い店舗は、事前に所在の市町村に登録しなければならず、当該市町村の地域振興券しか取り扱えない。地元業者や商店街のみに限定することは慎重に、という国のお達しもあり、実際は大規模店舗も含めて登録されている。 そうなると、最近の住民の消費傾向からすれば、ほとんどが大規模店舗に地域振興券が流れることは必至である。
何をもって「地域振興」というのか議論があるだろうが、実態としてはいわゆる地元にあまり効果は及ぼさないのではないかと見られている。各市町村では、地域振興券とリンクした商店街のイベントに助成金を出すなど、地元商店街の活性化に工夫を凝らしているが、例によって行政との持たれ合い・補助金バラマキとなってしまっている。
<果たして効果は・・・>
マスコミはデザインや交付開始日の早さなどを盛んに報道し、市町村間の不毛な競争を煽っている。3月中旬からは全国的に交付が本格化する中で、短期間で事務をこなしたことによる市町村の交付ミスや事業者への換金の遅さなどが、テレビ・新聞を賑わせている。
「地域振興券は我が党の提案」と統一地方選に向けて大宣伝をしていた公明党であるが、またもや国会対策で自民党が第2弾の実施をにおわせていることに対しては、住民のあまりの反発の強さ、不評の多さに、腰が引けた状況に陥ってしまっている。
先日ある民間シンクタンクの調査が発表された。今回の地域振興券でプラスアルファの買い物をするのは2割、普段どおりの買い物に使うというのは7割という結果だった。大半の人々は地域振興券で浮いた分を不足している生活費の足しや貯蓄に回そうとしているのである。やはり、景気対策としての効果は疑わしいのであろうか。ただ、これだけの公費をつぎ込み、年度末でただでさえ忙しい市町村を苦しめていた状況になってしまったからには、少しは効果が出てほしいものである。
次回は、小渕内閣のウリである生活空間倍増戦略プランの一環である「地域戦略プラン」のドタバタ劇を紹介し、各省庁の予算分捕り合戦に巻き込まれた市町村・都道府県の混乱ぶりをレポートしたい。(大阪 江川 明)
【出典】 アサート No.257 1999年4月17日