【投稿】緊急雇用対策と地方自治体

【投稿】緊急雇用対策と地方自治体

筆者は以前、本紙上で「緊急経済対策と地方自治体」と題したレポートを2回にわたり連載し、地域振興券(99年4月号)と地域戦略プラン(99年5月号)について、国のバラマキ施策や予算分捕り合戦による地方自治体の現場の混乱ぶりを報告した。それら両施策とも、当初の予想どおり景気の回復に何らの効果を及ぼすこともなく、地方自治体や住民、事業者などに疲弊感を残し、国の巨額な財政赤字を膨らますだけの結果となったことは、既に報道などで明かにされているところである。
地方自治体の現場としては、ようやく落ち着きをみせ、地方分権や介護保険への対応など懸案の重要課題に全力を傾注させようとした矢先に、またぞろ忽然と舞い降りてきたのが「緊急雇用対策」である。企業のリストラにより、中高年の非自発的失業者が激増している中での緊急対策として打ち出された施策であるが、その内容のあまりの稚拙さ故に、いかに地方自治体の現場を苦しめ、混乱させているかについて、レポートする。

<緊急地域雇用特別交付金の創設>
さる6月11日、政府の産業構造転換・雇用対策本部は「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策について」を決定し、緊急経済対策の効果により景気が下げ止まるものの、雇用情勢については厳しさを増しているという認識の下、民間企業や国・地方自治体を挙げての雇用対策などの各種施策を打ち出している。その一環として、とりわけ地方自治体との関連が深いのが「緊急地域雇用特別交付金」で、7月に成立した国の補正予算により、総額2,000億円の新たな制度が創設されたのである。
この2,000億円を人口や有効求職者数に応じて各都道府県に交付し、都道府県や市町村が民間企業などに委託して実施する雇用創出効果の高い事業に対して、100%の財源措置を講ずるというのが制度の基本的な趣旨である。

<雇用期間は6か月?!>
確かに国が言うとおり、現在の厳しい雇用情勢に対しては、従来の国が主体となった雇用対策のみならず、地方自治体も含めて積極的な対応をしなければならないという問題意識は理解できる。補助率が100%というのも、厳しい地方財政の状況に一定の「配慮」がなされていると言えよう。しかしながら、その制度の内容たるや、雇用創出効果を及ぼすどころか、事業の実施すらも危ぶまれる、極めて安直なものなのである。
地方自治体が実施する事業は、一部を除いて原則として民間事業者やNPOなどに委託しなければならないとされている。しかも、既存事業は対象外で、地方自治体の「創意工夫」による新規事業でなければならない。その委託事業の中で新規雇用を生み出し、雇用創出効果を上げようというのが狙いなのだが、ここで大きな問題となっているのは、この新規雇用は6か月未満でなければならないという制約があることである。国の理屈としては、あくまで失業者が次の安定した職業を得るまでの「つなぎ」としての制度なので、再就職に要する期間が平均で3~4か月であることから勘案して6か月未満としたということらしいのだが、このような中途半端な期間が果たして失業者のニーズにマッチしていると言えるのであろうか。民間事業者にとっても、ただでさえ「余剰」人員を抱え、いかにリストラしようか「悩んで」いる中で、そのような余裕があるのか。

<1日1人あたり11,000円?!>
いろいろな疑問が湧き起こり、「地方自治体が直接雇用できるのであれば、財政事情が厳しい中、人員の足りない部署などにアルバイトを採用できるのに・・・・」という思いを持ちながらも、各地方自治体は国の急な求めに応じ、苦労に苦労を重ね、まさに創意工夫をして8月には事業計画を策定したのである。
ところが、地方自治体内での意思統一も行い、年度途中での予算の補正も含めて、着実に対応を進めている最中に、国は突然に地方自治体に「指示」を出したのである。「雇用創出効果が小さい!もっと雇用人数を増やせ!でないと交付しないぞ!」と。挙げ句の果てには、交付金1億円あたり9,000人日の雇用創出効果を挙げよと、達成のノルマを課してきたのである。これを単純に1日1人あたりに換算すると11,000円、実際の事業には人件費以外の経費も係るのでその分を差し引くと、雇用された者に支払われる賃金は日当1万円を割り込むのである。
このような内容では単純労務でしか雇用できず、この制度が土木・建設事業は対象外とされていることを考えれば、事業内容はかなり制限されてしまうことになる。地方自治体の現場が混乱したのは言うまでもない。苦労して策定した事業計画は変更を余儀なくされるとともに、無理なノルマ達成を強いられることとなったのである。

<バラマキ・強制の構図>
結局のところ、今回の緊急雇用対策と地方自治体のかかわりも、これまでの緊急経済対策における地域振興券や地域戦略プランと同様、市民や労働者のニーズから大きく乖離した政策が、国家債務の増加を省みないバラマキの下に行われているのである。
しかもそれが、国からの強制・指示によって、拒否することのできない状況に追い込まれている構図も全く変わらない。2000年4月の地方分権一括法施行を間近に控えた準備の真っ最中に、このような施策が堂々とまかり通っていることは皮肉なことではあるが、その地方分権自身も実質的に骨抜きにされていることに加え、国における一括法関連の政省令改正作業が大幅に遅れていることによって地方自治体の現場が困惑・迷惑していることを考えれば、ある意味では国と地方自治体の力関係の現状を反映していると言える。そのとことは現場を省みない介護保険制度の迷走ぶりをみても明かである。

いずれにせよ、巨額の国費が投じられ、地方自治体が総動員されていることは現実であり、膨大な失業者の存在もまた現実である。制度の貧弱さによる大方の予想に「反して」大いに効果が上がることを期待したい。(大阪 江川 明)

【出典】 アサート No.264 1999年11月20日

カテゴリー: 分権, 経済 パーマリンク