【投稿】連合結成10年に思う–連合第6回大会を傍聴して
今年11月12日で、連合は結成10周年を迎える。10年を経た今日、労働運動は新たな戦略を構築する必要がある。原点に立ち戻れだけでは不充分なのである。
<マスコミは厳しい評価>
「減少する組合員:反失業の輪、広げられず」「揺れる政治路線:また裂き解消遠のく」(毎日新聞)、「連合10年:不況化の苦悩」など、連合の第6回定期大会(10月14・15日)を前後してこぞって連合に対する厳しい厳しい評価が目立つ。
大きく論点は3つある。一つは、失業率が4.7%、失業者300万人と言う中で、労働組合として連合の活動は十分であるのか、どうかというもの。
二つには、連合結成10年が過ぎようとしているのに、未だに旧4団体、旧総評と旧同盟というような、過去の仲間意識の方が強く、本当に統一体になっているのかと言う点。
三つ目は、社会党・民社党と、結成当時は、政党支持団体がまた裂きになっていたが、現在でも依然各産別の政党支持状況に、一体化が出来ていないという政治をめぐる点である。
<組織率の低迷と連合の組織拡大運動>
確かに組織率は、年々減少している。労働省の調べでは1970年(35.4%)から昨年6月は22.4%となった。しかし、組合員数は1200万人前後と余り変わっていない。それは就労人口が2000万人近く増加したからである。すなわち、女性の社会進出やパート・派遣職員など不安定で低賃金の労働者が増えたためである。また、これらの労働者は、短時間労働であったり、変則的な勤務であったり、従来型の労働形態とは大きく異なっている。これらの増大する新しい職場における労働組合のあり方、またそれをバックアップするナショナルセンター・連合の体制が、その組織化にまったく対応していないからである。
連合は、96年10月から3ヵ年計画で「110万人組織拡大計画」という拡大行動を組織してきた。この結果の中間報告が大会で報告されている。全体では、20万人余りを拡大したが、目標には遠く及ばない。その第1の問題は、組織拡大が産別任せということである。
組織拡大3ヵ年実績報告一覧によれば、一万人以上拡大した産別は、ゼンセン同盟(54748人)、自治労(11553人)、電機連合(12991人)、損保労連(12426人)、ゼンキン連合(11529人)の5つのみ、加盟74産別の内で、40近い産別が拡大ゼロという結果になっている。
この中身は、未加盟組合の連合新規加盟も含まれているので、単純に未組織労働者の組織化という点でみれば、さらに厳しい評価がされる必要がある。
この拡大運動は、他方で厳しい経済状況を反映して、既存組合もリストラや倒産などで組合員数が減少するのと重なり、結果、現在の連合の組合員数は759万人と結成時よりも30万人が減少することとなっている。
3年間の第1次組織拡大計画の反省の上に今大会で連合は1999年10月から2001年10月までを第2次組織拡大実行計画を決定しているが、既存組合員の雇用確保と共に、未組織労働者を地域で組織化していく戦略をしっかり持たないと、より悲惨な結果が待っているかもしれない。それは、産別加盟原則の大胆な修正も含めて、有無を言わさぬナショナルセンター・連合の存在意義を問う課題となっている。
<未だに弱い一体感:旧総評と旧同盟>
連合大会に参加して気になったのが、鷲尾会長、笹森事務局長の以下のような発言であった。「連合10周年といいますが、4団体の時代の方が、政治的力は発揮されていたように思います。ひとつになった以上、いっそう力の発揮が求められている。」(鷲尾)、「連合結成の統一の原点、熱意を思い出して欲しい。怒りを忘れれば、労働運動ではない。もの分かりの悪い労働運動をつくろう」(笹森)などの表現である。
鷲尾会長は、旧4団体への回帰現象が目立つとか、の表現も使っていたし、笹森事務局長も「旧組織へのふるさと回帰意識が出ている(毎日新聞)」との発言もある。
すでに10年が経過しているとはいえ、連合内部の一体感は非常に乏しい。連合結成時に整理がつかない問題として、政治、平和、原子力政策、部落解放の課題などがあり、それぞれカンパニア組織は存続させることとなった。旧総評センター以来の労組会議は中央ではすでに解散した。しかし、これらの組織の存続が、旧4団体意識を存続させている、との議論には私は立たない。むしろ、先に述べた未組織労働者の組織化の課題や、地域組織での活動形態、方向などが、十分に機能していない現状こそ、旧意識を存続させているし、政治分野での分裂状況がこれをむしろ固定化させてきている。
旧総評のオルグ団体制は、旧同盟への気遣いから連合結成とともに解消された経過があるが、連合中央や県レベルの連合よりも、むしろ市町村単位での地域組織の活性化、地域の未組織労働者の「駆け込み寺」的名役割の強化が求められている。当然、人と金が必要になる。地域レベルの役員体制は、すでに連合結成時の役員は引退し、新たな役員体制となっているところが多い。これが良いほうに働くかどうか、期待したい。
<民主機軸を決定したが・・・>
連合大会で奇妙だったのが、政党来賓の挨拶だった。大会初日の午前中は、10周年記念式典ということで、海外代表のICFTU(国際自由労連)の会長挨拶、小渕総理などの挨拶があった。午後からの大会は、ちょうど来賓挨拶の時間が、天皇主催の秋の園遊会と重なり、午後4時ごろ、経過報告への答弁後に政党挨拶があった。並んだのは、民主鳩山、公明神崎、自由藤井、社民土井、改革クラブ小沢の5氏だった。
マスコミ報道も盛んに取り上げたように、鳩山が「民主党の党首選の最中に、連合は介入はされなかったが、関与はされた」さらに「公明さんは、早く迷いから醒めてくださいね」というやんわりとした皮肉に、会場は多いに沸いたのである。これは、大会初日のヒット発言だった。
鷲尾会長は、主催者挨拶の中で「これまで反自民でやってきた公明・自由の動き(連立参加)は、誠に遺憾である。」とはっきり発言しているし、「89年以降のの社会主義の崩壊、それは資本主義の勝利を意味しなかった。しかし、競争が支配する原始的資本主義は、格差や貧困を生みつづける。今、社会的連帯、コミュニティ精神、などが求められている。新自由主義は、市場万能・自己責任礼賛、弱肉強食の原始的資本主義への逆戻りであり、それに対抗する、自由と連帯の運動が必要である。我々は、市場を認めるが、市場主義ではない」と私も共感できる内容であった。しかし、前には自民党・共産党以外の政党がズラリと並んでいるわけである。
一方で、政治方針では「次の衆議院選挙を・・・政権交代に向けて民主党を機軸とした政治勢力の結集と伸張を期して、選挙活動を進める」ことを決定した。実態上は、新進党以来の公明の支持を重要な基盤にしている議員が多いわけだし、正直この問題は大会であまり触れないような配慮があったとしか思えない。ちなみに、政党挨拶では、自由・公明に野次一つ飛ばなかったのが印象的であった。
<グローバル化に対応した運動を>
ICFTUのビル・ジョーダン事務局長は挨拶の中で次のように指摘している。
「世界で12500万人の組合員を要する組織に成長したICFTUだが、ICFTUの歴史は組合員の決意と行動でつくり上げられてきた。ICFTUは来年の4月南アフリカで開催される2000年度総会で、改革をうち出す方針を提起します。組合を効果的に動員できる政策。今政府・使用者は、発展という名目で、変化を要求している。組合の要求は変わらない。公正な賃金、団結権・交渉権の保障、児童労働、強制労働の禁止などだ。日本では補償されているが、アジアやアフリカでは補償されていない。グローバル化、その波は、大企業によって推進されてきた。GMは経営規模はノルウエーより大きい。世界競争は、欲の拡大を生んできた。金融多国籍企業の成長、金融危機はアジアに破滅的な影響を与えた。規制のない金融は、破滅的な影響を与えることを示した。日本は戦後はじめて、人員削減、賃金カットの不安に襲われている。日本の長年の未解決課題、脆弱な金融システムが労働者にしわ寄せされるべきではない。すべての先進国で組織率が低下している。組織拡大を強める必要がある。世界各国の組合は、広がる非典型雇用に対して、組織化の方向をうち出す必要がある。
世界の労働組合は、最大の試練の時を迎えている。とりわけ、グローバルライゼイションへの対応を求められているのだ。」と。
世界共通の労働組合の課題、それはグローバル化のもとで進行する不安定雇用の増大に対していかに労働組合が対抗できるか、否かと言うことだ。連合10周年、厳しい試練が待っているが、これを克服する以外に残された道はないと言える。(佐野秀夫)
【出典】 アサート No.263 1999年10月23日